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スキル×カード  作者: 村上 瑠留
23/35

光の都と猫と騎士4

 


「それじゃ明日の昼、日が真上に来る頃に正門の前で」


 すっかり暗くなり、門が閉まるギリギリの時間にレイジガルドに到着した俺達は、そう約束して別れた。

 今すぐ教えろと言うユールルにシェリアさんが遂にブチ切れて、ユールルを黙らせてくれたからやっと帰れるのだ。

 すぐに宿に帰ろうとしたのだが、新しい街に来た冒険者はその街の冒険者ギルドに滞在登録をしなくてはならないらしく、ラシールを連れて冒険者ギルドに向かった。

 かなり遅くまで開いている冒険者ギルドにたどり着き、いつものウェスタンなドアを開けて中に入ると、ルシールさんはやはりもう帰っていて見当たらない。

 三列ほど残る冒険者の列に並び、順番を待つ。

「この街に、姉が居るんですね」

 苦節三年目にしてようやく姉に会えることに、待ち切れない様子のラシールを眺める。

「すぐに会えますよー」

「はい! 明日にでも探してみます」

 このまま宿に連れて行くつもりのクロユリと、今日はもう遅いから明日ルシールさんを探すつもりのラシール。

「え、今日会えますよ?」

「あ、姉の住んでいる場所をご存知なんですか?」

 とにかく噛み合わない会話を経て、クロユリが首を傾げた。

「あれ? 言ってませんでしたっけ? 僕達、ルーちゃんと一緒に住んでるんですよ。だから明日まで待たなくても会えますよ」

 それを聞いたラシールは、しばらく理解出来て居ない顔でキョトンとしている。

 確かに言い忘れていた。色々と。

「えーと、とにかく今日この後会えますので、今は手続きすませちゃいましょ」

 昼間の喧騒など想像出来ないくらい静かになったギルドの中、人の少ない列はすぐに進んで順番が来る。

 ちなみに討伐クエストの報告は明日の約束の後という事になっていて、今日はシェリアさんとユールルが門で別れた後、閉店時間ギリギリの魔獣素材を買い取ってくれるお店に向かって居る筈だ。

「お帰りなさいませ。ご無事の帰還何よりです」

 並んでいた列を捌いていたのは、昼にクエストを受けた時のお姉さん、フェルメアさんだった。

「ケーキ食べれました?」

「はい、とても美味しく頂きました」

 にっこにこしている様子から、喜んで貰えた事がわかる。

 ラシールさんが手早く要件を伝えて書類を準備してもらう。

 と言っても、このギルド支部で仕事を請け負うにあたっての義務などの契約書にサインをして、ギルドコインをこの支部にも登録するだけだと言う。

「あの、もしかしてルシールの家族ですか?」

 フェルメアさんがラシールの顔と耳、尻尾を見て気付いた。

 ラシールは恐縮しながら、それでもここに確かに探していた姉が居ると分かって嬉しそうに頷いた。

「はい。妹です」

 ルシールさんのミリオンスマイルとは違い、吹けば消えそうな儚い笑顔になるラシールに、フェルメアが少し赤くなった。

「わぁ、ルシールより可愛らしいですね。あ、今の内緒ですよ」

 俺を見て唇に指を当てて、シーってするフェルメアさんを見て、そのアクションこの世界でも有るんだねと。

 あと言わせてもらうけど、ルシールさんのミリオンスマイルだって負けてねぇからな。

 世間話を軽くしながら、手続きを終わらせる。

 ラシールが登録に出したギルドコインは石の意匠で、彼女がストーンランクなのが分かった。

 ユールルとシェリアさんもストーンランクなんだよね。あの二人ストーンにしては強すぎね?

