タイトル未定2026/07/02 02:49
ショッピングモールを出て、電車とバスを乗り継いだ。
流花は大門を連れて施設の中に入り、受付を済ました。
「流花お姉ちゃん、行きづらいって言ったわりには、ノリノリじゃん。僕、バッティングセンターなんて、初めて!」
流花は何も言わずバットを手にすると、バッターボックスに入って行った。
ボールが投げられ、流花はバットを思い切り振った。
「ちょっとぉ〜ボール速すぎ!」
流花が振ったバットに、ボールはかすりもしなかった。
「次、大門君の番だよ」
大門は慌てて、バッターボックスに立った。
ゲームを終えた流花と大門は、ロビーのテーブル席の椅子に座り、冷たいお茶を飲んだ。
「あぁ、楽しかったぁ!これで明日は、筋肉痛確定だ」
「流花お姉ちゃん、最後の方は打ちまくって、ホームランを出したね」
「大門君は、初めからホームランを出していたじゃん」
大門は、恥ずかしそうに笑った。
思い切りバットを振って、それまで考え込んでいたマスターのことが、もうどうでもよくなっていた。
……流花お姉ちゃん、僕を吹っ切らせる為に、バッティングセンターに誘ったんだ。
「流花お姉ちゃん、ありがとう」
「ん、何が?」
「僕を吹っ切らせる為に、誘ったんでしょ」
「バッティングセンターに、行きたかっただけだよ」
……もう、素直じゃないんだから!
大門は、胸の中でつぶやいた。
「なんだか、七海に会いたくなっちゃった」
大門の言葉に、流花はテーブルに両手を乗せて立ち上がった。
「さぁ、行こうか!」
外に出ると、あれだけ降っていた雨がやんでいて、青空が広がり晴れ渡っていた。
玄関に入った流花と大門は、声を揃えて言った。
「ただいま!」
二人の声を聞きつけたマスターが、リビングから慌てて出て来た。
流花と大門は玄関を上がるとマスターの横を通り抜け、リビングに向かった。
マスターは慌てて二人を追いかけ、リビングに入って行った。
「大門、流花と一緒だったんですね」
「うん。ショッピングモールで、偶然流花お姉ちゃんに会ったんだ。洋服、流花お姉ちゃんに見立ててもらった。お昼ご飯、流花お姉ちゃんにご馳走してもらった」
久しぶりに聞く大門の言葉に、マスターは嬉しくなっていた。
流花はマスターと大門に背を向けて、懐かしむようにリビングを見回していた。
そんな流花の背中を、マスターは見つめていた。
「マンションの近くに、ケーキ屋があったよね。ずっと前に流花お姉ちゃんが、その店のケーキを買ってきてくれたよね」
「大門、よく覚えていますね」
「僕、ケーキ買いに行って来る」
マスターと流花の二人に気を使うように大門は、風のようにいなくなった。
ずっと黙り込んだままマスターに背を向け立っている流花に、マスターは言った。
「大門がケーキを買ってきてくれるから、お茶の準備でもしますね」
台所に入ろうとするマスターの背中を流花はきつく抱きしめ、マスターの背中に頬を埋めた。
「……流花?」
「わがままばかりで、ごめんなさい」
流花に抱きしめられながら、マスターは少し上を向いてから言った。
「自由で、わがままで、強くて弱くて……それが流花なんです。その全部が、ボクは好きです。ボクに気にせず、夢を追い続けてください。流花の夢がボクの夢です」
流花が顔を上げたのを、背中で感じたマスターは、流花から少し離れると流花と向かい合った。
マスターは両手で流花の肩を掴み、流花と見つめあった。
「マスター……それで良いの?」
マスターは、自分の額を流花の額に付けた。
「疲れたら、ボクの所に戻って来てください。流花を支えて、守ってあげられるのは、ボクだけですから」
「マスターずっと、側にいてください」
「はい」
マスターは手を上げると、流花の頬にそっと触れた。
流花を抱き寄せ、マスターは流花に口づけをした。
完




