第7章:あっけない解決
原生林の丘から、狼の遠吠えがヴェリア村の夜の静寂を引き裂くように響き渡っていた。
しかし、あの赤髪の家族が住む家の壁の内側は、それとは対照的に深く静まり返っていた。
圧倒的な沈黙。
誰も一言も発さない。
まるで全員が息を潜め、深夜の深い闇に沈み込んでいるかのようだった。
部屋にいる三人の視線は、一点に釘付けになっていた。
タカヒロの体だ。
そよ風に弄ばれて激しく揺れ動く卓上のロウソクの光の下で、見知らぬ青年の体はゆっくりと手当てを受けていた。
彼の全身の傷には、すでに薬師によって特製の薬草軟膏が塗り込まれている。
ケイトは少し離れた場所から、石のように立ち尽くしていた。
瞬きすら忘れ、薬師であるコールの鮮やかな手捌きにただただ圧倒されている。
中年の男の手首は踊るように滑らかに動き、タカヒロの肌に開いた裂傷を縫い合わせるため、恐ろしいほどの正確さで針を刺しては引き抜いていた。
少女の感嘆は、最後の瞬間に頂点に達した。
最後の結び目が完成した途端、コールの指先が神業のような動きを見せたのだ。
シュパッ!
肉眼では到底捉えきれないほどの早業で、小さな小刀を取り出し、瞬時に糸を切り落とした。
ケイトの口元は、賞賛の言葉を叫ぼうと開きかけて……すぐに閉じられた。
空気を読んだのだ。
今は歓声を上げるような場面ではない。
自分も何か役に立たなければという本能に突き動かされ、彼女は反射的に申し出た。
「コールさん。何かウチに手伝えることはあるかにゃ?」
静寂を破る、優しくも可愛らしい声だった。
コールはチラリと彼女を見た。
数秒の間を置き、再び手元に意識を集中させてから、感情の読めない平坦な声で答える。
「私の鞄の中にある、白い小さな布を取ってきてくれ。」
二度言わせるまでもなく、ケイトは竹の柱のそばに置かれた医療カバンへと小走りで向かった。
素早く手を突っ込み、言われたものを引っ張り出す。
「これだにゃ!」
ケイトは布を頭上に掲げた。
「よし! 早くこっちへ持ってきなさい。」
ケイトは急いで布の巻物を手渡した。
彼女の小さな手の中にある時は、それはただの短い包帯の切れ端にしか見えず、何の変哲もない代物だった。
しかし、コールがそれを受け取り、端を勢いよく振った瞬間、すべてが一変した。
折りたたまれていた布が、物理法則を無視して解き放たれる。
繊維が勝手にスルスルと伸び始め、タカヒロの体から家の中心にある大黒柱まで届きそうなほどの長さにまで展開したのだ。
そのあり得ない光景に、ケイトはぽかんと口を開けてしまった。
「ジョー……この少年の体を起こしてくれ。」
ジョーはこわばった動きで頷き、何も質問せずに薬師の指示に従った。
タカヒロの背中に腕を差し込み、青年の重たい体を引き上げ、座った姿勢を保てるように支える。
ジョーが体重を支えている間、コールの手が再び動き出した。
薄暗い夜の闇の中、白い布の束が、まるで糸を引かれたコマのようにタカヒロの体に巻きついていく。
信じられないほど優雅で、かつ正確な動き。
ほんの数秒で、タカヒロの上半身は真っ白な包帯で完璧なまでに美しく覆い尽くされた。
(……すっごいにゃ!)
ケイトは心の中で叫んだ。
だが、その声に出してコールの神業を褒め称えることはできなかった。
タカヒロの体をゆっくりとゴザの上に寝かせ直す父親の横で、彼女はただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
「これで、すべての傷の手当ては終わった。」
コールは手に付いた汚れを拭き取りながら、あっけらかんと言った。
「だが、どうにも引っかかることがある。」
(……引っかかる?)
ケイトは眉をひそめ、心の中でその言葉を繰り返した。
「どうしたんだ? この少年の体に、まだ何か別の問題でもあったのか、コールさん?」
ジョーが急に顔をこわばらせて尋ねた。
しかし、コールはその質問を完全に無視した。
彼の意識は、散らかった医療器具を片付けることに向けられている。
それを見たケイトは、片付けを手伝おうと一歩前へ出た。
だが、彼女の手が鞄に触れる前に、コールが片手をスッと上げた。
『そこで大人しくしていなさい』という、絶対的な拒絶の合図だった。
その冷たい反応に、ケイトはピタリと動きを止め、一歩後ずさった。
その時、ふと視線が横に逸れ、母親の姿を捉えた。
部屋の隅で、まだ胸の痛みを堪えて座っていたベリンダが、無理して母親らしい温かい微笑みを作っていた。
そして、娘に向かって小さく手を振ったのだ。
ケイトも薄く微笑み返し、ゆっくりと手を振り返した。
二人の距離はかなり近かったが、(ママを安心させるためなら、これくらい平気だにゃ)と心の中で思った。
最後の器具をカバンに押し込むと、コールはそれを肩に掛けた。
そしてようやく、先ほどわざと宙吊りにしたままだった謎の答えを口にした。
「傷の手当てをする前に、この少年の体に透明なゲルのような液体が付着しているのを見つけてね。」
彼は静かなトーンで説明した。
(……透明なゲル?)
ケイトは、自分にしか聞こえないような小さな声で呟いた。
「誰がそれを塗ったのかは知らんが。」
薬師はそう言いながら、ゆっくりと木製のドアの敷居へと歩みを進める。
「あの透明なゲルのおかげで……本来なら処置が厄介なはずの酷い傷が、驚くほどあっさりと治療できたんだ。」
ドア枠のちょうど真下で、コールは立ち止まった。
肩越しに振り返り、ジョーとケイトを交互に横目で見る。
「その透明なゲルを塗った人物は、おそらく医療の世界にかなり精通している達人だろう。その人に、私からの『感謝』を伝えておいてくれ。あの助けがなければ、これほど早く仕事は終わらなかったはずだからな。」
部屋の空気が一瞬にして凍りついた。
ジョーとケイトは、その場に縫い付けられたように固まっている。
二組の瞳がパチパチと速い瞬きを繰り返すだけで、コールの説明をどう解釈すればいいのか全く理解できていない。
彼らが言っている『達人』が一体誰のことなのか、見当もつかなかったからだ。
唖然とする家主からの返事を待つこともなく、コールはジョーの家を出て行った。
二度と後ろを振り返ることなく、片手を軽く宙に上げて振りながら、漆黒の夜の闇の中へと消えていく。
家に取り残されたジョーとケイトは、同時に深く頭を下げた。
今夜、薬師が尽くしてくれた献身と骨折りの仕事に対する、無言の敬意だった。
コールの背中が夜霧に完全に飲み込まれると、家の中は再び絶対的な静寂に包まれた。
換気口から吹き込む風の音と、遠くで響く狼の遠吠えだけが交ざり合い、この夜を締めくくるBGMとなる。
ひとつの問題はあっけなく解決した。
しかし、それと同時に新たな謎がひとつ、彼らの前に転がり込んできたのだ。
今、父と娘は自分たちで必死に頭を悩ませなければならない。
タカヒロの体にあの透明なゲルを塗り込んだ、医療の『達人』なる謎の人物は、一体誰なのか?