 気になって帰る前にフェルメアさんに聞いてみた。

「ああ、あの二人は受けるクエストが採取系ばっかりなんですよ。採取中に襲われて強い魔獣も返り討ちにするから、実力は確実にフェアリーランクですけど、受けるクエストの実績がまだストーンなんですね。今回の討伐クエストで多分フェアリーになると思いますよ」

 あの二人の行動は、良くも悪くもユールルが基本らしい。

 採取系のクエストを受けているのは、自分の魔法関係の研究に使う分を余分に採取して使うためらしい。

 確かにあの手帳、物凄い使い古されてて書き込みも凄かった。

 よほど熱心に研究していたんだろうな。

 ランクアップそっちのけで魔法研究ばかりしていたお陰で、あの実力でストーンランクと言うチグハグな肩書きになっているのだと理解して、明日の約束は出来る限りの事をしてあげようと心に決めた。

 それからギルドを出でまっすぐギルバテックに向かう。

 体感だけど、もうこの時間なら余裕で夕食と風呂を終えて部屋でゴロゴロしている時間だ。

 白髪のお爺さんに軽く挨拶をして、階段を上がりながらラシールに言いおく。

「一応事情を説明するから、しばらく部屋の外でまっててね」

 ラシールが旅に出て三年。ルシールさんが里を出たのがもっと前なら、この二人はかなりの時間を別々に過ごしている。

 いきなりジャジャーンと会わせるのも良くないかもしれない。

 頷いたラシールをその場に残して、扉の鍵を開けてクロユリと一緒に部屋に入る。

 中ではベッドの上に座っていた不機嫌なルシールさんが待っている。

「もーう! 遅いですよぅ! お腹減ってるのにずっと待ってたんですよぅ!」

 プンプン怒るルシールさんも激可愛いけど、今はそれどころじゃなかった。

「あのルシールさん、ちょっと会わせたい人が·········」

 どう説明したら良いのか分からないで居ると、俺の心の表面だけサラッと読んだ彼女がベッドから立ち上がり、扉までずんずん歩いてくる。

「んー? 何ですか、また女の子ですか! 姫様みたいに女の子釣ってきたんですか! 扉の外に居るんですね? もーう! どこの誰ですよぅ、人の婚約者にちょっかい掛ける泥棒ねラシィィィィィルゥゥゥゥゥゥ!?」

 扉を勢いよく開けた彼女は、その前に立っていたラシールさんを見た瞬間悲鳴を上げて固まった。

 扉を覗き込むと、ラシールさんも目を見開いて固まっていた。

「お姉ちゃん·········。お姉ちゃん······!」

 目に涙を貯めたラシールさんは、ルシールさんに飛び付き抱き締めた。

 姉妹の感動の再会。かと思いきや、ルシールさんの表情は青くなっていく。

 そして我に帰ったルシールさんは抱き着いてくる妹を自分の体から引き剥がし、その肩を揺さぶった。

「え、な、なんで! どうしたのラシール!? なんでレイジガルドに居るの? もしかして、次の巫女にされて逃げてきたの!? あの老害どもが、私だけじゃなくラシールまで·········!」

 軽いパニックを起こしかけているルシールさんに、ラシールが慌てて首を振った。

「違うのお姉ちゃん。私ね、お姉ちゃんを探しに来たの。里で巫女が生まれなくなって、作物も育たなくなって、里に巫女が居ないとダメだってお爺様達が言うの。だから······」

