番外編 +何か 時空神の復活
始めは三人称にしてみました。
これは、この世界が出来てから少し経った頃の話。
この場所は天空に浮かび、結界によって守られている『天界』という地域で、最大級の広さを誇る大宮殿であり、全ての神が住まい、この世の礎となる絶対領域。そんな場所に、本当の意味で世界を創造した神、『絶対神』がやってきた。
「ぜっ、絶対神様! この度はどのような御用件でおいでになされたのでしょうか?」
絶対神は、体中を血染めの布で覆い隠し、顔があるのであろう、上部には二つの大きな切り傷がある。しかし、その穴からは完全な闇しか見えず、彼の本当の顔を見た者は誰も居ない事でも有名だ。
天候を司る神ゼウスが、そんな見るからに恐怖の塊みたいな神の対応に回っている。
何故こんなにも焦っているかと言うと、普段は虚無空間に居座っている絶対神の急過ぎる訪問だからだ。いつもなら訪問の五年前には連絡が入る為、世界中の物を掻き集め、十分な準備をした上で最高のおもてなしをしている。それなのに、今回は一切の報告も無しの訪問だったので、このように驚天動地している訳だ。
無論、絶対神とよばれるだけあってその権威は想像を絶するもので、この宮殿に居る神を、一瞬で葬り去る事も可能と言い伝えられている。例え神であろうと、誰も死にたくないのは人間と変わらない。このパニックに巻き込まれた神は、常に冷や汗をかいている状態であろう。
しかし、それ程まで恐れられているのに対し、当人の絶対神はというと……。
「いやいや! だからいいって! そんな焦らなくてもね!? 別に怒ったりする訳ないし、今回はいきなり訪ねたこっちが悪いんだからさぁ……」
どの神よりも謙っている。別に今回が特別な訳ではなく、いつもいつもこうなのだ。
前の前の訪問時で、ミカエルが最高級の聖水を絶対神にお酌した時なんかは「いやぁ〜、ありがとうございますぅ〜、いつもいつも御丁寧に……」とお礼をわざわざしていた事もあった。これにはミカエルも驚愕せざるを得なかったと本人も言っている。
しかし、今も宮殿の端で神々の流れを見ている『クロノス』には対応が少し違った。
絶対神はゼウスとの会話を無理矢理終わらせ、「好きなようにしている」とだけ伝言を残してからクロノスの元に向う。
「よっ、クロノス!」
「何だよ……失せろって……」
「酷いなぁ、俺はクロノスの事を考えて色々やって上げてるんだぞ?」
「力の無駄遣いだよ、そんなの……」
クロノスは見た目が幼女であるが、く
クロノスが持つプラチナブロンドの髪は、彼女が床に座れば周囲一メートルまで広がり、前髪も目を完全に隠してしまう程伸びていた。これは、クロノスが『時間』の力を上手く制御出来ていないからだ。勿論、クロノスは時空を司る神であるが、彼女自身もその力に満足しておらず、訓練をしようとしていない。この穴を、いつも絶対神が埋める事で、世界の時空は正常に動いている。
「だから何が不満なんだ?」
絶対神は、クロノスの頭に手を軽く添えて、顔を覗き込んでから聞く。
「私には……それしか無いじゃないか」
そう、クロノスにはゼウスの天候を操る力のような簡単に言えばかっこいい力ではなく、ただ時間や空間を操るだけの力しかない。それが、無性にかっこ悪く見えて仕方が無いのだ。
「そうかぁ、まぁ隣の芝生は青いっとも言うしな……」
「隣の……芝生……?」
「昔の言葉みたいなもんさ。……それよりも、時間を止める力を使って、面白いもの見せてやろうか?」
クロノスには変な感じに聞こえた。時間という退屈な概念を、どうすれば面白くできるのか、自分には操れない分余計に興味が湧く響きでもある。
絶対神に連れられ、宮殿内にある、屋外廊下で囲まれた噴水付き巨大広場にやって来たクロノス。安全に気をつける為にと、噴水前で待機させられ、絶対神はそこよりずっと離れた場所に移動した。
「いいかー? 俺が使うのは時間を止める力と、多少の神力だ」
神力とは、どんな神でも持って生まれた、物を触れずに動かす力。クロノスだって、それ位の力は大体制御出来ている為、彼女はコクリと頷く。その瞬間、地面の神工土がクロノスの目の前に、山のような姿で出現した。呆気に取られるクロノスだった。
さらに驚愕的な出来事が起こる。ある者は片足で立ち、両手を斜め上へ突き出し鷹の真似をしていたり、またある者は、天使でありながら目の前の神に対してファイティングポーズを取っていたりしていて、広場から見える廊下をドタバタと歩く天使や神々達全員が、その場で滑稽なポーズを取り出したのだ。
この一種の異変のような出来事の最中、一人だけ大声で笑っている者が居た。それが、絶対神である。絶対神は山の上に堂々と座り、変な光景を見ては大声で笑う。クロノスは少し前髪を上げてまでして、その絶対神を見上げた。
「お!? クロノスも見たいか?」
絶対神が山頂からそう言うと、次の瞬間、クロノスが見る景色は変わっていた。三百六十度、どこまでも見渡せる山頂に。
