第7話 次の出会い 慶応卒、元CA ハイスペックの女 みどり
真理との別れから二週間が経った頃、山城は再び交際クラブの担当者加藤に連絡を入れた。
真理のことは、まだ胸の奥に残っていた。そのカンフル剤として、次の女を求めた。何人かの女性を紹介され、夜も共にしたが、心の穴は埋まらなかった。
ベッドを女性と共にすれば忘れられると思った。だが、なかなかその通りにはいかなかった。もちろん、少しずつストレスは緩和されたが、真理を思い出すことが多かった。
ただ、真理に心残りがあるのは間違いないが、もう一度戻りたいとも思っていない。この感覚をうまく表現できないが、山城は「たぶん、彼女の残像だろう」と感じていた。
男は、目で人を愛することも多い。特にこのクラブの特徴はそうかもしれない。
やはり、目に入り、真理を上回る美しさがなければならない気がした。
そんな山城を加藤は上客と見て、毎日のように新しいリストを送ってくるようになった。
「山城様、今回は少し幅を広げて、何人かご紹介させていただきます」
写真、プロフィール、学歴、職業。画面をスクロールするたびに、次々に女たちの顔が流れていく。
山城は、以前のように恥ずかしさを感じなくなっていた。
最初の頃は、自分の好みを伝えることすら躊躇していた。写真だけで選ぶことに抵抗があった。顔やスリーサイズを基準にするなど、まるで自分の性的な好みをさらけ出すようで、とても恥ずかしかった。
だが、交際クラブとはそういう場所だ。好みを正確に伝えた方が、より良い紹介を受けられる。それが分かってきた。
加藤も、山城の遠慮と趣向を手探りながら分かってきていたが、絞り込みをするまでには至らず、少し幅広にリストを送ってきた。
その中で、山城の目に留まったのが羽鳥みどりだった。
顔は整っていて、可愛らしい。身長は168センチ。スリーサイズもモデルのようで、水着姿の写真では見事なバストが目を引いた。
そして、何より驚いたのは、プロフィールに「慶応大学卒」と学校名が明記されていたことだ。
真理の時も学歴は高かったが、学校名は伏せられていた。付き合ううちに有名国立大学出身だと知ったが、最初から堂々と慶応大学と出しているのは珍しかった。
顔バレを避ける傾向があるこの世界で、これほど情報を出すのは、自信があるのか、それとも何か理由があるのか。
山城はLINEで加藤にリクエストを送った。
「この羽鳥みどりさんに会いたい」
しばらくして、返事が来た。
「承知しました。先方も了承されましたので、日程を調整いたします」
数日後、山城はみどりと会うことになった。
場所は、いつものように少し高級な店を選んだ。真理の後にも何人か紹介を受けていたので、山城は少しずつ手慣れてきていた。
最初の頃は誰にでも敬語で接していたが、今は相手によって変えるようになっていた。年齢、雰囲気、話し方。それに合わせて、自分の言葉遣いも調整する。
そうした表面的な対応は、確かに身についてきていた。
みどりは、時間ぴったりに現れた。
写真で見た通り、顔は可愛らしかった。化粧は薄めで、服装は彼女なりにかなり落ち着かせたつもりだったのだろうが、それでも少し派手だった。ブランドのバッグを持ち、高そうなアクセサリーをいくつもつけている。
「初めまして~、羽鳥みどりです」
声は明るく、笑顔も屈託がない。ただ、その話し方が、語尾を伸ばしてしゃべる、どこかキャバクラっぽかった。
「山城です。よろしく」
山城は軽く手を上げて応じた。
席に着くと、みどりは慣れた様子でメニューを見た。
「わあ、このお店、来たかったんです~。有名ですよね」
「そう? じゃあ、好きなもの頼んで」
「ありがとうございます」
みどりは、山城が思っていたよりも砕けた話し方をした。敬語は使っているが、どこか軽い。真理のような知的な落ち着きはなく、もっと明るく、少し子供っぽい感じがした。
「大学は慶応だったんだよね」
山城が聞くと、みどりは嬉しそうにうなずいた。
「はい! 一応、慶応です」
「一応って、すごいじゃない」
「いやあ、勉強はできたんですけどね~。でも、今はもう全然勉強してないです」
「今は何してるの?」
「今は六本木のラウンジで働いてます」
みどりはあっさりと言った。
「ラウンジ?」
「はい。いわゆる銀座のクラブとキャバクラの中間みたいな感じです。私服で行くクラブっていうか」
山城は、銀座のクラブには行くことがあったが、六本木のラウンジという仕組みは知らなかった。
「お客さんは、どんな人が来るの?」
「いろいろですよ~。景気がいい人もいれば、ハングレみたいな人もいるし。たまに、羽振りがいいなーと思ったら、次に会ったら警察に捕まってましたみたいな人もいます」
みどりは笑いながら言った。