 必死に弁解をするラシールを見て、安心したようにルシールさんが崩れ落ちた。

 その様子にまた慌て出すラシールに、落ち着いて貰うために食事にしようと提案した。

 ルシールさんを抱き起こして、頭を撫でる。

 最初の顔色から姉妹の仲の悪さを疑ったけど、どうやら杞憂だったみたいだ。

 クロユリを先頭にラシール、俺とルシールさんの順番で食堂まで行く。

 酒場兼業で夜も賑わうこの場所に席を見付けて腰を下ろし、酒と果実汁を注文した。

 ちなみに席は俺の正面がクロユリで、ルシールさんの正面がラシール。

 時計回りにクロユリ、ラシール、俺、ルシールさんの順番だ。

 しばらくして落ち着きを取り戻したラシールと、いつもの調子に戻ったルシールさんの改めての再会に、運ばれて来たジョッキとタンブラーで乾杯をした。

 長い間会って無いからなのか、元々なのか分からないけど、ルシールさんはいつもの間延びした敬語のまま喋っていた。

「久しぶりですよぅ。元気にしてました?」

「うん。お姉ちゃんこそ、元気そうで······。会えて嬉しいよ」

 姉妹水入らずにしてあげた方が良いのかな、なんて考えていたら、隣のルシールさんに腕を抱かれた。

「ラシール、紹介しますよぅ。私の婚約者のフタツキさんです」

 俺の正面のクロユリが「あ、ズルイです」と身を乗り出したけどそれどころじゃない。

 妹さんの前で抱かれた腕に当たるお姉さんの胸が柔らかくて気持ちいいとか考えるのは避けるべ手遅れかぁー·········!

 考えない様にと考えるとその時点でアウトである。俺の阿呆。

「あ、あの、えっと? え?」

 言われてすぐに飲み込めていない彼女もそれどころでは無かった様で、これはセーフだったっぽい?

「え、あ、いや、アウトです。ごめんなさいバッチリ見えました」

「ちくしょぅ!」

 待ってくれよ、この丸テーブルに座るメンバーで俺だけ『読心視術』持ってねぇぞ!

「えっと、じゃぁお姉ちゃん里には帰ってこないの······?」

「そうですよぅ。私はもうこの人と結婚して添い遂げるんです。帰ったとしても挨拶程度ですよぅ」

「でも、それじゃ巫女が居なくて里が飢えちゃうよ」

 狐人フォクシーの里の為に旅してきたラシールは、なんとか説得しようと三年前の里の状態を説明した。

 ラシールによると、巫女であるルシールさんの加護により、里全体の作物の収穫量や、森で山菜が大量に取れたのだと言う。

 ルシールさんが居なくなった今、里はその恩恵を失い危機的状況なのだと。

 それを聞いたルシールさんは鼻で笑った。

「まだあの老害達はそんなデマで里を維持しようとしているんですか? ラシールもプリムの家の者なのに信じているんですか」

 深く息を吐いて、ルシールさんが里から逃げ出した理由を語り始めた。

「巫女が里に加護を与えるなんて嘘っぱちなんですよぅ。里で取れる作物の量も変わらないし、山菜も同じです。多く見えたのは五老会が秘密裏に他所から買っている物資ですよ」

