第7話 恐怖の姉
3人の雑談も交えたSNS指導が終わると、オリヴィアが伸びをしながら告げる。
「さて~……大体のレクチャーは済んだかな?」
「あぁ。大体の概要は掴んだ。SNSとはこうやって運用するんだな…」
「…そろそろSNSからリンクスに呼び方変えない?SNSの中だともうこれ1強だし?」
「……そうだな、そうすることにする。」
そして三人はもうすぐ一時の別れが来ることを感じていた。
「……そういえば一つ聞きたかったんだが。」
「「ん?」」
「2億ゴールドというのは平均的に稼げるものなのか?2万ドルとか地方大会の優勝賞金クラスはあると思うんだが。」
奏の指摘にタメ息を吐く二人。
その心情はなぜそれが分かって、ここまでSNSに対して無知なのだという思いだけだった。
「そういう知識だけはあるんだな……今回のオレらの2億ゴールドってのは事務所全体で集めたもんだよ。」
「全体で?」
「そう、VLiverの奴等がVDiverへと移行するための事務所全体のイベント。Vと視聴者全体で情報共有し合ってゴールドの稼ぎを効率化して、とあるプロへと送る。それがこのイベントの概要だ。ちなみに視聴者からのゴールド送金は原則NG、Vが稼いだものじゃないとダメ。」
奏は再び疑問が降って湧いてきた。
「ゴールドってどう稼ぐんだ?」
「ってそれも知らねーのかよ…!主な稼ぎ方はモブの撃破で得れる1~3のゴールド。通常はそれを日ごとに銀行に預けたり、たまにAS側から鯖ごとに2~3個配布された指定オブジェクトを交換して得れる1万ゴールドをゲットしたりして、1か月で2~3万ゴールド稼げたら運が良い月だって言えるくらいの感覚。」
奏が納得しながら頷くのを見て、エヴァは話を続ける。
「オレらは事務所全体で稼いだ2億ゴールドの集め先であり振込役でもあった。だから必死こいて逃げてたんだよ。」
エヴァとオリヴィアは事務所のメンバー全員のゴールドを全て背負っており、責任は重大であった。
本人たち二人も、もしもの時のために戦闘は得意だったが上位陣と比べるとやや力不足が否めず、その上位陣も稼ぐために駆り出させなければならず、そこを狙われた。
あのユニコーン勢らはこのことを知りながらも襲ってきたので、しばらくの間まともにASはプレイできないだろう。
総勢百名を超える事務所のファンの全員を敵に回したのだから。
2億ゴールドという数字はVとファン全員が協力し合って出来た伝説の数字。
一つのイベントで稼いだゴールドで言えば、世界でも2番目に位置している。
ファン達は全員怒り狂っており、現在捜索と特定スレッドが乱立していた。
「そうか……なら銀行まで送った方がいいか?」
「う~ん…どうしようかな?これ以上迷惑をかけれないし……でもなぁ……」
オリヴィアがうんうん言いながら頭を抱えて悩んでいると
「私は頼んだ方がいいと思いますけどね、オリヴィアさん。」
後方からオリヴィアへと声が掛けられ、振り向く。
そこに居たのは、エヴァと同じ印象を受ける顔で、制服型のコスチュームに身を包んだ上から、黒いローブ羽織った女性アバターが居た。
相違点は、髪の長さと眼と雰囲気、それと口元と身長。
髪は最初に会ってからのエヴァと同じ、毛先の跳ねたロングヘア―であり、眼はツリ目でこれもエヴァと同じだが、感じる雰囲気はエヴァの様な粗暴でギラついた感じではなく、むしろ生真面目でこちらを真っ直ぐとみてくる様な正義感溢れた目をしていた。
しかし、融通利かなそうな雰囲気を醸し出しており、口元は真っすぐ漢字の一のように結ばれており、時節除く歯はギザ歯では無く、普通の歯であった。
その女性が降り立つとエヴァとの身長差に気づく。
おおよそ頭1個分、低いのだ。
エヴァの身長はおおよそ175㎝、女性にしては大柄になるようにアバターがデザインされた。
それより1個分、つまり身長換算して新たな女性はおおよそ150㎝とエヴァと差が激しくなっている。
そして奏はこの女性の正体をほぼ掴んでいた。
答えは
「お前がエヴァの妹、アカネか?」
「私が姉ですよ、変な名前の人。略して変人さん。」