山城は少し驚いた。そんな危ない場所で働いているのか。慶応大学を出て、なぜそんなところにいるのか。
「大学を出てから、ずっとラウンジで働いてたの?」
「いえ、最初はJALに入ってCAしてました」
「航空会社の?」
「はい。英語もできたし、勉強もできたので。CAになりたくて」
彼女がしゃべらず、外見だけであれば、CAというのはとても似合う気がした。
「それで?」
「でも、コロナ禍に突入しちゃって。飛行機飛ばなくなって、CAの仕事があっという間になくなって、会社から弁護士事務所の秘書みたいな仕事に派遣されたんです」
「それは大変だったね」
「全然面白くなくて。それで辞めちゃいました」
「辞めて、ラウンジに?」
「はい。お金も必要だったし、夜の方が稼げるので」
みどりは、まったく恥じる様子もなく、淡々と話した。
山城は、その軽さに少し戸惑った。戸惑いながらも、あっけらかんとしゃべる羽鳥の勢いに乗って、質問した。
「お父さんとしては、慶応大学まで出して、ラウンジで仕事というと、ちょっと残念なんじゃないかなぁ?」
突っ込んだ話だが、彼女は答えた。
「母親には言っていません。父親に話したら、おじいちゃんのお墓に連れていかれて、『おじいちゃんに謝れ』って言われました」
山城は、思わず大きな声で笑ってしまった。
何でも羽鳥のお父さんは山城より少し年上で、先祖代々良い家系のようで、筋を通す人のようだ。
ただ、彼女は意外にも笑わずに、その時のことが頭にフラッシュバックしているかのように、表情を曇らせた。
「本当にいやで、お墓の前のコンクリートで正座して土下座したんですよ」
「マジで、死ぬかと思った」
と本当に不機嫌そうに話した。
山城は笑いを抑えながらも、この女の人間らしさを感じた。真理は、自分の過去を話す時、どこか慎重だった。言葉を選び、相手の反応を見ながら話していた。だが、みどりは違った。隠すこともなく、飾ることもなく、ただ事実を話している。
「じゃあ、今は夜の仕事だけ?」
「そうですね。昼間は基本的に寝てます」
「へえ」
「飲みに行くのが好きなんです。カラオケ行ったり、友達と遊んだり」
「楽しそうだね」
「楽しいですよ~。でも、お金はすぐなくなっちゃいます」
みどりは笑った。
山城は、その笑顔を見ながら、少しずつ彼女の輪郭が見えてきた。
学歴は高い。勉強もできた。だが、堅実に生きるタイプではない。お金を使うのが好きで、夜遊びも好きで、プライドもある。
そして、男を「金」として扱うことに、まったく抵抗がない。
真理とは、まるで違うタイプだ。
真理は計算高かった。言葉を選び、距離を測り、相手を見ていた。だが、みどりはもっとストレートだ。欲しいものは欲しいと言い、楽しいことは楽しいと言う。
その分かりやすさが、山城には新鮮だった。
食事が進むにつれ、みどりはどんどん話し始めた。
「この前、友達とブランドのバッグ買いに行ったんですよ」
「買ったの?」
「買っちゃいました。でも、次の日にはお金なくなってて」
「それは大変だね」
「ほんとですよ~。だから、こうやって山城さんみたいな優しい人に会えると助かります」
みどりは、まっすぐ山城の目を見て言った。
その目には、計算も、遠慮もなかった。
「かわいい」と言われて育ったのだろう。そして、その「かわいい」を武器にして生きてきたのだろう。
山城は、少し笑った。
「正直だね」
「だって、嘘ついても仕方ないじゃないですか」
「そうだね」
「山城さんも、私みたいな子と遊びたいから来てるんでしょ?」
その一言に、山城は少し驚いた。
だが、否定はできなかった。
「まあ、そうだね」
「だったら、お互い分かりやすい方がいいじゃないですか」
みどりは笑った。
山城は、その割り切り方が、どこか心地よかった。
真理の時は、いつも相手の気持ちを探っていた。本心はどうなのか。自分のことをどう思っているのか。
だが、みどりには、そんな探り合いがない。
彼女は金が欲しい。山城は若い女と遊びたい。それだけだ。
山城は、そう思い込みたかった。
食事が終わる頃、山城は聞いた。
「このあと、どうする?」
みどりは少し考えるふりをして、すぐに答えた。
「ホテル、行きます?」
「いいの?」
「いいですよ~。山城さん、優しそうだし」
山城は「優しい」という女性の言葉にはもう慣れていた。
優しそうだから、ホテルに行く。
それは褒め言葉なのか、それとも都合がいいと思われているのか。
だが、山城は深く考えるのをやめた。
今夜は、こういう夜でいい。
二人はホテルへ向かった。
部屋に入ってもみどりは変わらず、よくしゃべっていた。
「シャワー、浴びてきますね」
「うん」
みどりがバスルームに入ると、山城はベッドに腰を下ろした。




