アイデール王国 107
フィリアが部屋へと帰ろうとしていると、廊下の先で騒がしい声が響いた。
「だから、貴方なんなの!?レクスさんに私は会いたいのよ!」
「ですから、今はまだ安静にしなければならないと何度言えばわかるのですか!」
明らかに間に入れば問題に巻き込まれるが、この声は明らかにヒロインアリアと、愛しのルーナ孃である。
ルーナを助けなければとフィリアが廊下の先へと向かうと、ハロルドが先に仲裁に入っていた。
「アリア孃、、だったかな?ルーナ孃の言うとおりだ。今はまだ面会は出来ない。」
フィリアは、ハロルドのその口調に、違和感を覚えた。
フィリアが知る限り、ハロルドはとても紳士的な男だ。簡単な事では怒らないし、いつもすました顔をしている。
壁からそっとのぞくようにして見ると、ルーナを背にかばいながらアリアと話しているようだが、ハロルドの口調に棘を感じる。
だが、アリアは甘えた声で言った。
「はい。アリアですぅ。そうなんですか?、、えっとぉ、貴方はウィリアム様の弟さんよハロルド様ですよね?私ぃ、ウィリアム様とは仲良くさせてもらっているんですぅ。」
その言葉に、ハロルドは冷たく言い返した。
「あぁ。そうか。だが、このルーナ孃は兄上の婚約者だ。失礼でないか?」
アリアは首を傾げた。
「え?でもぉ、婚約破棄するんですよねぇ?ならいいじゃないですかぁ。」
ハロルドは、一瞬固まるとアリアにはっきりと言った。
「それは国王陛下が決める事だ。貴方と話していると気分が優れないので失礼させてもらう。ルーナ孃行きましょうか。」
「え?」
ルーナが困惑した表情を浮かべるのを気にせず、ハロルドはルーナの手を取るとそのまま連れ去った。
そして、ハロルドがいなくなった瞬間、アリアが舌打ちをした。
「私の魅力に気付かないなんてバカな男。」
その呟きを聞いてしまったフィリアは、アリアにバレないようにその場を後にした。
ハロルドは、ルーナを連れて中庭に出ると、近くにあったベンチに腰掛けた。
ルーナはその横におずおずと座ると、ハロルドに頭を下げた。
「助けて下さり、ありがとうございました。」
その言葉に、ハロルドはいたずらを思いついたかのように言った。
「それはいつのありがとうかな?先程?それとも、レクス殿を助ける前の話?」
にやりと笑うハロルドに、ルーナはころころと笑いながら返事を返す。
「それはもちろん先程ですわ。」
「それなら礼は不要だ。元々、兄上が悪い。貴方もあんな戯言無視すればいいものを。なんと言おうと、国に決められた婚約者は貴方だ。」
「今はまだ。ですわ。まぁ、早く婚約破棄したいところですがね。」
ルーナは小さく息を吐くと、ハロルドを見た。
ハロルドは悲しげに目を伏せる。
「それは。」
「分かっていますわ。国の建前上難しい事くらい。」
これがただの貴族間の婚約なら違ったのだろうが、ルーナはアイデール王国の元姫の血を引いている。
その娘を蔑ろにする事は出来ない。
「大丈夫です。最悪、少し血は近いですがアレクシスの側室にでもしてもらいます。」
「ルーナ孃、冗談でも止めてくれ。」
ハロルドは怒ったかのようにそう言い、ルーナは首を傾げる。
「悪くはないと思うのですが。」
「悪い。」
ルーナはその様子に少し唇を尖らせた。
「悪くないですわ。」
ハロルドは首を横に振る。
ルーナはハロルドの対応に、小さな声で言った。
「私が婚約破棄して一番困るのはハロルド殿下ではないですか。」
「?」
「ウィリアム殿下との婚約が破棄された場合、私の婚約者になる可能性が一番高いのは、ハロルド殿下でしょう!」
「あぁ。そうなるな。」
「なら、そうならない為に、手を考えるべきではないのですか?」
「いや。私としてはルーナ孃が妻になってくれるのであれば、喜ばしいが。」
「え?」
「教養はある。分別もある。社交性だってある。君ほど王族の妻にふさわしい人はいない。」
その色気のない言い様に、ルーナはため息をついた。
「そうですか。」
自分の事など見ていない。
ルーナが悲しくなり表情を歪ませた時、ウィリアムが二人めがけて歩いてくるのが見えた。