 狐人フォクシーの里にはソレを取り仕切る御三家と巫女の管理をする社家、その四家を統括する皇家。

 そしてそれぞれの家のトップが集まり里全体の指針を決める五老会と言う物があるのだと言う。

 ルシールさんとラシールの実家プリムは皇家で、父方の祖父が現在家督を持っていて五老会のメンバーらしい。

「巫女って言うのは里の特産品なんですよぅ。外界の契約した国に売り渡す狐人フォクシーの里で取れる極上の特産品」

 話を聞いているラシールは信じられないと言った顔で、でも話しの腰を折ることなく黙って聞いていた。

「クーちゃん。私がフタツキさんに使おうとした魔法覚えてます?」

「············はい。あの魔力じゃない、何か大切で取り返しの着かない物を使おうとしていたアレですね」

 俺がレクシールに一度殺された時の話しらしい。

 死んだ俺に、ルシールさんは何か魔法を使おうとしていたのだと。

「アレは私のパーソナルマジック。狐人フォクシーの中でも希にしか生まれない固有魔法。自分の魂を燃やして他者の魂を呼び戻す反魂の蘇生魔法です」

 それを聞いて、一番血の気が引いたのは俺だった。

 話しを繋げると、死んだ俺に自分を犠牲にしてその魔法を使おうとしたってことじゃないか。

「ルシールさん! 二度と使わないでください!」

 思わずテーブルを叩いて大声を出してしまった。

 初めて彼女に声を荒らげたと思う。

 でも辞めて欲しかった。俺が目覚めても、最初に目にするのがルシールさんの遺体なんて考えたくない。嬉しくない。

 ルシールさんの犠牲の上で生きて行くことにきっと耐えられない。

「約束しますよぅ。でも、フタツキさんも二度と約束破らないで下さいね。私から離れて行かないんでしょう?」

 悲しそうにそう言うルシールさんが愛おしく思えて、頭を撫でる。

 そうだった。最初に約束破りかけたの俺じゃないか。

 ルシールさんから離れていかないって約束したのに、俺は危うく彼女から最も遠い場所に行きそうだったのだから。

「······ごめん」

「大丈夫ですよマモルさん。ルーちゃんは僕が止めましたから」

 ニコニコ笑うクロユリにも手を伸ばしたかったけど、座る場所が遠くて無理だった。

 部屋に帰ったら撫で回そう。そう決めて、ルシールさんに話しの続きを促した。

「反魂魔法が使える者を巫女と崇め、やがて里の外に売る契約で外の国から多額の支援を受けているんですよ。その支援を巫女の加護だとかで誤魔化しているのがあの里の真相です。私が居なくなった事で契約に齟齬が出て、支援が減ったのが今の里の現状なんですよぅ」

 つまり、そのまま里で暮らしていたらルシールさんは確実にその命を使われていたのだ。

 見ず知らずの人間の為に、魂のストックとして。

「·········そ、そんな······」

 真実を明かされ、知らなかったとは言え、里に死にに戻れと言っていたラシールは項垂れて震えている。

「ラシールも、もう戻らない方がいいですよぅ。あの老害達の事だから、きっと反魂が使えない狐人フォクシーを無理矢理売り始めるかもしれません。『読心視術』だけでも充分価値がありますからね」

 確かに、敵対する貴族の嘘や罠を全て看破出来る人材など、大金出して欲しがる奴がゴロゴロ居そうだ。

「ラシールさんもマモルさんのお嫁さんになりますか?」

「いや待ってクロユリ? なんかクロユリさ、俺をハーレムにしようとしてない? ミルキュートの背中も押してたよね?」

 浮気を唆すメリットが無いとか前に思っていたけど、何か怪しくなってきた。

「違いますよ。僕はただ、マモルさんの優しいところとか、素敵なところを独り占めするのが申し訳ないんです」

 あーもう俺の婚約者、いや嫁。俺の嫁可愛い。

 ルシールさんも居るから独り占めじゃないけど、独占してくれていいんだよ。

「うふふー。ちょっと気持ちは分かりますけど、クーちゃんダメですよぅ。ラシールはまだしも姫様はダメです。あの人が好きなのは『読み物語に出てくる勇者そっくりの英雄』なのであって、別にフタツキさんじゃなくても良いんですから」

