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冒大付属の磁力使い  作者: 高瀬義雄
序章 純人の立場
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第16話 黒猫は四聖を飼い慣らす

ゼリアは赤竜の直系でありながら地元を離れても

自分の意思を押し通せる程の力を持っていた。


一部の力を持つ派閥は地元だけでなく様々な国に

自らの楔を打ち込んでいる。

外国で過ごすこと自体に問題はない。


しかし学生のうちに自派閥の勢力圏外まで旅をさせている勢力はそこまでいない。


せっかく育てた金の雛鳥を他に攫われては元も子もないからだ。


もちらんこの思想は国として軍閥政治を奨励している竜国だけで他の種族にとってはやや偏った考えと言える。


そのゼリアでも眼の前の特殊な魔術には興味を抱かざるを得なかった。


(中国の古来から伝わる聖獣の能力を再現しているようだけど今時そんな古い御伽噺、誰に教わったのかしら?)


四聖の印を煌めかせながら獣と化した黒猫が

眼の前を刈り取る蹴りを放つと

開幕から竜魔装を適時その出力で使いこなしている

赤猫はもう一つ上にギアを上げた。


竜魔装に加えさらに獣化を重ねることでさらに

一段上の力を得る。


毛皮の代わりに赤鱗がより軽く、より硬く研ぎ澄まされ筋肉がより靭やかに延びる。


眼が獰猛な竜と肉食獣のそれとなり動体視力も

上昇する。

黒猫はそれを見て己もさらに上の魔術を切る。


四聖央麟流(しせいおうりんりゅう) 麒麟功


躰中に張り巡らされた魔術印が麒麟の如き光を放ち、

彼女の四肢の魔力を濃縮させる。


常時循環された魔力が身体の隅々まで行き渡り、

彼女に普通の獣人ではあり得ない反応速度と

膂力をもたらす。


それを見たゼリアは目の前の黒猫の身体が異常であることとその凄惨な生まれを見抜いた。


「ねえ、黒猫ちゃん。私が勝ったらあなたのその不思議な身体のこと、教えてくれない?」


だからと言って手加減するほどお人好しでない彼女は

自分の興味を優先した。


不幸など探せば世の中にいくらでも転がっている。


「ーーいいよ。でも私が勝ったら知りたいこと一つ教えて。知らなかったら気にしなくていいよ。」


「いいわよ〜。軍事機密とかじゃなければ。」


それでいいと了承した黒猫を見て彼女は負けるつもりなど毛頭なかった。


突っ込んできた黒い塊が黄色い光を発しながら

こちらの頭ごと食い破る勢いで右の上段蹴りを放つ。


しゃがむことでなんとか避けた赤猫は相手も本気になったと見てそのまま下段に右脚で足払いを放る。


しかし眼の前の黒猫は避けず無理矢理左脚で受けた。


四聖北玄流 玄武甲


左脚に現れた四聖の印が玄武が司る甲羅を顕現する。


まさか受けるつもりだと思っていなかった赤猫は

それでも右足を伸ばして相手の片足を食い破ろうとする。


左脚一本の無茶苦茶な重心で受けた筈なのに硬い甲羅が黒猫の脚を守る。


衝撃に逆らわなかった黒猫が脚ごと空中で左に一回転した。


(何やってんのこの娘!?いくら硬くても脚痺れて動かないどころか痛みで何もできないわよ!?)


衝撃から痺れた左脚を術式による魔力で無理矢理動かして黒猫は着地する。


ゼリアは身体の痛みを顧みない黒い怪物に上から睨まれ相手の身体どころか精神も普通でないと理解できた。


そのまま体重を乗せた右の爪を振り下ろしてくる黒い塊を前に、足払いで体勢を崩していた赤猫は、

こちらも爪で対応する。


黒い右手の爪と赤い左手の爪が交錯し、双方弾かれて

距離をとる。


余計な報酬を与えたせいで本気ではなく殺る気になった黒猫が光を帯びた身体から黒い眼光を放っていた。


ゼリアは藪をつついて蛇を出したかと思ったが

後の祭りだった。


(あ、やっちゃったかも。もしかして中国の諜報部の人かな〜。なら真面目にやらないとマズイね。)


盛大な勘違いだったが出身という意味ではそこまで外れてもいなかった。


軍閥政治って面倒くさいなあと嘯きながらもその恩恵を受けていた側であるゼリアは魔術を行使した。


ーーメイフォンは少しだけ悪戯をしてみたが相手の反応は芳しくなかった。


自分と同じ側の人間では無さそうだ。これは聞いても意味ないかなと思ったが元より望みは薄いのだからと気にしなかった。


(そろそろ決めた方がいいかな。)


相手の魔術の展開を黙って見ている意味もない。

黄金と緑色の魔力を練り始めた。



ゼリアは十八番の魔術を展開する。


炎竜爪!


