第十話 変
お久しぶりです!今回で十話目になります!
俺はがちがちに凍ったゴブリンと真っ赤になって悶えているなにかの前で笑っていた。
「ちょっとアオキ、あなた大丈夫?」
「ハハハハハ――」
「アオキくん? おーい――」
おっと、どうやら正気を失っていたようだ。
「いや、二人ともすまない。少々興奮というかエキサイトし過ぎてしまったみたいだ」
西宮は少々困惑した表情で答えた。
「それってほとんど同じ意味じゃない? そんなことよりも、これは何をしたの?」
正直に言って、俺は調子に乗っていた。なんていったって、俺は直接的な能力での使用ではないとはいえ、魔法を使ったのだから。調子に乗ってしまうのも無理はないと思う。
「何をしたのか、それは見ればわかるんじゃないか?」
「分からないわよ。どういうことか説明してちょうだい」
こんな西宮の反応も心地よかった。まるで、俺が使った能力が特別で優れているのだといわれているように感じたのだ。
「今のが俺の能力『式典』だ」
「それはそうでしょうね! アオキ、あなたわざと情報を小出しにしているでしょ!」
俺はできる限り、声を低くし、そして滑らかに言葉を紡いだ。
「分かった。説明しようじゃないか」
「西宮、君が聞きたいのはどうやってこの状況を生み出したのかということでいいんだな?」
「ええ、そうよ。早く結論を述べてくれないかしら」
俺はもっと長くこの状況を楽しみたかったが、西宮の青筋が浮かんでいそうな反応を見るに、そんなことを悠長にしていては俺の命が危険なのだと気づかされてしまった。だから、仕方なく俺はこの状況を終わらせることにした。
「そんなに焦らなくたって逃げたりはしないよ」
「ええ、そうね。じゃあ、早くしてちょうだい、私が感情を制御できなくなる前に」
「せっかちなお嬢さんだ、僕がこんな状況を引き起こせたのには訳がある。君はこの氷漬けのゴブリンたちを見て何かに気づかないかい? 例えば、こんな景色をどこかで見たなあ……とかさ」
「もう、ゴブリンは消えているわよ。まあ、でも、強いて言うのなら、入学式のバカのことかしらね」
俺は西宮の言葉に何か違和感を感じた。
「いや、ちょっと待て」
「あら、違ったかしら? 結構自信はあったのだけれど」
「いや、正解だ。大正解だ、大正解なんだが、ゴブリンが消えた……? どういうことだ?」
「当り前じゃない。倒されたモンスターはダンジョン内である限り、魔力を失うから消えるのよ。あなた、もしかしてそんなことも知らないの?」
いろいろと掘り下げたいところはあるが、これ以上結論を引っ張るとろくなことにならない気がしたので、俺はもうどうでもよくなり、やけくそで答えた。
「ああ、知らなかった。ありがとう!」
「あなたなんだか開き直ってないかしら、まあいいけれど。それで、どうやってこの状況を生み出したのかしら?」
「まあ、端的に言うと入学式のオオヤマダに校長が使った魔法みたいなやつを、式典の能力でゴブリンたちに適応したかんじだ。それでゴブリンは窒息して昇天したんだと思う。」
「あなた急に態度が変わったわね、少し気味が悪いわ。まあそれは良いとして、なるほどね、あなたの能力は式典にかかわることなら割と何でもできる能力といったところかしら。応用が利きそうね」
「そんなところだと思う。で、シズカちゃん、オオヤマダは元気そうか?」
シズカちゃんは不思議そうに答えた。
「怪我自体はないと思うんだけどね、ずっと、『ああ、ヤメテ』ってつぶやいて動かないの」
「俺の勘によるとオオヤマダの頭を斜め四十五度とかそのくらいでたたけば治ると思うぞ。たぶん、オオヤマダは誤作動を起こしてしまっているだけだ」
そう俺が言うと、シズカちゃんは機敏な動きで、オオヤマダの頭をたたいた。
「知らない天井だ。俺は何を……」
オオヤマダの目が覚めたことを確認し、俺たちは、この後のことについて相談を始めた。
「それで、つぎは――」
「いや、つっこめよ。お前がそういう係だろうが」
オオヤマダが重要な話に割り込んできたことに怒りを覚え、俺は青筋を浮かべながら答えた。
「話が進まないだろ、リーダーなんだからしっかりしてくれ」
「ええ……俺が悪いのか? まあ、すまなかった」
「もういいから、次に何をするのか話し合おう。今日の課題はパーティメンバーの数だけゴブリンを討伐する、で合ってるよな」
「ええ、そうよ。私たちが討伐したゴブリンの数は三体だから、あと一体倒せばいいはずよ」
あと一体だけならと思い、俺は言った。
「じゃあ、あと一体は他のパーティから譲ってもらわないか」
「アオキくん、それはどういうこと?」
「アオキ、何を言っているのかさっぱりだ」
一人を除いて、みんな首をかしげていた。
「なるほどね。でも、それはどういう意味での譲ってもらうなのかしら。それが他のパーティが倒したゴブリンを私たちが倒したことにするという意味であれば、先生たちが私たちのことを見ているからできないわよ」
