第8話 都市への道中
4人は最も近い都市、セカンドイへと向かう。
移動手段は4人乗りのオフロード車、砂漠を走行するため車輪の可動域が広く、タイヤの幅が広い車種に、アカネが運転する形で4人は向かう。
「私、思うんですが。」
アカネが唐突に運転席で前を向きながら、車全体に響き渡るようにハキハキとした物言いで話を始める。
「ここのサーバー主のネーミングセンス、安直すぎません?」
「確かに俺もそれは思ったな。」
「「……」」
アカネの問いに答えたのは助手席へと座る奏のみ。
エヴァとオリヴィアはアカネが車を出した瞬間、即座に後部座席へと二人そろって乗り込み、走行中ずっと押し黙っていた。
「……いつまでも黙ってないで、少しは話をしましょう二人とも。私は重苦しい雰囲気での移動は嫌です。」
「……はい。」
「……おう。」
二人はもうアカネの怒りが収まったと判断したのか、口を開き始める。
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| エヴァの配信 |コメント欄 ▽ |
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・まじで母親だな?
・親子にしか見えない
・というか、エヴァってまだ配信中って気づいてる?
・確か、オリヴィアとアカネの方は配信終了したんだよな?
・だから同接が3倍ぐらいになったのか
・二人の配信から流れてきたやつが居るのか
・拙僧はアカネ殿の配信から流れてきた流浪の民である
・なんで古風なんだよ
・お?しゃべり始めた
・怒られた後って許されたのが分かっていてもなんか喋りずらいよな
・なんでなんやろな
・なぜにエセ関西弁でござ?
・おまえもだよ
コメント欄が4人の知らないまま盛り上がりを見せている中で、アカネは再び聞く。
「で、二人はどう思いますか?このサーバーの名前?」
「私も安直だとおもうなぁ……全部英語で捻りが無いなぁ」
「オレもそう思う……フランス語で言うとかさ?」
「何でフランス語なんだ?」
奏は疑問に思う。
フランスの現地参加限定の大会へと遠征に行った時、奏はフランス語に苦しめられ苦手意識を感じていた。
「私も疑問です、エヴァ。何故故フランス語?」
「それはね~…」
「それはだな~…」
「なんでリヴィアまで答えるんですか?」
「リヴィア?」
奏は今まで一度も聞いたことない呼び名を、アカネへと聞き直す。
「ああすいません。バイザーさんはVDiverに明るくないんでしたね。リヴィアとはオリヴィアのあだ名です。」
「にしてはここまで一緒にいて一度も聞いていないが?」
「最近付けたんですよ。具体的にはリヴィアの1周年記念配信の、欲しい物を挙げるという企画で。」
アカネは思い出し笑いをしたのか笑みを浮かべる。
キツそうな雰囲気から一転、やわらかい雰囲気を纏ったアカネに奏は思わず目を剥く。
アカネは奏のそんなに様子に気づかず、話を続ける。
「私は4文字で呼ぶのが長いから、あだ名が欲しいって、リヴィアが。」
「そうか…これからは俺もそう呼ぶか。」
「そうしてあげてください。」
奏はこれからという単語を吐いた自分に驚き、苦笑を浮かべながらアカネに聞こえないように呟く。
「まぁ、これからも会い続けるかどうかは分からないがな。」
そんな二人の掛け合いを見ながら、エヴァは割り込むようすを伺っており、話が一旦途切れた今この瞬間を狙った。
「あの…そろそろフランス語について話してもイイか…?」
「「いいぞ(ですよ)」」
二人の許可の返答にエヴァとオリヴィアは笑顔を浮かべながら宣言をする。
「答えは……せーのっ「「カッコ良さそうだから!!」」
「……」
「……」
「……なんか言ってよ、姉貴・バイザー。」
「いや思った通り単純な理由だなって思っただけです。」
「俺はいいと思うぞ……うん…イイトオモウ。」
「下手くそなフォローするぐらいなら貶せよなぁ!?」
「下手なフォローが一番効くぅ…」
都市に着くまでおおよそ30分、奏単独ならば10分。
ASの中では最大、現実世界の10倍の速さで進むサーバーなどもあるが、このサーバーは現実世界と同速。
現実世界の配信の視聴者が存在する事がその事を物語っている。
というか、大体のサーバーはそんな機能を搭載する資金力も技術力も無いし、搭載したところで他のサーバーとの連携自体は同速じゃないと行えないので、一部のシュミレーションや、サバイバル形式での大会でしか使っていないのが現状だった。
都市までの30分間、4人は雑談へと勤しむのであった。
***
「そういえば、姉貴。順位レートいくつまで言ったんだ。」
「え、順位レートですか…?ちょっと待ってくださいね……バイザーさん、運転変わってもらえますか…?」
「いいぞ。」
雑談中、エヴァの唐突な問いにアカネはASのレートバトルのページを空中に出現させて、マイページへとアクセスする操作をする。
