リサ~異世界㉕強敵との出会い~
「こんなところに入って大丈夫なんですか?」
現在、私たちは城の最上階付近の物置小屋というか、宝箱のある部屋に侵入を果たしていた。
私は目の前に置かれているいくつもの宝箱を見て、実際に宝場を開けたわけでもないが、かなりの罪悪感に苛まれていた。
「フフフ……ここなら人間が入ってくることはほぼありません。なにせ王族の宝ですから、王族の許可がなければ入れませんからね。この部屋の様子からして、もう何年も使われていないのでしょう。」
悪魔さんの話を聞いて、そんな部屋に窓がついていることに驚いた。
王族の宝という非常に重要な物を置いている部屋にそんなものをあって良いのだろうか。窓があれば、侵入される可能性は格段に上がってしまうのではないだろうか。設計段階でのミスなのかとも思ったが、今はそんなことを考えている場合ではないと、思考を切り替える。
「で、こっからどうすんだよ。」
「王を捜します。」
メタきちさんの質問に即座に返答する悪魔さん。
王様を捜すのは当然としても、この広い城で、王様1人をどうやって捜しだすというのだろうか。
「いや、そりゃ分かってんだけどよ。どうやって捜すんだよ。」
どうやら、メタきちさんもやり方を知らないようだ。
「建国当時と変わっていないのであれば、私が知っています。まずはそこへ行ってみましょう。偶然にもその場所には人間がいるようですしね。」
「建国当時を知っているんですか?」
この国の歴史に詳しいわけではないが、これほどの大国だ。
国が急に発展するはずもないので、それなりに歴史のある国だということは分かる。
そんな歴史のある国の建国を知っているとは、さすが悪魔さんだ。
「まだ生まれたての頃です。修行のためにここに住んでいたことがあるんですよ。年月を重ねて、見た目が変化しないことに気づき始めた人間が増えたせいで、国を離れたのですがね。」
「城内に詳しいのは何でなんだよ?」
メタきちさんが質問する。
確かに、街中に住んでいたのであれば、城の中まで詳しいというのは何か変だ。
「簡単な話です。私がここで働いていたからですよ。」
なるほど。それならば納得だ。
え?どうして驚かないのかが気になるって?それは簡単な話だ。悪魔さんほどの頭脳ならば、国を動かす人間として、さぞ重宝されたことだろうし、悪魔さんなら、人間社会に溶け込むなど容易いことだと思う。
「さて、昔話はここまでです。ここからは、城内の警備に見つからないように行動しますよ。と言っても、見つからないというのは不可能でしょうがね。」
悪魔さんの発言は、まるで見つかることが前提のような気がした。
見つからないように行動しなければならないのに、見つかることが前提というのは意味が分からない。
「まるで見つかることが決まってるみたいじゃねぇか。」
どうやら、メタきちさんも同じことを考えていたようだ。
「この城には隠れるところがほとんど無いのですよ。ですので、人間と遭遇した場合、攻撃して意識を刈り取るしかありません。」
ずいぶんと物騒な話だが、迷っている暇もなさそうなので、悪魔さんの案で話を進めることになった。
その後、複数人と出会った場合の対処法などの説明を受けて、私たちはいよいよ王の間へと進んでいくことになった。
王様がいると思われる場所へ向かう途中、やはりところどころで見回りの兵士に出会ってしまうこともあった。
「ぐがっ!」
メタきちさんの体当たりが、相手のアゴに直撃し、意識を刈り取る。
「おっと。」
重装備の相手が倒れそうになるが、それをキラー君が後ろから支えている。
重装備の相手が倒れるだけで、城内にかなりの音が響くからということと、キラー君は上手く意識だけを
刈り取る攻撃が出来ないから、このような役割となっている。
「メタきち。もっと上手くできないのですか?」
同時に、悪魔さんの手刀が相手の首に決まった。キラー君が倒された2人を壁に引きずっていく。
「仕方ねぇだろ。手がねぇんだからよ。」
そんなやり取りを見て、私は思わず緊張が緩んでしまった。
「マスター。一応敵陣のど真ん中です。笑っている場合ではないですよ?」
悪魔さんに諫められてしまったが、悪魔さんも笑っている。
どうやら、本気で注意しているわけではないようだ。
「目的地までもうすぐです。お、あの角を曲がれば……どうやら当たりのようですね。あの部屋の前にだけ兵士が配置されているようですよ。」
部屋が見えていないのに、部屋の前の様子が分かるとは、とんでもなく便利なスキルだ。
これは絶対にマスターしたいと改めて思ったその時、キラー君の様子が少し変わったことに気が付いた。
