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正体②

学園ライム祭、二日目。

エフレシア(に姿を変えているルフラ)は迎えに来た団長と軽く挨拶を交わし、疑われることも無く教室まで護衛も兼ねて送って貰った。生徒達にも特に勘付かれる危機も無くやり過ごし、親しい人達に今日の役割をそれとなく聞いて教えて貰った。

要は注文を受けてマカロンと紅茶を客の所へ運べば良い訳だ。


「エフレシア。ぼくとリーシャも同じ時間帯だから宜しくね」

「うん」

「何かあったらすぐにおれに言って」

「ありがとう、アドニス」


エフレシアの様子をこれまで見てきて良かった。クラスメイトの顔と名前はすぐに覚えた。護衛役の天使達の名前と能力も把握済み。今日はヴィトだけか。


「ねぇ、ヴィト。フィンとティタは?」


皆に聞こえない位の声で聞いてみる。


「あぁ。一度帰城して今日また来るみたい」

「そうなんだ」

「ククルも当番出来なそうだからってアドニスが代わりに出てるんだ」

「あぁ……それで……」

「まぁ、彼が仕切ってくれれば上手く回るし大丈夫だよ」

「そうだね。ミスしないように気をつけよ」

「あとはキャロライナ嬢だけだね」

「……ん?あの人来るの?」

「らしいって噂。でもその頃には団長と劇、観に行くんでしょ?」

「そうだね……」


それは朝の会話だ。

教室に来るまでに団長にお願いしたんだ。もう一度劇を観たいと。今度は最後まで。そう言っておけば団長も断らないだろうと踏んで。此処まで順調に行くとは正直ラッキーだ。後は襤褸ぼろが出なければ劇も壊せる。