それによって生じる事故を防ぐため、アカネは奏に運転を頼み、奏は了承した後一瞬で運転に関するスキルと他人との位置替えを出来るスキルを創造し、アカネとの位置替え後、運転を開始した。
その後、奏は聞いたことが無い単語に反応する。
「順位レート?」
「もうお前が何を知らなかったとしてもおどろかねぇよ……順位レートってのはASの開発元、ガイアアートワークスが主催しているレートバトルの順位の事だよ。」
エヴァは自分の540598390/1959779348、上位27.6%と書かれたページを出す。
「基本レートは順位/母数で割られて上位何パーセントっていう形で表してて、オレがもし順位レートの値を聞かれたらこの左の値を応えるんだよ。」
エヴァは運転席の奏の顔のすぐ横まで顔を近づけて、奏の斜め前へとページを出して指さす。
そして奏の耳にエヴァの掻き上げられていない髪がはらりとかかる。
奏は思った。
(くすぐってぇ…)
この男、本当に強さ以外には興味がないのだ。
「で、このレートにはシングル、ダブル、トリプル、チームの4つに分類わけされていて、姉貴はこのシングルのガチ勢なんだよ。」
「シングル、つまり1vs1の?」
「そゆこと。姉貴のスキルセットは「ハイ、エヴァ。」っと出たか。」
アカネが見せたレートは8903/1959779348、上位0.00045%。
まごう事なき、本物の強者だった。
「姉貴ぃ~10000位以内に入ってるじゃん!」
「アカネさんすごっ!?」
「いや、でもまだシーズン中盤ですし、アウロラでも2番目なので。」
「「謙遜いいって~」」
「ま、まあ!本気でやってますから!!」
「「いよっ!さすがガチ勢!!」」
3人が盛り上がっている時に奏は運転しながらランキングトップ100位を1位から流し見していた。
トップ100はダイバー名の横に異名が付けられており、物々しい雰囲気を醸し出していた。
特にトップ10は過去2年変わっていなかった。
1以から、AKIRA/瞬刃、エスメラルダ/禁呪、アコレ/探索者、コスモ/宇宙人、でんでん虫/鈍足、でんでん虫ぶっ殺し隊長/特攻、ナラクシャ/豪商、コンフィス/異端、オルフェ/求道者、10位から陥落したくなくて草。/10位の10人。
名実ともに最強の10人であり、この10人とそれ以外で分けられるほど。
10人中3人は日本人なのが、日本のレベルの高さを感じさせる。
ちなみに、上位5人がチームを組んでとあるプロチームとBO9 で戦おうというイベントが、1年ほど前に行われた。
結果は5-0。
上位5人はそのプロチームのメンバー、一人すらまともに落とせず終わった。
そのチームの名はASTRA。
チーム部門でレートランク1位を世界大会をtop8で終わるまでの5年間、維持し続けた世界最強である。
(このトップ10……だいたい個人戦で当たったことがあるな……)
奏はトップ10とは世界個人戦で何度も対戦しており、一度も負けたことが無い相手だった。
なぜ公式のレーティングトップ10がプロに通用しないのか?
答えは単純。
個人戦のトッププロはほとんどトップチームの一員なので、スクリムや戦術研究、特定選手への対策会議などでレートバトルなんぞ回してる暇がないのだ。
相手も悪かった。
トップ10は良くも悪くも一芸特化。
対戦時の広告のキャッチコピーには『研ぎ澄まされた刃、届くのか!?』と複数の言語め書かれており、それはトップ10が自身の武器を極限まで極めたダイバーを表す。
しかしASTRAの主軸にしてリーダーの男《SAW》は、そう言う奴らをしばき回して王者として君臨していた、正に存在そのものがトップ10のカウンター。
勝てるわけが無かった。
よってトップ10はこう呼ばれる。
秀才軍団《頂に届かぬ者たち》と。
また、実際に頂に立つ者、個人戦で奏を下して上がっていった者たちは皆、奏の戦法を知って、自身のサブウェポンを密かに創り、初見殺しにて終わらすという戦法を取る者が多く、自身の変化を受け入れられる者だけが奏から勝ちをもぎ取って行った。
そんな者たちと対比され、こうも呼ばれる。
不変者と。
言うまでもなく蔑称である。
(確かに強いは強いんだが…ちょっと足りねぇんだよなぁ…あの時ボコボコにしてから変わってんのかな?)
奏が考えに耽っていると、
「どうだ、すげーだろ?オレの姉貴。」
エヴァが自信満々の様子で奏に聞いて来た。
「確かに、強いな。」
奏はそんな感想を述べながら、レートバトルに興味を持った。
(俺が蹂躙し尽くせば変わるか?…幸い休業して1年ぐらい猶予あるしな…やってみるか。)
エヴァやオリヴィア、アカネの話を聞き流しながら、心の中はレートバトルへの自身の参入計画を練ったり、運転変わってほしいなーという思いでいっぱいだった。
セカンドイに着くまであと5分。
奏はひたすら聴く側に回ることで、時間を潰すのだった。




