第七BF:ヌー 2
チュ、ランラン、デューワーラッ! パン!
ゾンビ、スケルトン、マミーにゴースト。
腕振り腰振り。
ハンドクラップにガニマタ行進。
ビデオクリップ顔負けのグルーヴィーなダンス。
よく見ると、細かいパート分けまでされている。
前列はゾンビで重厚なステップ。
中列はスケルトンで軽快なステップ。
後列のゴーストがふわりと浮かんで、全体に浮遊感を足している。
ミイラたちはその合間でくるくると回転し、包帯がリボンのように舞う。
完全にバックダンサーズだ。
しかも無駄にクオリティが高い。
チュ、ランラン、デューワーラッ! パン!
♪―― おそろし~や~~~~
♪―― 驚き桃の木山椒の木~
そう、世界中で流行した『エンペラー・オブ・ポップス』ことミッチェル・ジェイコブソンの出世作、『おそろしや』。
三年ほどの時を隔てて、異世界に根付いてた。
しかも原曲より若干アレンジが入ってる。
ベースラインが妙に重たい。
ドラムも心臓の鼓動みたいな音に変わってる。
なんだこれ、アンデッド仕様か?
より「死」を濃厚に感じさせるアレンジが仕込まれてる。
なのに、妙にノリがいいのが腹立つ。
チュ、ランラン、デューワーラッ! パン!
骨が鳴る。
包帯がはためく。
ゴーストが一瞬だけ形を濃くする。
そしてサビで一斉に決めポーズ。
黄石がセンターでキメ顔。
……無駄にカッコいいのやめろ。
「オーセンキューセンキュー、ユアダンシングセンキュー」
一通り踊り終わった黄石が、額の汗を大きく拭ってこちらにやって来た。
大雑把過ぎる英語にはいまさら突っ込まない。
「昨晩は諸君、いい夢見れたかい?」
ナイトメア・サービス。
事前の案内から徹底的に俺たちに不安と不信を抱かせてからのそれは、痛烈に俺たちの睡眠時間を裂き、再入眠を妨げた。
黄石主体の企画に違いあるまい。
お前のせいだ。
「うるせー!」「よくもやってくれたな!」「黄石畜生!」
挑戦者から口々飛び出すブーイング。
こればっかりはクイ研も一般人も関係ない。
総挑戦者が被害者だ。
あ、黄石畜生って叫んだのは俺ね。
魂の叫びってやつだ。
背後ではアンデッドダンサーズがまだ余韻で小刻みに揺れてる。
黄石の喋りを盛り立てるように動いてる。
なんだそのプロ意識。
お前らいくらもらったんだ?
「まあまあそういきり立たないでくれたまえ、諸君。ちゃあんとあの悪夢にも意味はあるんだ」
ブーイングの嵐を気持ちよさそうに浴びて、黄石は笑みを深める。
「なー舞網ちゃん。破ってはならない三つの約束ってなんだった?」
「えっとー、夜中に招き入れてはいけないのと、封印を解いてはいけないのと……呼ばれても振り返ってはいけない?」
「よく覚えてたねー。偉いぞ舞網ちゃん」
「えへへ」
「でも三つめはちょっと惜しいな。ありえない通路で振り返ってはならない、だ」
「ありえない?」
「港ヶ陸くんは見たんだろ?」
「他人の体内に入ってしまったかのような、肉色の脈動する……うっぷ」
俺は仄かな腐臭渦巻くヒカリゴケの土回廊だったな。
今思えば黄泉平坂の印象が再現された感じかな?
ともあれ、人によって見え方が違った模様。
「そう。昨日皆に見てもらった悪夢! それが一体いくつ破られたのか!? 夢マイスター先生に採点してもらったぞ!」
「皆さま昨晩ぶりです。夢マイスターでございます」
お前はカイゼル過ぎるヒゲのバンパイア紳士!
後ろでアンデッドダンサーズがぴたりと整列する。
まるで表彰式のバックダンサーみたいに。
なんでそこまで演出にこだわるんだよこの番組。
視聴者の殆どが気づかないところにまで細かく作為を仕込んでくる。
「それでは順に発表していくぞ。まずは約束を全て守り抜いた人!」
そんなやつがいたのか!?
「衿衣ちゃん、荒火くん!」
アンデッドダンサーズたちがスタッフのカンペによって拍手!
ああ、君たちなら納得だ。
我が道を行くツートップだもんな!
俺たちも素直に感嘆を込めて拍手!
「君たちが最優先だ。好きな早押し台の前に行ってくれ」
「わかった」
「よかろう」
衿衣は左の台。荒火は右の台。
真ん中の台は空いている。
その背後でアンデッドたちがリズムに合わせてステップを踏みながらガニマタ待機しているのが地味に怖い。
まだ踊る気かよ。
「ちょっと待って欲しいのだけど」
椰子泉さんが隠し切れぬお怒りを込めてインターセプト。
「私も一つも約束を破ってないわ?」
「マイスター!」
「あなたが破らずとも、あなたの夢に登場した誰かが破ったでしょう?」
「それは……そう、だけど」
「夢に誰が登場するかは夢を見た人の責任。それが夢判定のルールでございます」
「……モーリーめ!」
後ろでモーリーが「えっ?」みたいな顔してる。
絶対関係あるなこれ。
「李野くんさぁ」「李野センパイのせいで!」「やってくれたな李野会員!」
続くクイ研の呪詛。
しまった乗り遅れた!
李野くん。
嬉々として「†SEAL†」をめくったお前の笑顔、忘れないからな。
「身に覚えがありませんぞ!?」
日頃の行い。
「「市籠覚えてろ」」
え?
穂積と垂須さん、なんで俺を睨んでますん?
身に覚えがありませんぞ?
「ここでは自らが破った場合は2ポイント、登場人物が破った場合を1ポイントとして集計しているぞ。次に1ポイントの諸君は……」
俺は合計3ポイント。順位は椰子泉さんと同率八番。
衿衣の後ろのハナさんの後ろを選択した。
友情三連結。
ちなみに三タテを食ったあんぽんたんは二匹いた。
この諸悪の根源どもめ。
「李野くん! モーリー!」
「やはは、知的好奇心が迸ってしまいましてな」
「夢を見せてたモンスターに会わせて!」
前を見る。
三つの早押し台。
その後ろに続く列。
さらにその後ろに、じりじりと距離を詰めてくるアンデッドダンサーズ。
さっきまでの陽気なダンスが嘘みたいに、今はただの追跡者だ。
音楽はまだ流れている。
テンポは同じなのに、意味が変わって聞こえる。
これはもう、BGMじゃない。
心拍数だ。
緊張を煽るための。
「二ポイント勝ち抜け。お手付き誤答は後ろから追ってくるアンデッドの皆さんにタッチしてから戻って来て頂き、自分の列の一番後ろに戻ります。また、誰かに正解されてしまったときは自分の列の一番後ろに下がります。ではいくぞ」
最前列がボタンに手を置く。
背後でアンデッドたちが一斉に前傾姿勢。
音楽が一段階、音圧を上げる。
チュ、ランラン、デューワーラッ!
――来る。
「問題。」
ハンドクラップ。