「体調は大丈夫なの?」

「うん。休んだら楽になったよ」

「良かった。今日は頑張ろうね、エフレシア」

「うん!」


とっておきの笑みを放ち、メイド服に着替える。

ヴィトはよくもまぁこんな派手派手な服を着こなしているものだ。

営業開始まであと30分。着々と準備は進められていき、紅茶のいい匂いが漂っていた。



城内はいつもより静かで今が学園祭真っ只中という事を忘れてしまいそうだ。

キャロライナ嬢は学園祭が終わるまでこの国に居座るらしいと団長から聞いたロキは今日も城から出られない。


「退屈そうだね」

「ククル……」

「あの女、帰んないのかな」

「俺に会えるまでずっと居るんじゃない?」

「暇人か」

「フレアは体調戻ったみたいだよ」

「聞いた。団長が側にいるなら大丈夫と思いたい」

「そうだね。フレアには存分に楽しんで欲しいよ」

「お前も、楽しめたら良かったのに」

「……俺はいいんだ」

「良くないでしょ!」


俯くロキの肩をガシッと掴みながらククルが叫んだ。


「……良くない。オレはフレアとロキには楽しんで学祭を満喫して欲しかった」

「……ごめんね」

「謝るのは違う……。此処はもっと我儘言うべきなんだよ、ロキ!いくらキャロライナ嬢がぶっ飛んでるからって2日も城に居たら寂しいじゃん……」

「あと一日あるよ」

「……そう、だけど……」

「大丈夫。最終日には片を付ける」

「えっ……」

「ちゃんと向き合わないと。キャロライナと」


ククルが思っているよりもロキはちゃんと考えていた。


「それより」


ロキは扉に視線を向ける。先程から誰かの気配を感じており、ずっと気になっていた。


「ロキ……?」

「いつまでそんな所にいるの?」


声を掛けると、姿を見せたのは天使の姿でいるティタだった。

ククルは全く彼の気配に気付かなかった。


「盗み聞きとは感心しないな」

「失敬。声が聴こえたから介入する機会を窺っていた」

「フィンは?」

「先に学園祭へ向かったぞ」


ティタはゆったりした足取りで二人の元へ歩み寄ってきた。


「キャロライナ嬢は中々厄介な存在だな」

「大概にしてほしいね」

「そんなにロキに惚れているのか?」

「まだ未練が残ってるんだよ。ちゃんと断っても自分のモノになるまで追いかけてくる性分だ」

「大層な女だな。おれも協力しよう」

「……は?」


急に何を言い出すのかとロキとククルは惚けた声を出してしまった。


「エフレシアの護衛はフィンだけでも事足りる。おれはお前達に手を貸したい」

「……何か企んでる?」

「もっと信用しろ。おれはエフレシアに忠誠を誓っている。だから、お前達の事も裏切る様な事はしない」

「……信じるよ?」

「あぁ。もし、おれが裏切った場合はお前達がおれを狩ればいい」


安定の声色でサラッと言えてしまえる度胸が凄い。


「……分かった」

「ロキ!」


まだ半信半疑のククルはロキの前に出てティタに剣を向けた。


「大丈夫だ、ククル」

「でも……」

「信じてみよう。只でさえ、信頼出来る人間が限られてるんだ。それに裏切った場合の保証もある」

「………信じられる保証は?」

「有るとは言い切れないけど、ティタは多分裏切らない。何よりフレアが側に置いてるんだ。それだけでも十分だろう?」


ロキがそこまで言うのなら、とククルは剣をしまった。


「感謝する、ロキ」

「何か対策があっての事だろうからね」

「話が早いな。では本題に入ろう」


2人にしか聴こえない囁き声でティタは自分の考えを伝えた。

最初は戸惑っていた2人だったが、徐々に確信へと変わり、ティタの案に乗ることにした。


「その時まで、この事は誰にも話すなよ」


3人だけの誓いが成り立つ頃、エフレシア(本来の姿を取り戻した本人)は学園祭を満喫していた。

その見た目からエフレシアだと気付く者は居らず、食べたいものを食べ歩きしながら興味のあった展示教室へ行ったり、お化け屋敷にも挑戦してみたりと思いの儘に過ごした。

ただ、エフレシアのその姿に視線が絡む。以前の地味な姿では見向きもされなかった為、自分が注目の的になっているだなんて本人は全く気付いていない。


「ねぇ」


本日2度目のクレープを堪能していた彼女に青年達が声を掛けた。どうやら周りの人達も様子を窺っているらしく、視線が集まっている。


「キミに話しかけてんだけど」

「……え?」


クレープに夢中になっていたエフレシアはそれまで彼らの存在にすら気付かず、漸く自分事なのだと悟った。


「何か?」

「もし一人だったらおれらと回らない?」

「……何故?」

「いや、何故って……キミ、可愛いし」

「そうそう。こんなに綺麗な子が一人でいたら勿体ないよ」


青年達はにこやかに答える。


「……一人ぼっちだから可哀想とか思って誘ってるの?」

「え?いやいや、ただキミ、ほんと可愛いし、仲良くなりたいなって」

「男だけじゃ華ないしさ」

「そう……。で?優しくして楽しい思い出作ってあわよくばエッチな事したいなぁって?」

「えっ!?いや……」

「そんな事ないよ!やだなぁ……」


核心を突かれて動揺している所を見ると、エフレシア自身を見ているのではなくその外見が目当てだと言っている様なものだ。こういう輩は沢山見てきた。みんな、中身なんてどうでもいい。綺麗な人間と一夜を過ごしたい。性的欲求丸出しのその他大勢。


「だってさっきから、あたしの胸しか見てないよね?おにいさん達、そこそこ顔は良いんだから女の人とも仲良しでしょう?こんなちんちくりんのガキなんて相手にしたら時間の無駄だよ」

「ガキって……」

「男の人は単純でわかりやすいね」


折角のクレープが無味になってしまった。

これ以上、付き合っている場合ではない。


「悪いけど、他を当たって……」

「待ってよ!」


離れようとした瞬間、腕を掴まれ、足を止められた。


「まだ何か?」

「捕まえた」


卑しい笑みで青年達はエフレシアを囲った。

周りを一瞥すると、ヒーローになりたいという者は居なそうだ。巻き込まれたくないのも解るけれど。


「無理強いなんてモテないよ」

「どうでもいいいわ!おれらに付き合ってもら」

「ねぇ!さっきから五月蝿いんだけど」


青年の声を遮り、静かに登場したのは見慣れた人物だった。

ヴァイオレットの長い髪を靡かせ、薄青の瞳が青年達を捕らえている。


「なんだよ」

「今時ナンパなんて流行らないよ。それに此処は女漁りに来るような所じゃないの。目障りだから帰って」

「はぁ?」

「なんなんだよお前……!」


向けられた手を彼は目に見えぬ速さで掴みながらそのまま後ろ手に捻り上げた。


「痛っ……!」

「言葉が通じない人間は嫌いだなぁ。折角楽しいイベントだってのに白けちゃうじゃん。言う事聞かない子には痛い目見せないと」

「……ぅあぁあ……!」


骨が折れた音が聞こえた。青年の手は有り得ない方向に傾いている。


「その子に何しようとしたの?お前らみたいな輩は腕の一本でも折らなきゃ理解出来ないんだから」

「待っ……やめ……」

「気付いてからじゃ遅いんだよ」


後の2人も一発でノックアウトされ、彼は見事にヒーローとなった。


「ケガは?」

「無いよ。ありがとう、助けてくれて」

「当然じゃん。傍観してる奴らがどうかしてる」

「ご尤も」

「……で?そんな格好で何してんの?エフレシア」


バレた。

こんな数分で気付くものか?


