↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
琴陵姉妹の異世界日記・改訂版  作者: 此花サギリ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/13

第九話:誓約の血脈と拡大するファミリア

子爵邸を改修した『琴陵ファミリア』の兵站基地に、爽やかな秋の朝風が吹き抜けていた。


一階の大ホールでは、朝のミーティングを終えた十五人の従属者たちが、それぞれの持ち場へと手際よく散っていくところだった。元錬金助手の少女リザはポータブル蒸留器の温度管理へ、元出納係のエリックは第二・第三店舗の資金計画書の作成へ、そして双子剣士のカイとリクは屋敷の防護結界の点検へと、全員が職人としての高い誇りと生き生きとした表情で立ち働いている。


だが、作業へ向かう彼らの足取りには、どこか落ち着かない緊張感と、互いに視線を交わしながら逡巡するような気配が漂っていた。


「……何か言いたいことがあるなら、はっきり口にしなさい」


ホール中央の大型デスクで、日本から持参したモバイルモニターに王都の店舗データを表示させていた容子が、視線を画面から外さずに静かに告げた。


その一言に、十五人の代表として歩み出たのは、元出納係のエリックと、元錬金助手のリザだった。


二人は深々と頭を下げ、緊張で強張った面持ちのまま、固い決意を込めた声を絞り出した。


「容子様……そして宥子様。ご執務中に大変不躾なお願いがございます」


膝の上で白蛇の『紅白』と『赤白』を遊ばせていた宥子が、「なぁに、エリックさん?」と顔を上げた。


エリックは手にした数枚の羊皮紙を愛おしそうに抱え直し、深く意を決して膝をついた。


「私たち十五名は、お二人から人間としての尊厳、破格の手当て、そして美味しいお食事と温かいお住まいをいただき、毎日感謝の念に耐えません。……ですが、それゆえに……我が身の幸福を噛み締めるたび、胸が締め付けられる思いがするのです」


「……身内(家族)のことね」


容子は冷徹な瞳をエリックに向けた。


「ええ……!」リザが涙を浮かべて前に出た。「私には、王都の貧民街の古い穴ぐらで、病に倒れた母と幼い弟妹がおります……! エリックさんにも、借金のために他の粗悪な奴隷商に買われそうになっている妹さんが……! 参加している全員に、それぞれ守りたい家族や、離れ離れになった大切な者がいるのです……!」


エリックが額を床に擦り付けた。


「厚かましすぎる願いであることは重々承知しております! ですが……もし叶うならば、私たちの手当てを前払いしていただくか、あるいは私たちの家族を、この『琴陵ファミリア』の末端の労働者として雇い入れてはいただけないでしょうか……!? どんな雑用でも、どんな泥仕事でもさせます! どうか……家族を救うお力添えを……!」


ホールに静寂が満ちた。作業の手を止めた他の十三人も、祈るような心地で容子の言葉を待っていた。


容子は無言のまま手元のタブレットを叩き、思考を巡らせた。


(情に流されて組織を膨らませるのは、経営における最大の悪手よ。家族という身内を入れることで身内贔屓や規律の緩みが生じるリスク、そして何より……異世界間貿易という『最高機密』の漏洩リスクが跳ね上がる)


「ダメ……かな……?」


宥子が心配そうに容子の顔を覗き込んできた。


容子は溜息をひとつ吐くと、眼鏡の位置を直し、まっすぐにエリックとリザを見据えた。


「条件があるわ」


「じ、条件……!?」


「ええ。言ったでしょ、この『琴陵ファミリア』の絶対の鉄則は機密保持と裏切りの防止よ。あなたたちの家族だからという理由で、ノーチェックで入れるわけにはいかないわ。……家族をこの屋敷に呼び寄せ、共に働くことを許可する条件はただひとつ」


容子はデスクの上に、羊皮紙ではなく――日本から持ち込んだ特殊な導電インク印刷用紙と、専用のコンデンサ型魔導ペンを置いた。


「私たちが提示する『高階層誓約魔法(超高精度NDA契約)』に、呼び寄せる家族全員が自らの意思で署名・承諾すること。内容はあなたたちと結んだものと同じ――情報の外部漏洩、主家への敵対行動、契約外の不正の禁止よ。……これを呑めるというのなら、何人でも呼び寄せなさい」


