第十一話:地下回廊の陣形と理論的レベリング
王都グランの南西三十キロ、峻険な岩山が連なる『竜の顎山脈』の破れ目に、その大穴は重々しく口を開けていた。
――未攻略大ダンジョン『黒銀の地下神殿』。
古代文明の遺跡が幾層にも重なり、強力な魔物と無数のトラップが蠢くこの危険地帯は、グラン・ルシア王国において「Aランク以上の熟練パーティ以外は立ち入り禁止」と指定されている禁忌の領域だ。
しかし今、その地下第一層の石造りの回廊を、奇妙な一団が整然とした足取りで進んでいた。
先頭を行くのは、漆黒のレザーコートを羽織り、二重属性の魔改造バトルアックスを軽々と肩に担いだSランク冒険者ヴォルグ。
そのすぐ後ろには、黒のスタイリッシュなパンツスーツに身を包み、胸元に『ファミリア徽章』を光らせた容子が、HK416C・魔導極の銃口をローディディで構えている。
さらに、二匹の白蛇『紅白』『赤白』を首元に巻いた宥子、そして自衛戦闘訓練と高階層誓約魔法を修了した『琴陵ファミリア』のメンバー――双子剣士のカイとリク、元錬金助手の少女リザ、元出納係のエリック、そしてドワーフ職人のバルトを含む十名が続いていた。
全員が、服の下に超高分子量ポリエチレン製の軽量防弾ベストを着用し、耳元には骨伝導型の『ファミリア・リンク(高精度インカム)』を装着、腰には小型パルス・ブレイカーと催涙スプレーを完璧に装備している。
「おいおい……マジで全員でダンジョン潜りかよ」
ヴォルグがニヤリと鋭い八重歯を覗かせ、後方のファミリアメンバーを振り返った。
「こんな素人や元奴隷を連れてAランクダンジョンに突っ込むなんて、正気の沙汰じゃねぇぞ、容子嬢。普通の冒険者が見たら目玉飛び出させて腰抜かすぜ」
「素人でも奴隷でもないわ。彼らは私の指導と訓練を修了した『琴陵ファミリア』の戦闘技術員よ」
容子は淡々と歩を進めながら、頭部装着型の透明バイザー(日本から持参したスマートグラスに『構造解析』のAR表示を同期させた特別仕様)の画面を操作した。
「それに、今回のダンジョン遠征の目的はただ一つ。徹底した『レベルアップ(基礎ステータス底上げ)』と、地下に眠る希少な魔導鉱石やドロップ素材の回収よ。無謀な突撃ではなく、完璧な計算に基づく『理論的レベリング』を行うわ」
「り、理論的レベリング……?」
双子剣士の兄カイが、高圧パルス・ブレイカーのグリップを握り直しながらゴクリと唾を呑み込んだ。
「ええ」容子は振り返り、ファミリアの十名を見渡した。「サイエスにおけるレベル上昇のメカニズムは、私の『構造解析』によって解明されているわ。モンスターを殺傷・無力化する際、相手の持つ『魔導生命力』が空間を介して攻撃者およびそのパーティへと還元される」
容子は指先でバイザーの画面をタップし、空気中に透過型の青いシステムウィンドウを展開させた。
「重要なのは、トドメを刺す攻撃のダメージ量や個人の運動量ではなく、『無力化に寄与した貢献度の割合』と『パーティ内のレベル格差による経験値補正』よ。高レベル者が敵の体力を削って完全拘束し、低レベル者が確実に有効打を打ち込むことで、レベル1から一気に数階級上へと跳ね上がる『超高効率レベリング』が可能になるわ」
「す、すごいです……! そんな計算されたレベル上げ、この世界の誰もやったことがありません……!」
元錬金助手の少女リザが、ノートとペンを手に目を輝かせた。
「ふふ〜ん! 容子の計算は完璧なんだからね〜!」
宥子が白蛇たちを撫でながら胸を張った。
『――索敵班カイより各員へ。前方五十メートル、第三空間に動体反応多数。ランクBモンスター『黒銀のガーゴイル』八体、および『迷宮装甲スパイダー』四体』
全員の耳元のインカムから、先行して隠密索敵を行っていたカイのクリアな声が響いた。
「よし、エンゲージ(戦闘開始)よ」
容子は冷徹に口角を上げた。
「ヴォルグさん、前衛でターゲットの足止めと装甲破壊。カイ、リク、側面からパルス・ブレイカーで電撃拘束。リザ、エリック、後方から催涙ガスと粘着ハーブ弾の連続投擲。……目標、敵の体力を十パーセントまで削り、ファミリア全員で同時にトドメを刺すわ!」
「「「了解!!」」」
爆発的経験値と「極限レベリング」
「オラァァァッ!!」
ヴォルグが突撃し、赤竜の結晶で強化された二重属性のバトルアックスを横一文字に振るい抜いた。
ドガァァァンッ!!
