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スキル×カード  作者: 村上 瑠留
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黒狼の意志

初めまして。瑠留です。初めて書かせて頂くので、至らない点も多々あるとは思いますが、楽しんで頂けたら幸いです。

 始まりのカード


 昨日の話だ。


 学校から家に帰り、一日を振り返りながら自分の部屋に戻ると、いつも使っている散らかった勉強机の上に一枚の紙が置いてあった。

  部屋は四畳ほどしかなく、ベッドと勉強机でほぼいっぱいいっぱいの狭い部屋だ。

 鞄をベッドに放り投げて、ゴチャゴチャした机の上から紙を手に取る。

 内容は簡単で、『明日、二十四時丁度に貴方を異界に召喚致します。よろしいですか?』と。


 ふむ。訳が分からん。


 兄弟のイタズラか、とも思ったが、それは不可能だった。何故なら俺には兄弟なんて居ないからな。一人っ子だ。

 紙の裏にはデカデカと、yesとnoのチェック式回答欄があり、机に備え付けのペン立てではなく、散らかった小物に混じっているペンを手に取りyesにチェックを入れた。

 イタズラだと思っていたけど、異世界なんて行けるなら行ってみたいしね。心配する家族も居ないし。

 しかし瞬きをする間に、紙が視界から消え失せていた。目をぱちくりさせながら、机の周辺を探す。椅子の上、下、机と壁の間。引き出しもガタガタと開けては閉めて、全部の段を確認したが見つからない。


 奇跡的に局所的な突風が紙をベッドに飛ばしたのか? 等とふざけた事を考えなから振り向く。


 自分の寝起きしている薄汚れたベッドを視界に入れると、探している紙の代わりに見慣れない物を見付ける。

 それは二枚の白と黒のカードだった。材質はプラスチック製のトランプの様に思える。丁度トレーディングカードゲームに使うような「名称」「絵」「効果やフレーバーテキスト」が書かれていそうなコマ割りがあり、大きさは小型のスマートフォンくらいのカードだ。

 絵、と言うよりはアイコンくらいの簡易な絵が細長いカードのまん中より少し上寄りにあり、片方は豪奢な意匠の盾で、もう片方は星マーク、五芒星って言うんだっけか。それが二つ横並びしていて、その上と下に互いを繋ぐように矢印が書かれている。

 その絵を挟んで、二枚のカードは二枚とも、絵の上に一行の文、カードゲームで言うカード名が入ればいい程度のコマと、絵の下にはカードゲームのカード効果やフレーバーテキストが書かれていそうな充分スペースのあるコマがあり、それぞれ名称と効果文のコマに文字が書かれていた。


 しかし読めない。


 正直英語などの授業も大していい成績ではないのだが、そう言う問題じゃなく、もうヒエログリフとアラビア文字を組み合わせたような変なものが書かれているのだ。

 裏側も見ると、親指の腹くらいの金色の円が中心にある。

 こんな物部屋には当然無かったし、持って帰ってきた記憶ももちろん無い。

 なにより、部屋に入ってすぐベッドの上に投げたバッグの上にカードはあったのだ。

 つまり、そういう事だろう。


 このカードは俺がこの部屋に入った後に現れた。


 何故か。決まっている。


「さっき回答した紙がフラグで現れた······のか?」


 さっきまでイタズラだと思っていたものが、俄然信憑性を帯び始めた。

 そこからの行動は素早かった。

 カードをポケットに仕舞おうとして、曲げるの嫌だなぁと思い直し長財布のカード入れの裏に収納する。そしてその財布を尻のポケットに入れてベルト穴にチェーンをかけた。

 壁に内蔵される形のクローゼットから、趣味の川釣りに使う大きすぎず小さすぎない肩がけ式のバッグを取り出す。

 中に入っている釣具をベッドの上にぶちまける。

 その空になったバッグを肩に掛けて家の外まで駆け出して行く。

 今は午後十九時。明日は日曜日。召喚は明日の二十四時だと書いてあった。つまり残り時間が二十九時間しかない。急がねば。


 こうして、俺『双月護ふたつき まもる』の異世界準備がスタートした。


 白い長袖の無地のティーシャツ。ポケットの多いな動きやすそうなカーゴパンツ姿で、俺はしゃがみこんでいた。


「ばっちり準備はした、したけどさぁ···」


 否、途方に暮れてた。


 あれから、しっかり昼寝の時間もとって、最低限の食料とアウトドアグッズ、サバイバルグッズを買い漁った。

 昼寝の時間を取ったのは召喚が二十四時だと書いてあったからだ。どこに出るにしろ、眠くて活動出来ないのは論外である。

 愛用のバッグは携行性に優れつつ、容量もそこそこある中型のバッグで、もちろん中身はパンパンだ。

 買い漁ったのは、大きめのサバイバルナイフ。缶詰などの保存の効く食料と小型の水筒。さらにメッチャ小さく出来る寝袋。ロープにランタン型懐中電灯。ファイアスターター。あと消毒液に包帯等の簡単な医療品だ。


