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冒大付属の磁力使い  作者: 高瀬義雄
序章 純人の立場
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第15話 女の顔面に拳は流石に打てない

グレイスは親が駆け落ち同然で実家を出ており、

異種族との混血のために派閥どころか友達もできるか

怪しかった。


別に竜人派閥に近づく必要はなかったが、差別をしてくるような連中に素直に従うタイプでもなかった。


ドワーフの親族の方にいく選択もあったが土をいじるよりムカつく相手をぶん殴る方が性にあっていたのだ。


しかし同じ境遇であるエルフとの混血の竜人が同世代にいたことで孤独とは無縁でいることができた。


性格は反対なのに意外と馬も合ったのだろう。

彼らはお互いに親友になるのにそう時間はかからなかった。


そしてその鼻は確かであった。


開幕から全開なのはいつもの事だが殴り合いになるどころか技術では向こうの方が上回っているように見える。


グレイスはVRBの判定があったら押し負けている状況だったが本人はそんなことどうでもよくむしろ

殴り合いが楽し過ぎて何も考えていなかった。


竜闘術(ドラゴニックアーツ) 竜尾撃


魔力の帯びた鱗が尾の表面を硬化させる。


顔を右に傾けて敵の拳を避けながら

後ろを振り向いた彼女は回転そのままの勢いで海人に向けて自らの身体の一部を振るった。


次の一発を叩き込もうとした海人は

しゃがみ込みながら右腕の甲殻を変化させ

上方に対して斜めに構えた盾とする。


火花が散りそうな勢いで跳ねた鉄のように重い一撃を

上に反らしてさらに前へと歩を進める。


その容貌は自分と互角に殴り合える相手に向けて

この上ない凄絶な笑みを向けていた。


(ちっくしょう。楽しいけどこいつの方が殴り慣れてやがるな。)


彼女は一般的な女子高生であれば全く羨ましくない

羨望を抱きながらこの時間が長引いて欲しいことを願っていた。


だが開幕から全力で魔力を漲らせている身体は

自分のタイムリミットが有限であることを示していた。


(まだもつだろうが切れた時が決着だな。)


長時間の竜魔装に慣れている彼女でも全力の

接近戦をこなしていれば消費は嵩んでいきいずれは動けなくなるだろう。


楽しい時間が終わる刻が分かるせいでテンションが下がりそうになるがその思考をそのまま薪として

心炉に焚べて一回転した己の体勢を整える。


海人の腕が見えた時には脳の能動的な思索は全て捨て

反射的な脊髄の短慮に身を任せる。


羅甲澪瀑流 羅旋渦鉤(らせんかこう)


鋭すぎる右のフックが渦のような軌道で彼女の左脇腹を食い破ろうとする。


迫る拳に彼女の脊髄が選択したのは右前に出ることだった。


体勢を整えるのに使った時間は至近距離で放たれた

拳を避ける余裕を与えなかった。


だから敵の手に対して自身がすれ違うように進むことで空かそうとした。


しかしそれでは終わらなかった。


踏ん張っていた海人の左脚が肥大し甲殻が膨張する。

脚の変化によって無理矢理軌道を捻じ曲げられた腕がさらに歪な挙動をする。


こちらとすれ違おうとした彼女の左腰に腕力と甲殻の変化で無茶苦茶な重心のまま鉤のような拳が振り抜かれた。


彼女はそれでも無理矢理反応した。

竜魔装の魔力を自らの脚部で暴走させる。

爆発した魔力が脚を動かし頭を前に投げ出して放り出した。


ぎりぎりで彼女の角を避けた鉤爪は空気を叩きながら

恐ろしい速度で振り抜かれた。


全てが一瞬でもはや何をやっているのか分からない

ギャラリーもいる中、

彼女は魔力暴走で痛む足を見ながら決着が近いことを感じていた。


力技でじゃんけんを後出しされては勝負にならないと嘆く彼女を他所にザルツは向こうの反応速度に

驚嘆していた。


(まじかよ!あれ避けられたら立つ瀬ないぜ!)


語彙力の少ない頭脳から愚痴を出すが相手が殴り合いしかして来ないことに疑問を浮かべる。


(なんで魔術使ってこないんだ?使えねえのか?

