王城でのお茶会 14
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池の中の青い瞳は、水面が揺れるたびに同じように揺らめく。
じっとこちらを伺うように見つめる。
そう、こちらを。
いや、正確にはフィリアが勢いで持ってきてしまったお菓子の乗った皿を見つめている。
「一緒に食べますか?」
フィリアが思わずそう尋ねると、池の中の瞳がカッと見開いた。
ホラーである。
その時、生け垣の向こうから給仕で回っているメイド達の声がした。
「ここの池、昔王子が落ちてひと騒動あったわよね。」
「あったわねー。しかもその時、池から助け出された王子のセリフ。」
『池の中に誰かがいた!』
二人揃ってきゃーきゃーいいながら去っていく。
はい。その通ですね。今まさに、その方がいらっしゃいます。
「どうします?食べますか?」
水の中に引きずり込まれても魔法も使えるし大丈夫でしょう。
頷くのが見え、フィリアはクッキーを差し出した。
すると、水面にゆっくりと顔が上がってきた。
水色の大きな瞳に、濁った藻のような髪の毛。口はカエルのように大きい。
そして、その口が大きく空いた。
これは入れろと言うことでしょうか。
フィリアは恐る恐るクッキーを口の中に放り込んだ。
そして自分も思わず食べる。
しゃくしゃくとした歯ごたえ、ほのかに甘い。
また口が空いた。
今度は見たことのなかったマフィンのような菓子を入れてみる。
もきゅもきゅと口を動かす姿は見ていて微笑ましい。
フィリアは皿の上の菓子を咀嚼し終えるのを見計らっては口の中へいれ、自分も時々食べた。
そして、全ての菓子がなくなった時であった。
「こんな所にいましたの?まぁ菓子をこんな所で食べるなんて、あら、汚れてましてよ。洗ってはどう?」
その声の主を振り返ってみて、そして驚いた次の瞬間、体を池の方へと突き飛ばされていた。
なんだか、このルーナという令嬢の方が悪役令嬢という名前に合いそうだ。
そんな事を思った時には池の中へと落ちていた。
池の水は思ったよりも冷たく、ドレスは水を吸って重たい。
これで私か死にでもしたらどうするんだと思った時、目の前に先程の瞳が現れ、思わず息を吐き出してしまう。
ゴボゴボと泡がたち、手で口を抑えた。
先程は見えなかった体は鱗で覆われていて、蛇のように長い。
『小さき姫よ。馳走になった。あと、お願いがあるのだが、これを王子へやってくれ。頼めるか?』
手に何かを渡され驚くが、こくこくとうなずくと、嬉しそうに微笑まれた。
『お礼に水からだしてやろう。それ!』
次の瞬間、水の中から弾き出されるように体が上へ上へと流される。
水から出たと思った時、そこは水面から10メートルほど上空であった。
下を見ると、きっと浮き上がってこない自分にさすがに慌てた令嬢が呼んだのだろう。人がわらわらと集まって、そして、こちらを呆然と見つめている。
フィリアは、地面に打ち付けられてはいけないと、魔法を使った。
『風よ。舞って。』
浮かぶようにスカートがふわりとひらく。
フィリアは階段を降りるように足を動かし、そしてゆっくりと地面へと降りた。
濡れた髪から水滴が滴り落ちる。
降りた先には呆然とする人だかりがあった。
その中には二人の王子が見える。
これはどちらの物だろうか。
すると、第二王子が嬉々とした表情で、こちらに来ると言った。
「お前も、見たか?」
この台詞で、第二王子のほうであったとわかり、一安心である。
フィリアはにっこりと微笑むと頷いた。
「はい。これを殿下にとこ事でした。」
そう言って手渡したのは美しいネックレスであった。
それを見た瞬間、皆が息を呑むのが分かった。
どうしたのだろうと首を傾げると、第二王子はネックレスごとフィリアの手も握りしめ、そして、苦しげに言葉を吐き出した。
「ありがとう。、、、母上のネックレスなのだ。」
何故そんなものが池の中にあるのだと驚いていると、以前池に落ちたときに落としたのだと第二王子は呟いた。
「母の形見でな、、、本当にありがとう。」
「いえ、お礼なら池の中の、、人?にしてください。お菓子が好きなようでしたよ。」
「本当か!」
「ハロルド。そろそろ令嬢を医務室へ。すまないね。弟は目の前のことに一直線になるものだから。とりあえず医務室へ行き手当を。そののちに話を聞かさてもらえるかな?」
第二王子と違って第一王子は微笑みながらもこちらを疑うような目線が見て取れた。
それもそうかと思い、第一王子の意見に従うフィリアであった。
父ロードは池に落ちたのが自分の娘だとわかり青ざめたのちに、グリードから立ち上る黒い揺らめきに顔を白くさせたのであった。
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