「キラー君?」
「リサ。気をつけろ。この先にいるやつ、強いぞ。」
キラー君は毛を逆立てて、明らかな警戒態勢をとっている。
それを見て、悪魔さんとメタきちさんも警戒を強めるが、キラー君ほどではなさそうだ。
「では、先制攻撃といきましょう。マスターとキラーはここで待機。メタきち。何もないとは思いますが、後ろから援護をお願いします。まぁ、見とがめられることもなく、一瞬で終わらせますよ。」
ここまで何事もなく辿り着いた悪魔さんからすれば、かなり慎重な作戦だ。
そんなことを考えていると、悪魔さんの姿が目の前から一瞬で消えてしまった。
『ガキィーン』
次の瞬間。廊下に金属音が響き渡った。
「はっ!!」
さらにその一瞬後、女の人の気合の入った声が響いた。
「ど、どうしたの!」
「ダメだ!リサ!」
今までとはあまりにも違う状況に、私は思わず角から身を乗り出してしまった。
すると、私の視界に飛び込んできたのは、驚愕の表情を浮かべながら、金髪の女性の正面にいる悪魔さんと、硬質なボディを背中越しに杖で受け止められているメタきちさんがいた。
そんな状況を確認したところで、金髪女性が私に気が付いたようだ。
「新手!?」
私の姿を確認した金髪の女性は、杖を持っていない手をこちらに掲げた。
「エアロバースト!」
女性がそう唱えた直後、猛烈な風がこちらに向かってきた。
「ガァッ!!」
私が、迫ってくる猛烈な風に吹き飛ばされることを覚悟して目を閉じた瞬間、正面からキラー君の雄叫びが聞こえた。おそるおそる目を開けて見ると、そこにはキラー君の雄々しい姿があった。どうやら、キラー君が守ってくれたようだ。
「マスター!」
「嬢ちゃん!テメェ!!」
その様子を見た悪魔さんとメタきちさんから強烈な殺気が金髪の女性に発せられたのだが、その女性は、そんなものどこ吹く風といった様子だ。
「大丈夫か!リサ!!」
「う、うん。ビックリしただけだから……」
キラー君が警戒を続けながらも声をかけてくれる。
私は、それになんとか返事をしたが、膝が震えてしまって上手く立てないでいた。
仕方のないことだろう。
平和な世界でしか生きていない理沙が、あれほどの強烈な攻撃を目の前にして、立てているだけでも儲けものなのだ。
「2人とも!こっち!!」
キラー君の声で我に返ったのか、悪魔さんとメタきちさんが一瞬で私の前に戻ってきてくれた。
「大丈夫ですか?ヴィゴラウスハート!」
悪魔さんが声をかけてくれると同時に、心が落ち着いていった。
すでに、さきほどまで感じていた不安や恐怖は感じなくなっていた。
どうやら、悪魔さんが何か魔法をかけてくれたようだ。
「おいおい。俺らの攻撃に耐えれるなんて聞いてねぇぞ。」
メタきちさんとキラー君が私の前に立って威嚇し続けてくれている。
「あなたたちは何者ですか?見る限り、メタルスライムにキラーパンサー。人間に化けているやつは悪魔ですね?攻撃を止められた時、驚きで瞳が元に戻っていましたよ。まぁ、魔物を従えているあたり、敵であることは間違いなさそうですが……。あなたは人間でしょう?こちらの言葉が分からないのですか?」
金髪の美女がこちらを睨みつけてくる。
あの一瞬で執事に変身している悪魔さんまで見破るとは、とんでもない人だ。
彩夏さんとは違うカッコよさを感じながら、私は勇気を出して声を出した。
「私たちは敵ではありません。この国の王様にお話ししたいことがあって来ました。この子たちは、心の美しい魔物です。あなたたちを害するつもりはありません。」
毎日言葉の練習をしてきたとはいえ、対人間としっかり会話しようとすることは、これが初めてに近い。そんなこともあって、私はこの言葉の意味が、目の前の金髪美人にきちんと伝わっているかが不安になった。
「そんなことを信じると思いますか?攻撃を仕掛けてきたのはそちらですよ。」
金髪美人の言うことは正論だ。
人々は、この世界の魔物を『邪悪』だと決めつけている節がある。実際、私もこのスキルを持っていなければ、魔物は恐怖の対象でしかなかっただろう。
そんな魔物が、突然攻撃を仕掛けてきたのだ。心の美しい魔物だと言っても、はいそうですかということにはならないだろう。
そう考えて、私が返事に窮していると、金髪美人が話し始めた。
「今度はだんまりですか……。あなたたちが何者なのかは興味がありますが、そのような強大な力を持つ魔物を使役しているのです。のんびりと交渉などしていられませんね。」
そう言うなり、金髪美人の体が光りだした。
「なっ……」
その光を見た途端、悪魔さんが今まで聞いたような声を出した。