紅蓮の炎と紫の雷撃が爆発し、空を舞っていた黒銀のガーゴイル四体の翼が一瞬で叩き折られて石畳へ叩きつけられた。巨体を持つ装甲スパイダーの堅牢な外殻も、ヴォルグの一撃によって蜘蛛の巣状に亀裂が入り、体力を激しく削り取られる。
「今よ! 拘束!」
容子の合図と同時に、双子剣士のカイとリクが影のように滑り出た。
彼らは訓練で培った洗練されたCQB(近接格闘)の足捌きで敵の死角へ回り込むと、膝を突いたガーゴイルの首筋へ、最新型の『昇圧コンデンサ増設型パルス・ブレイカー』の電極を同時に叩きつけた。
バチチチチチチチッ――!!!
「ギガガガガッ!?」
三百万ボルトの超高電圧パルスが石の体躯を駆け巡り、ガーゴイルたちは白目を剥いて完全に麻痺し、指一本動かせない拘束状態へと陥った。
「後方班、粘着弾投擲!」
リザとエリック、そしてドワーフ職人のバルトが、手製のスリングショット(高精度ゴム弾射出器)から、宥子特製の『粘着高分子ハーブ弾』を一斉に放った。
バシュッ! パシッ!
粘液状のハーブ樹脂が爆発的に広がり、装甲スパイダーの無数の足を地表の石畳へ完璧に縫い付けた。
「全機、一斉打撃よ!」
容子の冷徹な号令が下る。
訓練されたファミリアの十名は、一切の躊躇なく、完璧な規律のもとで行動を開始した。
バルトはドワーフ特製の重量ハンマーでスパイダーの脚関節を粉砕し、リザは高濃度アルカリ試薬のボトルを亀裂へ流し込み、子供たちの親である家族たちは高圧スタンガンと催涙スプレーを弱点へ集中照射した。
交戦時間、わずか三十秒。
ランクBの強力な魔物の群れは、完璧な分業体制と高電圧・現代化学兵器の前になす術もなく、全頭が瀕死の無力化状態へと追い込まれていた。
「トドメよ!」
容子の掛け声とともに、ファミリアの全員が同時に弱点への決定打を叩き込んだ。
ドカンッ! バチチッ! パァンッ!
一斉に爆発し、霧となって消え去るモンスターたち。
その瞬間――
空間を満たす眩いばかりの黄金の経験値の光膜が、ファミリアの十名の全身を包み込んだ!
【琴陵ファミリア・戦闘参加メンバーのレベルが一斉に上昇しました】
【リザ:レベル 1 ➔ レベル 18 に上昇!】
【エリック:レベル 1 ➔ レベル 17 に上昇!】
【カイ:レベル 5 ➔ レベル 22 に上昇!】
【リク:レベル 5 ➔ レベル 22 に上昇!】
【バルト:レベル 3 ➔ レベル 20 に上昇!】
【他メンバー全員:レベル 15 以上へ到達!】
「な……なにぃぃぃぃぃっ!?」
ヴォルグが目玉を飛び出させて叫んだ。
「一瞬でレベルが一から二十近くまで跳ね上がっただと……!? オレが何年も死に物狂いでダンジョンに潜って上げてきたレベルを、たった三十秒の戦闘で……!?」
「言ったでしょ、これが『計算された効率的レベリング』よ」
容子は満足げにバイザーの画面を操作し、ステータスの成長曲線を確認した。
レベルが二十近くまで跳ね上がったファミリアのメンバーたちは、自らの全身から溢れ出る圧倒的な身体能力の向上(筋力、敏捷性、耐久力の爆発的強化)に、手を見つめて震えていた。
「力が……身体が軽い……! 目の視界が、昼間のようにくっきりと見えます……!」
「私の魔力量が十倍以上に増えています……! これなら、一度に十本以上のハーブ化粧水を精密調合できます!」
「容子様……! 宥子様……! 私たち、本当に強くなれました……!」
全員が歓喜の声を上げ、容子と宥子の前で膝をついた。
容子は静かに頷いた。
「いい? レベルが上がったからといって過信は禁物よ。この上がったステータスと魔力量を、日々の仕事の精度向上と、さらなる自衛戦闘術の研鑽に使いなさい」
「はいっ!! 容子様!!」
地下階層の連戦と素材の大量回収
効率的なレベリングのノウハウを掴んだ一行は、さらにダンジョンの下層へと足を進めていった。
階層が進むごとに現れるモンスターのランクは上がり、ランクA相当の『漆黒のゴーレム』や『双頭のヒドラ』といった大型魔物が蔓延るエリアへと突入する。
だが、すでに全員がレベル25〜30を超え、完璧な通信インカムによる近接連動術(CQB)と現代兵器を使いこなす『琴陵ファミリア』の前には、もはや恐れるような脅威ではなかった。
バチチチチッ!
