異世界召還(達成感で満たされた日)
またまた、ロル・キーリンの視点のお話。
ロル・キーリンは朝がとても弱い。
今日は、召還した者達の様子が気になり、いつもより早く起きたが
ギリギリまで寝て、超特急で城に行くのが普通だ。
だから、いつも朝食は城でとっていたのだが、広間に行くと、とても良い匂いがしていた。
「「おはようございます。」」
金髪ロングの女、ルルと黒髪の女、ササキが雇われ人らしく頭を下げてくる。
ああ、なんて気分の良い朝なんだ。
ルルの魂の片割れはこの国の将軍、グルガリ・マーバラード。
ササキの魂の片割れはこの国の宰相、マリクス・フォルマだ。
やつら2人に頭を下げられていると思えば、さらに気分が良い。
ロルはにやりと笑い、いつもグルガリにされているようにルルへ、エルボーを食らわせようとした、が
ひらりと回転してよけられ、その回転を利用して蹴りを入れられた。
「ぐおっ。」
吹っ飛ばされた俺は痛くて数秒動けない状態に。
「悪い。反射で身を守るように訓練しているから、止まらなかった。」
俺はルルを睨み付けながら椅子に座る。
まあ、いい。こいつには後で言って聞かせよう。
椅子に座ると、ササキが朝食を置いた。
「・・・なんだこれは。」
「ご飯とお味噌汁です。
材料があったから、この世界でも普通に食べられているものだと思ったんですが。
珍しいですか?」
こいつは何を言っているんだ。
周りの女達も、この料理には眉をしかめている。
「珍しくはない!が。米が真っ白のまま、味噌汁も薄すぎる!なんだこれは!」
腹が立った俺は自ら厨房に立ち、料理を作る。
数十分後、5人分の料理を机に並べる。
「これが正しい料理だ。」
皆は一口食べた後、目を輝かせる。
「うまい。」
「おいしい!」
「え、・・凄い。」
あたりまえだ。この俺様が作ったのだからな。
ササキをちらりと見ると
「お米が黒くてべちゃべちゃ・・なんで甘いのかしら・・黒砂糖?
お味噌汁も・・まんまお味噌・・。」
そう言うと。自分で作った駄作を食べ始めた。
俺は確信する、やはりこいつはマリクス・フォルマの魂の片割れだ、と。
宮廷魔術師の制服に着替え、家を出ようと玄関で靴を履いていると
同じように玄関に来た2人に目をやる。
「私もついて行く。護衛だからな。」
ルルが言う。
まあいいだろう。
「私も一緒に乗せて行ってよ。」
レルナまで一緒に出勤するらしい。
・・・まあいいか。今日だけだ。
小屋の中から一角獣を2頭引き連れ、馬車に繋ぐ。
2人を馬車に押し込め、俺様自ら運転してやる。
まあ、今日だけだ。
城に着くと、一角獣をとめるために城の裏に回る。
と、そこには丁度、出勤したのか会いたくない相手がいた。
ディディ・ラーシュアミル、攻撃・守護魔法を使わせたら国一番といわれているらしい男だ。
隣に馬車を止めたためだろう、仕方なくといった様子で軽く挨拶してきた。
だが、俺は無視する。嫌いだからな。
ディディは苦笑してそのまま、俺の目の前から去っていく、と思われたが
俺の馬車の中からレルナが出てきたため、その場で固まった。
ゆっくりと俺の目の前に来たと思ったら
「なぜ、レルナが、君の、馬車から、出てくるのかな。」
一言一言、バカ丁寧に聞いてくる。
「この男の家に泊まったからよ。」
レルナがそれに答える。
ディディがこちらを燃える目で見つめてくる。嫉妬の炎だ。
「なぜ?」
「・・・さあ。何て言ったらいいのかしら。」
いつもなら、俺のことなぞ眼中にないといった風体で
女に囲まれ、ハーレムをそこかしこで作り上げている奴が、今日は俺に嫉妬している・・!
俺を羨ましがっている!!
こいつはいいぞ。
さらに気分を良くするために、微塵も思っていないことを口にする。
「今日も泊まるのだろう。」
「あたりまえでしょ。」
最高に最高に気分がいい。
今は嫉妬というより、殺気を感じて少し体が震えるが、怖くて震えているのではない!
楽しくて震えているのだ!そうだ!そうに違いない!
足ががくがくして座り込んでしまう前に、その場を後にする。
にやりと勝ち誇った笑みを向けてやりたかったが、まあいいだろう。
レルナとは部署が違うため、分かれたが。
ルルは従順に俺の後ろについて・・・ではなく、俺の横に並び、俺が
何かにぶつかりそうになったら、体を押している。
震えがまだ収まらないため、変な歩き方になってふらふらしているからだ。
もうそろそろ仕事場に着くか、と横を向くとルルがいなかった。
変わりに後ろからドンッドンッという音が聞こえた。
後ろを振り向くと、将軍、グルガリ・マーバラードがルルの蹴りをとめた所だった。
どうやら、グルガリがいつものように俺に何か仕掛けようとした所
ルルにとめられ反撃にあったのだろう。
グルガリは目を丸くして、ルルを見つめている。
これはいい。これはいいぞ!