「これが時間を止める力だぞ?」
空が近づき、今まで引きこもりぎみであったクロノスは目眩いがした。そのせいで、倒れてしまうかもしれないと思ったクロノスであったが、絶対神が肩まで手を回し、しっかりと支えていてくれている。
「どうだ? 凄いだろ?」
そう、絶対神が言いたいのは、この全ては時間を止めたから出来た訳であり、他の何者にもこんな事は出来ないと言う事だ。クロノスはそれに気付き、与えられた力に満足していない自分が馬鹿らしく思えて来た。
「あと一つ、プレゼントがある」
絶対神がそう言うと、また場所が一瞬で移り、元々いた噴水前に居た。そして、先程は気付かなかったが、絶対神の指示で山の後ろに回ってみると、クロノスは青白い光を放ったコートの様な物を見つけた。クロノスがそれに触れると、その瞬間コートがより大きな光を放ちながら、クロノスの体に纏わり付く。
「それは、補助用スーツって所だな」
「補助……?」
「いやぁ、時間の力ってさ、制御するのに凄い時間が掛かるんだよな。だから、お前には完璧な『時空神』になってほしいんだ! それが上手く行くようにな……」
「ありがとう絶対神!」
クロノスには、絶対神が光って見えた。今までは自分の能力も碌に使えず、絶対神にまで迷惑を掛けていたクロノスが、誰かに助けられた事は、それだけで自分を変える大きな力になるのだ。
「ただ、ちょっと不具合が起きててなぁ」
その言葉にクロノスはきょとんとする。
「不具合?」
「あぁ、ちょっとその状態で時間の能力を使ってみてくれ」
言われた通りに力を込めると、確かに時が停止し、クロノスは今までと違う感覚を持った。世界の中で自分だけ動いている感覚と……自分の理性がふっとんだような感覚。
「はぁっはっはっはっ!! 我が名は時空神クロノス! そして、この世界の王だぁ!!」
その空間には、巨大なローブで身を包んだ、機械の様な生命体が居た。それこそがクロノスなのだ。あのスーツを纏っていると、力を解放した瞬間に理性が吹っ飛ぶ。しかし、絶対神はそこの修正もちゃんと行ったには行ったのだ。このような停止した空間に、絶対神が割り込んで来る。
「やっぱりかぁ〜、擬似的思考プログラムじゃこうなっても仕方無いか……」
「貴様が絶対神かぁ? ふんっ、そんな事言ってもな! どうせ我以外は神にも満たない存在なのだ!!」
そう、スーツ内に一つの人工知能を埋め込み、持ち主の理性が吹き飛んだ瞬間に行動は全てプログラムに委任される。さらに、そのプログラムがどうやっても傲慢な態度しか取らない為、絶対神は手を焼いているのだ。
「仕方無い……体に叩き込むか……」
「何っ!? 体に……?」
その瞬間、クロノスは後方へ数百メートルも吹き飛ぶ。最早認識すら出来ないスピードで、死んでしまう程の力が掛かり、クロノスのプログラムには処理が追いついていないようで……。
「グッ……いや、そんな筈が……」
そしてもう一撃、絶対神がクロノスの上空に現れたと思えば、巨大な火球を手元に作り出し、それを高速落下させてクロノスにぶつける。
「グワァア!? こ、これが絶対神か……」
炎の中でクロノスは悟り、機械は作動を停止した。
「ま、百分の一も無かったけどな……」
絶対神はそう言いながら炎を全て吸収し、その中からクロノスを救出する。
「流石俺が作った兵器、そんな脆弱じゃないよな!」
絶対神は更にそう言うと、クロノスのスーツから力を抜き取り、その姿は少しずつ元の可愛らしい姿へ戻っていく。
「あ、あとこれ、散髪出来るから……」
絶対神の言葉の通り、クロノスの『髪の毛は前髪に掛からない程度でお願いします』と言う程に短くなっていた。これもまた、絶対神の気遣いである。しかし、当のクロノスが怯えてえ居るのは、無理も無いだろう。
「いやぁ、ごめんね? こうでもしないとあのプログラムは言う事聞きそうに無かったからさぁ〜」
「し、死ぬかと思った……」
あのスーツを展開している状態でも、意識的にはあったクロノスは、先程の怖さを、体全体を使って表す。彼女は恐怖を伝えようと必死だが、伝えられている側は何故か笑っている。
「何で笑っているんですか?」
「お前が元気になって良かったよ」
「絶対神……様?」
そう、先程までのクロノスには、元気や笑顔が無く、最早生きる気力すら無いのではないだろうかと、絶対神を心配させていた。しかし、今は怖いと思う事があっても、安全と分かっている……絶対神が居るから安全と思えてしまうクロノスには楽しくて仕様がないのだ。
「それじゃ、また時を止めるようになったら、何時でも来てやるからな!」
絶対神はそう言うと、クロノスの頭をポンと撫で、身だしなみを整え始めた。
「え? でも、来るのに何年も掛かるんじゃ……?」
「あぁ〜、あれは嘘だよ。本当なら、一秒あれば簡単に来れるのさ……二人だけの秘密だぞ? そろそろ行かないと、じゃあな……」
その言葉の直後、世界は動き出した。そして、山も、働く者の変なポーズも、全て無かっ事のように元に戻っている。クロノスは考えた、きっと絶対神は楽しい人なのだと。
