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理沙~転④ラファと父~

「え……?」


美人さんの言葉を聞いて、肩透かしをくらったというのはまさにこのことだと思った。

ここまで盛り上げておいて無理だとか、どんな三流小説だよって話だ。


「あ、説明不足。確かに、あなたにも魔術はかかっていると思う。けど、あなたの兄にかかっているからといって、あなたにもかかっている保障なんてどこにもない。あの魔術は、本当に死に近いところにならないと発動しない。もしあなたに魔術がかかっていなければ、それはただの無駄死に。」


その説明を聞いて、ようやく理解することができたのだが、それにしては説明不足過ぎる。しかし、美人さんの言うことはその通りだと思った。一度試してみるというには、いささかリスクがありすぎる話だ。

では、それなら、違う手段はどうなのだろうか。


「じゃ、じゃあ、お父さんの理論を使って……」

「どうやってあのバカに会う?私はあのバカの理論を知らない。それに、向こうであなたが使う肉体もない。魂だけ移動しても、体がなければ動けない。」


私は父の使っていた理論を使ってみることを提案しようとしたのだが、美人さんによって即座に否定されてしまった。

美人さんの言うことは全くもって正論だった。

私は思わず黙ってしまったが、こんなことで兄を諦めるわけにはいかない。

死ぬリスクがあるとかそういう話ではないのだ。

兄がいない世界を生きるくらいならば、死んだ方がマシなのだ。


「兄に会うためなら……私は、死ぬことも怖くない。」


強い決意を込めて、私はそう告げた。


「アホか!」

「きゃあ!!」


突然背後から声がして、私は思わず悲鳴をあげてしまった。かなりシリアスな場面だっただけに、私の驚きは自分でも想像以上のもので、久しぶりに大きな声を出してしまった。

一体何なのかと思いながら、恐る恐る振り返ると、そこにはボロボロのシャツとジーンズ、髪は伸び放題で無精ひげを生やした父の姿があった。


「お、お父さん?」


目の前にいる父は、何とも形容しがたい姿になってはいるが、見間違うはずもない。

父に会うのはいつぶりだろうか。

そんなことを考えながら、目の前の父を見る。


「心配になって覗いてみたら、どこをどうすりゃお前が死にかけますみたいな話になんだよ。んなことしなくても、俺がこっちに来たやり方が……って、それについてはラファ。お前に教えてあったよな?」


ラファと呼ばれた美人さんは、父の問いかけに対して首を傾げた。

どうやら、父から何かを聞かされていたようだが、知らぬ存ぜぬで通すつもりのようだ。


「てめぇ……。調子のってっと、お前がションベン漏らした話、天界の他の連中に言いふらすぞ。」


その様子を見た父は、一瞬でストレスが溜まったようで、ラファさんに対してとんでもないことを言い放った。

そして、それを聞いた瞬間、ラファさんの表情がとんでもないことになった。

それは、今までの整った美人顔からは程遠く、まるで親の仇でも見つけたかのような、憎しみ溢れる表情になっていた。しかし、よく見ると、怒った顔もまた美人である。やはり美人は何をしても美人だ。


「そんなこと言っても誰も信じない。」

「ばーか。俺が記録もなしにそんなこと言うとでも思ったか?」


父の言葉にさらに表情が崩れるラファさん。

内容もさることながら、人をイラッとさせてしまうような父の言い方も問題なのだろう。


「くっ……その事実を知るのは目の前のバカのみ。だから、この場でこのバカを消し去れば、何の問題もなくなる。」


そう言うと、ラファさんの両手が七色の光に包まれた。

私は、何が起こっているのか分からずに狼狽えていると、父がラファさんに向かって笑いだした。


「だっはっは!ラファが俺に勝つなんて、それこそ天地がひっくり返るくらいじゃねーと無理だっつーの。忘れたか?お前が俺にボコボコにされて、素っ裸で逆さづりにされたこともあったろ。あん時のお前の泣き顔は今でも忘れねー。」