この護衛は将軍を止められるほどの技の持ち主らしい。
ルルがいれば、これ以上暴力を受けることはないだろう。
俺様の未来の安全は保障された!
先ほどは出来なかった、勝ち誇った笑みを固まったままの将軍に向け
すぐそこの仕事場へ行く。
いつもは弟子を怒鳴りながら仕事をするのだが
今日はいい日なので、少しの嫌味で許してやる。
お昼ごろになると、筋トレをしていたルルがカバンから何かの包みを取り出す。
「ササキが昼ごはん用に、朝の残りで作ったそうだ。」
中身を見てみると、今朝の白いご飯で作った、三角の塊だった。
「これを食えと・・?」
ルルは自分が持っていた、もう一つの包みを俺に差し出す。
「私のもやろう。」
「いらんわ!」
その時、ドアが開いた。
ドアから、姿勢の良い一人の男が部屋に入り、颯爽と俺の目の前までやって来た。
「なんだ、ついにロル・キーリンも、女の弟子を持ったのか。」
この国の宰相、マリクス・フォルマだ。
「ふん。この女は護衛だ。」
「ほお。女嫌いで有名なあなたがか。」
「女が嫌いなんじゃない。うるさい声で笑う女が嫌いなだけだ!」
「そうか。まあどうでもいい。」
この男はこういう男だ。
脇に持った書類を机にドンッと置き。
「あとで、この5倍の量が届くはずだ。よろしく頼む。」
おいおいおい!
「無茶を言うな!手とか時間とか目とか色んなものが足りんわ!」
俺の必死な訴えも、この冷血漢はさらりと流す。
「出来るさ。」
「出来ん!飯を食う時間もないじゃないか!」
俺がササキの作った、食うつもりもない塊を指差す。
「・・・これは?」
マリクスが興味深そうに目を向ける。
いい考えが瞬時に思い浮かんだ。
「マリクス!お前ならこの駄作・・飯を処分できるんじゃないのか!?」
味覚音痴で変食なんだ。多少変わっているほうが、受け付けることが出来るかもしれない。
「処分?捨てるのか。」
「そんな勿体無いことするか!だから、お前なら食えるんじゃないかという意味だ。」
「・・そうだな。これなら食べることが出来る気がする。」
「「!!??」」
ルルと俺は耳を疑った。
さすが、変食。味覚音痴。
マリクスはルルと俺用の駄作・・昼飯を持っていった。
よかった。捨てるのはササキに悪い・・じゃなく、勿体無いからな!
もし家に戻って、まだ白い米の塊があるようなら一角獣の餌にするか
痛んでなければ、黒砂糖を溶かし、まぜて食べるか、悩みながら仕事を続けた。
昼ごはんは弟子の飯をとって食った。しかたないので、ルルの分も弟子から奪ってやった。
定時を過ぎたぐらいに、マリクスがやって来た。
一日に二度も来るとは。
さらに仕事が増えるのかとゲンナリしていると。
仕事の追加ではないようだ。
「昼に貰ったご飯はこの女性が作ったのか。」
ルルをさして言う。
「違う。家の家政婦が作ったんだ。苦情は受け付けんぞ。」
ふん。と鼻を鳴らしていうと。
マリクスは意外なことを言ってきた。
「その家政婦、俺が雇おう。お前が出している倍は払うと言っておいてくれないか。
もちろん、ロルにも紹介料を払う。」
こいつ、何を言ってるんだ。
「出来るか!」
なんせ、お前の変わりに苛めるつもりだからな!
「金ではないなら、何がいい。」
いつも平静を装っている男が少しイラついた様子で聞いてくる。
ん。なんだ、面白いぞ。
こいつ、確か欲しい物は何でも手に入るし、手に入れることが出来る、お貴族様だったな。
「何でも手に入ると思うなよ、マリクス。
欲しくたって我慢しなければならない時もあるんだ。覚えとけ!」
決まった。さすが俺様だ、良いことを言う。
「仕事の量を減らしても良い。」
この後、俺の精神をすり減らす戦いが始まった。
が!俺は勝った!マリクスに勝ったのだ!
あの、お貴族様に手に入らないものを作ってやった!
やった!やったぞ!
上機嫌で、家に帰った俺は気がついた。
当初の目的を達成できたことに。
女にもててしょうがない男、ディディに嫉妬の目で見られ
直ぐに手と足を出して、人をサンドバッグに使う男、グルガリの暴力を止め
金と権力を持ち、この世のすべては自分のものだと思っている男、マリクスに手に入らないものを作ってやった!
3人への恨みをすべて消化出来たわけではないが、今の俺は達成感で満たされていた。