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第十二話『絶望と葛藤』

 「先手必勝で行くぞ、セツカ!」


 リュウオウセッカの装甲が淡い光を放てば、体内にエネルギーが血液のように循環していくのが全身で感じられた。地面を蹴り駆け出せば、瞬く間にオーガフレイヤと距離を詰める。

 無防備なオーガフレイヤに優斗は、ハンマーのように(リュウオウケン)刀を振り落とした。


 「イィギャアァ――!」


 最初は腕で防御しようとしていたオーガフレイヤだったが、リュウオウセッカの一振り紙を裂くように交錯した腕を切り落として頭部に損傷を与える。

 バランスを崩して頭を垂れたオーガフレイヤに一切の躊躇なく、二度の膝蹴りを当てるとふらつくオーガフレイヤに鋭いハイキックを直撃させればオーガフレイヤの体は収容所の壁に激突した。


 「どんな敵が来るかと思えば……どうやら、人選を間違えてしまったようだな」


 落胆すら混ざる声色で優斗が言えば、相変わらずマスターオークは不敵な笑みを崩している様子はない。


 「そう言うなよ、お前の相手はそいつ以上に適任はいねえと思っていたんだぜ」


 「それはどういう意味――」


 いつの間にか目の前には、先程の倒したはずのオーガフレイヤの頭部だけが足元にあった。攻撃した際に爆散でもしたのかと優斗は思ったが、嬉しそうに湾曲したオーガフレイヤの一つ目が愉快そうにこちらを見上げていた。

 考えるよりも先に優斗は頭部だけになったオーガフレイヤに刀で斬りつければ、切れ目から血のような赤い液体が噴き出すと同時にオーガフレイヤは爆発した――。




                       ※



 「――駄目だ、反応が消えた」


 苦々しく麗衣刃が呟いた。

 出発してしばらく歩き、既に日が暮れ始めていた。


 「どういうこと?」


 桜花が心配そうに聞く。


 「相手に何らかの異常があると、結んだ糸が強制的に切れるんだ。不可視ではあるが、強い衝撃を受けると切れてしまう」


 「つまり、トリス様の身に何か……」


 アイリーンが青ざめた表情で呟けば、そのまま口を閉ざした。

 私達の周囲に重苦しい空気が満ちる。




 「――優斗!?」


 圧倒していたはずのリュウオウセッカが炎に包まれたのを見て駆け寄ろうとするワルキューレンジャーことトリスの前に、ジャガーナイトが立ち塞がる。


 「オーガフレイヤは自分の役目を全うした。だったら、俺も俺の仕事をしねえとな!」


 「そこを、どけ!」


 ワルキューレセイバーが発光すれば剣の刃を炎が覆う。荒々しく燃え盛る炎はトリスを傷つけることもなければ、人々を苦しませることはない、ただの悪にのみだけ業火の炎は効力を発揮する。

 ジャガーナイトが両手の指先をぴったりとくっつけたかと思えば、爪先から噴出する黒いオーラが束になり折り重なれば、爪から直接生える漆黒の剣が発生した。爪先から伸びた漆黒の剣を巧みに操りつつ、トリスの炎の剣と激突する。


 「ヒャアァ!」

 

 「ハッ――!」


 二度、三度、殴りつけるような剣と剣のぶつかり合いで先に根を上げたのはジャガーナイトの方だった。


 「どうした! この程度では、私を止められない!」


 ジャガーナイトの漆黒の剣はトリスの剣を受け止める度に、少しずつじわりじわりと亀裂が走っていく。気持ちのままに剣を両手で握り、確実に追い詰める。そして、いよいよ――ジャガーナイトの剣が砕け散った。

 さらに深く踏み込んだトリスは必殺の突きをお見舞いする。


 「必殺! ワルキューレエクスプロージョン!」


 炎はさらに火力を増し、荒れ狂う竜のようにジャガーナイトの剣を爪を砕けばその胸を貫通した。ここで剣を引き抜けば、ジャガーナイトの肉体に撃ち込まれた業火の炎が力を増して爆発と共に肉体を粉々に砕く――はずだった。


 「これがよぉ、俺様の仕事なんだぜ」


 「なっ……」


 剣を両手で固定したジャガーナイトの爪が再生し蛇のように伸びると、自分の胸に刺さったままの剣をその爪で抜けないようにする。


 「今さらそんなことをしても遅いぞ、ジャガーナイト。お前は既に致命傷だ。このまま戦い力尽きるのは間違いなくお前だけだ」


 「ああ、そりゃそうでしょうなぁ。俺達さ、前の世界でも大して戦うことできなかったんだ。こっちの世界でもすぐに善性ユーティアに負けちまって……せめて俺達は最期に悪としての華を咲かせたかったんだよ!」


 「そうか……お前が悪としての誇りを掲げるというなら、私も最大級の敬意でトドメを刺してやろう」


 トリスは胸元の紋章に触れれば、ペガサスモードへと変身しようと――。


 「――ご苦労だった、ジャガーナイト」


 満足そうに目を閉じるジャガーナイトの背後に、影が差す。次第にその影は大きくなり、ジャガーナイトの頭上から見覚えのある大斧が出現した。

 マスターオークがジャガーナイトの背後で大斧を振り上げていたのだ。


 「卑怯な……! マスターオーク!」


 吐き捨てるように叫んだトリスへとマスターオークは大斧の一振りで応答すれば、ジャガーナイトの体を真っ二つに裂きながらトリスを斬りつけた。


 「ああぁ――!」


 頭から足の先までを引きちぎられるような激痛に悲鳴を上げて両膝をついた時には、既にトリスはワルキューレレンジャーの変身は解除されて虚ろな目で地面を見つめる少女の姿になっていた。