 買い物が終わった後は家にもどり、振り出し式のコンパクトリールロッドに、コンパクトリール。針や浮き、疑似餌など仕掛けを作る一通りのセットである。

 更にコンビニ袋を持っている。携行性、保存性を度外視で適当なホットスナックや飲み物等を召喚時間ギリギリで買いに行った物が入ってる。


「異世界召喚、転生系のお決まりってさぁ、昼に街のそばの平原だろ? 馬鹿なのかなー」


 そう、困っていた。


「何で深夜に鬱蒼とした森に居るんだよ俺ぇ······」


 そう、森なのである。しかも恐らく深夜。召喚時間が二十四時だったから、恐らくそうなのだろうと。

 異世界召喚は、時間が来ると共に、自分の体が少し光ったと思ったらすでにここに居た。あっけなさ過ぎて拍子抜けしたくらいだ。

 しかし目の前の景色がそんな気持ちをすぐに引き裂いたのだ。立ち並ぶ巨木。高さは十メートルくらい行ってんじゃないかと言うほどで、太さもまちまちではあるが、かなり太い。ゴジラの足かよってくらい太い。

 光を遮る暗い森。一歩間違うとその場で命を落としそうな森の中に俺は居た。


 ゥォォォォォォォオオオオオン。


 狼かな。森に木霊する獣の遠吠えは、俺の絶望を煽るのには十分だった。

 カラビナでバッグに繋がれたランタンを取り出し、スイッチを入れる。これはソーラー充電式のもので、バッテリーは充電式の単三乾電池型。壊れなければ一応ずっと使える。バッテリーも使用劣化するので永遠にでは無いけど、普通の電池式より億倍マシだろう。換えの充電バッテリーも買ったしね。

 いい加減覚悟して森の土を踏み締める。

 一歩。また一歩と歩き始める。

「予定が狂いに狂った···」

 草原とかなら人や道を探して行動すれば、人間の領域まで行ける。

 まずはその間、飢えないで済むための装備を構築したのである。

 川など見つければ釣りも出来るし。

「最初の目標が、『人の生活領域の探索』から『生存する』とえらくシンプルになったなぁ」

 森を出るにも、人を探すにも、まずこの森で生き延びなければならない。

 湿った嫌な空気が肌を撫でる。

 異世界召喚系のセオリーで、熱帯やら極寒やら極端な所には行かないだろうって言う何となくの確信があったので、気候は思ったより心配しては居なかったが、流石に夜の森は若干冷える。

 野営するべきかどうか悩むけど、さっき聞こえた狼っぽい何かの遠吠えとかも考えると、ここで寝たくない。目覚められる自信が無いからだ。

 コンビニ袋から五つある揚げ鳥のホットスナックを一つ取り出して食べる。この匂いも猛獣寄ってきそうで怖いから、早めに胃の中に処分してしまおう。

 ペットボトルも取り出し、パキッ、プシュっとキャップを捻り、中身を少しの口の中に入れる。

 ランタンとペットボトルを左に持ち、ホットスナックを右に持ってもくもく食べながら進む。香辛料などが食欲を刺激して、普段ならこの匂いも含めて楽しんで居るけど、場所が場所だけに恐怖以外の何物でもない。猛獣の食欲を刺激すると、胃に収まるのは俺なのだから。

 森は全体的に木々が高く、地面に雑草はあまり生えてない。木の根っこさえ無ければそこそこ歩きやすい。

 テクテク歩きながら、ペットボトルをコンビニ袋に入れて、尻の財布からカードを二枚取り出す。もちろん部屋に突然現れたあのカードだ。


 ん? あれ? なにこれ。


 カードを見ると、すぐさま異変に気付く。


「読める······ ?」


 ヒエログリフとアラビア文字を組み合わせたような変な文字が、日本語に見える。何故か読める、じゃない。日本語に見えるのだ。

 二枚のカードはそれぞれ、『絶対防御』と『完全複製』と書いてある。なんだこれ。

 チラチラと前に視線を移しながら、器用にカードを読んでいく。

 驚くことに、カードはスマートフォンの様に、効果文の場所を指で操作してスクロールできるようだ。


 白いカード『絶対防御』


「属性パッシブ スキルホルダーに対するダメージ概念を完全に無効化する」


 黒いカード『完全複製』


「属性アクティブ スキルホルダーの手に握り込める物を反対の手に複製する アクティブ式[コピー]」


 急に読めるようになったカードの内容に目を通し口に出して読む。

「なんだこれ。スキルホルダー?」

 アクティブ式ってなんだ? パッシブ?