「それを言ったら、僕らも『救ってくれた人』ってだけで、マモルさんじゃなくても可能性ありましたよね?」

 クロユリに物凄く悲しいことを言われるけど、俺はクロユリの弁が理解出来た。

 ルシールさんの否定材料はつまりそういう事で、程度が違うだけで皆に当てはまってしまう。

 ようはソレがキッカケってだけの話しで、重要なのはその後にその人と重ねる時間だと思っている。

「む、むむぅ」

 思わぬ正論にルシールさんが珍しく反論出来ずにいた。

 クロユリは野生で生きていて、そして自分が積み上げた『常識』を疑える人格者だ。

 群れが存続を優先してリルフの覚悟を踏みにじった時に、唯一ソレを嫌悪したクロユリは物事を一歩引いて客観的に見れる。

 自分だって『誰だって良かった』みたいな言い方したくないのに、ルシールさんの弁が間違っていると思うのならそう言える強さがある。

「僕らとミルキュートさんに違いなんて無いと思うんです。キッカケで想いの深さが違っても、その後に育める気持ちには差なんて無いと思います」

 真摯にルシールさんを見詰めるクロユリの銀眼が、優しく光を反射する。

 唇を尖らせて反論が出来ないルシールさんを見て、クロユリはいつものニコニコ笑顔で締めくくった。

「もちろんマモルさんの気持ちが一番ですけどね。マモルさんがミルキュートさんを受け入れるなら、僕は反対なんてしません」

 それは、暗に俺が選んだ人なら大丈夫と言う信頼の様で、クロユリが一層好きになった。

「むぅー! むーむー! 分かりましたよぅ、フタツキさんが本気で選ぶ人なら私も納得しますよーう」

 よく分からないけど結論が出たみたいだが、当のラシールは放ったらかしであった。

 クロユリが「どうですか?」と聞くも当然首は横に振られた。

「強くて立派で、お優しい方なのはもう分かっていますけど、流石に急にお嫁さんとかは············」

 当然の反応だった。

 俺だって、いくらルシールさんに似てても今日会ったばかりの女性に求婚は遠慮したい。


「でしたら、私など如何でしょう?」


 不意に声がして振り返る。

 俺のすぐ後ろに、メイド服を着て仕事スイッチを入れたフラムスールさんが立っていた。

「夜分遅くに失礼致します。火急の用件で参りました」

 恭しく腰を折るフラムスールさんに、クロユリが台から降りて駆け寄った。

「スーちゃんこんばんわー」

「こんばんわクロユリ様。ご機嫌如何ですか?」

 近くに来たクロユリの頭と毛並みを撫でて、至福の顔をするフラムスールさんは、話し掛けなければずっと続けていそうな程だった。

 撫でたいって言ってたもんなー。

「フラムさん、座ります?」

 ほんの少しだけピクッと動いて正気に戻る彼女に、店員に増やしてもらった椅子をすすめる。

「では、お言葉に甘えますね」

 増やして貰った椅子はクロユリ用の台の隣で、座った後もクロユリを撫で続けた。

 多分この人とケルキュルさんと俺、同志だよね。うん。

 この場には居ないギルド職員を思い浮かべながら、フラムスールさんから火急の用件とやらを聞くことにする。

「まず初めに、明日の朝に爵位勲章の授与が行われますので、ルシール様とクロユリ様も合わせてご出席下さいますようお願い申し上げます」

 言われてビックリする。

 この時間に来て明日の朝に予定を入れられるのは、少なくともあの王族達やフラムスールさんらしく無い。

 いくら何でも急すぎる。

「ええ、二つ目の用件のせいで、かなり急な予定を組まざるを得なくなりました。せめて決まってスグに知らせようと、昼に宿まできたのですが······」

 その頃俺は馬車の中か。

 もしかしてその時間からこの辺りにずっと待機していたのなら、かなり長い間待たせていた事になる。

 せめてさっさと用件を済ませて休んで欲しい。

「二つ目の用件はなんです?」

「はい。クラウンクエストの発行で御座います」

 詳しく聞くと、どうやらイーリスハイルの姫の婚約発表がある為に、使者として赴くミルキュートにせっかくだから出席して欲しいと帝国が言ってきたのだと。

 そしてその婚約発表のパーティーに参加する為に予定を前倒しするハメになったのだとか。

「パーティーに参加出来るのは貴族階級のみでして、フタツキ様に件の護衛をしていただく場合爵位勲章の授与を急ぐ必要が出ました」

 そしてパーティーの日取りは、なんと三日後なのだと。

「しかも、レイジガルドの冒険者をわざわざ護衛として雇い向かう事も、侵略行為に見えると先方がゴネまして、フタツキ様にはイーリスハイルに先に行って貰い向こうでクエストを受けてもらう事になりました」

 はぁ? 自分の国の治安は棚上げして、護衛がどうとか文句言ってくるの?

 言い掛かりも甚だしい。

「付きましては、明日の授与式が終わり次第、準備してイーリスハイルに向かって頂きたく参上いたしました」

 やっと運ばれて来た料理を食べながら、用件を纏めた。

 明日朝から城からの迎えが宿に来るから、その馬車に乗って城に行って勲章を貰ってくる。

 その後出来るだけ早く、明日中にはイーリスハイルに向かって出発しなくてはならない。

「明日の昼には予定があるんですけど、出発は夕方でもいいですか?」

「はい。三日後にミルキュート様がお乗りになる馬車がイーリスハイルに到着しますので、それまでに動ける様にして頂ければ」

「あのぅ。私は明日もお仕事が······」

 おずおずと手を上げるルシールさん。

 明日も朝からの早番らしく、出席出来ないと言う。

 しかしフラムスールさんが首を振った。

「いえ、ギルドにも遣いを出します。ルシール様が城に呼ばれている事と、フタツキ様のクエストの管理をして頂くために数日の間イーリスハイルのギルドに出張する旨を伝えさせます」

