ルーナの婚約者 112
ハロルドに中庭を案内されながら、花を眺めた後、テラスでお茶をする事になったルーナは、内心ずっとドキドキとしていた。
ハロルドは、手際が良く、優しいのである。
例えば、ウィリアムは散策する時などは歩く速さを緩めないし、自分の話しかしない。まぁするのは主に仕事の事で、大変なのが伝わってきた。
だが、ハロルドはルーナに歩調を合わせ、僅かな段差でも気をつけるように優しく声をかけてくれる。
話はルーナの緊張が少しでも和らぐように他愛ない話や、フィリアの事など、ルーナが楽しく過ごせるものばかりだった。
しかも、気を使われているという感じではなく、素直にルーナと一緒にいられることが嬉しいと伝えてくるのである。
今までにないことばかりで、ルーナは戸惑ってしまう。
そんなルーナの様子すら、ハロルドは笑顔で見守っている。
ハロルドは戸惑うルーナに優しい声で言った。
「ルーナ嬢、あまり気をはらなくていいですからね。」
「え?えぇ。あの、、、ハロルド殿下。」
「はい。なんですか?」
にこやかにそう返され、ルーナは、呼吸を整えるとはっきりとした口調で尋ねた。
「あの、求婚とはどういう意味ですの?」
普通は求婚ではなく婚約だ。
意味が分からない。
ハロルドは、にこにこと笑うと立ち上がり、ルーナの前に跪いた。
そして、ルーナの手を取ると言った。
「私は、どうやらルーナ嬢に心を奪われてしまったようです。」
「は?」
間抜けなルーナの声に、ハロルドは笑った。
実際、ハロルドだって、ルーナに心を奪われるなど思っても見なかったのだ。
だが、どんどんとルーナに惹かれる自分がいた。
フィリアに寄せた想いとは違った、想い。
フィリアの時には、すぐに諦めもついたし、どちらかというと友として応援しようと思えた。
何故なのかと考えれば、心の中でグリードには叶わないと自分ですぐに思ったのだろうと思う。
ルーナとウィリアムをもう一度執り成すこともできた。だが、それを絶対にしたくないと思った。
ルーナの寂しそうな笑顔が忘れられない。
泣くなと堪える姿に胸がえぐられた。
ひたすらにウィリアムやアリア孃を守ろうとする姿には心が苦しくなった。
そして、満面の笑顔を見た時、恋に落ちた。
この人を誰にも渡したくないと思った。
けれど、婚約としてしまえばルーナに逃げ場はない。
自分は欲張りだから、ルーナの心も欲しいのだ。
だから、求婚という形にした。
「貴方は婚約とすれば、私に対して気負うでしょう?だから、これから私が貴方には愛をたくさん囁きます。私の事を好きになったら婚約者にしてください。」
「え?」
そんな方法は聞いた事がない。
しかも一国の王子に対して不敬にもほどがある。
「私はね、ルーナ孃の心もほしいのです。」
甘い囁きに、ルーナの顔は一瞬で真っ赤に染まった。
「だから、私を好きになって?」
手の甲にキスを落とされ、ルーナは心臓が煩くなるのを感じた。
なんだ。
なんだこれは!
こんなの感じたことがない。
心の中が荒れ狂う中、不意に目をそらした先に、ルーナはここにいるはずの無い人物を見つけ唖然とした。
生暖かい瞳で、フィリアがハンカチで涙を拭いながらこちらを見守っていた。




