第二話 異常事態
彼方と咲希が激闘してから一週間、高校では何かと忙しい時期も終わり、今日からは授業も始まる。一週間過ごして分かった事なんだが、高校に青春なんてものは本当に無い。いや、無い事は無いのだろうがそれは極一部の者に限るのであろう。
数日前から部活動の入部志願等が始まり、そのせいで女子の一部が「あの先輩かっこいいよね〜」とか「そうそうマジイケメン!!」とか言っているのだ。多分サッカー部のマネージャーにでもなるのだろう。そりゃまあサッカー部にイケメンが多いのは何となく察せるかもしれないが……違うのだ。
何せ、大体女子の話題に上がるのは宗騎で、その度に兄の活躍が聞ける。例えば身体測定やサッカーのシュートを決める際、唯でさえ記録が良い事に付け加え、何だか稲妻が光った様な気がするらしい。
ごめんな……それ、見間違いじゃないんだよ……。しかし、『その稲妻に焼かれたわ〜』とか流行ってしまい、とてもじゃないが胸糞が悪い。そんな毎日が少し続いていた。
ちなみに、この学校では部活動に入る入らないは自由であるため、俺は帰宅部を志願するつもりである。しかし、案外何かを始める人は多く、今も目の前に居る彼方は何にするか悩んでいる……らしい。
俺が女子達の会話を聞きながら(決して盗み聞きではない)机に伏せようとしたら、彼方が後ろを振り向いて話しかけて来た。コイツもコイツでやっぱり本当に寂しいんだな……。
「なあ神宮寺、お前って頭良いのか?」
「ふぅん……柴崎も随分と馴れ馴れしくなったな」
「えっ、いやそういう訳じゃないけど……ダメなのか?」
「……別にいい。でも、俺の学力は普通だ」
「なるほど……」
「あ、あぁ……。お前はどうなんだ?」
「俺も普通だな」
「そうか……」
会話している片方は適当だが、まさに他愛ない会話をしていたと言える。この事でいずれ後悔するんだがな……。
「席に着いて〜!」
こないだ決定した委員長が授業の勧告を行っているのに対し、周りは無視してばかりだ。
「ねぇ、神宮寺君も何か言ってよ!?」
「え? 別に良いんじゃね?」
「何っ!?」
綺麗な黒髪をポニーテールで纏め靡かせるこの委員長は、黒須 緋依と言う。この辺りでは結構な金持ちの子として有名なのと共に、育ちがどうこうというせいで非常に正義感が高く、それを好む者や嫌う者など様々な訳だ。まぁ、緋依と俺は家が多少近い事から、小学校からの腐れ縁みたいなものなのだが。
実は現在、俺はこのクラスの副委員長となってしまっている。それは遡る事二日前……。
〜〜〜〜〜二日前〜〜〜〜〜
内の学級では委員会決めを執り行なっていた。執り行なうと言っても、担任があーだこーだ言って、後は誰かが「やります!」と言うのを待つだけなんだがな。
応報、図書、美化、風紀など大抵ムードメイカーがワイワイ騒ぐ事によるノリで決まっていったのだが、最後に学級委員だけが中々決まらずに思案していた。クラスが気まずい雰囲気になる中、一人だけ手を挙げた。
それが、緋依だった。一瞬クラスの時が止まったが、担任はすぐさまそれに感謝しその場が動く。しかし、「後はもう一人だけなんだが……」と担任が呟くと今度はざわざわし出すクラス。正直、この後からが一番納得いっていない。
クラスの誰かが「幼馴染みの神宮寺で良いだろ」と言う。内心俺は「はぁぁ〜〜?」と怒鳴ったが、そんな事誰にも伝わっている筈も無く、担任は俺を見つめると笑顔で推薦の言葉を幾つも挙げて来た。それにはクラスの生徒達も相槌を打ったりと、まるで半強制的な空気が流れ出した。
「え、え、あぁ、別に良いですが……」
皆の前で発した二度目の言葉がこうとは……完全にコミュ障じゃないか!! だが、そんな弱々しい言葉でも大袈裟にクラス中は感嘆に包まれた。
よく考えれば、普段は教室の空気となり彼方以外の誰とも喋らない『ザ・陰キャラ』に任せるのは担任としてどうかと言えるが、きっと小、中学校での緋依の成績等見たのだろうか、投げ槍感がした。
ま、まぁきっと、学級委員なんてクラスでの行事等で司会するのと、生徒会のなんちゃらを伝えたりとかってだけだろう。俺にだって余裕で出来るし問題無いだろう。
〜〜〜〜〜元に戻り〜〜〜〜〜
「そんなに仕事しなくちゃいけないのか?」
「当たり前でしょ!? 中学生でもそれぐらいの自主性はあると思うけどね?」
「そうか?俺は大して見なかったけどな」
「神宮寺君は毎日空しか見てなかったじゃない!」
