手作りご飯
ただラブラブな二人
朝目が覚めたら華が隣にいなかった。前の晩に寝落ちすると、華は早起きして風呂に入っていたりする。だから今日もそうなんだろうなって思いながらオレは、体を起こす為に大きく伸びをしてから台所へ向かった。
「華? 台所で何してんの?」
主夫の城――もといオレの城には珍しく先客がいた。台所での定位置はオレの背後で体育座りのはずの、華だ。華がコンロとにらめっこしてる。
「ご飯作る」
「え? マジ? 料理出来んの?」
無言。華は唇を微かにへの字に曲げてから、睨んでいたコンロから視線を外して冷蔵庫へ向き直った。がちゃりと冷蔵庫を開けて、中を物色してる。オレはうきうきしながら華を見守った。
「ねぇ華。何作るの?」
華が冷蔵庫から取り出したのは食パンだ。トーストにでもするのかな、なんて思いながら見ていたら続いて華が取り出したのはイチゴジャム。
どうやら食パンは焼かないらしい。華が火を使って、火傷でもしないかハラハラ見守る事にもならないみたいだ。華は無言で、真剣な顔してイチゴジャムを食パンに塗りたくってる。
真っ白な食パン。赤いイチゴジャム。オレの可愛い魔法使いはどうやら、食パンのキャンバスに何かを描いている。
「猫?」
正解みたいだ。華がこくんと頷いた。
手を止めた華が満足そうな顔でイチゴ猫を眺めてる。オレも、華の可愛い表情を黙って眺める。
「秋。あーん」
なんて幸せな朝なんだろう。食パンonイチゴ猫は華の手によってオレの口に運ばれた。当然、オレは素直に口を開ける。
「あーん」
「おいしい?」
「すっげぇうまい」
うまくない訳がない。だって華の手料理だ。オレの為に作ってくれて、しかも手ずから食べさせてくれるだなんて……サイッコーに幸せだ!
「華のはオレが作ってあげるね! 何食べたい?」
相変わらず人に食べさせるのが下手っぴな華。一生懸命なその姿と華の手料理を堪能したオレは、ご機嫌で華にリクエストを聞く。
「秋のご飯は全部好き」
ふんわり笑った華。その笑顔とくれた言葉が、胸の中にある温かな幸せを大きく膨らませる。
「華可愛すぎ! 大好き!」
溢れだした幸福を笑顔と鼻歌にして、オレは愛しい黒猫の為に朝食の支度をする。手を動かしながら、オレの背中に張り付いて手元を覗いてる華にキスをするのも忘れない。
オレが屈めば、華は背伸びする。
唇を触れ合わせて、鼻先をぶつけ合って、視線を絡めて笑い合う。
ツンと泡立てた真っ白な生クリームに、華の大好きなイチゴジャム。ふんわり焼いたフレンチトーストに掛けて飾り付けて、完成した皿の上を見た華の顔はキラキラ期待で輝いてる。飲み物は、朝の定番温めのホットミルク。
「ねぇ華。またご飯作ってくれる?」
オレの膝の上に陣取って、オレが口に運ぶフレンチトーストを食いながら華はにこにこ頷いた。
「秋に食べさせてもらうのも、食べさせるのも好き」
「オレも」
食事途中で奪った華の唇は、とろけそうなぐらいに甘かった。