エリックとリザの顔に、爆発的な歓喜が広がった。


「ぜ、誓約魔法……! もちろんでございます! 拒む者など一人もおりません!」


「それと、エリック」容子は冷徹な口調のまま、引き出しから重々しい金貨の袋を三つ取り出し、デスクの上にドスンと置いた。


「家族の買戻し費用、および病気の治療費、移動費用として金貨五十枚を前払い(無利息融資)するわ。カイ、リク、ヴォルグさんを同行させて、今日の日の入りまでに全員を安全にこの屋敷へ連れてきなさい」


「よ……容子様ぁぁぁっ!!」


エリックとリザはボロボロと大粒の涙を流し、何度も何度も床に頭を打ち付けて感謝を捧げた。


「ふふっ、良かったねぇ、容子!」


宥子が嬉しそうに容子の腕に抱きついた。


「勘違いしないで宥子。これは情けじゃないわ」容子は手元の画面に新しい組織図を描きながら、不敵に口角を上げた。「家族という『最大の弱み』であり『最大の絆』を共有させることで、ファミリア全体の結束力は完成する。さらに、新しく来る家族のスキルも『構造解析』で適材適所に配置すれば、第二・第三店舗の爆発的拡大に必要な労働力が一瞬で手に入る……完璧な兵站投資よ」


誓約の儀式と三十五人の新たな血脈

夕闇が王都グランを包み込む頃。


子爵邸の広い中庭には、エリックたちとヴォルグに連れられてやってきた、総勢二十名の「家族たち」が集まっていた。


痩せこけた幼い弟妹を抱きしめる少女、病で足腰の立ったない老人、借金のために売り叩かれかけていた元職人の妹、そして過酷な環境で怯えていた妻や子供たち。


彼らは、王都の豪邸のような素晴らしい屋敷と、そこで仕立ての良い服を着て誇らしく立つエリックたちの姿を見て、夢でも見ているかのように目を丸くしていた。


「あ、兄さん……本当に……本当にここに住んでいいの……?」


リザの幼い弟が、リザの服の裾を握りしめて震えていた。


「ええ、ボブ! 容子様と宥子様が、私たちを救ってくださったのよ!」


ホールに集められた二十名の家族たちの前に、容子と宥子、そして『琴陵ファミリア』の初期メンバー十五名が並び立った。


容子は静かに前に進み出ると、羊皮紙の契約書を掲げた。


「皆さんに集まってもらった理由は、エリックたちから聞いているわね。……私は琴陵容子。この屋敷と『次元間交易センター』の主よ。あなたたちに求めるのは、ひとつだけ」


容子はペンを提示した。


「この契約書に刻まれた『誓約魔法』に同意し、署名すること。これに同意すれば、あなたたちは今日から『琴陵ファミリア』の一員よ。病気や怪我は私たちがすべて治療し、雨風を凌ぐ温かい部屋と、毎日の美味しい食事、そして正当な賃金を約束するわ」


二十名の家族たちは、互いに顔を見合わせるまでもなく、一斉に容子の前で膝をついた。


「お願いします! 私たちを、ファミリアにお加えください!」


「誓約でも何でも立てます! 容子様と宥子様のために働かせてください!」


容子が提示したコンデンサ型魔導ペンで、二十名が次々と契約書にサインをしていく。


署名が完了した瞬間、契約書から淡い青色の光が立ち上り、二十名の胸元へと優しく吸い込まれていった。


【『高階層誓約魔法(超高精度NDA契約)』の締結を完了】


【対象者二十名の安全および機密保持の完全担保を確認】


【『琴陵ファミリア』の総人員が三十五名へ拡大しました】


「よし、契約完了ね」


容子はペンを収めると、隣の宥子へ頷いて見せた。


「宥子、準備したものを出しなさい」


「はーいっ!」


宥子が手をかざすと、空間の波紋(アイテムボックス)から、湯気を立てる巨大な大鍋と、日本から持ち込んだ大量のポーション、そして清潔な新しい衣類の山がドスンと広場へ吐き出された。


