第二BF:オランシェ 3
「……よし、ここからは指名で行こう。32番の新母達也くん、33番の新母春香ちゃん」
来た。
指名制。
こういうの、絶対やると思った。
大渓さん曰くの「作為」。
で、こいつらも俺は知らない。
外見的にはハナさんの同類。
バカンス満喫の水着にビーサン組。
そいつらが、腕を組んでる。
いや、正確には女の方が男の腕にぶら下がってる感じ。
抱っこちゃんかよ。
「ええーー、もうやるのーーー?」
「やだーー」
声が揃う。
まあ、分かる。
さっきのピンク見た直後だと、普通に嫌だ。
「やだーーつってもやるんだよ! 観念して前に出てきなさい」
逃げ道なし。
スタッフに軽く背中を押されて、二人が前に出る。
「行くよ、春香」
「はぁいたっくん」
……で。
歩き出したらぶら下がりから恋人繋ぎに変わった。
がっちり。
指と指を絡ませて。
「……って、お手てつないで登場とは見せ付けてくれますなーー」
黄石がわざとらしく顔をしかめる。
「新婚なので!」
「アツアツです」
即答。
迷いゼロ。
なんだこの空気。
さっきまでのスライムの不快感、ちょっと上書きされる。
「けっ、けっ! 飯マズなるわ!」
どこからか、やさぐれた声。
振り向くと、双滝さん。
完全に顔が闇に沈んでる。
周囲の空気が冷え込んでる。
怖いんで近寄らんとこ。
「ところでキミたち。新婚旅行、行ってないんだってな?」
「海外行きたかったけど、そんなお金もないんで……」
「ぐるりウルティモを新婚旅行にしようって決めてたんです!」
それは、まあ……
なんというか、奇特な。
こいつらナリタレアでは別々の相手をそれぞれジャンケンで倒してるんだよな。
凄い豪運持ってるな。
でも、新婚夫婦対決はさせなかったんだな。
バラエティでそこまでやっちゃうとドラマより悲愴が勝っちゃうって判断か。
友情破壊は嬉々としてやる番組なのにな。
なんか、こう。
この夫婦に罪なんて全然ないんだけど。
周りみたいなほっこりした空気では見れないわ。
逆恨みみたいなもんだけど。
器小さいね、俺。
「やるなぁ、現実になった!」
「出会いもぐるりなんで」
「五年前のナリタレア予選で意気投合して、三年前に結婚したんだ」
へえ。
そういうパターンもあるのか。
この大会。
勝ち負けだけじゃなくて、そういう線も繋がるんだな。
なんとはなしに。
ほんとうになんとはなしに、衿衣に目をやる。
とても不機嫌そうな顔。
なぜならハナさんが絡んでるから。
ぐいぐい距離詰めて、何か話しかけてる。
衿衣は、露骨に顔を逸らしてる。
時々、舌打ち。
でもハナさん、全然引かない。
すげぇガッツだ。
あれはちょっと真似できない。
で、さらになんとはなしに。
もうハナさんまで見ちゃったから仕方なく白山さんに目をやる。
正座してるモーリー。
足、痺れてるのか、ぴくぴくしてる。
そこに、小悪魔がしゃがみこんで。
「にしし」
とても楽しそうに八重歯を光らせて、足の裏、つついてる。
地味にひどい。
でもちょっと面白い。
いいぞ、もっとやれ。
「昨日からスタッフな。2人が映ってるV無いか必死で探してるぞ。見つかったらこのタイミングで流すから」
「いいですねぇ!」
「やった!」
素直に喜んでる。
……なんか、いいな。
いや、いいのかどうかは分からないけど。
「じゃ、そろそろ跳ぼうか」
「えーーー」
「どっちから行く?」
「レディファーストで」
達也さん、さらっと言う。
「男らしいトコ見せて、たっちゃん!」
春香さん、でれっと言う。
「よーし頑張っちゃうぞー!」
達也さんくるっと掌返しで封筒を選び、問題は15番。
「なんで15番を選んだんだい?」
「春香の誕生日なんで! きっと幸運を運んでくれるから!」
「ほっほー幸せいっぱいだ! 是非ともピンク色の祝福まみれにしてやりたくなってきたぞ」
黄石本当に楽しそう。
「いくぞ問題! 結婚式に夫婦で盃を酌み交わす三々九度。お嫁さんが飲む杯は四杯である ○か×か?」
「やっぱり春香は幸運の女神!」
達也さんはそう叫ぶと迷いなく○ゲートに飛び込んでウレタンマットに抱き留められた。
「達也さん、おめでとう!」
続く春香さんは7番封筒を選択。
「夫に続け、いくぞ――」
「封筒番号の意味は聞かないの?」
「もう惚気には胸やけしちゃったから聞いてやんない!」
挑戦者たちから漏れる笑い。
俺も駄々っ子のような黄石の言い方に思わず乗せられて笑う。
だが。
