亡き王女の為の……
皆の視線がエフレシアに注がれる。
以前の姿の時は「平凡」「ブス」と目だけで格付けされていたのに、今は綺麗なものを見るようなキラキラした目を向けている。流石に分かりやすい。やはり人間は見た目が大事なんだと痛感してしまうな。
「……本当に、エフレシアなのか……?」
団長が探るように聞いた。
エフレシアは軽いステップでも踏むかの様にタン、タン、と団長の元まで跳ねていき、そしてそのまま耳元で囁く。
それは、国王とエフレシアしか知らない団長の秘密。
「……そうか」
謂わば合言葉の様なもの。
教えてくれておいて良かったと安堵した。
「エフレシアなんだな。信じるよ」
「有難う御座います、団長さん」
この場で一番、信頼に長ける人物に認められれば後はこっちのもんだ。
「あの胡散臭い魔術師が話した事は事実です。あたしは、エヴェイル王国の巫女、エフレシア。《ラスティマーレの祝祭》を使える最後の能力者です」
改めて自己紹介だ。
それを聞いた瞬間、場内はざわつき始めた。
今の生徒達ですら知っている、遥か昔に滅びた王国。
「エフレシア……」
団長が心配そうな表情を向ける。
過去を知っている唯一の存在だからこそ、周りの反応に敏感になってしまうのだ。
「エヴェイル王国って……確か授業で習った……」
「あぁ……。一夜で滅んだ美しい王国だって」
遅れてきたリーシャとアドニスも話を聞いて、まさかという心境だった。
「……いやいや……有り得ないって……。エフレシアがその国の巫女って……」
「信じるしかないんじゃないか?団長は受け入れているし、何より本人からの証言だ。偽る理由も無いだろう?」
動揺するリーシャに対し、アドニスは落ち着いていた。
「……じゃあ、なに……?エフレシアって人間じゃないの?」
「……不老不死とか?」
「そうだよ、アドニス」
二人の会話に気付いたのか、エフレシアが肯定してきた。
アドニスとリーシャは初めて見るエフレシアの本来の姿に一瞬見惚れてしまった。
「エヴェイル王国は、2000年前に滅んだ。あたしの所為でね。まだ未熟だったにも関わらず、あたしは《ラスティマーレの祝祭》を使ってしまった……。その代償が今のあたしだよ。死ぬ事も無く、朽ちる事も無く、ずっとあの姿で生きてきた。今日まで」
淡々と話すエフレシアに皆はただ呆然と聞いていた。
「ずっとって……2000年もの間……?ずっと……?」
「そうだよ。まぁ、一人じゃ無かったから孤独ではなかったけど。色んな人達に出会って色んな事を知ったよ。本当の年齢だとルフラと同い年かな?」
「そうだねぇ。オレの方が長生きかな」
「あらそう。魔術師も大変だね」
「面白いよ、色々と」
ルフラは楽しげに笑みを零す。
「そう?じゃあ、これからもっと面白くなるよ」
言いながらエフレシアは腰からサーベルを抜き、ルフラに突き付けた。
「……早速、戦う気?」
「貴方をギッタギタに殴り倒して、学園祭を満喫する」
「わぁ……。素敵な考え。なら、ちゃんと相手になろうかな」
ルフラは団長が身に付けていた剣を一つ、手も使わずに視線だけで自分の元に引き寄せた。まるで、元からルフラの剣だったかのように彼が手にするととてもしっくりきていた。
「お手柔らかにね」
エフレシアは頷きもせず、ルフラに向かっていった。
正面からの攻撃。ルフラは笑みを絶やさずに受け止める。
流石は団長の剣。どんなに強く打ち合った所でびくともしない。
対して此方は一時的な武器にしかならない。
それでも、エフレシアはルフラの急所を撃ちに行く。
避けるルフラは余裕綽々だ。次の攻撃が解っているかのような動きをしている。
「その武器じゃ、戦い難いんじゃない?」
「本当にね。剣なんて必要無いと思ってたから」
ルフラの剣を握る手首を狙いに行きながら厭味ったらしく呟く。
だが、視線を悟られたらしく軽々と避けられてしまった。
「腹立つ……」
「そんな弱かったっけ?」
「……本当、腹立つな」
サーベルを握り直し、構えたルフラの後ろに素早く回り込んで手刀を食らわそうとした。けれどこれも見抜かれ、逆に後ろ蹴りを噛まされてしまった。
エフレシアは壁に激突し、背中を強く打った。
「エフレシア……!」
「クロエ」
加勢に入ろうとしたクロエを団長が止める。
第三者が関わっていい戦いではない事はクロエも解っている。それでも、エフレシアが傷付く姿は目に毒だった。
「団長が助けに入らないという事は、これ位じゃキミには効かないって事でしょ?」
「……あぁ、そうかもね……」
イライラしているからか、声がいつもより低く出た。
「次はオレから行くよ」
憎たらしい笑みを灯した後、ルフラはまだ立ち上がれてないエフレシアに向かっていった。
間一髪、数秒までそこにエフレシアの首があった箇所に剣先が突き刺さった。
数ミリ単位の攻撃。エフレシアが避ける事を想定してか、ルフラは「上手だね」と柔らかな声で褒めた。
「キミを殺して《ラスティマーレの祝祭》を貰う」
随分とこだわりが強いものだ。
こんな能力、手にした所で何の価値も無いと言うのに。
でもそれはルフラも承知の上だ。
復讐だけが狙いではないのだろう。
「やってみろよ、似非魔術師!」
その言葉にルフラの表情から笑みが消えた。




