13 いつかの話
完結です。
家に着いて、やることは何もなかった。
変わらず犬小屋へ行けと言われたけれども、外に出る。
だけど、何故帰ってきたのだろうという気にはならなかった。
自分を傷つける人間はたくさんいる。
だけど……敵ばかりではないことを、私は知った。
改めて、知ることができた。
「京香ちゃ~ん! リンゴ一つ、サービスするよ!」
「このからあげどうだい? 自信作! 試食してごらん!」
「たこ焼きもあるよ!」
あの家が変なのか、それともこの人達が優しいのか。あるいは、両方ともなのか。
いくら近所の人が優しいからといっても、帰ってきてよかったのか。
そう思われるかもしれない。
でも、私は……。
「京香ちゃん」
「お嬢!」
二人のいる、この世界が……私達の街が大好きだから。
だから、私はこの世界で生きていく。
ネツァムの加護もない。
アンギールの加護もない。
サラマンドラの加護もない。
特殊な能力、魔法、チート、強さ、どれもない。
ないことばかりだけど、私を育ててくれた人たちへの恩がある。
「ただいま」
ここで、私は育ったのだから。
そして――私はいつか、影原家に引き取られる。
両親は何か色々なことで逮捕された。薬物とかも使っていたらしい。
それに対して、私は特に何も思わなかった。思えなかった。
私の親は、あの人達だけど、違うから。
「さよなら」
たった一つの別れの言葉を残して、私達の関係は消えた。
そして、ありがとう。私を産んでくれて。
これからの人生は、私のために。
お付き合いくださり、ありがとうございました。