冬の季節49
楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!
今回は長めです。
誰もいなくなった会場はしんと静まり、客が入っていたときに比べ、寂しく感じる。
フィリアは、舞台の上に立ちグリードを見つめた。
そして、首をこてんとかしげて呟いた。
「グリード、私はフィリアよ。」
その言葉にグリードは舌打ちをした。
先程まで来ていた闇の騎士の衣装はぬぎ、シャツにズボンとラフな格好に着替えており、印象はがらりと変わる。
「嘘はやめておけ。この劇が終われば出ていく約束だ。」
フィリアはゆっくりと、グリードに歩み寄ると、その白く細い指をグリードの頬に添わせた。
するすると撫で、唇までくると、柔らかなその唇を指でなぞる。
その指を首筋の方へとうつし、両手をグリードの首の後ろへ回し、顔を下から覗き込んだ。
「あら、今の私になら、何をしてもいいのよ?」
グリードは汚いものを見るかのように顔を歪めた。その表情には嫌悪が見て取れる。
「やーね。冗談がつうじない。」
グリードはフィリアの腰に腕を回してぐっと引き寄せた。
「いいからさっさと出ていけ!」
フィリアは笑い声を上げた。
「あー怖い怖い。」
「何をしてるの?」
舞台の上の2人に、舞台下から急に声がかかり、2人はそちらに顔を向けた。
そこにはシオンとシェーラがおり、シオンはフィリアとグリードとを交互に見ながら言った。
「あれ、2人はそういう関係?」
フィリアはニヤリと笑うとグリードからさっと離れて舞台の上から飛び降りるとシオンにしなだれかかった。
そして、シェーラを無視して可愛らしく瞳をうるませた。
「シオン様。グリードが私に急に嫌らしいことをしてきたのです。助けてくださいまし。」
シェーラは目を丸くしたが、シオンにべったりと触れるフィリアに違和感を感じる。
シオンはフィリアを引き離そうとしたが、フィリアは離れようとしない。
「フィリア孃。離れてくれ。」
「あら、シオン様はフィリアの事がお嫌いなのですか?」
「嫌いではないが。」
「では、婚約者様がいるから?私は魅力的ではない?」
「いや、それは今関係ないだろう?」
その言葉にシェーラがむっと顔を歪ませた。そしてフィリアの腕をつかみ、シオンから引き離そうとする。
「フィリア、離してくださいませ。」
「いやん。シェーラこわぁい。シオン様。助けてくださいまし。」
「シェーラ、フィリア孃から離れて。」
その言葉にシェーラは驚き、思わず手を離した。シオンはシェーラを自身の後ろへと腕を引き、フィリアと距離をとった。
「シオン様?」
「貴方はだれだ。シェーラ、これはフィリア孃ではない。」
はっきりと言われたフィリアは、にやにやと笑みを浮かべる。
「あらひどい。ねぇシオン様。私はフィリアですわ。私を助けて?」
次の瞬間、フィリアの足元から黒い闇が現れシオンの体を絡め取り、フィリアの側へと寄せられた。
フィリアはシオンの体を後ろから抱きしめ、頬を寄せる。
「ねぇ、シオン様。シェーラのどこがいいの?私の方が美しく、貴方に似合っているわ。私なら貴方に情熱的な愛をあげる。」
耳元に、ふっと息をかけるフィリアは官能的すらあり、シェーラは顔を真っ赤にした。
明らかに目の前にいるのはいつものフィリアではなく、驚きを隠せない。
「それ以上、他の男に触れるな。」
グリードの低い声が響く。
フィリアはさらにぎゅっとシオンを抱きしめた。
シオンはグリードに睨まれ眉間にシワを寄せる。
「不可抗力だ。」
「おい、フィリアから出ていけ!さもないと。」
フィリアは笑う。
「脅しても無駄よ。」
「フィリア!目を覚まして!」
シェーラが叫ぶと、フィリアは冷たい目線を向けた。
「あら、負け犬野遠吠えかしら。ねぇシェーラ。貴方、私にシオン様をとられてもいいの?」
「え?」
シオンの体を弄るように、フィリアが撫でる。
「シオン様をもらってもいい?」
「駄目に決まったいるでしょう!シオン様は私の婚約者よ!」
「あら、ただの婚約者でしょ?シオン様だってシェーラ様に興味ないのでは?だって指一本触れないのでしょ?」
その言葉にシェーラは唇を噛んだ。
それは以前フィリアからグリードのスキンシップが多いという話を聞いた時に思った事であった。よくよく考えてみれば、自分はシオンに触れられた事が無い。
それに酷く衝撃を受けたのだ。
だが、その不安を消すように、シオンは言った。
「あのねぇ、好きな婚約者にそうやすやすと触れられるわけないでしょう。」
「え?」
シオンはにっこりと色っぽく微笑み、シェーラに言った。
「一度触れたら、全部ほしくなるに決まっている。これでも僕、我慢しているんだよ。」
その言葉にシェーラはみるみるうちに顔が色を変えていく。
そんなこと知らなかったシェーラは、お子様なのかもしれない。
「はぅ!ごちそうさまです。」
フィリアの体が白い光に包まれ、黒い闇が四方八方に逃げるように離れる。
グリードはシオンをフィリアから引き剥がすと体を抱きしめた。
「フィリア!?」
「はい。ありがとうグリード。」
にっこりと微笑むフィリアに、グリードは安堵した。
『ひひひ。真実の愛か。青春ていいねぇ。』
闇はゆれ、ひと塊に集まると髪の長い女の形に姿を変える。
『体を貸してくれた礼だ。シェーラとシオンの姿、見れてよかったね。』
フィリアはそれに唇を尖らせて反論した。
「人の体を乗っ取っておいて何をいってんですか。」
『そりゃ悪かったね。だが、礼になったろ。あー。満足だ。満足。さぁて、それじゃあ消えるとしよう。あんたの光で送ってくれるかい?もういき方がわからないんだ。』
フィリアは苦笑を浮かべると頷いた。
怖い思いはしたが、シオンとシェーラの意外な姿を見る事が出来た。
「安らかに眠って。」
『ありがとさん。』
フィリアは歌を歌った。
聖魔法を歌に込めて、暖かな光のもとへ、闇が向かうことが出来るように。
女の体は光に包まれて、闇が消える。
最後に可愛らしい女の姿が見えた気がした。
シオンは光の先を見つめて、フィリアに言った。
「一体何だったんだ?」
フィリアは首を傾げた。
「悪霊、、?私もよくわからないわ。とにかく、急に昨日の夜に体を乗っ取られて、劇に出させてほしいと懇願されたの。でもまぁ、光のもとへに行けたならよかったわ。」
その言葉にシェーラは驚き、そして怒った。
「よかったではありませんわ!フィリアはもっと危機感をもちなさいな!もしそのままだったら、、、。」
シェーラの言葉に、フィリアはしゅんと悲しげな表情を浮かべた。だが、この少女、反省していない。
「ごめんなさい。でも、シオン様の素敵なセリフと、シェーラの照れ顔を見れたから悔いはないです。」
最後までぶれないフィリアに、皆が大きく溜息をついたのであった。
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