高熱に耐えられる赤竜の鱗が猫の腕を保護し、魔術による炎熱を爪に伝える。


あまたの鱗を切り裂いてきた魔術を前に

黒猫は本能で接近戦をやめた。


爪による物理的な切断だけでなく熱による溶融的切断を行うこの魔術は玄武の甲羅で防げても熱に自身の身体が耐えられないと判断した。


無理矢理耐えることはできるだろうがその意味もないからだ。


だから他の手を切った。

自身が接近戦をしなくても済む方法を。


適当に息吹を撃っても避けられる。

ならば強い味方に手伝ってもらおうと。


四聖招聘 東木青龍


彼女の身体から漏れ出す四聖の魔力が龍の形を彩り、

神話の彼方に追いやられた伝説上の存在が顕れる。


全長50mを超える龍がこちらを睥睨していた。


場違い過ぎる荘厳な魔力を前にゼリアはポカンと

間抜け面を晒している。


ーーウェインは自分の知らない魔術どころか

見たことのない召喚術を見て本当に今回の戦いに参加して良かったと思えた。



メイフォンは今回の戦いでスカウトが来るらしいし

VRB部に入るかは分からないまでも伝手を作っておきたかった。


だから勝つことは当たり前だったが情報もくれるのならばもう自分を追っかける人はいないし、

ある程度バラしてもいいかと思ったのだ。


青龍くんは暴れん坊だから気を付けてねと心の内で

少しだけ心配しながら。



得体のしれない召喚術を前になんとか起動したゼリアは翼を全力で動かして黒猫に突貫した。


何かされる前にこちらが先手を打った方がいいと感じたのだ。


もう少しその判断が早ければ苦労することはなかったかもしれない。


青龍は彼女に反応し、息吹を吹いて牽制した。


それを避けるために彼女は翼に魔力を込めて燃料とし爆炎を吹いて右に横っ飛びした。


緑色の奔流が自分の左を嘗めていくのを見て

冷や汗をかきながらそれでも黒猫との距離を詰める。


召喚術を使う敵とやりあったことはあったが

あんな存在を前に戦った経験は無かった。


龍でありながら竜国では感じられなかった異質な魔力を前に未知の敵に恐怖が募る。


(絶対この子向こうのチームじゃ他の連中より強いでしょ!)


自分から好んでやりたいと言った筈なのにとんでもない大凶を引いたゼリアは最近私ちょっと好き勝手し過ぎたかなと直近の行いを後悔した。


ただ現実は非情だった。


龍がその身体を用いて長い尾から重さを感じさせる

一撃を放つ。


大木のような筋肉の塊が空から打ち下ろされると

また翼に魔力を込めて左に吹っ飛ぶ。


しかしそれを読んでいた黒猫はそこに駆けて

一撃を準備していた。


四聖東龍流 青龍拳


拳に黄金色の魔力が迸り型に入った動きから

右の正拳突きを繰り出そうとする。


ゼリアは自ら近づいて来た相手を見てここが勝負どころと感じた。


喉に魔力を込めて竜人特有の息吹を準備する。

込められた魔力が薪として炎を熾す。


炎息吹!