「妻落ちろ妻落ちろ妻醜態を晒せ……」
ナース双滝さんはずっとこんな感じ。
いつの間にか周りの人が距離を置いて双滝オンリーゾーンが完成していた。
解るよ、怖いもん。
丑の刻参りとかやりそうな感じが。
清楚で小柄な「守ってあげたい」系の女性なのにな。
なんかあったんだろうな、たぶん。
深く考えるのはやめとく。
「ちょっとジュース飲みましょ。冷たいの」
椰子泉さんがさっと間に入る。
双滝さんの肩を軽く叩いて、別方向へ誘導。
慣れてるな、この人。
ああいうのの扱い。
って、気が逸れてた間に。
「妻ーーーーーーーおめでとう!」
どういう問題でどういう経過かわからないけど、○ゲートに飛び込んでいた春香さんもバトルフィールド突破。
「やったあーー、きゃあきゃあ!」
「まだ楽しめる!」
達也さんと春香さん、ぴょんぴょん跳ねてる。
ほんとに新婚旅行だと思ってるな、これ。
「はしゃいでるなぁ……」
思わず漏れる。
悪くはない。
ただ、場所が場所だ。
横では別の誰かが、ピンクにドボンして歓声浴びてるし。
音がごちゃごちゃしてる。
視線を戻す。
敗者席。
もう、十人。
過半数超えた。
減るの、早いな。
「これ、脱落者二十人超えたらどうなるんですかね?」
俺、なんとなく聞く。
「例年だと敗者復活戦やるな」
後さん。
「スライムプールで」
塩湖さん。
「あそこに何か投げ入れて、それを持ってこいって感じで」
「もうみんなやけくそって感じで盛り上がる」
なるほど。
地獄の追加ステージか。
納得したくないけど、納得はできる。
納得は出来るけど……
我が事に置き換えると、やりたない。
ピンク色の亡者の群れに混じりたない。
そういうダサいところ、撮られたない。
でもなぁ……
逃げないって誓ったからなぁ。
もしここで脱落して。
敗者復活戦を目の前にしたら。
挑まなきゃいけないよなぁ。
「さて、キング君のお出ましだ」
大渓さんの声。
前を見る。
ずどーーーんと、黄石を見下ろす威容。
荒火徹童。
「おーい荒火君! 相変わらずでっかいなぁ」
黄石、普通に声かける。
服装には突っ込まない。
もうそういう扱いなんだろうな。
「強いものはデカいと相場は決まっている」
即答。
自信満面、歪みなし。
すげー不遜。
でも、似合ってるのが腹立つ。
「態度もデカいと来たもんだ」
「王には自尊心も必要だ」
くそ。
カッコいい受け答えじゃないか。
外見さえ普通なら。
「王! そういえば荒火君。お前関西でキングって名乗ってるんだって?」
「名乗ってはいない。部下共がそう呼ぶに過ぎん」
「そうだそうだ! 俺たちが敬意をこめてキングと呼称しているだけだ!」
忠臣茂侍、今日も元気。
ブレない。
「成程な、そのふてぶてしさと貫禄。まさにクイズ界の帝王ってわけだ」
「見知り置くと良い」
いや、すごいわ。
この人。
ここまでキャラ作り込んでブレずに演じれるなんて。
……キャラ作りだよな?
キング。
これ、マジ本人の人格がこうなのか、もしかして。
だとしたら、本物を超えてホンマモンだな!
「たっはーー言うねぇ……問題! 地球の爬虫類は卵生だが、異世界の爬虫類には胎生のものもいる」
……え?
いや、ちょっと待て。
それ、どう判断すんの。
「けっこうエグくない、この問題?」
「まず異世界の爬虫類にどんなのがいるのかって話だ」
「ドラゴンって爬虫類?」
「炎の精霊にサラマンダーっているだろ。あれとか爬虫類か?」
周りもざわつく。
そりゃそうだ。
前提がふわっとしてる。
でも。
キングは、迷わない。
問題を聞き終えて、二秒ほど目を瞑り。
目を開いた瞬間走り出した。
ドシン。
ドシン。
砂浜が、ちょっと揺れる。
足跡がくっきり残る。
方向は×ゲート。
一定の遅くて重い足取りで走り抜け……
プールなら腹打ち間違いなしの飛び込み姿勢!
クラッシュして四方に派手に飛び散る発砲スチロールの破片!
ウレタンマットに着地した時の音はポスンやズシャーではなく。
ドグオォーーン!
それ着地音じゃなく衝突音だから!
「正解! おーめでとう!」
で、問題はその後。
キングが飛び込んだ先。
大型マット。
スタッフ四人が、取っ手を持って支えてる。
浮かせてる。
浮かせてた。
受け止めるために。
――が。
ブチブチィ!
嫌な音。
取っ手、二か所。
千切れた。
キングの体重と勢いに、負けた。
マットが傾く。
一瞬、時間が止まる。
……これ、どうなる。




