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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第二BF:オランシェ スライムプールへようこそ! 突撃マルペケクイズ

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第二BF:オランシェ 2


「さあ、スタッフがマルペケゲートを持ってきたぞ」


 スタッフが六人がかりで運んできたのは、単管を上手い事つないだ二つの枠。

 ちょっと大きめの玄関サイズ。

 彼等はそれを並んだスライムプールの手前に設置すると、

 シームレスにペグ打ちして。

 別のスタッフが持ってきた扉サイズの二枚の発泡スチロール板を立て。

 枠にピッタリと嵌め込んだ。


 赤字で大きく描かれた○の壁。

 赤字で大きく描かれた×の壁。


「諸君らは問題を聞いてから10秒以内に、マルかペケを選んであのゲートに飛び込んでもらう。正解ならスタッフがスライムプールに被せたウレタンマットに優しく受け止めて貰えるが。もし不正解なら……」


 黄石はたっぷり間を持たせると。


「どぼーーーん」


 仰向けに掌を開くゼスチャーと共に、擬音のみを口にした。

 今日一の清々しい笑顔で。


「一問正解勝ち抜け、誤答タイムアップは失格。勝ち抜けるのは24名。次の目的地は勇者降臨の地、ステックソン島だ」


「「「「おおーーーっ!」」」」


「じゃ、最初に挑戦したい、勇気のあるヤツは誰だ!!」


「はい!」


「拙僧が!」


「やります!」


 三方向から、ほぼ同時に手が上がる。

 これが開戦の狼煙だ。

 俺?

 俺はもちろん手なんて上げないよ。

 その他大勢の位置に陣取ってまずは観戦モード。


「おっほー、三人もの無謀な若者が……、と。あれーー? なんだか見覚えのあるヤツがいるなぁ……」


 黄石がわざとらしく目を細める。

 視線の先。

 眼鏡で、色黒で、彫りの深めな顔で、妙に姿勢のいい男。


 ……知らない人だな?


「二度目の挑戦になるねぇ垂須くん」


「前の時はスライムに色なんてついてませんでしたけど」


「ウルティモは常に進化し続けるのさ」


 二度目の挑戦?

 なんか因縁背負ってる感じの溌溂社会人だけど……

 やっぱ、全然知らないわ。

 言い訳じゃないけどたった一昼夜で挑戦者50人全員は覚えられないよね。


「なんだか精悍になったなぁ。いっぱしの社会人の顔してるぞ」


「揉まれました」


 短い返答。

 でも、妙に説得力がある。


 たぶん、どっかの会社で普通に働いてる人なんだろう。

 現場に放り込まれて、毎日なにかしら削られて、それでも折れずに立ってる感じ。

 クイ研の連中とは、ちょっと種類の違う熱がある。


「よし、じゃあキミからだ」


「ぅえーーー」


 社会人さんの横で変な声が上がる。

 ああ、やっぱり坊主だ。

 どうしても一番最初に飛び込みたかったんだな。


「似非坊主、やかましい」


 黄石がぴしゃりと切る。


「さあ、何番を持ってくる?」


「9番。乗り越えます。 ……一歩でも前へ!」


 さらっと言ったけど、なんかそれっぽい。

 企業のポスターに書いてありそうなやつ。

 でも、嫌味がないのは、たぶん本気でそう思ってるからだ。


「あっはっは、そうだよなー。いーい選択だ」


 で、なんで9番が乗り越えるで、いい選択なんですかね?

 自分の知らないドラマ目の前で展開されても、なんか困るんですけど。


「いくぞ問題」


 封筒の緒が切られ、問題が読み上げられる。

 俺には、さっぱり分からなかった。

 聞いたことあるような、ないような。

 でも、垂須さんとやらは一度だけ頷くと、もう迷わない。


 走り出した。

 一直線に。


「迷い無くいったぞ、いったぞ、バツへ勢い良く……」


 ×の発泡スチロールの壁に、そのまま突っ込む。

 べこっ、と軽い音。

 その向こう側。

 スライムプールの上に敷かれた、大きなマット。

 勢い余って、前転。

 一回転して、マットの上に着地。


「はい、おめでとう」


「っしゃーーーーーっ!!」


 拳を突き上げて叫ぶ。

 声がでかい。

 なんなら裏返り気味でもある。

 それなのに。

 なんでかダサいとは思えなかった。


 勝利。

 到達。

 歓喜。

 

 ああいう瞬間って、たぶん抑えられない。

 熱いな。

 社会人にしては、って言い方も変だけど。

 クイ研の連中に近い、競技者の温度。

 さっきの「揉まれました」は、たぶんこういう形で出ている。


「じゃ、次はやかましい似非坊主だ」


「ナムサンポ!」


 元気だな。

 朝からフルスロットルだ。


「3番な」


「三番即ち南無三宝(ナムサンポ)! 仏が選べと言っている!」


「あんまり宗教色強いとオンエアできないぞ?」


「拙僧の独断で決め申した!」


「現金なやっちゃなー!」


 テンポがいい。

 もう一種のコントだ。


「アクションスター系肉体派僧侶、羽合悟道! ヨロシク!」


 こいつ、登場の度に名乗るつもりか?

