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ようこそ!異世界ペンション・アイリスへ~ペンションとともに異世界転移したら、いつの間にか伝説のドラゴンを倒していました~  作者: 西園寺紗夜


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1.いよいよオープン!……からの悲劇

新連載です!

楽しんでいただけると幸いです!

赤い屋根の可愛らしい2階建ての外観。


中古だとは思えないくらい清潔感があって見映えがよい。


玄関の横には『ペンション・アイリス』と看板が立てられ、自然と目が輝いていく。


「ついに……ついにッ!今日から、私がオーナーだぁ!」


幸い朝も早い時間だったので、ペンションの前で万歳三唱している私を奇異の目で見る人はいなかった。


いそいそと扉を開け、スリッパに履き替えると、改装した家特有の木の匂いが鼻を擽る。


玄関を上がると、すぐにフロントと談話室があり、1階には他にも、食堂、さらに浴室が2つもあって、男女で分けて使うことができる。


2階には、客室が5部屋、最大10名が宿泊できる。


まあ、もちろん最初からフル稼働する予定はないけど。


内装は白を基調として、清潔感を残しながらもアットホームな雰囲気にリフォームしたし。


インテリアは、デザイナーとして活躍している先輩に後輩価格で相談に乗っていただき、ついでにお財布とも相談しながら、何軒もお店をはしごして買い集めた。


「思い返せば、OLやりながら調理師免許やら食品衛生責任者やらその他諸々の資格を取ったり、ペンション経営のセミナーに通ったり……我ながらよく頑張ったよ、自分」


ここまでの準備や苦労を思い返しながら、早速オープンに向けて準備を進めた。



私、本城あやめは30歳手前でOLを辞め、この度念願のペンションのオーナーになることができました!


場所は自然に囲まれた長閑な山間部だ。


といっても極端に人里から離れている訳でもなく、夏は登山やキャンプ、冬はスキーで賑わう観光地から車で20分以内の場所に建っている。


オープンまでいよいよ半年を切っていた。


地元の方や周囲のお店に挨拶回りをしたり、設備やアメニティのチェックをしたり、しかも本格的なオープンの前には両親や友人を招待して、テスト稼働に協力してもらったりと、山ほどやることがある。


そう言う訳で、私は連日泊まり込みで準備に没頭していた。





「明日はいよいよオープン初日だって言うのに、本当によく降るわね……」


勢いよく窓ガラスを叩く雨粒を恨めしげに見ながら、私は談話室でメニューの最終チェックをしていた。


ちょうど1ヶ月前に行ったプレオープンでは、両親にも友人達からも忌憚ないご意見を頂きつつ、それでもチェックアウトした時には、


『オープンしたら絶対に泊まりに行くから!』


とみんなに満足してもらえて、本当に嬉しかった。


ちょうど世間ではインバウンド需要が増大していて、有難いことにオープン初日からしっかり予約を獲得することができ、まさに幸先の良いスタートだった。


―――この雨さえなければ。


「止んだと思ったらすぐにまた降り出すし。これで3日目よ?」


台風が来ている訳でないのに、とボヤいていると、



―――ピピピッ


「ん?」


カバンに入れっぱなしのスマホが鳴り出した。


「もしもし。お母さん、どうしたの?」


『明日からオープンでしょ、大丈夫そう?』


「準備は万全なんだけど、天気がちょっとね……」


もう一度窓の外を見ても、雨は一向に止みそうにない。


「まあでも天気予報では明日から晴れるっていうし、せっかく予約を入れてくれたお客さんのためにも、頑張って乗り切るよ!」


『そうね。このために今まで頑張っていたし、この間のプレオープンもとても良かったから。しっかりやりなさいよ!』


「はぁい!」


温かい激励の言葉に、雨にもめげず気合を入れ直した―――


その時だった。



ゴゴゴッ―――!



突然、轟音が鳴り響いた。


「な、なにっ?!」


『あやめ?急に、どうしたの?!』


「お、お母さッ―――


会話できたのはそこまでだった。


ガッシャ―――ン!


物凄い勢いと質量のナニカがペンションにぶつかり、その衝撃で私は立っていることもできず、そのまま床に倒れ込んでしまった。


『あやめ?!あやめッ!』


いつの間にか放り出されていたスマホからは、母の焦った声が漏れ聞こえてくる。


「お、お母さ、ん……ッ!」


そこで部屋の中が真っ暗になり、スマホからの声も途絶えてしまった―――




―――パッ!


「え……つ、点いた?!」


永遠に続くかのような地鳴りが止んだと思ったら、再び照明が点き、談話室もフロントも何事もなかったかのように明るくなった。


恐る恐る立ち上がり、部屋の中を見渡す。


あれだけペンション全体が揺れていたというのに、不思議なことに倒れた家具も壊れたインテリアも見当たらなかった。


「いったい、何が……そうだ、スマホッ!」


直前まで母親と話していたのを思い出し、慌てて拾い上げた。


「あ、あれ……おかしいな?」


電源ボタンを何度長押ししても、電源が全く入ってくれない。


「さっきの衝撃で、壊れちゃった?!」


(最悪だ……さっきまでお母さんと電話していたのに……!)