赤龍の得意技を放たれながもメイフォンは動きを変えていなかった。


ここに来て青龍が魔術を唱えだす。


お前も使えるのかよと心中で唸った赤猫は

緑が相手の右腕を覆っていくのを見て失策を

悟った。


何度も練習したであろう型を崩すことなく

変化させる。


動きはそのままにその拳を魔力によって昇華させる。


四聖東龍流 東木青龍拳


龍から昇る魔力によって右手に巻き付いた緑の光が

こちらに拳を伴って放たれる。


大木の如き緑の光槍が息吹を貫いて赤猫の身体を叩きつける。


次はなりふり構わず燃やし尽くそうと悔しさに身を滲ませて自分もやっぱり竜人なんだなと身体を投げ出して意識を飛ばした。



ーー決着が着いてVRをリセットすると各々の反応は様々だった。


馴染みの獣人派閥に連絡を取る赤い猫、

なんだよお前もかよ実力詐欺なんてずるいぞと宣う

拳士や、お前が言うなと突っ込んでいる剣士がいた。


岩の竜人は派閥に所属していない龍を前にどんな影響を与えるのか訝しみ、

エルフと混血の竜人は親友のドワーフと混血の竜人とスカウトが来ていたらどうなったかと想像していた。


情報に関しては面倒くさいし全て終わったらでいいよと言われた赤猫はあれ絶対軍の人じゃないなと思い、

自身の早とちりを感じた。


だがそうでなかったら何なのかと物知りの知り合いに聞いても分からなかった眼の前の黒猫を不気味に感じた。


「ねえ、猫ちゃんは何なの?」


「ーー勝ったのは私。だから質問するのはこっち。」


器用に無表情でドヤ顔をする黒猫はとりつく島もない。


竜人の流儀ではしょうがないなと落胆した。


だが分かりませんでは親に何を言われるか分からないし何とか今日の終わりに餌を用意できないか考えていた。


航平はあれが何なのか気になったが当の猫は

知らんぷりである。


得体が知れないのは困るが敵にはならなそうなので

現状いいかと放置していた。


ここは辺境ではないのだ。

気を張りすぎても意味はない。


遂に3戦目が終わったが面子のためにもこれ以上は不味いと感じたウェインはゼルクを呼んだ。


「こちらが負け越しているからな。彼女とやりたかったようだがゼルクにはあの狼人とやってもらう。」


アリアへの情動を断ち切るためにも魔族は彼女との戦いを欲したがそれはじゃんけんというただの運により果たされなかった。


苦虫を噛み潰した表情で不満を全身で示す彼は

逆に彼女にいい所を見せるチャンスだと言われ

少しは調子を戻した。


「それよりもあんなのがいるとは夢にも思わなかった。遊びだと思わない方がいいだろう。

どうせVRなんだ。最初から全力で行け。これ以上は負けては不味いのだ。いいな?」


実はスカウトが既にどこかで見ているらしいという

情報を掴んでいた彼は勝敗をこれ以上傾ける訳にはいかなかったのだ。


「当然だ。狼人だかなんだか知らないがあれに負けているようではアリアになど到底及ばんさ。

負けるつもりはない。だがあの黒猫の例がある。

訳の分からない魔術をされるぐらいならこちらから先手を打たせてもらうさ。」


彼は高校のうちにVRB部に入れるだけの実力があり、

アリアに無視はされない程度の格もあったのだ。


前回の戦いを見て油断するほどの馬鹿ではなかった。


ヴォルフはどちらかというと実力の分からない敵よりも未知の魔術を使う味方に畏怖を抱いていた。


自分であったら勝てるだろうか思索していたが次の番が自らであることを認めると思考を切り替えた。


どうせやってみなければ分からないのだ。

出たとこ勝負なのは向こうも同じだろう。



ーーようやく折り返しとなる4戦目が始まった。

それはいきなりゼルクが大魔術を使ったことで

大きく序盤から動くことになった。


大樹海(ダス・アルトメーヴァ)


練っていた魔力を即魔術へと昇華し、

一面を緑の海へと変えた。


彼はウェインに言われた通り、何の慢心もせず

自分にとって有利となるフィールド作りから始めた。


エルフと混血の魔族が己の領域を創り出し

相手ごと自身の魔力で飲み込んだ。


ヴォルフはむしろこの状況に喜んだ。

高原の民であった彼はどちらかというと

草原の方が見慣れていたが森の中も十分得手だったからだ。


その美貌からエルフとの混血と見た魔族がどれほどの

森の民であっても故郷で過ごした彼は

その場が自身の糧にもなると信じて疑わなかった。


このフィールドを制した者が今回の戦いの勝者になるとどちらの森の民も理解していた。

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