第37話 これからも一緒に
ニノリッチから自宅へと戻ってきた俺。
仏壇では、ばーちゃんが呆れるぐらいの笑顔でダブルピースしている。
遺影の両サイドを飾るは、アイナちゃんが摘んできたお花。
アイナちゃんは俺の店で働くようになっても毎日花を摘んできては、俺にプレゼントしてくれていたのだ。
「ばーちゃん、ずっと俺に言ってたよね。困ってる人がいたら助けてやれって」
はじめて言われたのは、俺がまだ幼稚園児だったとき。
ばーちゃんは、事あるごとにこう言っていた。
『士郎、自分の手が届くところで困っている人がいたら、できる限り助けておやり。そうすればいつか士郎が困ったとき、いままで助けてきた人たちが士郎のことを助けてくれるからね』
当時、幼稚園児だった俺が『情けは人の為ならず』ということわざを知ったのは、それからずっと後のことだ。
「見ててくればーちゃん。俺、いまから人助けしてくるよ」
いまの俺の手が届くところで困っている人たちがいる。
しかも、ただ困っているだけじゃない。
誇張なしに生命の危機レベルで困っている人たちだ。
「さーて、いっちょやりますか」
ニノリッチの人口は600人。
そのうち、ビタミン欠乏症にかかっているのは30人ほどとのこと。
実に町の人口の5%が病気になってる計算だ。
俺は手はじめに銀貨を100枚取り出す。
「等価交換スキル発動!」
目の前で銀貨がしゅんと消え、代わりに1万円札が100枚現れる。
俺は100万円を軍資金にドラッグストアで各種ビタミン剤を買い占めた。
購入したビタミン剤を全て空間収納にしまい、ニノリッチへと運ぶ。
ニノリッチに戻った俺は、町長のカレンさんやアイナちゃん、それにライヤーさんたち『蒼い閃光』の手も借りて、町外れに住む人たちにビタミン剤を配って歩いた。
配り終えた後は食料の確保。
俺はいままで稼いだおカネで農家からは野菜を、狩人や冒険者からはお肉を購入。
毎日仕事終わりにアイナちゃんたちと炊き出しを行い、町外れに住む人たちに栄養たっぷりなご飯を食べてもらったのだ。
そして一ヵ月が経ち、ついにその日がやってきた。
アイナちゃんが町外れに住んでいることを知った俺は、店を閉めた後アイナちゃんを家まで送るのが日課となっていた。
夕方の鐘が鳴り、店を閉め、アイナちゃんを家まで送る。
アイナちゃんが「ただいまー」と笑顔で家の扉を開けると、そこには――
「お帰りなさい、アイナ」
ステラさんが立っていた。
自分の足で、誰の支えも借りずに、一人で立っていたのだ。
まだちょっとフラフラしているけど、それはきっと寝たきりで筋力が落ちてしまったからだろう。
「おかーさん……」
「うふふ。見てアイナ、お母さんもう立てるようになったのよ。すごいでしょ?」
ステラさんが得意げに微笑んでみせる。
対して、アイナちゃんはというと……。
「あ、ぅ……おかーさん……もう、立て……るの?」
「そうよ。立てるわ。歩くことだってできそうよ。これも全部シローさんのおかげね」
アイナちゃんはくしゃりと顔を歪め、顔を伏せる。
その小さな背中は震えていた。
「……おかーさん、もう……元気になった……?」
「ええ。元気過ぎて困っちゃうぐらい」
「じゃあ……アイナといっしょに……寝てくれる?」
アイナちゃんの足元に、ぽたぽたと雫が落ちていく。
俺はそんなアイナちゃんの背中をさすろうとして――ぐっと堪える。
うん。そうだよな。
これは俺の役目じゃないもんな。
そう思った俺はステラさんの隣に行き、そっと耳打ちする。
「ステラさん、アイナちゃんを安心させてあげてください」
「もちろんです」
ステラさんは小声でそう返すと、少しだけ俺の手を借りてアイナちゃんの傍へ。
アイナちゃんは涙を流している。
ずっと不安に押しつぶされそうだったアイナちゃん。
そんなアイナちゃんの涙を止めてやれるのは、母親であるステラさんしかいない。
「アイナ、これからは毎日一緒に寝ましょうね」
ステラさんがアイナちゃんを優しく抱きしめ、
「ぅあ……おかーさん……おかあさぁんっ!!」
アイナちゃんは泣きじゃくった。
俺の知ってる賢くて頑張り屋さんなアイナちゃんから想像できないぐらい、それはもう年相応の子供らしく泣きじゃくった。
「ずっと心配させてごめんね。これからも――」
ステラさんも目に涙を浮かべ、続ける。
「一緒に生きましょうね」
俺はそっと扉を閉め、一人外に出る。
沈みかかった夕日がとてもきれいだった。
そんな夕日に向かって、
「ばーちゃんが生きてたら、俺のこと褒めてくれたかな?」
俺はひとり呟くのだった。