 数日とは言え、俺の監視と言うかミルキュートが俺に暴走しない様にとギリムリーズが提案したらしい。

「さっすがギリムリーズさんですよぅ! フタツキさんと離れなくて済むなんて、気が利きますね!」

 どうやら置いていかれるのを気にしていたらしいルシールさんが、ジョッキを飲み干してギリムリーズを褒め称えた。

 俺も素直に嬉しいので、今度ギリムリーズには何かお礼をしよう。

 テキパキと進んでいく打ち合わせに、完全に置いていかれているラシールが手を上げた。

「あの、先程からクラウンクエストとか話が有りますけど········」

 あ、そう言えばラシールには俺のランク教えて無かった。

 あんまり自慢するようで、自分からギルドコイン見せるの嫌なんだよなぁ。

 俺が渋々首にかかる鎖を引っ張り、ギルドコイを取り出してラシールに見せると、彼女は椅子から落ちそうになった。

「く、クラウンランクなんですか!? お強いとは思ってましたけど、まさか先日レイジガルドを襲った龍王を退けたのって·········!?」

 イーリスハイルにまでレクシール出現の噂は広がっている様で、ラシールも耳にしていたらしい。

 あの五人組の前で一番活躍したのは、魔法で全てを焼き払ったユールルだもんな。俺も一撃でロックドラゴンを倒したけど、あの魔法の前じゃやっぱり見劣りしたみたいだ。

 三年も旅して、冒険者の辛さを分かっているラシールにとって、クラウンランクなんてお伽噺の存在だった。

「うふふー。私の恋人凄いでしょー?」

 誇らしそうに妹へ自慢するルシールさんは、いつものお姉さん然とした態度は無くなっていて姉妹で戯れる一人の少女だった。

「お姉ちゃん、凄い人見付けたんだね·········」


 それから、フラムスールさんは用件を全て伝えて帰っていき、食事も終えたのでそのままお風呂に入った。

 当然俺は一人だが、今頃女湯では姉妹で積もる話でもしている筈だ。

 クロユリもすぐに仲良くなれるだろうし、女子組の方は何も心配いらない。

 俺の方は手早く体を洗ってサッパリして、さっさと風呂を出る。

 あー、そう言えば魔具屋にも連絡しておかないと。

 オーダーメイドが出来上がったのに俺がレイジガルドに居ないってんじゃ、逃げた様に見えるよな。

 明日の予定を何となく組み立てながら、一人部屋に帰る。

 当然誰もいないので、すこし思い付いた事を執務机に座って実行する。

 まずナイフの『上位複製』をして置く。

 今でも充分過剰な性能のナイフだが、装備品が強くても俺は困らない。

 それから、『創造複製』で色々物を作っては消して試行錯誤する。

 作りたい物が二つあったのだが、一つは結構あっさり出来上がった。

 それを一式大きめの麻袋を作って入れて、残りの物を色々試す。

 思い付いたように自分の所持品を棚から持ち出したり、本当に色々試し続けた。

 ある程度形になった頃に女子組が帰ってきたので、ラシールをどうするか決める。

 と言うのも、どこで寝るかって話だ。

 ルシールさんの妹と言っても、俺とは初対面でほぼ他人なのだから、同室で寝ていいのか微妙な所だろう。


「え、私達にも手を出して無いのに、何を心配するんです? 寝言は寝床で言って下さいよぅ」


 そうルシールさんに言われて、ラシールも同じベッドで寝る事が決定した。

 ラシール自身は少し遠慮したがっていたけど、ベッドの上にクロユリ、俺、ルシールさん、ラシールの順に並ぶ事で話がついた。


 今日も濃い一日だったけど、明日も濃くなるぞぉ·········。




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