6 ずっと友達
その夜、自邸のパーティーで何故か急にイザベラの全身がかぶれた。
時間が経つごとにドレスに接している部分から赤く腫れていき、それは水ぶくれとなり、次第にパンクして膿や浸出液を排出しだした。
着付けを担当したイザベラ付きの使用人も同じだった。
イザベラが当然のように持ち出したヴィオレットのドレスには、書庫の知識を活用した証拠の残らない植物の毒素がたっぷり浸み込ませてあった。
ヴィオレットはこうなるだろうと予想して、新しいドレスを自室の中央の壁際に配置しておいた。
他にもドレスを悩んでいるかのように配置しておいたが、それらは食事を食べたり食べられなかったりするヴィオレットでもピッタリとした着心地のサイズなので、イザベラには着られない。
いつものようにパーティー前に服飾品を盗むか、めぼしいものがなければ理由もなく部屋を荒らすかといった感じで部屋に入ったイザベラは、使用人に命じてドレスを持ち去った。使用人も特に何も感じていない者と、加護なしの貴族から服を盗んでやることに背徳感と愉悦を感じている者だけだった。
ヴィオレットはイザベラに疑われた時の言い訳も用意していたが、拍子抜けなことにイザベラは自分の身内を疑っていた。
ヴィオレットの洗顔用の盥に、虫の死骸が浮いた池の水を入れる使用人や、イザベラと共にヴィオレットの部屋でドレスを切りつけたことのある友人などだ。
彼らがヴィオレットを狙った嫌がらせを、イザベラが被ってしまったと思っているようだった。
今まで何があっても動かなかったヴィオレットが、今日に限って何かするという選択肢が想定からすっぽり抜け落ちていた。
イザベラが使用人や友人たちに次々と疑いを掛けて、ヒステリックに叫び、友人の令嬢たちが自分じゃないと叫び返していた。
「ふざけんな!姉に嫌がらせして喜んでる性悪に何でそんなこと言われなきゃならないのよ!」
「いつも姉の部屋から盗んでばっかりで、本当は金に困ってるんじゃないの?私本当ははあんたみたいな泥棒と仲良くしたくない!」
「ついに毒の自作自演まで始めたの!?そういうのって犯罪なんじゃないの!?」
今まで頻繁に手紙をやり取りし、お茶やクッキーや砂糖菓子を囲んで笑い合い、一緒に盗んだり汚したり傷つけたりした共犯の絆が脆くも内側から崩れて行くのは、諸行無常の趣があった。
父は仕事の方での逆恨みを懸念しているようで、秘書と共に兄の仕事場へ向かって行った。
義母はイザベラの側でおろおろするばかりだった。
仕方がないので、イザベラが治療のために救護室に退室して行くと、ヴィオレットがホストとして客人に詫びと見送りをした。
頼まれたわけではないが家族が皆勝手にいなくなってしまったのだから仕方ない。
「あそこでイザベラが『ヴィオレット、あんたのせいね!』って言いだしてひと悶着あると思ったのに」
リーゼはヴィオレットの横で勝手なことを言っている。
「せっかく用意した言い訳もアリバイも無駄になっちゃったわ」
期待に沿えなくて申し訳ないが、こんな家族だからこそ、何の憂いもなく捨てていけると思うと、ヴィオレットはむしろ清々しい気までしていた。
どこかで捨ててはいけないような気がしていた。最後の情けのようなものが、煙のように綺麗に消え失せていた。
植物の毒素はその毒素すら餌に出来る虫型魔物によって食い尽くさせた。
ヴィオレットは温室の片隅でそれを育てていた。
母親が好きだったという花が植えられているそこは、ヴィオレットがよく立ち寄るからという理由で、ほとんど手入れがされていなかった。
表情の変化のない、加護なしの不気味な灰色令嬢が立ち寄るから。
「便利で有難いことね」ヴィオレットは虫型の魔物を愛おしそうに撫でた。