 変身をしてなければ左右に切り裂かれたジャガーナイトと同じ姿になっていたが、この状況は決して良い状態ではない。

 徐々に消えていく意識の中で意識を繋ぎ合わせ、見上げた先には黒ローブの女とマスターオークが楽しそうに顔を歪めていた。


 「いいか? 俺はマスターオークだ。俺が出てきた以上は何が何でもお前を倒す。そりゃ前の世界では、毎回刺客を送り込んだりしていたが流行らないぜ。悪が勝つつもりなら、卑怯と罵られることすら喜びに変えて全力で打ちのめすだけだよ」


 「くっ……殺せ……」


 「そういや、お前ら追い詰められると何かと殺せ殺せて言ってたなぁ。そりゃお前らみたいな強い力の人間は、色々と利用できるからな。……つうことで、今回も利用させてもらうわ。憎いお前には苦しんで傷ついてから、死んでもらわねえとな」


 マスターオークは傷ついたトリスの金色の髪を乱暴に掴むと、ずるずると引きずって収容所へと歩き出す。


 「しかしまあ……お互い運がいいのか悪いのかわかんねえよな。なあ、おい」


 「マスターオーク様、既に意識を失っているようです」


 数歩下がりながらトリスの顔を見つめたアンリエイタが、返事をしないトリスの頭をガンガン揺するのを見下ろしながら淡々と告げた。


 「なんだよ、会話もできねえか。これだから、人間てのは脆くていけねえ。……おい、アンリエイタ。準備はできているのか?」


 自分に関心が向いたことでアンリエイタは、頬を紅潮させつつ返答する。


 「はい、マスターオーク様には私の力をお見せしましょう。必ずご満足いただける演目になることでしょう」


 歯を剥き出しでマスターオークはにんまりと笑う。


 「そうか、それは期待できそうだ」




                         ※



 「駄目だ、ラインアンカーが途中で切れている……」


 オデルブーケを出発した私達だったが、順調に先導していた麗衣刃が落胆の声を上げる。

 広い草原に置いてけぼりになったように動けなくなった私達を嘲笑うように強い風が吹き抜けた。


 「ど、どういうことよ、言う通りに進んだらトリスに辿り着くはずじゃないの?」


 上擦った声の桜花に詰め寄られれば、麗衣刃は申し訳なさそうに首を横に振った。


 「……ラインアンカーといえど、強い衝撃を受ければ解除されてしまう。ただ走ったり転んだりするだけでは問題ないが、何か強い衝撃を受けたことで解けたのだろう」


 「だろう、て……。そんな他人事みたいに!」


 「――ごめん」


 麗衣刃の胸倉を掴んで今にも殴りかかりそうな勢いだった桜花だったが、沈痛な面持ちの麗衣刃に苦々しげに手の力を緩めた。


 「私が飛んで、周囲を探してみましょうか?」


 アイリーンの背中が大きく膨らみ服を盛り上げると、服の下からは大きな翼が出現した。背中の肌が丸見えになるが、寒いだなんだと言っている様子ではなさそうだ。

 顎に手を当てて麗衣刃は不安そうに周囲を見渡した。日は既に暮れ青黒い空が広がり後数分もすれば、夜になるだろう。


 「状況から考えると桜花が既に交戦状態に入っている可能性は高い。下手に空を飛べば敵に見つかる可能性だってある。この暗闇の中で襲われれば、私達だって無事にとはいかない。……単独行動はやめたほういい。今は休める場所を探そう」


 「し、しかし、今もトリス様が危険な目に合っているなら……一休んでなんかいられません!」


 アイリーンには珍しく強く反論してくるので、少し驚いたような顔をした麗衣刃はどういう了見か私の方を見た。


 「ムツミはどうしたい? 今の僕らはまともな精神状態じゃない。客観的に物事を見ることのできる、君の意見を教えてほしい」


 「え、私!?」


 自分に指をさしてみれば、全員の視線が集中する。

 一分一秒でも早くトリスや優斗を助けに行きたいが、危険なのは間違いない。何より既に日も暮れ、どこかで夜を超える準備をした方が賢明のはずだ。しかし、場違いにも程があるというのに私の脳裏には戦隊ヒーローたちの姿が情景された。

 自分たちの身の安全と仲間の命、いつだって彼らは窮地に立たされてきた。それでも、必死に立ち上がり戦い続けてこれたのは、紛れもなく彼らが仲間との絆を忘れなかったからである。まだ出会って一か月程度のみんなだが、きっと他の誰よりも互いのことを理解しているみんなには過ごした時間なんて些細な問題なんだ。

 深く呼吸をして、私は思い浮かんだヒーローたちに背中を押されるようにして声を発した。


 「――アイリーン、お願い力を貸して。私達のことは大丈夫。だってここにいるのは、誰もが憧れる正義のヒロイン達だもん」


 麗衣刃嬉しそうに肩をすくませ、アイリーンは「はい!」と明るく返事をし、桜花も「やればできるじゃない」と恥ずかしそうに呟いた。



 画して、アイリーンが上空からの捜索を行い、私達は運良く近くに洞穴を見つけそこで夜を超すための準備を始めることとなった。

 火を焚き、寝床の用意をし、優斗の屋敷から果物やパンなどの傷みにくい食料を広げていた。そんな私達に、朗報とも悲報とも呼べる情報がアイリーンと共に舞い込んだ。


 「――皆様、セツカ様を見つけました!」


 エンジェルレンジャーに変身したトリスが苦悶の表情で呻くセツカを抱き抱えて帰って来たのだ――。

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