「さあ! まずは美味しいご飯を食べて、お風呂に入って綺麗な服に着替えようねー!」


宥子の弾んだ声とともに、大鍋の蓋が開けられた。


中に並んでいたのは、容子が腕を振るった特製の『具だくさんクリームシチュー』と、焼き立ての香ばしいパン、そして新鮮なフルーツだ。


「こ……こんなご馳走……生きてて食べたことがない……!」


「温かい……すごく美味しいよ、お母さん……!」


ボロボロと涙を流しながらシチューを頬張る家族たち。その横では、リザやエリックたちが、容子から手渡された現代の回復薬やナノ軟膏を家族の身体へ優しく塗り込んでいた。


病で伏していた老人が即座に力強く立ち上がり、目の霞んでいた子供の視力が一瞬で回復していく。


その光景を見つめながら、ガルドが感極まったように目頭を押さえた。


「素晴らしい……。ただの力による支配ではない、恩義と絆と契約による完璧な絶対防衛陣じゃ……。これほどのファミリア、王都のどの公爵家にも作れんぞ……!」


組織再編と「第二・第三店舗」の電撃同時開業

三十五人体制となった『琴陵ファミリア』の爆発力は、容子の事前の計算すら遥かに凌駕していた。


家族が救われたことによる初期メンバー十五名の忠誠心とモチベーションは天元突破し、新しく加わった二十名の家族たちも「一日でも早く恩返しがしたい」と猛烈な勢いで仕事を吸収していったのだ。


容子は子爵邸の地下オフィスで、ホワイトボードに新しい『組織二期構造図』を書き上げた。


製造・化学精製部門(リザ指揮・計十名)


・新加入の元職人家族を組み込み、ハーブ石鹸・化粧水・ポーションの生産量を『従来の百倍』へ引き上げ。


第一店舗(中央大通り店)管理部門(エリック指揮・計八名)


・貴族・豪商向けの高級品販売および顧客データの完全一元化。


第二店舗(南区・冒険者&一般市場店)管理部門(ガルド・ヴォルグ指揮・計九名)


・冒険者向けの回復パウダー、防具強化パーツ、および一般市民向けの高品質日用品の廉価販売。


第三店舗(東区・高級サロン専門店)管理部門(宥子指揮・計六名)


・貴族令嬢・婦人専用の完全会員制美容サロン。宥子の『縁結び』と特製ミストによる占いやカウンセリングの実施。


本邸・地下兵站警備部門(双子剣士カイ&リク指揮・計二名+自動セキュリティ)


・3Dプリンターで増産した『自律型魔導カメラ』と『パルス・ブレイカー』による本拠地の完全防衛。


「完璧ね」


容子はペンを置き、満足げに手帳を閉じた。


「明日の朝、第二店舗と第三店舗を同時に電撃開業(グランドオープン)するわ」


「えぇっ!? 明日ふたつ同時にオープンしちゃうの!?」


宥子が目を丸くした。


「当たり前でしょ。三十五人の人件費と生活費、そして本拠地の維持費を差引いても、三店舗を同時稼働させれば一日の純利益は【金貨三百枚(日本円で約三千万円)】を超える計算よ。資金を留め置くのは愚者のやることよ。拡大あるのみだわ」


商業狂乱と王都の覇権

翌朝。王都グランの南区と東区は、前代未聞の熱狂に包まれていた。


南区にオープンした『第二店舗・冒険者&市民館』では、Sランク冒険者ヴォルグが仁王立ちで看板を掲げ、安価で高品質な回復パウダーや止血包帯、そして長持ちする乾燥食料を求めて数千人の冒険者と市民が殺到した。


「ヴォルグ様が専属契約しているお店だ! 間違いないぞ!」


「この『万能止血包帯』が銀貨五枚だと!? 闇市で買ったら金貨一枚はする代物だぞ!」


「市民用の『ハーブ石鹸・普及版』も大銀貨二枚で買えるぞ! 肌がツルツルになる!」


一方、東区の閑静な高級住宅街にオープンした『第三店舗・会員制サロン・琴陵』では、シルフィード公爵家のお墨付きを得た最高級の空間で、王都の貴族婦人たちが列を成していた。


サロン内では、訓練を受けたリザたちの家族が優雅にハーブミストを散布し、奥の個室では宥子が『縁結びのタロット占い』と特製ハーブティーで貴族令嬢たちの悩みを完璧に解決していった。


