第二話 夢じゃなかったの?
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入学式場が一瞬にして凍ったのだ。
俺はそのとき信じられないくらいの寒さを感じ、疑問を抱いた。
――夢の中って寒さとか痛みとかは感じなかったよね、と
俺は試しに頬をつねってみたが、正直痛みは感じなかった。しかし、入学式でひとりごとを言ったり、頬をつねったりしている俺を見る生徒や教師の冷たい視線は確かに本物だ。俺はこの状況が夢であってほしいと心から願ったが、その視線は俺を逃がしてはくれなかった。
つまり、これは夢ではなく現実なのだ。
俺は現実で起こしてしまった非常識としか表現のできない行動に赤面した。だが、俺には客観的に見て俺よりも非常識な行動をとった校長がいる。そして、俺はしみじみと思った。
――自分より下の人間を見ていると落ち着くんだなあ。と。
そしてこの状況を引き起こした校長は
「オオヤマダ君寒いよ」
と氷の中に閉じ込められてしまった可哀そうなオオヤマダ君に一言声をかけ、何事もなかったかのように式を続けようとした。
きっと校長の言葉に、入学したばかりの顔も名前も知らない生徒たちの心は一つになったことだろう。
――それは無理があるだろ、と
俺はすっかり、オオヤマダ君というお調子者に同情していた。なぜなら彼は俺と同じ、校長の被害者だからだ。状況こそ違えども、俺は名前を噛まれたことで視線が集まり、頬をつねっているところを見られ、冷たい視線を送られた。
オオヤマダ君は、確かに入学式という場で寒い行動をとってしまった。しかし、悪人というわけではないのだ。そう、すべてはあの校長のせいだ。だから俺は決意した。オオヤマダ君のことは心友と呼び、校長のことはオッサンと呼ぶことにしようと。
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そしてその後は特に問題なく入学式は終了し、放課になった。オオヤマダ君はすぐに教師によって助け出され、大事には至らなかったようだ。
普通ならいろいろと校長の行ったことは問題になりそうだが、この学校、伊藤異能学園では問題にならないようだった。そもそも、なぜ校長があんな行動に至ったのかとか、どうやってオオヤマダ君を氷の中に閉じ込めたのかとか、疑問は尽きない。
ひとまずは、元の世界に戻れるか確認することよりもこの世界のことについて知ることを優先しよう。
しかし、ここで問題が発生した。俺は今の自分の名前も家の場所もわからないのだ。家の場所については、どうやら伊藤異能学園は全寮制ということらしく、差し迫った問題とはならなかった。
だが、あの校長が式で噛んでそのまま式を進めたおかげで俺は自分の名前が分からないのだ。前の世界と同じであればいいが、新入生の名前を聞く限り、青木健文という普通の名前がそのまま残っているとは思えない。これから、新しい教科書やら、試験やらがあり、名前を書かずに生きていけるはずがない。まずは俺の名前を知らなくては。
「とりあえず、寮に荷物も送ってあるというし、寮に行って自分の名前を探してみるか」
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「……デカい」
寮といわれていたし、もっと小さいアパートみたいなものを想像していたが、これはタワマンくらいの大きさがあるのではないだろうか。
「ええと、入学式でもらった資料によると、俺の部屋は五階だな」
このタワマンのような建物で五階というのは少し残念だが悪くはないだろう。あ、ちょっと待てよ、
「資料に名前あった」
なるほど、俺の名前はアオキ・タカフミというのか。非常に紛らわしい。前の世界で俺は青木健文だった。そして今いる世界の俺はアオキ・タカフミで一文字しか違わず、分かりにくい。
「とりあえず、部屋に行くか」
俺は今絶望していた。エレベーターを使って自分の部屋がある五階に行こうとしていた。しかし、エレベーターホールには『六階より下の階の者は特別な理由を除き、使用厳禁』と書いてあったのだ。
「嘘だろ、この学園は国から多額の助成金が出ているんじゃないのか。なんで、こんなところで金をケチってるんだよあの校長」
そんな俺の心情など知らず、六階以上の階に部屋がある生徒はエレベーターに乗り込んでいった。
「うらめしや。俺は必ずお前らを見返してやるからな」
そう俺はつぶやき、あきらめて階段を上った。百六十段だった。
「ここが俺の部屋か」
すでに俺の荷物は運びこまれており、冷蔵庫やエアコンといった基本的な家電は備え付けてあるようだった。
俺は前の世界で高校一年生から高校二年生になるところだった。ただ、俺は親が海外出張に行っていて帰ってこないとか、事情があって一人暮らしをしているとか、そんなアニメみたいな設定もなかった。つまり、何が言いたいのかといえば、
「はっきり言って俺は家事ができない!」
あまり大きな声で言うものでもないかもしれないが、はっきり言うとそうなのである。
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