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最強の《土魔法》使いの少年――バレると面倒なのでレベル1ポーターを演じてます  作者: 猫野 にくきゅう


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第48話 古代遺跡の探検

 地下四百メートル。


 世界の呼吸から切り離された地下遺跡の広間には、数千年の時を止めたままの冷気が停滞していた。  


 俺、ユキは、亡国の王子としての慎重さを崩さず、足裏から絶えず《土魔法:広域探知ソナー》を走らせていた。


 半径百メートル。


 自動迎撃用の罠も存在しない。

 ここは既に、持ち主不在の「空白」だった。


「……さて。物件の下見といこうか」


 俺は「レベル1のポーター」という仮面を一時的に脳内の奥に追いやり、レベル1617のステータスがもたらす膨大な魔力を解放した。


 指先から放たれた極小の光子が遺跡の壁を舐めるように進み、精緻な石造りの構造を照らし出していく。  


 広間には、大昔この遺跡で暮らしていた者たちが生活していた痕跡がわずかにあった。


 俺が求めていたものは、遺跡のさらに奥、厳重に封印されていた区画にあった。  

 分厚い石扉を《土魔法:分子構造再構築》で透過して潜入すると、そこは巨大な円筒状の格納庫だった。


 中央に鎮座していたのは、高さ十メートルを超える、石と未知の金属で組み上げられた「巨人」だった。


「……古代ゴーレム。それも、完全な予備機か」


 それは、帝国が起動させ利用しているものと同型の古代兵器だ。

 だが、目の前の機体は、動力源である魔導コアが空のまま、悠久の眠りについていた。  


 俺は巨人の脚部にそっと手を触れた。


(《土魔法:内部構造精密解析マテリアル・スキャン》)


 瞬間、俺の魔力が神経系となってゴーレムの全身を駆け巡った。

 レベルアップにより万能化した俺の知性は、本来なら数年かかる古代文字の解析をコンマ数秒で終わらせ、この兵器の「設計図」を脳内に完璧に描き出した。  


 魔力の伝達経路。関節部のトルク配分。

 そして、装甲の内側に隠された、反魔法陣の脆弱性。


「……帝国は、無理やり魔力を流して動かしているようだが……。それでは本来の性能の三割も出ない上に、寿命を縮めるだけだ」


 俺はため息をついた。

 帝国の技術者たちは、この芸術的な古代技術を、単なる「硬い石像」程度にしか扱っていなかった。  


 だが、俺の視点は違う。

 このゴーレムの「骨組み」は完璧だ。


 足りないのは、それを制御する論理ロジックと、効率的な動力供給だ。


(……いいな、これ。いっそ、俺が魔改造してやろうか)


 俺は無意識に、職人としての、あるいは少年としての「こだわり」を膨らませていた。  


 ダイヤモンドと同等の硬度を持つ超高密度炭素ダイヤモンドランスの術式を装甲に練り込み、地脈から直接エネルギーを引き上げる循環回路を作れば、帝国の機体など一撃で粉砕できる。  


 さらに、操縦席はもっと快適であるべきだ。


 セバスたちに最高級の羽毛を用意させよう。フカフカのソファのような居住性を持たせれば、俺もリラックスして搭乗できるだろう。  


 俺の「平穏なスローライフ」へのこだわりが、古代兵器を「快適な移動拠点」へと定義し直そうとしていた。


 俺はゴーレムの解析を終え、さらに遺跡の奥へと進んだ。  


 そこには、床に巨大な幾何学模様が刻まれた「祭壇」があった。

 ルナが見れば狂喜乱舞するであろう、極めて高度な空間転移の術式だ。


「……転移魔法陣か」


 俺は膝をつき、術式の末端に魔力を流し込んだ。  


 読み取れる座標は――クレセント辺境伯領の「街外れの森」に隠された、受信用の魔導門ゲートだ。

 

 さらに、上位権限があれば、他のゲートへの移動も可能になる。


「なるほど。これで地上と地下を行き来していたわけだ」


 俺は魔法陣の術式を書き換え、俺の魔力にしか反応しないようにロックをかけた。これで、この遺跡は俺の許可なくしては何者も入れない「絶対的な秘密基地」となった。


(……よし。これで、避難場所の確保はできた)


 俺は一息つくと、窓一つない地下空間から地上へと意識を向けた。  


 お姉さんたちが起きていれば、ハウスで「ユキがいない!」と騒ぎだすだろう。

 アリアは俺を「守るべき弱者」として心配し、フィーナは「お姉さんがついています」とハーブティーを淹れ、ルナは「ごはん~」と俺の袖を掴むはず。  


 彼女たちは、自分たちが信じている「ポーターのユキ」が、今この瞬間、世界の均衡を壊しかねない古代兵器を自室のおもちゃのように弄んでいるとは、夢にも思っていない。


「……さて。早く帰ってシチューの仕込みをしないと。朝食はルナさんの好きな、糖分の高い根菜を多めに入れよう」


 俺は《土流転移》を発動させ、地下の闇からハウスの近くへと身体を滑り込ませた。


 亡国の王子の、贅沢で不自由な「平穏」を守るための準備は、誰に知られることもなく、完璧に完了した。  


 地上では、帝国による破滅の足音が刻一刻と近づいていることも知らず、俺はポーターのリュックを背負い直して、馴染みのあるハウスの玄関へと歩み出した。

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