「ははは……」
「……はぁ、まあ良いけど、やる事はちゃんとやってね?」
「それくらい分かってるよ」
緋依は会話が終わっても怪訝な目で俺を見て来るので、机に伏せて現実逃避といこう。
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授業も基本オリエンテーション的な事で終わり、そのまま一日が過ぎた。俺もせっせと帰る用意をしている。何せ、今も尚部活動と言う苦行を熟している勝ち組達とは俺は違うからな……。
「ねぇ神宮寺君? 今日は学級委員の会議があるんだよ?」
あ、俺も苦行をさせられる側であったか。
「今行こうとしてたんだって……な?」
「いやいや、絶対帰ろうとしてたよね?ね?」
「まさかぁ〜」
こうして俺は会議に駆り出されたのであった。
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「これから、会議を始めます。まずは——」
この学校の生徒会長らしい人物が、号令を掛ける。この会議とは、全クラスの学級委員やその他委員会の委員長、そして多くの部長達が集まる会議で、その生徒会長曰く各行事毎に行われたりするのだとか。とは言っても、基本は只のお知らせをするというだけの場だ。
俺の隣に座る緋依はずっとそわそわしている。まぁ無理も無いか、高校デビュー後にこんな緊張する場面に連れて来られた訳で、逆にリラックスしている俺がおかしいと言えるのかもな。
「大丈夫か?」
「え? 何が?」
俺は緋依に小声で話しかける。
「さっきから緊張し過ぎだって……」
「な!? 神宮寺君はどうなの?」
「俺はまぁそんな……」
「良いよね、そんな性格。そんな風に育ててくれた神宮寺家が羨ましいよ」
「そんな事も……無いんじゃないか?」
緋依も呆れた様に言っているが、俺の脳裏にはふと家族が写る。こいつらに耐え抜く事を羨ましいとは言えないだろう。
「と、とにかく! ちゃんと話は聞いといてね!?」
「あ〜、はいはい……」
結局何も聞かない(聞いていない)ままその会議は終わり、ただ俺は倦怠感に包まれていたのだが、緋依は何かと能事畢矣という程に胸を張っていた。これは今考えたのだが、俺よりも人生的勝ち組である緋依のような人間でも、高校デビューというものには何かを賭けてるんだろうな。
この会議で個人的に分かった事で、どうやら部活動をしていない者は俺だけだった。何と言ってもやる気の無い人間なのだろう……俺は。
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「それでね——」
俺は下校しながら緋依の会話に付き合わされていた。基本は部活動の話や、新しく始まった勉学の話だ。ちなみに、緋依は陸上部に入ったらしいが、とても心配なのは……俺の兄も陸上部と言う事だ。
「そうなのか——」
虚ろに返事をしていたら、それはもう突然の、とっても唐突な事この上ない程なトラブルが起きた。
「きゃあっ!!」
緋依が俺の隣で叫んだのだ。俺は咄嗟に先程まで緋依が居た場所を見るが、そこに緋依の姿は無く、只、緋依の持っていたサブバックが転がっているだけだ。さらに、その先へと続く路地裏を見遣ると、とても嫌な事に緋依が仰向けになったまま奥へと高速で移動していた。
いや、実際には引き摺られていたのかもしれないが……いやいや、そんな事よりも今は緋依を追わないと。
「くっ……」
しかし、相手はまるで宗騎が走った時の様に速かった。さらに、途中で宙を跳ね明後日の方向に飛んで行ってしまい、正直俺は諦めかけている、今からでも彼方に縋りに行こうか迷っている所だ。だが、そんな心配はいらなく……。
「あれ? 神宮寺? こんな所で何を……」
彼方が後ろから颯爽とやって来た。何となくだが、コイツにはヒーロー属性があるのだと感じた。
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「それで、内のクラスの委員長が攫われたと?」
「まぁ、はっきりとした形は分かんなかったんだが、何かの力は働いていた」
「そうか……その委員長の持ち物とかあるか?」
「一応ここに……」
俺は彼方に事情聴取されるが侭、色んな事を教えていた。実際、常人にこんな事話しても誰も信じてはくれないだろうが、彼方が彼方で良かったと、心の底から思っている。てか落ち着き過ぎやしませんかね?
