表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バグ喰らいの境界線  作者: シオン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/7

プロローグ 神ゲーは、異常者を想定しない


世の中には、二種類のゲームがある。

ひとつは、遊ばれるために作られたゲーム。

もうひとつは、壊されるために生まれたゲームだ。

たいていの人間は前者だけを遊んで終わる。

洗練されたUI、親切な導線、適度な難易度、快適なマッチング。

ストレスなく遊べて、ストレスなく勝てて、ストレスなく語れる。

だが、ごくまれに後者ばかりを渡り歩く人間がいる。

致命的なバグ。

死んだNPCが翌日には復活している世界。

地形判定が狂って壁の中へ落ちるダンジョン。

攻撃よりジャンプの方がDPSの高いクソ調整。

ラスボスより店売りパンの方が強い経済崩壊。

そういう“終わっているゲーム”を好んで遊び、笑い、攻略し、時に愛してしまう者たち。

その中でも、真波灰人は筋金入りだった。

「……で、この世紀の神ゲーを俺にやれと?」

マンションの一室。

安物のゲーミングチェアにもたれかかりながら、灰人は机の上に置かれたパッケージを見下ろしていた。

ケースには、金箔めいたロゴが浮かんでいる。

《Elysion Border/エリュシオン・ボーダー》

発売前から“完全没入型VRMMOの到達点”とまで呼ばれた怪物タイトル。

現実と見紛う描写、世界規模で同期する気象演算、プレイヤー行動に学習適応する群体AI、そして「千人が同じ場所に立っていても全員に違う体験が起きる」とまで噂された次世代機だ。

初回出荷はわずか数万。

先行テストには国際プロゲーマー、配信者、検証勢、企業スポンサー付きのランカー候補まで集まった。

言ってしまえば、**“デカい奴らがデカい顔で遊ぶためのゲーム”**である。

灰人はそういうゲームがあまり好きではない。

「神ゲーって言葉ほど信用できないもんはないんだよな」

独り言に返事をしたのは、通話越しの友人だった。

『うるせぇ。お前の信用基準が“地面をすり抜けるかどうか”なのは分かってるんだよ』

「違うな。地面をすり抜けたとき、そのゲームがどう扱うかだ」

『同じだろ』

「全然違う。設計思想が出る」

通話相手の名は志崎理央。

配信者ネームは《リキッド》。

FPS、格ゲー、PvP、TPS、MOBA、何でもそれなりにうまい器用型で、灰人とは高校時代からの腐れ縁だった。

灰人が「バグの向こう側」を見に行くタイプなら、理央は「ゲームとして面白いか」を正面から評価するタイプである。

『とにかくやれ。お前のために抽選枠流したんだからな』

「頼んでない」

『でも来たろ』

「……来た」

灰人はパッケージを手に取る。

ずしりと重い。物理媒体というより、専用インストールキーとVR同期認証モジュールのケースだ。

『《エリュシオン・ボーダー》はな、今までの全部と違う。バグも穴もない。マジで完成されてる』

「そんなこと開発が言うならともかく、お前が言うと逆に怪しい」

『お前、俺のことなんだと思ってんだ』

「ソフトの善し悪しで人間性まで変わる奴」

『否定できねぇのが腹立つ』

理央がため息をつく気配がした。

『でも一つだけ、気になる噂がある』

「ほう」

『このゲーム、“変なことをするプレイヤー”がいると、世界側の反応が変わるらしい』

「仕様だろ」

『その変化が、運営の告知してる範囲を超えてる』

「……へえ」

その一言で、灰人の興味が少しだけ動いた。

『先行組の一部で、明らかにおかしいログが流れてる。

出現しないはずのNPCが現れたとか、クエスト分岐に存在しない選択肢が出たとか、同じエリアにいるのに別の現象が起きたとか』

「捏造じゃなく?」

『検証勢が割れてる。フェイク説、隠し要素説、動的学習説』

「どれでも面白そうだな」

『お前が食いついた。珍しい』

「“完成された神ゲー”の方には興味ない。

でも、“完成しすぎて何が壊れるか分からないゲーム”は別だ」

灰人は椅子から立ち上がった。

部屋の隅には、数多の終わったゲームのパッケージが積まれている。

サービス三日で緊急停止したVRホラー。

プレイヤー全員が同じ座標へ湧いて圧死するMMO。

なぜかチャット欄から敵AIが侵入してきた海外インディー作。

灰人にとっては、どれもただの失敗作ではない。

設計が崩れたとき、人とシステムがどんな顔をするのかが見える“教材”だった。

そして今、机の上には、誰もが完璧だと信じているゲームがある。

「……まあ、見てやるか」

彼はケースを開き、認証モジュールをVRヘッドギアへ差し込んだ。

起動光が、部屋の薄暗さを青く塗りつぶす。

神ゲーだか何だか知らない。

ただ一つ確かなのは、どんなシステムにも境界線があるということだ。

人が想定した範囲。

世界がプレイヤーを受け入れる限界。

ルールがルールでいられる輪郭。

真波灰人は、その境界線を見つけて踏み抜くのが好きだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