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最強の《土魔法》使いの少年――バレると面倒なのでレベル1ポーターを演じてます  作者: 猫野 にくきゅう


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第55話 英雄の凱旋と王国の援軍

 インフェルノ・ドラゴンの脅威を上回る古代ゴーレムが爆発四散し、クレセント領に衝撃波が駆け抜けた。


 だが、戦いはまだ終わっていない。  


「――今だ! ゴーレムさえいなくなれば、残りはただの人間だ! 名誉挽回するぞ!」  


 くすんだ赤毛を揺らし、Bランクパーティ『赤き流星』のリーダー、マルスが叫んだ。彼は先のダンジョンでの屈辱を晴らすべく、町になだれ込もうとする帝国地上軍の残党に斬りかかった。  


 しかし、リゼルド帝国の精鋭たちは、彼個人の武勇でどうにかなる相手ではなかった。帝国兵の盾にマルスの剣撃は弾かれ、反動で無様に土を噛むこととなった。  


「ぐあぁっ!? くっ、俺の剣が通用しない……!」  


 マルスが絶望に顔を歪めたその時、戦場に紅蓮の閃光が走った。


「そこまでだ、帝国の狗ども! ――我が魔剣の錆になれ!」  


 アリアの声が轟く。

 アリア、ルナ、フィーナの三人が、戦場の中央に降臨した。  


 ここからは蹂躙だった。  


 フィーナが展開した《エリア・プロテクション》が帝国軍の魔導弾を紙屑のように弾き、ルナの《サンダー・ストーム》が敵の魔導障壁を過負荷で焼き切る。  


「《紅蓮・終焉ノ太刀》!!」  


 アリアの放った極大の斬撃が、帝国軍の陣形を物理的に両断した。

 Sランクとしての誇りを取り戻した彼女たちの攻撃に、帝国兵たちは戦意を喪失し、次々と武器を捨てて地面に膝をついた。  


「総員、捕縛しろ! 一人も逃がすな!」  


 アリアのリーダーらしい凛とした号令により、帝国地上軍は一人残らず無力化された。



 **


 町の人々や冒険者たちが勝利の歓声を上げる中、視線はある一点に集中した。  


 町の外壁付近に静止している、漆黒の巨大なゴーレム。

 ジャガーの古代兵器を撃破した、あの謎の機体だ。  


「……あのゴーレムは一体、何者なんだ?」  


 アリアが不審そうに機体を見上げる。

 ルナもアメジストの瞳を細め、その未知の魔力組成を解析しようと歩み寄る。  


(……さて、ここが正念場だな)  

 

 操縦席でセレスティーナと密着していた俺、ユキは、自身の精神を地脈へと深く沈めた。俺が起動させるのは、レベル1617のステータスに裏打ちされた神話級の権能。《神をも欺く偽装パーフェクトフェイク:レベル1890》。  


 俺は町にいる数千人の人間、そしてアリアたちの脳内にある「記憶の空白」に、最も都合の良い「偽りの真実」を流し込んだ。


 (――この黒いゴーレムは、フェルゼン王国が秘密裏に開発していた新型の魔導兵器だ。この危急に際し、王都からの隠密援軍として派遣された。作戦を終えた彼らは、既に転送魔法陣で帰還した……)


 認識の汚染が、波紋のように広がっていく。  


「ああ……そうか。王都からの援軍だったのか!」  

「流石はフェルゼン王国だ。我々を見捨ててはいなかったんだな!」  


 町の人々が口々に納得の声を上げる。

 ルナの鋭い知性さえも、俺が植え付けた「王国の秘密兵器」という結論を唯一の正解として受け入れ、解析を中断した。


 漆黒のゴーレムが、森の中へと消える。  


 俺は何食わぬ顔で地下遺跡の転移陣からセレスティーナを別荘へ送り届けると、再び「レベル1のポーター」の仮面を被り、ハウスへと戻った。


「ユキーーーッ!! 無事だったか!」  


 アリアが俺を見つけるなり、ススだらけの顔で抱きついてきた。鎧の冷たさと彼女の熱い体温が混ざり合い、戦乙女特有の香りが鼻をくすぐる。  


「はい、アリアさん。……王国の援軍が来てくれるなんて、本当に良かったですね」  


「ああ! 王国の助太刀に感謝だ! それにしても腹が減った! 今日は最高に美味いシチューを作ってくれよ!」  


 アリアたちは自分たちが実力で勝利を掴み、幸運にも国に救われたと信じて疑わなかった。


 最強の力を「王国の援軍」という名の物語で隠し通す。  

 亡国の王子の贅沢で不自由な「平穏」を守るための戦いは、今日も完璧な情報操作と共に幕を閉じた。

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