緋依の持ち物であるサブバックを彼方に渡す。すると、彼方はそれを片手に持ち、その後何かを探す様に事件現場の路地裏を歩き回る。
「……あった!!」
彼方は、何の変哲も無い道の端っこを見つめたままそう言った。
「何がだ?」
「その異世界の力と思われし力の片鱗が……これと、この鞄さえあれば居場所なんてきっと直ぐ見つかるさ」
「そ、そうかっ! 良かった……」
無力な俺が憎いが、ここは彼方先生に任せるしか無いだろう。それが英断だな……うん。彼方は、サブバックを右手に持ち、左手で先程の地面を触っている。そして、瞑想をしたと思いきや、一瞬で目を開いた。
「居た……」
簡単な一言だが、それが本当に救いだって事は重々承知だ。さて、それじゃあ……。
「向かうのか? でもあいつ結構速かったし……」
うっかり疑問系になってしまうのは、先程の高速移動を見たからだ。絶対常人には追いつけないだろう速度に、今でも絶望を感じる。しかし、そんな事彼方には関係なかった。
「そんなもの、今この場に呼べば良いんだよ」
「へっ?」
弱々しい声になるのも仕方が無い。
「まぁ……柴崎には出来るんだな?」
直ぐ我に戻って、確かめる。
「厳密には、俺の作る世界に引き込んだ……前に神宮寺が俺の世界に入った様に。まぁ、あの時は本当に原因が分からないままだったんだがな……」
「な、なるほど……なるほど……」
言っている事の次元が違うが、それはもう背に腹は変えられないと言う事で許容範囲内としよう!俺が呆然としていると、彼方は地面をまた手で触れた。きっとその世界を作るのだろう……。
「それで神宮寺、もうやるか?」
「その前に一つ……」
俺は彼方の能力について質問があったのだ。まず、異世界の力を打ち消すと言う事だが、間接的な衝撃はどうなるのか。これには、打ち消す事は出来ないと言う事らしい。
では、俺が先程見た様に超高速で突進なんかして来る敵ならどうなるのか。答えは、世界でなら身体能力が上がるという事から、ある程度なら問題無いのだとか。確かに、初めて出会った時には俺よりも大きな何かと戦っていたのだし、まぁ大丈夫か。
「それじゃあ行くか」
「あぁ、頼む」
俺の合図の後、彼方は地面に手を置き力を込め始める。直後、まるで認識阻害でも掛けられたかの様に、はっとしたら世界は広大な荒野に変わっていた。そして、隣では彼方が身構えている。
「もう着いて——」
「しっ、敵は目の前だぞ?」
その言葉で俺はやっと分かった。俺達の前方には体長2メートル程の体をした、マニアックに表すならコモド大蜥蜴に似たような、しかし細い胴体で、まさにドラゴンと表せる怪物が唸りを上げながらこちらを睨んで来ていた。その背後には、ぐったりとしたままの緋依が見える。
「うわっ」
「なぁ神宮寺、奥に委員長が居るだろ?俺が時間を稼ぐ間に助けるんだぞ?」
「え?」
彼方は俺の返事も待たずに特攻してしまった。そして、その先で繰り広げられたのが完全に人外の戦いである。一瞬俺は固まってしまったが、直にやるべき事を理解した。だが、それでも何をすれば良いのか分からなくなり、結局右往左往してしまい泣き目になったのだ。
「早く行け!!」
俺は彼方のその言葉で決心を決め、一気にその場を走り抜ける。もう次の事など考えていない。
「うおぉおおぉおおおおお!!」
後ろでは大蜥蜴が俺に噛み付こうとしたのか、突っ掛かりに来たらしいが彼方が突進で逸らしてくれた。
「緋依っ!!」
うっかり昔の呼び方が出てしまったが、そんな事気にせず緋依の元へと着いた。
「緋依っ、大丈夫かっ!!」
「う、ぐっ……」
遠くからではあまり確認出来なかったが、緋依の体は五体満足ではあっても体中傷だらけで、至る所から血が出ていた。さらに、火傷の痕も付いている。って、火傷? もしや……いや、今はとにかく!!