俺は得意げに笑って言った。
「ああ、もちろんだ。俺が言いたかったのは、他のパーティも俺たちと同じ状況に陥ってしまっているだろうから、協力して課題をクリアしようということだからな」
「それなら、さっそく奥へ進みましょう」
そう言う西宮の顔には微笑みがあった。
「ああ、そうだな」
「ちょっと、二人だけで進まないでよー」
「そうだぞ、俺たちは何も理解できてないんだからな」
「オオヤマダくん、私はわかったよ?」
「マジかよ、俺も行くから待ってくれよー」
「ここはダンジョンだ。みんなもう少し気を引き締めてくれ」
「ええ、そのとおりね。ただそれはあなた本人にも言えることだけれど」
あれから少し経って、俺たちはダンジョンの最奥にまで達していた。
「なあ、みんな、ダンジョンってこんなに狭いものなのか? 道中で他のパーティにも会わなかったし」
「私が読んだ本には、ダンジョンはどこまで続いているのかわからないくらい広いっていう記述があったよ」
「俺が知ってるダンジョンもそんな感じだな」
「私もよ、このダンジョンは何かがおかしいわ。さすがにここまで誰にも会わないなんてことはあり得ないもの。それにこのダンジョンは狭すぎるわ」
もし、俺たちが何かしらのダンジョンの異変に巻き込まれてしまっているのだとすると、課題どころの話ではなくなってしまうだろう。
「だったら、今から引き返して一旦ダンジョンの外に出ることはできないか?」
「それは、おそらくは可能よ。でも、それをしてしまうと課題の達成が認められなくなって、もう一度課題に取り組むことになるわよ。それでも良いのね?」
「ああ、俺はそれで良い。命が最優先だからな。ほかのみんなもそれでいいか?」
「アオキくんがそれでいいなら、私もそれでいいと思う」
「まあ、俺よりお前たちのほうが適切な判断ができるだろうからな、任せる」
「じゃあ、一旦ダンジョンから出るってことで良いな。じゃあ、急ぐぞ」
あれから、俺たちは順調に出口に向かって進んでいたはずだった。
オオヤマダは不安そうに指をさした。
「なあ、俺思うんだけどさ、あそこのひびさっきも見なかったか? もしかして、俺たち道を間違えてないか?」
「それはありえないはずよ。私は来た道をメモしているから、それにそって道を戻れば問題ないはずだもの。だけど、明らかにダンジョンを進んでいた時よりも、ダンジョンを戻っている今のほうが時間がかかっているのは事実よ。もう少し進んでみて、またあのひびがあるようだったら明らかな異常とわかるわ。そうなったら一度みんなで相談しましょう。」
オオヤマダは不安そうに口を開いた。
「なあ、やっぱり繰り返してるよな、同じ道を」
「そうね、間違いないわね。おそらく私たちは、このダンジョンのちょうど半分くらいのところから出口にかけての部分を繰り返しているわ。本来なら、出口とは反対に向かって進んでみるとか、走ってみるとか試せることはあると思うわ。だけど、私はもうみんなの体力的にこのループを抜け出す糸口を見つけることは難しいと思う。だから、本当に不本意ではあるのだけど、先生方に助けを求めることを提案するわ」
もとから外に出てしまえば、再挑戦させられることは確定していたんだから特に変わりはないと思い俺は言った。
「まあ、こんな状況になってしまったんだから仕方ないだろ。俺ももう疲れてあまり体力も残っていない、もうそれしかないんじゃないか?」
「私もそれしかないと思う」
「俺はもう考える力も残っていないくらい疲れているから賛成だ」
お前は疲れていなくても、もともとだろと思ったがそれを口にするのも体力を消費しそうなので控えるくらい俺は疲れてしまっていた。
「そうね、じゃあ先生たちに助けを求めてみましょう」
「どうやって、先生たちに助けを求めるんだ?」
俺は正直な疑問を西宮に投げかけた。
「それはこうすれば良いのよ。だれかー! 私たちのことを助けてくださーい!」
俺は一瞬ぎょっとしたが、次の瞬間には納得し、加勢をすることに決めた。
「だれかー! 助けてくれー!」
シズカちゃんは焦ったような様子で言った。
「オオヤマダくん、私たちも西宮さんとアオキくんのことを手伝ったほうがいいんじゃないかな」
「そうだな、よし! 誰でもいいから、助けてくれー!」
「助けてくださーい!」
そうして助けを呼んでいるうちに、だんだんとこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。俺たちはその音を聞いて安心していた。近づいてきている人物の、いや、ものの姿をとらえるまでは。
次回も一か月後に投稿する予定ですが、最近忙しいので、もしかしたら一か月後に投稿できないかもしれません。なので、申し訳ないのですが、どうか心の中で一か月後に投稿できるように祈っていてください。それでもダメだったときはごめんなさい