「変人は辞めてほしいな……」
「じゃあなんてお呼びすれば?変な態度の人。略して変態さん。」
「悪化してないか、それ?」
アカネは奏に毒舌を吐きながら、エヴァへと近づいていく。
そして、思いっきり息を吸いこみ、言葉を紡ぐ準備をする。
「あなたはバカですか!?」
「うぐっ!?」
エヴァは自身へと向けられた叫びに思わず、くぐもった悲鳴を挙げてしまう。
「他の仲間への送金については考えなかったのですか!?」
「いやー……一日の送金限界、オレとオリヴィアどっちも三回使っちゃってたから……」
「なら少しぐらい救援要請すればいいでしょう!?全体グループはすでに作成していて、とるべき手段についても緊急用のPDF書類が配られたはずです!それも2回!見たんですか!?」
「み…見ました…」
「…本当ですか?」
「み…見たもん!!」
「本当に?」
「……」
「……ご…ごめんなさい!!見てません!!」
「……はぁ~……エヴァの事だから見てないと思っていましたが……」
アカネはオリヴィアへとぐりん、と顔を向ける。
「オリヴィアさん!!」
「ひゃい!?」
「あなたもですよねぇ?」
「そ…その通りであります!!」
アカネは頭に手を当てて頭痛があるような素振りをして、一つため息を吐き、また息を大きく吸い込む。
「……まったく、あなた達って娘は!こういうときがあるから、いつも見ておきなさいって口酸っぱく言っているというのに!!」
その後もギャアギャアと二人に叫ぶアカネ。
奏はアカネの様子からある一つの単語が思い浮かび、思わずその単語を口から溢してしまう。
「……母親?」
「誰が母親ですか!?誰が!?」
奏の一言を聞きつけたアカネは鬼の形相で、奏を睨む。
「…ナンデモナイデス。」
「ふんっ!こちらの落ち度なので助けてもらった事には感謝しますが!」
アカネはズンっと奏へと一歩を踏み出して告げる。
「既にあなたが報酬として相互フォローを要求したのは知ってます。しかし!」
さらに一歩踏み出し奏と目と鼻の先まで近づく。
しかし、奏のアバターは現実世界と同じに設定されており、約185cm。
目と鼻の先とは言ったが、実際には奏が見下ろし、アカネが見上げる形で顔と顔には若干の距離があった。
「これ以上の要求は慎んでもらいたいです!例えばゴールドの要求など!!」
奏は間髪入れずに答える。
「そこは本当に興味ないから安心してほしい。」
その返答速度と態度からアカネは本当に奏が興味ない事を悟り、体を引く。
「そうですか!!……すみません、ヒートアップしてました。」
荒々しい雰囲気から一転、アカネは申し訳なさそうな表情で奏に、礼と共に謝罪をする。
「語気荒く問い詰めてしまい、すみません。こちらも焦っていたもので…」
「いや、大丈夫だ。何度かそういう経験があるからな。」
そうして奏は遠い目をしながらATLAS時代を振り返る。
自信過剰な新人と先輩との意見の相違から起きる言い争い、俺はSAWとゲームをしに来たから他には興味ないと、初っ端からぶっちゃける移籍選手。
その他諸々の言い争いがあり、偶に自分にも飛び火して来た経験があるため、奏は慣れっこだった。
「それで、俺はついて行けば良いのか?」
「はい、お願いします…二人共。」
「「っ…!?」」
いつの間にか正座をしていた、いやさせられていた二人が恐怖の対象から声をかけられ、ビクッと動く。
その後、伏せていた顔を不安そうに上げながらアカネの顔を見る。
「早く立ってください。変態さんをお待たせしてしまいます。」
「いや変態は辞めてくれって言ったよな…そうだな…バイザーとでも呼んでくれ」
周りの評価に興味が無い奏でも、流石に嫌だったのか、呼び方の訂正を求める。
その訂正の声に、顔に意外な表情を覗かせてアカネは振り返る。
「そうですか?……ではバイザーさんとお呼びしますね?」
そして再び二人へと向き直り
「行きますよ。鯖内に散らばった事務所のメンバーがここから一番近い都市にいて待ってるので。」
とだけ告げ、歩き出した。
二人は
「「はい…」」
と呟き、トボトボと歩くことしかできなかった。