あれから数時間経ち、クロノスの元にゼウスが駆け寄って来た。
「おいクロノス! 絶対神様は何処に行かれたか知っているか!?」
息がとても荒いことから、クロノスにはずっと走り回っていたのだろうと分かった。
「え? ゼウスさんの所に行ったんじゃないんですか?」
「いやいや、私共はクロノス様と絶対神様が、一緒に居られた事しか分かってないんですよ!」
つまり、絶対神の「そろそろ行かないと」とは、何処へ行くかは言ってません、という事だとクロノスは分かった。さらにもう一つ、絶対神はクロノスに会う為だけに来たのだという事も分かった。
「さぁ? 知りませんね……」
「そうですか……失礼します!」
「はい……」
忙しそうなゼウスへ、手を振りながら別れるクロノスであったが、その心は隠せない様な嬉しさに包まれているのだった。
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それから何年、何億年経った事か……私、時空神クロノスは『神々の戦争』に巻き込まれ、運悪く倒されてしまってからは、長らく封印されている。私達のような存在に死への危機はあまり無いが、それでも悲しい事はある。まず、絶対神様に会えない事だ。
あの頃は師匠的存在として、私と絶対神様の仲が良かった。だが、それも封印され時が流れれば変わるもの。もう絶対神様には会えないのかもしれない……と最近思うようになっているが、なるべくポジティブに生きろと、絶対神様にも言われているから、考えないようにする。
もし封印が解かれたら? まず無いだろうが、私と絶対神様を遠ざけた神や人類に復讐をしよう。そうだな、皆殺しで良い。
それも終わったら? 絶対神様を探す。絶対に探し出す。宇宙の隅から隅まで探し出す。
エネルギーなら、封印されている最中にたんまりと溜まったので、問題ないのだ。
私はいつまでもいつまでもそんな事を言い続けていた。それこそ呪いのように……しかし、中々その願いは届かない。幾ら願おうとも、今の時代には届かない。私はもう永遠にこのままなのだと悟り始めたときだった。私を包む結界の様なものが揺れ、ひびが入り始める。
出るなら今しかない!!
神能的に思った私は、持てる力全てを使い結界を破壊し、やっとの思いで外に飛び出したのだ。
見えた世界は覚えている景色と全く違い、巨大な塔のようなものが立ち並ぶ世界で、地面では動く鉄の塊のような物体が無数にある。さらに、人間が沢山居る……滅茶苦茶居る。早速殺していきたい所だ。
「——え!?」
ここより少し北に行った所に、何とも言えない力の反応がある。だが、神にも似ている! 私は真下の人間には目もくれず、時間を止めながら早急に飛んでいく。
昔修行していた頃、絶対神様が私の目の前で
「神力は手を使わずに物を掴める力の事だ。もしその力で空気まで掴めたらどうなる?」
とか言いながら、神力だけを使い空を飛び出したのを思い出す。あの時に、私が対抗心を燃やして絶対神様よりも早く飛ぼうとしていた事があった。毎回勝負は惜しい所で絶対神様の負けとなり、後であれが本気じゃないと知った時は、ガチ勝負を挑んだ事もあった。
まぁ、三十秒で私は宮殿の上空を一周出来たが、絶対神様は地球を百周はしていた。あの時位から、私は絶対神様が最強だと自覚し始めていたな。
高速で飛び、一時間で目的地上空に着いた。やはり体は訛っていたが、準備運動は戦いながらするとしよう。
「ここか……」
そこはさっきのような多くな建造物が無く、少し落ち着く感じの場所であったが、この場からは今の私と同等かそれ以上の力を感じる。もし全員が仲間だったら……いや、私は復讐の神、そんな事関係無い。
その場で時間を停止させる。そして、『今の』私ではなく、スーツを着た私に姿を変身。理性は吹き飛んでしまったが、意識がある。そんな変な時間へと入り込んだ。
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今は秀春様と絶賛お散歩中! 秀春様は一人で出掛けたいと断固抗議していましたが、きっとツンデレなだけでしょう。そんな事よりも今を楽しまなくては。
「秀春様ぁ〜、何をされに行くのですか?」
「お前、知らないのか? 今日はとあるゲームの発売日なんだよ」
秀春様はそう言いながら、るんるんと歩いています。どれだけ楽しみにしていたのやら……。あ、成る程、今日は気分が良いから私の我が侭もお許しになられたのですねっ!? うーん、一人で納得していても仕様がないし……今はスキンシップを行い好感度を上げる絶好のチャンスです! 逃す訳にはいきません。
「それで、どんなゲームなんですか?」
「それは、なぁ——」
前とは違いますが、これもまた良い思い出です! 秀春様っ!
クロノスちゃんも可愛いです。
しかし、何故秀春が『絶対神』と言い切れるかの確証については、まぁその内に……。