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殺せない殺し屋は、殺せる少女を護りたい。  作者: 暁月 愛結


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1/3

プロローグ 暗闇の邂逅

 遠くで、車の走り去る音がした。

 それが消えると、辺りは嘘みたいに静かになる。

 街灯の明かりが届かない路地裏は、夜闇に溶けるみたいに暗くて。足音ひとつで、この静寂が壊れてしまいそうだった。

 そんな路地裏を覗く人影がひとつ。

 黒パーカーを羽織り、中には着崩した白いカッターシャツを身に纏っている。

 冷たい空気を漂わせた少女ーー守永優絃もりながゆづるは、若手の殺し屋だ。


 ーーでも、まだ人を殺したことはない。


 今夜のターゲットは、優絃と同い年の少女。

 写真で見せられた印象的には、清楚で物腰の柔らかそうな、普通の女の子だった。


(なんで、こんな子がターゲットに?)


 なぜ命を狙われているのか、分からない。

 大抵のターゲットというのは、極悪人だったり、誰かから恨みを買っていたり。

 風貌もどこか悪人然としている者ばかりだ。

 それなのに。


(まぁでも、あたしには関係ない……か)


 自分はただ、依頼をこなすだけの駒だ。

 そう自分言い聞かせて、表からそっと、路地裏の様子を覗く。月明かりが薄っすらと差し込む暗闇の中に、ぼんやりと人影が見えた。


(見えた、ターゲットだ)


 ホルスターから愛用の銃を取り出す。安全装置を外して、引き金に指をかける。

 バクバクとうるさい心臓を抑え込むように深呼吸して、物陰から銃を構えた。


(いつも通りやれば、大丈夫ーー)


 震える手に気付かないふりをして、急所を"外す"位置に狙いを定めたーーそのときだった。


 ザンッ!


 ターゲットがいる位置のすぐそば。塀の上から、別の影が飛びかかった。


(……は? なんで⁉︎)


 月明かりに照らされたその一瞬、その人影の右手に、ナイフが握られているのが見えた。


(あたし以外にも、刺客がいた⁉︎)


 なぜ狙われているかとか。

 先を越されてしまうとか。

 一瞬、そんな考えが浮かんだけれどーー。


(それよりーーあの子が危ない!)


 視線の先。飛びかかった刺客が、ターゲットの目前まで迫っているのが見えて。


「くっ……」


 迷わず、その場から駆け出す。

 銃口を、刺客へと向けた。引き金にかけた指先に、力を込めようとした。

 その瞬間。


 ーーぶしゅっ‼︎


 何かの噴き出す音が、耳の奥に届いた。

 思わず、優絃の足が止まる。

 銃を構えたまま、動けなくなる。

 その直後、遅れて、どさり、と重たいものが地面に落ちる音がした。


「……え?」


 視界の中で、飛びかかったはずの刺客が、力なく崩れ落ちていく様子が、スローモーションのように見えて。

 その体が地面に叩きつけられ、ぴくりとも動かなくなった。

 ほんの一瞬。

 何が起きたのか、理解が追いつかなかった。

 その場にまた、静寂が戻ってくる。

 さっきまでの緊張が嘘みたいに、辺りはシン、と静まり返っていた。

 そのときーー

 雲の隙間から、月明かりが差し込んできた。

 薄ぼんやりした淡い光が、暗い路地裏を照らした。

 そして、その中心に立つ"ターゲット"の姿を、はっきりと浮かび上がらせる。

 細身の体躯に、純白のワンピース。

 ……のはずだった。

 けれど、それはもう、白ではなかった。

 純白だったはずのそれは、鮮やかで粘着質な赤に染まっている。


 ぽたり、と。


 その裾から、血が滴り落ちた。

 月を見上げた少女ターゲットは、ゆっくりと目を細めた。

 そしてーーまるで何事もなかったかのように、柔らかく微笑んだ。

 その手には、ナイフが握られている。

 月明かりに照らされて、ギラリと光る刃には、べっとりと血が付着していた。

 少女はそれを、軽く振る。


 シュッ、と。


 血が弧を描いて、地面に散った。

 その仕草には、一切の躊躇いも、嫌悪もなかった。呼吸すら、乱れていない。

 まるで、それが当たり前の動作であるかのように、滑らかな動きだった。


「……そこにも、誰かいますよね?」


「っ……!」


 突然の声に、心臓が跳ねる。

 視線がスッと、こちらへ向いた。

 月明かりだけが頼りの暗闇の中でも分かる。

 その目は、優しげな見た目とは裏腹に、冷たく凍えていた。

 少女が、ゆっくりとナイフを構える。


「あなたも、わたしを殺しに来たんですか?」


 鈴を転がすような、静かな声だった。

 けれど、その奥にあるものは、まったく違うように感じられて。

 逃げ道を塞ぐような、強い意志を持った声。


「それじゃあーー」


 少女が一歩、こちらへ踏み出す。


「……殺しますね?」


 刹那、空気が張り詰める。

 優絃は、反射的に銃を握り直した。

 けれどーー

 引き金にかけた指先が、震えている。


(……なんで)


 氷のように冷たい。

 指先も、思考も、全部が冷えていく。


(あたしが、殺す側のはずなのに)


 これは恐怖か? 絶望か?

 目の前の少女から、目が逸らせない。


(なんで、あいつの方がーー)


 喉の奥が、ひくりと鳴る。

 言葉にならない声が、内側で渦を巻いて。

 ようやく、状況が理解できた。


(ーー殺し慣れてるんだよ)

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― 新着の感想 ―
Xでお見かけして読みに来ました え?どういうこと?って思わず声が出る始まりですね…… 何が起こったのか、そしてターゲットのほうが上手? これめっちゃ先が気になるというか、どんな展開なのかめっちゃ読みた…
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