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0 騒がしすぎる結婚式

 第三王子の結婚式は、歴史はあるが小さな教会で行われた。

湖のほとりに立ち、大きく縦に壁をくり抜いたような窓が印象的だった。


 光が一本の線となって、灰色の壁に綺麗な模様を描く。

新郎と新婦の長く伸びた影まで計算された一枚の絵画のようだった。


 参列者は非常に少なく、新婦の身内すら招待されていない中で、私はやや居心地の悪さを感じていた。


 「楽にしなよ、緊張したって美人が上がるわけじゃないだろ?」

隣に腰掛けたエドガーは脚を組んで欠伸をしていた。

「あんたと一緒にしないでくれる?私は上限MAXなだけ。あんたは伸び代がないだけよ」


エドガーとは反対に座っていたご婦人がギョッとした顔をしていたのが視界の端に映ったが、まあ良いかと思い直した。


 新婦であるヴィオレットはベールを上げられて、今まで見たことのない表情をしていた。口唇を引き結んで、目を見開いて、緊張しながら困り果てている。


 あの無表情無反応で、幽霊女だの加護なしだの妹の影だの言われていたヴィオレット・アッシュフォードが、王子様にキスされそうで恥ずかしくて真っ赤になっている。


 お相手は道楽王子なんて言われていた第三王子だが、半年ほど前の戦争では指揮を執り、圧倒的な勝利を収めたことで評価が急上昇している。


 しかも惚れた女のために勝利を持ち帰ったとか。

そのせいで社交界も市民の間でも大きな話題となっていた。


 「返り血塗れでプロポーズしたんですって?」

「しかも幽霊女に……。幽霊を使って人を呪うんでしょう?あの女を産んですぐに母親も死んだそうですし……」

「あんなのが王族に」

「下手したら国王と王妃になる可能性だって」


市民の間では美しいラブロマンスとされているが、社交界での評判は芳しくなかった。

結婚式に招かざるを得なかった高位貴族ですら、このように小声で陰口を叩くほどだ。


だが。


 私は二人を見た。二人は列席者の方を見て、揃って口の端を高く上げた。

本当にこの二人は笑い方がそっくりだ。


王族に「優しく」微笑まれた貴族たちは何故か急にお喋りをやめてしまった。


 政治にまるで興味がないような道楽王子が、女に惚れた途端、戦争の勝利と共に血塗れでプロポーズするような男に変貌するとは誰も思わなかっただろう。


 妻も妻だ。散々幽霊女だの加護なしだのと社交界で嘲笑って良い的となっていたのに、実は幽霊を使役する加護があるという噂が実しやかに囁かれている。


第三王子の戦勝に大きく貢献し、一緒になって返り血を浴びていたとか。


今まで自身を虐げていた家族に幽霊を使って復讐したとか。


 そんな怒らせてはいけない、お似合いの二人の結婚式だというのに、お喋り貴族たちは命知らずにもほどがあるというものだ。


 ヴィオレットはその黒いオニキスのような瞳を輝かせ、自信に溢れた笑顔になった。

第三王子も赤みの強い茶色い瞳で新婦に笑いかけた。


 なんと好戦的な笑顔の結婚式だろう。


 まあヴィオレットの招待客たちの声が大きすぎるから、雰囲気に乗せられているところはあるだろう。


「おう!上等じゃねえか。顔はきっちり覚えたぜ」

「俺たちのヴィオレットとレオナルドが何だって?もう一回言ってみろ」


「この会場にどれだけ幽霊がいると思ってるんだ?結婚式でまでまだグチグチヴィオレットに嫌味言いやがって。今晩夢枕で朝までーー」

「エドガー、うるさいって」

何もない空間に話しかけているように見える私に、通りの向こうのおじさんが顔を引き攣らせていた。


 「誓いの口づけを」

大勢の幽霊に見守られながら、壇上の二人は幸せそうに、少し照れながら唇を合わせた。

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