 情報量が多い。


「問題!」


 読み上げの途中で、もう動いてる。

 走ってる。

 低い姿勢。

 そこから……


「あちょーーーっ!」


 なんと見事な跳び蹴り!

 香港産の酔猿ではなくて、米国産の怪鳥を彷彿とさせる鋭いつま先!

 崩れぬ体幹!


「あっはっは、なんだそのとび蹴りは、少林寺かーー?」


 いやあれジークンの方……


「……でも、おめでとう!」


 羽合は○のド真ん中をズバッと蹴りぬいて壁を突破。

 そのままマットに転がり込む。

 勝ち抜け。


 なんだこれ。

 宗教とアクション映画の融合か。

 しっかり魅せられてしまった自分が腹立たしい。


「だははっ! キッス! チークキッスプリーズ!」


 そしてまたレイのお姉さんに絡みついて困らせてる。

 とにかくうるさくてとにかく目立つ。

 どうにもこうにも無視できない存在感だ。 


「よう、待たせたね。最後のキミは…… 炎鳥《ひのとり》君か」


「はい」


 残った一人。

 ひょろっとした体格の、いかにも勉強できそうな顔。

 ふむ。

 炎鳥、ね。

 あの赤門の、クイ研初代会長だとかいう。

 白樫部長曰くのクイズ四天王の一角の。

 四天王とか寺とゲーム以外で初めて聞いたわ。


「へーえ。国立最高偏差値の大学にもクイズ研究会出来たのか。じゃ、初代会長、恥かくなよ?」


「頑張ります!」


 声は素直。

 でも、肩に力が入りすぎてるのが遠目でも分かる。


「何番の札だい?」


「ナンバーワンの1番!」


「順番は三番目だけどな…… 問題!」


 読み上げ。

 さっきと同じ。

 俺では分からない問題。


「きついな、この問題」


「明らかにハズレ設問だね」


 挑戦者たちに走る同情的なざわめき。


「…………」


 炎鳥君、固まる。

 完全に止まってる。


「考えたってわかるわきゃねーべ!」


 黄石が笑いながら煽る。


「…………」


 まだ動かない。

 額に滲む脂汗。


「ほら、カンで行け、カンで。確率二分の一だ、十分な勝率だろ?」


 雑だな。

 でも、間違ってない。


「ああいう問題が出ちゃうところが『ぐるり』だよね」


 横から、大渓さん。

 いつの間にか近くに来てた。

 腕を組んで、半分楽しんでる顔。


「まあ、此処まできたら上出来だ」


 後さんが頷く。


「なんせ二万四千分の四十三だからな」


 塩湖さんも続く。

 数字にすると、改めてえげつない。


「お、最高学府くんが決めたみたいだぞ」


 視線が戻る。

 炎鳥君、顔を歪めてる。


「わかんねー、わかんねー、やってらんねー!!」


 さっきまでの丁寧な口調、どこ行った。


「言葉遣い乱れてんな」


「この珍問ならしょうがない」


 外野は気楽だ。

 俺も含めて。


「ひょろひょろ走って…… はい、どぼーーーん」


 炎鳥が選んだのは×。

 壁の向こう、マットはない。

 そのまま、ピンクの中へ。


 どぼん。


 派手な音と一緒に、スライムが跳ねる。

 周囲から笑いと悲鳴。

 本人は、完全に埋まってる。


 数秒して、もぞっと動いて。

 顔を出す。

 全身、ピンク。

 もやしみたいな体が、見事に染まってる。


 うわー。

 うわー。


「あはははーー、やー。男っぷりが上がったね、ピンクに塗れてワイルドになった!」


 黄石、大喜びだ。


「あーなるのか……」


 誰かがぼそっと言う。

 おそらくは自分がどぼんしてしまうのを想像して。

 まあ、そうなる。

 俺だって問題の引きが悪ければそうなる。


「今年初ドボン! どうだい、スライムの味は?」


 炎鳥君、顔をしかめて。


「……しょっぱい」


 妙に真面目に答えた。


「あはは、そりゃそーだ。だって海水に揉まれた砂浜がベースだもんな!じゃ、炎鳥君は敗者席へ」


 スタッフが誘導する。

 バケツ一杯の真水を顔にぶちまけられる。 

 ピンクの足跡が、砂浜に残る。

 やたら目立つ。

 消えないんだろうな、あれ。

 少なくとも、しばらくは。


 ――で。


 挑戦立候補の三人が終われば、ここから先は恐らく黄石の指名制。

 ナリタレアのジャンケンの時みたいに。

 あるいはブーブーゲートを潜らす順番みたいに。


 どのみち、やがて。

 避けようもなく。

 順番は、回ってくる。


 引く波は嘘みたいに穏やかに砂を洗って。

 しゃあしゃあと小さく鳴っている。


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