「まあ……! 宥子様の占いで教えられた通りにしたら、ずっと片思いだった伯爵様から舞踏会のお誘いが届きましたのよ!」


「この美容ミストを使い始めてから、旦那様が私から目を離さなくなりましたわ!」


「会員権を金貨五十枚で買い取らせてくださいませ!」


三店舗の同時稼働によって、王都グランの経済流動の実に『二割』が、わずか数日で『琴陵ファミリア』の手元へと集中する事態となった。


夕方、子爵邸の地下金庫に運び込まれた金貨の山を見ながら、元出納係のエリックは声を震わせた。


「容子様……本日の三店舗合計売上……金貨四百二十枚に達しました……! もはや王都の筆頭豪商すら遥かに凌駕する規模です……!」


「順調ね」


容子は冷ややかな笑みを浮かべ、新しく仕入れた大量の『希少魔導鉱石』と『古代遺物の欠片』を検分した。


第二店舗で冒険者たちから高値で買い取った素材の中には、サイエス全土でも滅多に見られない超絶レア素材が多数含まれていた。


『雷帝の角(サンダー・コア)』:超高電圧を永続的に発生させる伝説の魔導器官。


『古代文明の自律演算ギア・中型』:アーラマンユの神格回路と同質の超高密度構造体。


容子はピンセットで古代ギアを摘み上げ、自作の解析レンズでのぞき込んだ。


「ふふ……素材の集まるスピードが、当初の予測の三倍以上に加速しているわね。これなら『対神格用・最終兵器』のプロトタイプ構築も、遠い未来の話ではなくなってくるわ」


絆の夜と『次元の覇者』への歩み

その夜。子爵邸の広大な中庭では、三十五人のファミリア全員が集まり、盛大な「第二店舗・第三店舗開業記念パーティー」が催されていた。


庭園に設置された長テーブルには、容子が腕を振るった特製ハンバーグやチキンソテー、スパゲティ、そして宥子が作った美味しいハーブデザートが所狭しと並べられている。


「容子様、宥子様、乾杯ーっ!!」


全員がジュースや上質な果実酒の入ったグラスを掲げ、夜空に歓声を響かせた。


かつて奴隷として絶望の淵にいた者たち、病や貧困で倒れかけていた家族たち。その全員が、今や世界で最も豊かなファミリアの一員として、最高に誇らしい笑顔を弾けさせている。


「おいしーい! 容子様のハンバーグ、肉汁が溢れて止まりません!」


「お母さん、私、このお店で一生働きたい!」


子供たちが元気に走り回り、白蛇の『紅白』と『赤白』も楽しそうに彼らの頭の上をピョンピョンと跳ね回っていた。


宥子がグラスを手に、容子の隣へと歩み寄ってきた。


「容子……みんな、すっごく良い顔してるねぇ」


「当たり前でしょ。正しい対価と環境を与えれば、人間は最高の成果を出すのよ」


容子は冷たい麦茶を一口含み、遠く夜空に浮かぶ『大錬金術タワー』の尖塔を見つめた。


「容子……私ね、サイエスに来たときは怖くて死にそうだったけど……容子と一緒にここに来られて、みんなと出会えて、本当によかったなって思ってるよ」


宥子が優しく微笑み、容子の肩に頭をちょこんと乗せた。


「……バカね。あんたが原付ごと異世界に落ちた時は、私が一番肝を冷やしたんだから」


容子は宥子の頭を、ポカッと軽く拳で小突いた。


「でも……まあ、悪くないわね。私たちの拠点(アパート若草荘)を維持しながら、この世界で最強の兵站網を築き上げる。……これこそが、私たちの『理』と『縁』の強さよ」


不敬な自称神アーラマンユが企む、陰湿な神力吸い上げ計画。

だが、今の琴陵姉妹と三十五人の『琴陵ファミリア』の前には、どんな絶望も、どんな理不尽も、ただの「構造解析して解体すべき対象」に過ぎなかった。


圧倒的な現代科学、異世界の魔導技術、無限の資金力、そして血よりも濃い『誓約の絆』で結ばれた最強のファミリア。


二人の双子の美味しく、逞しく、そして圧倒的な次元超越ライフは、より巨大な未来へ向かって、どこまでも力強く進んでいくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。