んなようには見えねえが。翼も使って来ねえしな。

まあこっちとしては願ってもねえが。)


実はいつでも魔術に対応できるようにしていた彼は

小手先の技術と甲殻変化だけで対処していた。

結局意味はなかったが。


ただ純粋に殴り合いだけがしたいという理由で

殆ど魔術を使っていなかった彼女は足を痛めたことで

楽しみを諦める。


その疑問が解消される前に相手の魔力が膨れ上がる。


「メチャメチャ楽しかったんだがなあ。もう無理か。

しょうがねえな。」


相棒のエルフの横に立てるほどには端正な顔を自覚していた彼女は殴り合いができる相手を欲していたが

同世代には友達があまりいなかった。


まさかそれを親友とする訳にもいかず、

派閥問題もあり自由に異性で自分と殴り合いしてくれる相手を見繕うのは大変だったのだ。


しばらくぶりの幸せに身を包んだ彼女はしかし楽しみを優先して勝負に負ける気はないと魔力を練り始める。


ザルツが追い縋ろうとすると今まで使っていなかった翼を動かし蒼空に逃げる。


ようやく来たかと思ったザルツは敵の魔力の規模に

面食らった。


岩雪崩(ロックアヴァランチ)


全てを飲み込む岩の雪崩が眼の前に出現した。


ーーザルツは最初鏡月と似たような試合運びになると悲観していたが、始まってみれば相手も殴り合いを好み、非常に機嫌が良かった。


だから相手が最悪引いてしまってもいいと感じたのだ。


迫る岩の波に対して仁王立ちし、もう何千と繰り返した型に嵌った腕を構える。


羅甲澪瀑流 奥義 羅甲渦穿槍 (らこうかせんそう)


甲殻が蠢き右手を一つの槍と化す。

魔が収縮し脚の甲殻が反動に備えて地面に楔を打つ。

魔力が右腕に浸透し左手で重心を調整する。

右の槍に集まる魔力が濃縮されて水を纏う。

纏った水が高圧に圧縮されて引き絞られた貫手が

周りの水分ごと射出された。


その一瞬グレイスは何をされたか分からなかったが

魔力を感じ右翼から爆炎を吹いて回避行動を取った。


貫かれたのは自分の右胴から右の翼で

気が付いた時には脇腹からVRのデータをこぼしながら地上へと堕ちていた。


寄ってきた甲殻類に拳を突きつけられ、降参の意を示した。


なんだよ魔術も使えるなんてずるいじゃねえかと

愚痴ったが、できないなんて言ってねえぜと言い返されてぐうの音も出なかった。


まだまだ世の中には上がいやがるんだなと世界の広さを知り、相手が顔を決して狙わなかったことを舐められていると感じたが、あの拳を顔面に喰らうよりはましかと複雑な気持ちになっていた。



「やっぱりお前強かったんだな。ずりいぞー。

一人勝ちしやがって。まだ分かんねえけど。」


以前絡んだ時にある程度実力を察していた鏡月は

落ち着いていたがそれ以外はそうでもなかった。


ぶっちゃけツムギは引いていた。

彼に限らずだったが。


「に、人間だよね?」


「おう、俺は強えからな。だから何かあれば俺を頼っていいぜ。ツムギちゃん。」


頭の中は平常運転だった。


(父さんがリストに入れていただけはありますね。

しかし知らない方がいいということは知られたくないのでしょうか。)


まだ後4戦も残っているのに秘密の多い味方陣営の

ことを考えると少し心配になったが。


ーー航平はザルツを見ると過去に会った外洋の海人を思い出していた。


基本的に辺境は人類未支配領域のため海に出る機会もあり、その際に彼らと争うことも馴れ合うこともあったのだ。


もしかしたら知り合いがいるかもしれないなと思い、

いつか連絡を取ってみるかなと案じていたところ、

次は誰が出るかという話になった。


じゃあ私行くと無表情な猫人が言ったので

向こうも承諾した。


VRをリセットして場を整えていると、


「まさか負けるとはなー。あいつ最後まで顔狙って来なかったじゃんかー。フェアじゃねえだろー。」


流石に幾らなんでも異性の顔面を、VRBとはいえ思い切りぶん殴る男はそうそういないのではないかと思ったが本人は不服そうである。


「まあまあ。でも彼強いよね〜。外洋から来たって言ってたけど一体どこの出身なんだろうね〜。」


広い外洋では戸籍等も怪しいしそもそも本当のこと

言ってるかも怪しいからな。


そういえばあの赤い猫のような竜人はどれぐらい強いんだろうか?


ーー3戦目はネコ科同士の争いだった。


「ーーじゃあ初めよっか。ゼリアさんだっけ。

リン・メイフォンだよ。」


彼女は早速その身に四聖の印を身にまとう。


彼女が眼の前の赤猫とやりたいと思ったのは今回戦う面子で姉の情報を知っている可能性が一番高いと思ったからだ。


「ゼリア・ライウェルト・セイヴェルグよ〜。

それじゃ始めよっか。猫ちゃん。楽しませてね?」


ゼリアは単純な好奇心だけで黒猫を選んだ。


彼女はいつもそうだった。

気の向くままに気紛れに生きたいだけだ。

煩い実家を黙らしそれをできるだけの実力があったのだから。


無表情な黒猫とお喋りな赤猫の戦いが始まる。

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