「そうだッ!」


今度はフロントに走る。


このペンションにはちゃんと固定電話も繋げているのだ。


実家の電話番号なら空で覚えている。


急いで受話器を耳に当てて番号を押そうとし、そこで気がついた。


「あれ……ひょっとして、繋がってない?!」


この固定電話の場合、受話器を耳に当てれば『ツーツー』という発信音が聞こえるはずなのに、その音が全く聞こえない。


番号を押してみても、『ピッ』とも『パッ』とも鳴らない。


「ダメだ……どうしよう」


その後、パソコンも起動してみようとしたけど、そもそも電源すら入らず。


談話室に置いてあったテレビをつけようとしても、こちらも何度スイッチを入れても画面には何も映らず。


そして極めつけは、


「なんで外がこんなに真っ暗なの……」


確かに今日はずっと雨で外は薄暗かった。


でも、窓の外が全く何も見えないほど暗かった訳ではないし、まだ夕方ですらなかったのに。


今の窓の外には、一筋の光も射さない程の暗闇が広がっている。


「さっきの轟音と地鳴り……ひょっとして……土砂崩れに巻き込まれたの?」


そうだとしたら、電話やネットが繋がらないのも頷けるし、窓の外が何も見えないのも、このペンションが土砂の下に埋もれてしまったからーーー


「そんな……せっかく明日はオープンだっていうのに!」


あんまりな事態にヘナヘナとその場に座り込んでしまった。


思わず涙がこぼれそうになるが、


「いや、泣いたって何も変わらないし。無駄に体力使うだけよ」


と寸でで我慢した。


「不幸中の幸いで電気はまだ使えるし、明日に備えていたから食料なら十分すぎるくらい備蓄がある……!」


無理やり気持ちを奮い立たせて、再び立ち上がった。


「救助が来るまで絶対に生き残らないと!とりあえず、ペンションの中を点検して、壊れているところがないか確認しよう!」


こうして、私の生き埋めサバイバルが始まった。


といっても、土砂が直撃した割には建物の中はどこも破損した箇所はなく、2階の客室も驚くほど綺麗なままだった。


しかも電気だけでなく水道もちゃんと使えるらしく、蛇口からはいつも通りのキレイな水が出てきて、トイレも逆流することなく水を流すことができた。


ただガスが漏れて火事になったら怖かったので、ガスコンロを試す勇気はなかったけど。


それから、不思議なことがもう一つ。


談話室には壁掛け時計がある。


ペンションの雰囲気に合わせて買ったシンプルだけどオシャレで、当たり前だけど普通の時計……のはずだった。


形は元々の時計と同じ円形だ。


だけど私が知っている時計とは全く違うものになっていた。


まず、短針と長針、2本の針があったはずなのに、なぜか短針が跡形もなく消えていて、長針だけが残されており、ついでに『1』〜『12』までの数字も綺麗さっぱり無くなっていて、代わりに、上半分が太陽、下半分が月の絵が描かれていた。


それだけではない。


『12』と『6』の文字がどちらも『90』に、『9』の代わりに上半分だけの半円が、『3』の数字の代わりに下半分だけの半円がそれぞれ描かれ、さらに、『10』と『11』、『4』と『5』の位置の間には『45』という数字に、『1』と『2』、『7』と『8』の位置の間には『135』という数字に置き換わっていた。


元の時計なら『9』と『10』の間を差しているであろう長針を凝視する。


「……なにがどうなったら、こんな摩訶不思議な時計……いやこれ時計なの?」


ふと、新卒の時から愛用していた腕時計に目を落とすと、


「……うわあ」


なんと、こちらの文字盤と針も同じように変身していた。


手首にマジマジと目を落としていた時だった。


―――ドンドンドンッ!


玄関のドアが叩かれ、ハッと顔を上げる。


「ひょ、ひょっとしてッ?!」


大慌てで玄関に走り、そのままの勢いでドアノブにしがみついた。


「ここです!ここにいます!今すぐ開けますからッ!」


慌てすぎて鍵を開けるのにもたついてしまうが、ガチャガチャしながらようやく扉を開けた。


「助かっ……!」


目の前にいたのは、屈強なレスキュー隊員……ではなく―――


「……え?」


「たっ……たすけ、て……」


目の前にいたのは、どう見ても小さな子供、であり。


見るからに薄汚れて、体中傷だらけで。


極めつけは―――なぜか頭に犬のような三角の白い耳が一対、そしてお尻にもなぜか白い尻尾を付けていたのだった。

読んで下さり、ありがとうございます!

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