一段落
「ただいまー。あの子は大丈夫?」
「大丈夫みたいだよ。でも一応病院とかに行ったほうがいいかも」
「わかった。とりあえずご飯買ってきたから食べながらあの子から詳しく話を聞こう」
そういって僕は未来と彼女の元へ行った。
「カレーと稲荷と麻婆豆腐のなかならどれがいい?」
僕はスーパーの袋を見せながら彼女に尋ねた。
「カレーでお願いします」
そういうと彼女は弱弱しくカレーを受け取った。その時見えた彼女の手は玄関の前で行き倒れるような生活をしているとは思えなかった。
「未来はどっちがいい?」
「どっちでもいいよ」
「どっちでもいいのか、じゃあ僕は稲荷をもらうよ。飲み物は麦茶を買ってきたから好きに飲んでいいよ。」
そういい僕は机の引き出しから紙コップを出してみんなに麦茶を配った。
「ありがとうございます」
「とりあえず、大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
「えーと、それならいろいろ事情とか聞きたいんだけど……大丈夫かな?」
言い終えた後チラッと未来を見ると、彼女は麻婆豆腐の辛さが思っていた以上らしく麦茶をガブガブ飲んでいた。それもそうだ、僕は四川風とは伝えていなかった。
「大丈夫です。私こそ申し訳ございません。助けてもらった上にごはんまで食べさせていただいて」
「いやいや、家の前で倒れている人をほっておくことなんてさすがにできないよ。あとお礼ならそこの未来に言ってくれ。未来が全部やってくれたから」
「わかりました。」
彼女は未来のほうに向きなおすと深く頭を下げた。
「ありがとうございます。助かりました」
「いいよー。むしろ麻婆豆腐食べられたからありがとうだよ」
未来はのんきな雰囲気を出しながらそう言った。おそらく彼女なりの気遣いなのだろう。
「それで本題に入りたいんだけど」
「はい。できる限り答えたいと思います」
「まず聞きたいのは、何で倒れていたの?」
「それはですね。まず私は人間ではありません」
「えっ?」
この人は何を言っているのだろうか。よくわからないので、未来のほうを見るとのんきに麻婆豆腐を食べていた。
「私は天使です。そして天使は今、人間を減らそうとしています。その考え方に私は反対していたのです」
「はぁ」
「その結果、人間界に無理やり連れてこられ、行き倒れたということです」
正直、現実味がなさ過ぎて話にならない。子供につく嘘にしてもこれはない。しかし彼女の表情から嘘だと思うことはできず、話を詳しく聞くことしかできなかった。
「私は人を減らすことに反対です。阻止するためにしなければならないことがあります。そのために私はどんなことでもしたいと思います」
「どうやって止めるの?」
「多くの人たちは不満やストレスを抱えて過ごしていますよね。その状況から満足させるんです。満足といっても一時的な満足ではありません。もう、死んでもいいと思えるくらい幸せにするんです」
「それならいいことをしているんじゃない?」
横から未来が言った。確かにこのままだと人を幸せにする良いことだしさすが天使って感じがするが、人を減らすということはそれだけじゃないのだろう。
「それだけなら私もいいと思います。しかし、それだけではないのです」
真剣な顔で彼女は続けてこう言った
「天使は満足した人間を消すんです。満足した状態で幸せなまま。もちろん幸せなままなので後悔も何もありません。でも、天使の都合で人を消すのはいけないと思うのです」
確かに天使の都合で自分たちが消されるのは納得がいかない。しかし、満足した状態で後悔することもなく消えるのならそれはいいことなのかもわからない。もちろん今、消されるのなら納得がいかないが、もし死んでもいいと思えるほど満足したのならばその時僕は喜んで死を受け入れるのかもしれない。
「消される当人たちは消えるってわかるの?」
「当人たちはわからないです。気づいた時には消えている感じです」
「はぁ……それはいいことなのか悪いことなのかわからないな。未来はどう思う?」
「悪くはないんじゃない?いいこととも思えないけど。ただ、私は勘弁してほしいかなって感じ」
「そうだよなぁ。自分が消えるとなると嫌だよなぁ」
うーん。正直難しい問題だと思う。僕にはどうするべきかもわからない。
「それで、君はどうしたいの?」
「私は多くの人間を救いたいのです。満足させられるのではなく、自発的に満足してもらって人生を全うしてもらいたい」
「そっか。それでこれからどうするの?あてはあるの?」
「……ありません。正直、追い出された身ですので知り合いと連絡をとることもできません」
「それならここの家に住めばいいじゃない」
「えっ?僕の家?」
「うん。まだ部屋余っているでしょ?」
「確かに余ってはいるけれども……その女の子と一緒に住むってまずくない?」
めずらしいことに僕は高校生ながら一人暮らしをしていて、さらに家は一軒家で二階建てである。いろいろ事情はあるのだが……。まあ、そういうことで人一人くらい増えたとしても特に問題はない。しかし、女の子と暮らすということは問題である。
「お願いします。私は家事、料理できます。それにバイトをしてお金を入れたいとも思っています。」
「うーん。どうしようか」
正直断るのは簡単であるがこの子のことを思うと断るのはかわいそうだ。だから僕は妥協案を出すことにした。
「じゃあ、しばらくの間ならいいよ。何年も住むのはだめ」
いろいろ問題はあると思うが、ここら辺がいい落としどころだろう。未来の提案でもあるからひどく悪い結果になるとはならないと思う。
そして、僕と天使の共同生活が始まることになった。
同居が決まった後、天使からいろいろ話を聞いたところ天使は人間界に何人か派遣されているらしく人間に紛れて過ごしているらしい。目的はさっき聞いた話でも出てきた通り、人間を満足させ、消すためだ。正直、天使に対立した天使を家に置くのは少し心配であるが自分が消されることも考えると守ってくれる天使ができてある意味ラッキーであったかもしれないなんて思ったりする。