 普通のカードゲームとか電子ゲームで言うなら、パッシブは常時発動の効果だったり魔法だったりすると思う。

「んー? つまり『絶対防御』は常にダメージを完全除去してくれんの? 強くね?」

 そしてアクティブは、常時発動のパッシブと違い使う時だけ効果が現れるタイプの何かのはず。つまりアクティブ式って言うのは『完全複製』を使う時に必要になる何か、なのかな? 

「手に握れるもの? 石とかか?」

 足元に石は無く、代わりに木切れが落ちている。しゃがんで拾う。

 ランタンを地面に置いて、ランタンが付いていたカラビナにコンビニ袋をぶら下げる。カードもポケットに一時的に入れて小さい木切れを握り込む。木切れがどの角度から見ても見えなくなると、しゃがんだまま唇を舐めて喉を震わす。


「······[コピー]!」


 ······。

 ············。

 ··················。


 なにも起きねぇじゃねぇか!

 勢いよく立ち上がりながら木切れを投げ捨てる。近くの木にカコーンと当たって地面に落ちた。

 なんだよ!異世界系お決まりのチートスキルゲットかと思ったのに!

 期待していた分だけ落胆も大きい。

「はぁ、何やってんだろ、俺」

 家族の居ない自分は、異世界に来ても後悔なんて無いと思ってウキウキしながら準備してたんだが、今少し後悔し始めていた。

 黒いカードの方をポケットから取り出し、効果文をスクロールする。


『完全複製』

 属性アクティブ。

 スキルホルダーの手に握り込める物を反対の手に複製する。

 アクティブ式[コピー]

 契約者:無し。

 スキルレベル:0。

 スキル無効条件:複製対象が自我を持つ場合、スキル発動不可。


「ん。ちょっと待て、契約者ってなんだ」

 何か登録のような事をしないと、何も起きない仕様なのか?だとしたら、何も起きない状況でドキドキしながら決め顔でコピー!とか言ってた二十秒前の自分を殴りたい。

 しかし、登録ってなんだ? 何をする?

 何も分からないまま、カードの裏面をなんとなく見ると、金色の円がほのかに光っている。本当にうっすら。この暗闇の中なら少し目立つかな?って程度の光が、足元のランタンの光に邪魔されていた。

 まるで起動しろと主張しているパソコンのスイッチみたいに。

「これか?」

 何か確信に近い物を感じ、人差し指で円の中心に触れる。

「うひぃ!」

 するとカードの中に人差し指がズプッと入った。第一関節まで飲み込まれて驚いて手を引っ込め、カードをひっくり返して穴が空いてないか確認する。そんな感じはしなかったけど、念のためだ。

 もう一度裏面を見ると、円が消えて、黒一色になっていた。 

「え、ちょっと待ってくれよ!」

 登録、いや契約か? が出来たかも分からないのに、手掛かりの金色の円がカードから消えてしまったのだ。やっべぇどうしよう?

 裏表を何回も確認して、何か変化が無いか確認するが、どこにも何も無い。やばいやばい。

 このカードは絶対キーアイテムのはずだ。なにせ異世界からの招待状とほぼ同時に現れたのだから。

 説明文もスクロールして確認するが、変化が見られな···ん?

