災いの魔力との対峙 121
そこには、見慣れた黒い翼の愛しい人。
聖なる歌は、グリードの体に染み付いた闇を払うことは出来なかったのだという、絶望が心を染め上げる。
目があった瞬間、それはまだ愛しい人ではないのだと察する。
「暗黒龍。」
忌々しい。
あれだけの聖なる力を込めたのに、まだ払いきれなかった。
だが、体はもうふらつき、膝をおる。
立ち上がらなければ駄目だ。
けれど、フィリアは動けなかった。
体が言うことを聞かない。
暗黒龍はフィリアに近づくと、ニコリと笑った。
それは、フィリアの愛しい人の笑顔。それなのに、この世の何よりも恐ろしく感じるのだ。
「聖なる乙女。」
その声は甘く、フィリアの頬に、冷たい手が触れる。
「贄としては最高だ。」
自我を持ったであろう災いの魔力を宿した暗黒龍。
グリードの体は貴方の入れ物ではない。
「グリードを返して。」
「ふふ。それは無理だ。同じ体だ、私でいいだろう?」
「バカなの?いいわけないでしょう?」
「そうか?だが、面白い。私はお前を愛しいと感じる。」
「愛しいのに、酷い扱いね。」
「先程までは、まだ意識がしっかりしなくてね。だが、お前の歌で、はっきりとした。」
「なら、グリードから出ていって。」
「嫌だ。私は今からこの世界を壊すのだ。そんな楽しい事を前に消えたくはない。」
「あらあら、なんて恐ろしいのかしら。」
「ははっ!余裕だな。」
「ええ。貴方が私のお喋りに付き合ってくれたから。どうもありがとう。」
「なんだと?」
「時間稼ぎも終わりよ。レクス!」
フィリアとグリードがレクスと話をした後に、レクスは夢を見た。
それは、無数にある未来の一つ。
けれどそれは残酷で、レクスは目覚めると嗚咽をこぼして泣いた。
だが、それではいけない。
ただ泣いているなど嫌だ。
未来は変わる。
いや、変えるためにきっと自分は夢を見たのだ。
この未来を見る力は呪いか祝福か。
けれど今は祝福と思い、手立てを考えよう。
レクスは、フィリアとグリードと共に作戦を立てる。
未来を変えるために。
フィリアに名前を呼ばれたレクスは、塔の上から魔法陣を展開させる。
それに呼応するように、空に張られていた結界魔法が混ざり合い、姿を変えていく。
幾重にも広がる魔法陣は、光り輝く。
ニフエルも手をかざして、聖なる光を重ねていく。
「これ、、、は、、、、。」
暗黒龍が空を見上げる。
光りが輝く。
美しい。
暗黒龍はその様子を見ながら笑みを浮かべる。
「なるほど、、、、見事だ。」
聖なる光の魔法陣は、レクスが長年研究を重ねた成果。
それは、聖なる光を増幅させる。
フィリアの体に、聖なる力が戻り始める。
暗黒龍はそれを見て笑みを浮かべると、フィリアの喉元に手を伸ばした。




