第38話 自作してみよう
ビタミン剤のおかげでステラさんをはじめ、町外れに住んでいた人たちもみんな元気になった。
そしてそれは、これから建設ラッシュが待っているニノリッチの町にとってこの上ない朗報となったそうな。
なんせ宿屋にしろ酒場にしろ冒険者ギルドにしろ、建設するには人手がいる。
辺境であるがゆえに人手を集めにくいニノリッチでは、それこそ猫の手でも借りたい状況だった。
町外れに住んでいた半分はお年寄りだったけど、もう半分はまだまだ現役。
カレンさんの話では畑仕事ができる人は畑へ。
男手は建設へ。
といった感じに割り振る予定なんだとか。
そしてもう半分のお年寄りも、簡単な作業ならできるとのこと。
それを聞いた俺は、予てから考えていた計画を実行することに……。
◇◆◇◆◇◆
その日、俺は店のキッチンである実験をしていた。
カセットコンロに水を張った鍋を乗せ、火にかける。
待つこと数分。
お湯が沸いたところで一度火を止め、缶詰の空き缶を鍋に浮かべる。
この空き缶には削ったロウソクが入っていて、いまからこのロウソクを湯煎で溶かしていくのだ。
「火加減は……これぐらいかな?」
カセットコンロのツマミをいじっていると、
「シローお兄ちゃんなにしてるの? お料理?」
営業前の掃除を終えたアイナちゃんが鍋を覗き込んできた。
鍋で煮込んでいる物を見て、え? って顔をする。
「これ……ろうそく?」
「そうだよ。ロウソクを溶かしているんだ」
「……ろうそくでお料理するの?」
「あはは、まさか。溶かしたロウソクを使って、サバイバルマッチを作るところなんだよ」
「っ!? さばいばるまっち!! いまから『さばいばるまっち』つくるの? アイナさばいばるまっち作るとこはじめて見る!」
俺の言葉にアイナちゃんが興奮する。
興奮しすぎて、ふんすふんすと鼻息が荒くなっているぞ。
これはあれか。
アイナちゃんも俺が錬金術師だと勘違いしているクチだな。
「お? 興味あるなら一緒に作ってみる?」
「うん! アイナもさばいばるまっちつくる!」
知り合いから聞いた話によると、サバイバルマッチはロウソクがあれば簡単に作れるものらしい。
それを聞いた俺はネットで作り方を調べ、近所の100円ショップで必要な材料を買い揃えていた。
まず箱からマッチを取り出す。
「見てごらんアイナちゃん、ロウソクがとけて液体になったでしょ? この液状のロウに、マッチをこうやって……っと」
溶かしたロウにマッチの先端を漬け、すぐに取り出す。
そして空いてるスペースに割り箸を置き、ロウを乾かすためマッチの先が浮くように並べていく。
「ロウが固まったら次はこれ」
そう言って俺は、用意しておいた小瓶のフタを開ける。
「それなーに?」
「これはね、『マニキュア』といって、本当は爪に塗るものなんだけど、今回はマッチに塗るんだ。見てて。こうやってうすーく塗っていくんだ」
「うすーく?」
「うん。塗り過ぎると火が着かなくなるらしいんだよね」
「へー」
アイナちゃんは瞳を輝かせ、俺が持つマッチを目で追っている。
「マニキュアが乾いたら完成っと。さて、ここからが本番だ」
「ほんばん?」
「そうだよ。いま作ったサバイバルマッチに火が着くのか試してみないといけないからね。だから完成したマッチを……ていっ」
俺は作ったばかりのマッチを数本掴み、水の入ったコップに放り込む。
「ああっ!? シローお兄ちゃんまっちがぬれちゃうよっ?」
「わざと濡らしているんだよ。水に濡れても使えないとサバイバルマッチじゃないからね。……よし。もういいかな」
俺は水に浮かぶマッチを掬い上げ、アイナちゃんに渡す。
「アイナちゃん、火が着くか試してみて」
「う、うん」
俺が自作したサバイバルマッチをアイナちゃんが受け取り、
「えいっ」
マッチ箱の側面に擦りつける。
結果は――
「ついた……シローお兄ちゃん火がついたよ! ほら見て! 火がついてるの! 水にぬれたのに火がついてるよ!」
アイナちゃんは大興奮。
テンションが上がったせいか、自作サバイバルマッチに次々と火を点していく。
「実験成功だな。アイナちゃん、作り方はわかったかな?」
「うん! たぶん大丈夫!」
「よーし。なら一緒に作ろう」
「はーい」
こうして俺とアイナちゃんは、店のオープン時間も忘れてサバイバルマッチ作りに没頭してしまうのでした。