「喋らなくてもいいっ!直に運んで——」
「神宮寺!!」
俺が緋依を抱き上げようとしたが、彼方の声が俺の耳に響いた。
「えっ?」
その方向を向くと、そこには大きな赤い火の玉が浮いていたのだ。いや、飛んで来ている? そうか、これはあの大蜥蜴が吐いた火なのか……やっぱり、通りで緋依は火傷なんて……。俺の頭の中にはモヤモヤした走馬燈が流れた。
同じ様な火の玉を手で受け止めて跳ね返す……って、あれ? なんだこれ、こんな事あったっけ……。
俺は仕方無いからその感覚で火を受け止め、何十倍にも膨れ上がらせてから大蜥蜴に返した。すると、その大蜥蜴は蒼い炎に包まれたまま、怪獣映画のような叫び声を挙げている。
しかし、なんとか耐えたのか鱗をほぼ溶かしたまま炎から抜け出して来た。歩みもふらついていて、きっと目がくらくらしているのだろう。
「え? 神宮寺? お前……」
「いいから柴崎は早く!!」
俺は咄嗟に彼方へと「殴れ!!」という意味を込めた合図を送る。すると、彼方は分かってくれたのか数秒後には大蜥蜴は俺の目の前から消え、遥か彼方まで吹き飛んでいた。
大蜥蜴はその場でさらに態勢を戻そうとするが、その隙も与えられずに彼方にフルボッコにされている。浦島太郎も大蜥蜴に駆け寄ってきそうだ。
そうこうしていると、大蜥蜴は遂に諦めたのかその場で永遠の眠りに就いた。
「ありがとう、柴崎……」
「そんなことよりも、さっきの力は何なんだ?」
「いや、そんなことよりもそんなことよりも……ひよ……黒須委員長を助けなくちゃ」
「だが神宮寺、そんな状態で……その……何と言うか」
「助からないと?」
「いや、違わ……ないけど」
「それなら大丈夫だ、当てがある」
「はっ? 本当か?」
急いで彼方に世界を解く様に伝える。ついでに俺の家の前に、と言う事も忘れずに。その間も彼方は怪訝の目をしていたが、気にせず今からする事のシュミレーションをしてみた。
俺の緋依を絶対に助けられる計画とは、妹の咲希か母のレナに縋って助けてもらうのだ。どうだ、完璧だろう?……とにかく、俺等は元の世界に着いた後に速攻で家へと飛び込んだ。
「咲希かレナ! 居るか!?」
「は〜い?」
玄関で盛大に叫んだ俺に対し、いつも通りのテンションで台所から出て来たレナであったが、俺の背中に担がれた緋依を見るや否やその表情を固めた。
「秀春……あなたいくらなんでも……」
「いや、俺はやってないからぁ!! とにかく、事情は後で説明する。今は回復を!」
「あぁ〜、はいはい」
レナは適当に返事をしながらも、あまり見ない様な真剣な顔立ちになって紫色の魔力を浮かばせ始めた。
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「一時はどうなるかと思ったが……何とかなったな」
ソファーにてだらしなく寝転んでいる俺に、彼方が話し掛けて来る。
「そう、だな……あと今は何時だ?」
「七時だな、辺りも暗くなり……」
俺はソファーに伏せたまま、彼方の言葉を聞き流している……もう辺りも暗くなる時間かもな。緋依は未だに寝ていて、今は……多分俺の部屋で寝ているのだろう。それにしても大変だった訳で、まぁ今の惨状がそれを物語っている。
「っていうか、忘れていたけど神宮寺のあの力は何なんだ? 俺の眼には違和感を感じなかったんだが」
「あぁ〜、あれな……うんうん、俺でもよく分からん」
彼方は俺の肩にしがみついて、先程の俺の現象について問いて来た。無論、自分自身無意識で行った事で、あの不思議な記憶についても今ではあまり思い出せない。案外、今回の件については一番俺の事が事案なのかもしれないな。
取り敢えずだが、緋依の家に何かしら連絡入れないとヤバいかもな。あいつの家は威厳を保つ為、とか言っている家系である為夜遊びなんて許さないだろう。特にあの親父さんなんて……あぁ、思い出しただけで体が震える。
俺も震え出していたとき、二階からドゴンッと何かが落ちる音がした。恐らくでもないが、緋依が起きたのだろう。さらに呻き声を上げているのは気のせいで……あろう。俺は彼方に苦笑いをする。
「はぁ〜、それにしても異常なんだよな」
「?……何がだよ」
「今まで異世界絡みの事件が起きるのは何ヶ月置きだったんだが、今回はこの一ヶ月の内でも三回目だぞ?」
「この前の咲希のは……」
「あれは含めてないんだ」
「えっ? じゃあ何があったんだ?」
彼方の言う事はつまりこうだ。まず、今回の事件が起こる前に彼方はより強力なドラゴンのボスを倒していた。しかし、大体は彼方が殲滅したが、その時放たれた子分の一匹が逃げ出していたらしい……らしい。ふぅん、ということは……。
「今回の事件は柴崎のせいってことか……」
「い、いやいや!? それは元々ドラゴンが!!」
「お前な……どう償ってもらおうか……」
「ちょ、ちょっと!?」
きっと目を覚ました緋依は、いきなり聞こえる悲鳴に驚くことになるだろう。
これがヒロインだぁっ!!!(出番は少なかったけど……)