『こんな美人になにやっちゃってんのー!』


私は心の中でツッコミながらも、ラファさんに謝罪したい気持ちでいっぱいになった。

こんな美人を裸で逆さにするなんて、まさに悪魔のような所業だ。

そんなことをされれば、ラファさんでなくとも怒るのは当然だろう。


「むぐぐぐぐ……」


自らの恥ずかしい過去を暴露され、羞恥に悶えながらも、両手の光はどんどん大きくなっていった。


「あ、あれからもう何も失わないようにいっぱい頑張った!今の私なら、あの時のようにはいかない!」


ラファさんが、強い口調でそう言うと、さきほどから膨らみ続けていた七色の光が、父めがけて放たれた。


「あ?」


放った直後、なぜか放った本人が驚きの声をあげていた。おそらく、本当に撃つつもりはなかったのだろう。だからこそ、うっかり撃ってしまったことに対して驚いているのだ。

しかし、撃ってしまったものを今さら無しにとは出来ないようで、とんでもな速度で父に向かっていく七色の光。

変にからかったりするからこんなことになったんだ。なんて考えているその一瞬後、七色の光弾は見事に父に着弾し、黒煙が上がる。


「お、お父さん!?」


爆発こそしなかったものの、黒煙が上がっていることを確認した私は思わず叫んでしまった。

そのすぐ後に、これは夢だから何とかなるんだろうなと思ったが、あまりのリアルさに心配してしまった。

心配のあまりおろおろしていた私の横から、ラファさんのため息が聞こえてきた。


「ふぅ……。さすが……あのバカは相変わらずの規格外。」


ラファさんの口調からは、もはや諦めがにじみ出ていた。


「爆発しないなんておかしいと思った。まさか、魔力吸収と衝撃吸収を同時にやってのけるとは。でも……ふふふ……。全部は吸収しきれなかったとみた。黒煙が上がったのがいい証拠。理沙?だっけ。見ておくといい。もうすぐ、チリチリ天パに仕上がったあのバカが……」


そこまで言って、ラファさんは固まってしまった。

着弾地点から、まるで何事もなかったかのように父が現れたのだ。


「おぉー。結構やるじゃねぇか。あのひよっこだった威力の魔法が、神撃クラスになってやがるとはなー。けど、これじゃ俺の防御は抜けねーな。」

「くっ……やっぱり化け物。衰えるってことを知らないの?それに、衰えるどころか、昔より強くなってるし。」


本当に何事もなかったかのようにこちらに向かってくる父を見て、呆れた表情を浮かべるラファさん。


「ちったー強くなったのは認めてやるよ。ただな……そんなんじゃぁまだまだ俺の足元にも及ばねー。」

「さっきのはほんの小手調べ。ここから本気出す。」

「あ、あの……」


父とラファさんは、すっかりスイッチが入ってしまったのか、説明求ム状態の私を置き去りにして、しばらくの間、2人のバトルは続けられた。



それからどれくらい経っただろう。

最初の方は、父とラファさんのとんでもない動きを驚きながら見ていたのだが、ヒートアップして、目で追えなくなってきた辺りから、私は2人を見ることを止めていた。

そこから、戦いがさらに激しくなってきた時、私の我慢が限界を突破した。


「コラー!!」


かなり遠くまで聞こえそうなほどの大声で、父とラファさんに注意する。

兄が喜びそうな戦闘が繰り広げられていたが、私としては、今はそんなものを見ている暇はない。

これ以上ひどくなる前に戦闘を止めて、早く兄のいる世界に連れて行ってもらいたいのだ。


「うぉ!」

「な、何?」


私の声が、2人の予想を超えるほどの音量だったのだろうか。

二人の動きがピタリと止まる。


「ちょっとっこっちに来なさい!」


私は少し遠くにいる2人に対してそう呼び掛けた。

あまりにも説明不足なこの状況だが、兄が異世界にいることが判明し、異世界に行く方法もある。あとは、具体的にその方法を聞けばよいという状況で、まさか喧嘩が始まるとは思ってもみなかった私のイライラは、ピークに達していた。


「とりあえず正座。」


「え?」

「ん?」


常識離れした動きをやってのける異世界人?の父と、超がつくほどの美人で、ファンタジー的な光弾を放つことのできるラファさん。

地球でならば、間違いなく最強の二人。

そんな二人を、威圧しながら正座させる。


「お、おい……理沙?」

「これは……魔力こもってない?」


正座しながら、こちらの様子を伺う二人。



「黙れ。」


そんな二人を一言で黙らせる。


「おぉう!」

「は、はい。」


父は額から汗が流れている程度だが、ラファさんに至っては小刻みに震えていた。

そんなに父との戦闘がこたえたのだろうか。

それにしても、美人が怯える姿というのは、なかなかそそるものがある。


「とりあえず、詳しく話してもらいたいんだけど?」


私はため息をつきながら、目の前の二人に説明を求めた。


「わ、私は説明しようとした。そしたら、このバカが乱入してきて……」

「テ、テメェ!さらっと俺のこと悪者にすんじゃねぇよ!」

「う、うるさい!事実だし!そもそも……」



「黙れ。」




「「はい。」」




この2人は仲が良いんだか悪いんだかよく分からないが、すぐに喧嘩になることだけは間違いなさそうだ。

これは、2人が話し始めるのを待っていても、なかなか本題には入っていけないだろう。そう思った私は、こちらから質問することにした。


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