「ヒドラの右首、電撃拘束完了!」
「左首の関節へ高圧カプサイシンガス噴射!」
「バルトさん、甲殻の関節部分へハンマーを叩き込んで!」
「おうよ! オラァッ!」
完璧なチームワークによって大型魔物すら数分で無力化され、ドロップした最高級素材――『竜の血』や『古代の魔導甲殻』、そして高純度の『魔導鉱石の原石』が、宥子の『アイテムボックス』へと留まることなく吸い込まれていく。
「容子様! この階層で手に入った『深淵の魔導銀原石』、五十キログラムを超えました!」
エリックがインカム越しに弾んだ声で報告する。
「素晴らしいわ。これで第三店舗のセキュリティ強化と、追加の大型3Dプリンター用の特殊フィラメント生成が余裕で賄えるわね」
ヴォルグも、自分のアックスを軽く肩にポンポンと叩きながら感心しきりだ。
「ハッ、呆れたもんだぜ。Aランクダンジョンが、まるで野菜の収穫場みたいになっちまってんな。だが……このレベル上げのやり方なら、怪我人一人出さずに全員を強者に育て上げられる。文句のつけどころがねぇや」
宥子も白蛇たちを愛おしそうに撫でながら微笑んだ。
「みんな、すごく息が合ってきたねぇ、容子!」
「ええ。単に個人の筋力を鍛えるより、連携と現代兵器のシステム運用を組み合わせた方が、生存率も成長効率も何倍も高いことが実証されたわ」
地下五層の最奥、重厚な石造りの古代大扉の前に到達したところで、容子は全体のバイザー表示とメンバーの疲労度を確認した。
「本日のレベリング目標値は完全に達成されたわ。メンバー全員のレベルが30を超え、希少素材の回収も予定の三倍以上。……これ以上の深入りは疲労による事故のもとよ。これより帰還の途につくわ」
「「「了解!!」」」
成果の還元と「琴陵ファミリア」の躍進
ダンジョン遠征から子爵邸へと帰還した翌日。
王都グランにおける『次元間交易センター』の三店舗は、さらに圧倒的な活気と洗練された営業を見せていた。
レベルが30を超え、高い教養と洗練された気品、そして十分な自衛力を身につけた三十五名の『琴陵ファミリア』。
第一店舗(中央大通り店)では、レベルアップによって処理能力の上がったエリックたちの手で顧客管理と在庫連携が完璧に回され、王都の貴族たちからの大口注文が滞りなく処理されていく。
第二店舗(冒険者&一般市場店)では、バルトやカイたちがダンジョンで回収してきた希少な魔導鉱石や魔物素材を爆速で査定・加工。王都市場における高品質な素材流通の主導権を完全に握りつつあった。
第三店舗(会員制サロン)では、レベルアップによって『ハーブ抽出精度』が格段に向上したリザたちが、貴族婦人や令嬢たちを虜にする至高の空間と施術を提供していた。
「容子様! 本日の三店舗合計純利益……金貨九百枚を突破いたしました!」
エリックが提出した帳簿を見て、ガルドが「我が人生でこれほどの金貨の山を見る日が来ようとは……」と感涙を流していた。
そして、子爵邸の地下工房。
新しく設置された『特大型産業用3Dプリンター』が、ダンジョンから回収してきた高純度の『深淵の魔導銀』をミクロ粉末化して練り込んだ特殊樹脂を吐き出していた。
容子が新しく構築しようとしているもの――
それは、これからさらに拡大する三店舗間の安全な物資輸送と、ファミリア全員の遠距離移動を保障するための、自作の大型多目的車両――【魔導ハイブリッド装甲搬送車】のフレームパーツだった。
「ふふ……これで、王都内だけでなく、隣町の支店や遠方の採掘場へも安全かつ爆速で物資を運べる足が手に入るわね」
容子は完成したフレームパーツを愛おしそうに撫で下ろした。
不当な不敬や理不尽なトラブル、あるいは未知の脅威。
どんな障害が立ち塞がろうとも、今の琴陵容子と宥子、そして強固な絆と圧倒的な能力で結ばれた三十五名の『琴陵ファミリア』の前には、すべての問題がただの「構造解析し、効率的に克服すべき対象」に過ぎなかった。
圧倒的な現代科学、異世界の魔導技術、無限の資金力、そして愛する家族と仲間たち。
二人の双子の美味しく、楽しく、そして圧倒的な次元超越ライフは、どこまでも、どこまでも鮮やかに続いていくのだった。
東京の下町、築四十年・木造アパート『若草荘』の二階。
夜、帰還した容子と宥子は、畳の上で美味しい特製和牛ステーキを突ついていた。
「ふはぁ〜! ダンジョン探検の後のステーキは最高だねぇ、容子!」
「当たり前でしょ。レベルが上がって基礎代謝も増えたんだから、しっかりタンパク質を補給しなさい」
容子は冷たいお茶を飲みながら、ノートパソコンの画面で秋葉原の最新パーツの入荷状況をチェックした。
「さあ、明日は秋葉原で大型インバーターと、車載用ソーラーパネルの追加分を買い込んでくるわよ」
「はーい! 容子、お食後のアイスちょうだい〜!」
「自分で冷凍庫から出しなさい……と言いたいけど、あんたがやるとアイスを床に落とすから私が持ってくるわ」
「やったぁぁぁ!」
理不尽を冷静に計算通りに攻略し、最高の仲間たちとともに歩む二人の双子。
現代科学と異世界魔導を手に、彼女たちの美味しく、楽しく、そして圧倒的な次元超越ライフは、これからもどこまでも永遠に続いていくのだった。




