アイデール王国 102
ルーナは、にっこりと笑みを浮かべると言った。
「フィリア様は、グリード様の事を愛していらっしゃるのね。」
その言葉に、フィリアは顔を赤らめた。
「え、、、、えぇ。」
「羨ましいです。素敵ね。それに、、他の皆様も婚約者の方々と仲睦まじい様子で驚いたわ。」
そう言われたフィリアは、同意するように頷いた。
「えぇ!私、いつも応援しているのよ!」
「応援?」
「頑張れー!って。まぁ、もう皆さん見ているだけで幸福なこの事が伝わってきますから、応援もいらないのかもしれないけれど。」
ルーナは一瞬驚いたような表情を浮かべた後、小さく笑い声を立てた。
「ふふ。本当に羨ましいです。」
「え?」
「私も、そんな素敵な恋がしてみたい。」
ルーナは寂しげに目をふせた。しかし、すぐに表情を変えるとフィリアに向き直った。
「ですが、今はまず、災の魔力の方が先です。フィリア様、よろしくお願いしますね?」
「ええ。もちろん。はぁ、グリードの所に戻るのが少しばかり億劫ですが、仕方ないですね。行きましょうか?」
「はい。」
ルーナとフィリアは皆の所へ帰った。
グリードは、フィリアの顔を見ると微笑み、優しく頭を撫でた。
話は追求せずに、そうするグリードに勝てないなとフィリアはため息をつくと、皆の調べた結果を、集結させていく。
「災の魔力の性質は解りました。後は、やれるだけやってみますが、、、皆さんにはお願いがあります。」
皆の瞳がフィリアを見つめる。
「何が起こるか分かりません。なので皆さんには災の魔力を取り囲むようにして立っていただき、災の魔力が暴走しそうになりましたら全力で防いでくださいませ。」
皆の顔が引き締まる。
アレクシスは、皆に頭を下げた。
「もちろん我が国の魔法使いらも一緒にさせてもらう。本当に、、本当に、他国の事なのに、、申し訳ない。」
その姿にハロルドはにっこりと笑った。
「あぁ。もちろんタダではない。後々色々と請求させてもらう。」
アレクシスは汗が流れるのを感じつつ頷いた。
「できる事ならば、なんでもしよう。」
「そうか。」
ハロルドは裏で情報収集を行い、この国の国王も王妃も安全な場所に避難しているという事実に憤慨していた。
これでアレクシスまでバカであれば見捨てたものを、アレクシスは抜けている所は多々あるものの、国王に代わり国を回し、国民を避難させ、時期国王としての器は持ち合わせているようであった。
しかもルーナが兄のように慕い、懸命に手助けをする姿を見れば協力せずにはいられない。
行動力も、実力もあるルーナを、何故自分の兄はほったらかしてうつつを抜かしているのか疑問でならない。
「はい。では昼食を済ませてから取り掛かりましょう。」
フィリアの言葉に皆がうなずく。
ハロルドはこの時間を使い、ルーナに案内してもらい、自分の兄の様子を見に行って唖然とした。
王城に用意された一室で、王子らと共に、愛らしい顔をした少女に愛を囁いていた。
ハロルドは、静かにドアを閉める。
あれは、断じて自分の兄ではない。
兄はあんなデレデレとした顔ではない。
絶対に違う。
そんなハロルドに、ルーナは苦笑を浮かべて声をかけた。
「驚きまして?」
ハロルドは、動揺を隠しきれないまま頷いた。
「あぁ。」
「多分ですが、アリア様の魔力には特定の人を酔わせる力があるのですわ。」
「酔わせる?」
「そう。相手が可愛く見えて、愛しさを感じ、守らなければと思うように酔わせるのですわ。」
「兄は、、、戻るだろうか。」
「ええ。多分ですが。本当は第二王子、第三王子と共に避難して頂きたいのですが、アリア様がそんな事はできないなどと言うものですから、仕方なくここにいさせています。」
「ルーナ孃には、こんな兄の姿を見させてしまい申し訳ない。だが、本来の兄は、」
「ハロルド殿下。」
言葉を途中で切られ、ハロルドは言葉を止めてルーナを見る。
ルーナはにこりと微笑むと、はっきりした口調で言った。
「申し訳ありませんが、あんなデレデレとした姿を見せられて、あれが酔わされているだけだとしても、私、もうお慕いすることは出来ませんわ。」
「だが、兄の婚約者は貴方だ。」
「ええ。でも、婚約者はウィリアム殿下でなくてもいいでしょう?」
ハロルドは、ルーナを見つめた。
「私、アリア様を見て色恋にうつつを抜かすなんてうんざりなんです。でも、フィリア様を見て、羨ましくも思いましたわ。だからといって、ウィリアム殿下が私に恋して下さるなんて、思えませんもの。」
そう。
ルーナは10歳の時からウィリアムの横にいた。
勉強も、作法も、魔法も、ウィリアムの婚約者として恥ずかしくないように努力を続けてきたのだ。
だが、ウィリアムがルーナを見る事はなかった。
それが、ひと目見た瞬間に、アリアに酔った。
それは一目惚れとも言えるのかもしれない。
目の前で、アリアに奪われた。
それでもルーナはウィリアムの目を覚まさせようとした。
けれど、目が冷めたのはアレクシスだけ。
自分とウィリアムの絆など、なかったのだと思い知らされた。
そんな人を、もう愛せない。
いや、愛したくない。
これまで、たくさんの時間を使い、見つめてきた。
なのに、自分に愛はかえってこない。
アリアによって、それがまざまざと示され、ルーナは憤った。
あんななんの努力もしない女に自分は負けたのだ。
悔しい。
ルーナは、うつむくと、いつもの笑顔を顔に貼り付けた。
大丈夫。
まだ笑える。
「殿下。確認はすみましたでしょ?今は災の魔力を封じる方が先ですわ。昼食をとりに参りましょう。」
ハロルドは、ルーナの姿に何かを言おうとしたが、言葉を止め、頷くと一緒に歩き出した。
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