ミサイル・ハンティング-1
アゼルバイジャン サンガチャルイ基地 ブリーフィングルーム 6月7日 1121時
ブリーフィング・ルームには傭兵と正規兵が450人程集まっていた。彼らはこれから作戦の概要を伝えるとだけしか言われていなかったが、今朝のミサイル攻撃に関連することだということと、アルメニアが侵攻されていることに関係しているのだろうという噂はすぐに流れていった。
「なあ、これからどうなるんだ。次はロシア軍と戦争を始めるんだろうか?」
佐藤のすぐ隣の席に座っていたアメリカ陸軍レンジャー部隊にいたという男が話しかけた。名前はジョン・S・マッコードといった。
「ロシアは完全にダンマリだからな。そうはならないだろ。おまけに、今度はイランとアルメニア、トルクメニスタンが攻撃されたという話だそうだ。更に、航空攻撃だけだったのが今や地上軍の侵攻も開始されているような状況だ。あり得るとしたら・・・・」
「諸君、待たせたな。静粛に」
ミハイル・カーメネフと一人の中尉が入ってきた。
「これより作戦内容を伝える。では、陸軍情報部のハリコフ中尉から説明があるので聞いてくれ」
室内が暗転し、前のスクリーンにアゼルバイジャンとその周辺国の地図が映し出された。
「皆さんはもう知っていると思いますが、昨日の朝早く、イラン、アルメニア、トルクメニスタンに短距離弾道ミサイルと巡航ミサイルによる攻撃が行われました。死傷者の大多数が民間人で、軍事目標の近くに着弾したという報告が無いことから、この攻撃は今まで我が国に侵攻、あるいは空爆を行ってきた組織と推定される中央カフカス連合によるものと推定されます。実際、つい10分前にゲオルギー・バラーノフが、我が国とイラン政府やトルクメニスタン政府等に対する脅迫めいた声明を再び発表しています。内容は、簡単に言えば要求を飲まなければ再びミサイル攻撃を行うとの内容です。予想通りですが」
ここで中尉は一息ついた。
「我が友人の傭兵が未明に無人機による偵察を行った所、ミサイルを載せた輸送起立発射機と多連装ロケットシステム、自走砲が複数箇所に分散して、グルジア南部のポルシニに多数配備されているのを発見しました。今回はここを攻撃します。しかし、ここで懸念されるのはミサイルの弾頭です。今回の攻撃で使われたのは通常弾頭ですが、核・生物・化学弾頭を敵が保有していないとの保証はありません。そこで、敵ミサイル部隊の制圧を行うのは地上部隊に限定し、航空部隊は上空援護に徹することとします。空爆は弾頭の安全が確認され次第攻撃、ということになります。おわかりいただけたでしょうか?」
傭兵の一人が手を上げた。
「つまりは、下手に手出しが出来ないって訳か。弾頭を確保したらどうするんだ?」
「ここに持って帰ります。また、国連の調査団を呼んでいますので、彼らが到着次第、確保した弾頭の調査、処分を行います」
「その場で破壊はしないのか?」
この言葉に中尉は少しむっとした顔をした。
「生物兵器や化学兵器が含まれた弾頭を簡単に破壊するわけにはいきません。外に漏れだしたら、それこそ大惨事を招きます。よって、地上部隊は全員、生物化学兵器防護服を装備しての作戦となります。万が一、漏れだした場合はテルミット弾で焼き払います。これはとある傭兵部隊が地上発射型トマホーク・ミサイルに搭載して準備しています。少しでも細菌や毒物が漏れだした時点で作戦を中止して全部隊は撤退、巡航ミサイルによる焦土作戦に切り替えます。しかし、今回の目的は中央カフカス連合が生物化学兵器を保有していることを全世界に公表することも含まれています。こうすれば国連も黙ってはいないでしょう!」
アゼルバイジャン サンガチャルイ基地 エプロン 6月7日 1721時
CH-47FやCV-22、EC-225が飛び立っていく。乗っているパイロット、クルーチーフ、そして地上部隊はNBC防護服を着て、その上からタクティカルベストを身につけて銃を持っている。これでは誰が誰なのかわからないので、防護服の胸の辺りにそれぞれの所属を表すワッペンを付けている。彼らは元CBIRFやグリーンベレー、NSETの隊員から成るNBC兵器対策専門のPMC『ケミカルウルヴズ』だ。ヘリの窓はNBC防御用のシールで目張りされ、化学兵器検知器が備え付けられている。
CV-22には"ウォーバーズ"の地上部隊3名が乗り込んだ。全員が化学防護服を着て、手にはタボールを持っている。未来的なブルパップ式自動小銃と宇宙服のようなNBC防護服の組み合わせは、さながら『宇宙の戦士』や『スターウォーズ』に出てくる兵士のようだ。彼らは爆撃対象の偵察と標的への誘導を行う。
「こんな格好で歩きまわるのか。動きにくいったらありゃしない」
ジャック・ロスは防護服を上半身の部分だけ脱いでいた。外はそれほど暑くないとはいえ、長時間これを着るのは不快極まりない。
「ミサイルを見つけたら、すぐに着るんだぞ。ウイルスや核が搭載されていなくても、漏れたロケット燃料をちょっと吸い込んだだけでお陀仏だからな」
デヴィッド・バークが注意する。
「それくらいわかっているさ。アレは地球上で最悪の燃料だ」
弾道ミサイルに使用される燃料は、宇宙ロケットのような液体水素と液体酸素の混合物ではなく、非対称ジメチルヒドラジンや四酸化二窒素といった猛毒の化合物であるため、破壊するには化学防護服が不可欠だ。
「それに、ミサイルの周りでぶっ放すのはまずいな。核弾頭だった場合・・・・」
「これを使うんだ」
ジェームズ・ルークが指さしたオスプレイのキャビンの片隅に、火炎放射器のような物が置いてあった。
「なんだこれは?まさか消火器か?」
ロン・クラークはUFOでも見せられたような顔をした。
「アメリカのエネルギー省核緊急捜索部隊"NEST"が開発した非殺傷兵器だ。こいつは超強力な対人用接着剤で、あっという間に固まるし、暫くは動けなくなる」
「なるほど。そんなものがあったとは」
「『ケミカルウルブズ』の隊員が分けてくれてね。人数分あるから使ってくれとのことだ」
「ありがたい。では、出発しよう」
彼らは、すでにローターを回しながら給油しているオスプレイへと向かった。