「契約者が俺になってる?」

 契約者の欄が、「契約者:双月 護」になっている。

「スキルレベルも零から一になってるな」

 もう一度、カードをポケットに入れてから、足元の小さい木切れ、いやこれ木の破片?まぁいいや。拾って右手に握り込む。

「今度は出ろよ、[コピー]!」

 両手を握り、前に突き出して声を出す。その瞬間左手に違和感が生まれる。

「で······、でた?」

 両手を開いて確認する。出来た。出来ちゃった。 

 手のひらで転がる木の破片。それは右も左も、一切の違いなく同じものだった。大きさはもちろん、傷、傷み具合、小さなささくれや汚れに至って全く同じもの。

「『完全複製』、なるほどね。完全な複製だわ」

 続いて白いカード、『絶対防御』にも同じように登録して、契約者の欄を確認。ちゃんと俺の名前が入っている。

 これはダメージ完全除去の常時発動。そう、これでやっと。

「寝るかー!」

 そう寝れる! 猛獣に襲われようとどうしようとダメージを負わないのである。こんな森で安全に寝れるのである。

 寝床に出来そうな場所を探すために、カードをまた財布に入れてから尻のポケットへ。そのまま転ばないようにスキップしながら森を進む。

「異世界召喚系の一番の難所! 『初期装備で生き残る』がもはやヌルゲーだぜやったー!」

 食料はある、道具もある、防御も完璧、もはや隙は無い!

 加速度的にるんるんスキップで森を進んでいく。顔が孫を抱くおじいちゃん並に緩んでいる。

 スキップしながらコンビニ袋のホットスナックを取り出して、貪りながら跳ねて進む。来てすぐに食べた物と合わせて二つ目。残り三つである。

 そんな俺は二つ目を食べ終わる頃に、るんるんタイムが終わりを迎える。

「ふんふんふーゲブハァ!?」

 ズッコケた。顔面スライディング一歩手前の華麗なる転倒だ。

 太い木の横を通り過ぎる際に、根にでも足がかかったらしい。

「痛ってぇ!」

 ん? 待てよ、痛い!?

「『絶対防御』は!?」

 『絶対防御』はパッシブスキルのはずだ。ならなぜ痛い?

 自分の顔をぺたぺた触る。肘、膝など擦りむきやすい場所もぺたぺた。おや?

「傷は無い···?」

 これはたまたまか? 『絶対防御』の恩恵か?

 そこで一つ思い浮かぶ。

「え、嘘だろ。『絶対防御』は痛みがダメージに入ってないの?」

 攻撃の無効化では無く、ダメージの無効化だ。攻撃からダメージと痛み、恐怖やらの色々な要素からダメージだけを取り除くスキルなのだと仮定する。

 つまりは、斬られれば痛いし怖い。でもダメージは無効化される。そんな所だろうか。

「うっそやろお前、結局寝れないじゃんか···」

 天国から地獄に落とされた気分だ。ダメージが無効化されても、寝込みを狼に噛まれればその痛みは受けるのだ。

「寝かせて······、やろうか、人間?」

「ふひゃあ!? だれ!?」

 突如声が後ろで聞こえた。弱々しい声だったが、低音で、囁くようなその声は、このくらい森の中だと迫力しか無く、チビりそうになったのは内緒である。

「誰、とは···、ご挨拶だな······? 人間」

 声の方向は先ほどコケた木の影、丁度俺が通る時には死角になっている場所に、巨大で、光の一切を吸い込み閉じ込めるような深い黒色の狼がいた。

 本当に狼がいた!

「先ほど······、私の足を·········、蹴り飛ばしておいて······」

 どうやら、俺が足を取られたのは木の根じゃなく、この狼の足だったようだ。

「蹴飛ばし···!? ごめん! 痛かったか?」

 見るとその狼は、明らかに弱っている。息を潜めてるのは野生の狼っぽいけど、その小さい吐息は荒く弱い。

 そんな狼を足の先っぽとは言え蹴飛ばしてしまった事に罪悪感が芽生え、狼に駆け寄る。

 言葉が通じるんだ。いきなり食われわしないだろう。『絶対防御』もあるしね。

 ちなみに動物が喋ってることに関しては、「異世界だし、そんな事もあるだろ」と二十四時の召喚前に覚悟しておいた。

 近くで見ると、酷かった。身体中に浅い傷があった。引っかき傷と言うより、皮膚病のそれだ。

 そこから少しづつ血などの体液が流れ出てて、近くに寄ると匂いもキツくなる。

「寄るな、人間······」

「いや、言ってる場合じゃないだろ! 簡単な奴だけど、治療するぞ」

 人間用の消毒液が効くか分からないど、無いよりマシだろう。

 包帯とガーゼとかで止血もしなきゃいけない。けど、傷が多すぎるな······

「治療······?」

 訝しげな狼の視線を無視して、鞄を下ろして漁る。

「多分すげー染みる。痛いと思うけど我慢してくれ」


 それが、俺の異世界生活の第一歩だった。




如何だったでしょうか。 もし少しでも続きを気にして頂けるようでしたら、是非ともまた起こし下さい。


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