「よくお分かりで」

「気配で解るよ。以前の姿も良かったけど、今の姿もめっちゃ良いじゃん。オレ好き」

「ありがとう」


無邪気に褒めてくれる彼にエフレシアも気を許した。


「ルヴェルは一人?」

「やっと一人きりになれたとこ」

「モテモテだねぇ」

「学祭だから余計ね。いい男と回りたいんだろうけど」

「それは願望よ。少女ならいつか見る夢だよ、ルヴェル」

「知ってるよ。だから、沢山の夢を見させてあげたんだよ、昨日は。それで十分だと思ったのに」

「まぁ、ルヴェルは魅力的だから離れたくないんじゃないかな?」

「それを言うならエフレシアだってそうだ。オレより魅力的だし一緒に居たいと思うし」

「キミは本心を伝えるのが上手ね」

「当然だろ。建前は苦手なんだよ」

「まぁ!」


喜ぶエフレシアをルヴェルはそっと抱き寄せた。


「……ん?」

「こうやって見せた方が男避けになる?」


その瞬間、二人の横を青年達が通り過ぎていった。


「……ありがとう、ルヴェル」

「団長は幸せだな。お前とこういう事出来るんだろ?」

「そうだね」

「オレも狙っちゃおうかなぁ」

恋敵ライバルだね」

「負けないし」


優しくエフレシアから離れると今度は彼女から手を握られ、ドキッとした。


「少し、あたしに付き合って貰ってもいいかな」


満面の笑みで聞かれ、ルヴェルはもれなく頷いた。


「一緒に回るか?」

「うん。この姿だと気付かれないから都合が良いかなって」

「バレたらまずいの?」

「面倒事は避けたいのよ」

「解った。そしたら、何て呼べばいい?」

「あ……そっか」


そこまでは考えていなかったのでエフレシアは暫し悩んだ。


「エレン……とか?」

「良いじゃん!そんなに違和感無い」

「本当?そしたらそれで」


エフレシアがニコッとする度、ルヴェルはドキドキが止まらなかった。

てっきり自分のクラスに寄るのかと思えば、来たのは学生寮の裏側。学祭なのが嘘の様に静かだ。


「何か用があったのか?」

「んー……宛が外れたかな」


その場を離れようとした時、がサッと草が動いた。

二人の視線は草むらに注がれる。


「ビンゴだったね。隠れてないで出ておいで」


エフレシアが呼びかけると、気まずそうに二人の女子が姿を見せた。どちらもすれ違い程度に見たことのある顔だ。


「こんな所で何を?」

「あの……探し物をしてて……」

「隠れたのは?」

「それは……びっくりしちゃって……」

「隠したものを見せて貰っても?」

「えっ……それは……」


口籠る二人にルヴェルは甘いマスクで歩み寄った。

そのまま何かを耳元で囁くと、腰が砕けたみたいにへたり込んでしまった。


「なにこれ」


二人から取り上げたものは、お洒落なランジェリーだった。それも沢山袋に入っている。


「よくもまぁ、こんなに続けたもんだね」

「生徒の下着だろ?これ」

「多少のお小遣い稼ぎにはなったのかな?下着ドロボーさん」


ビクッと怯えた表情で女子達は震え出した。


「誰に唆されたの?」

「……い、いいじゃない!この学園の生徒ならそんなもの捨てる程持ってるわよ!だからちょっと位売り捌いても大丈夫って……」

「じゃあ、貴方達のランジェリーも頂戴。他人のもの盗んでおいてお咎め無しでは被害者も浮かばれないよ」

「死んでないだろ」

「ショックは受けたんじゃないかな?さぁ!二人とも、身包み剥いてランジェリー寄越しな」


美人な見た目になっているからか、迫力がえげつない。


「それが嫌なら、全校生徒の前で謝罪する?」

「……ごめんなさい……!もうしないから……!」

「許して下さい……」


泣きながら謝る二人を蹴り飛ばしてやろうかと思う位、エフレシアは深い溜息をついた。


「落ち着け、エレン。先に暴れたら面倒だ」

「……だけど……」

「何でこの二人が怪しいと?」

「……勘?誰もいない此処になら現れるかなと思って」

「まぁ、学祭で浮かれてる奴もいるしな。盗むにはもってこいの好機か」

「そろそろ尻尾出す頃だと思ってたんだ」

「馬鹿な奴らだな」


ルヴェルに呆れられ、それが彼女達に絶望を与えた。


「……そうよ。私達が下着ドロボーしてたのよ!小遣い欲しかったし、女に縁の無い人達に売り捌けば良い金になるって思って……」

「他にやってる子は?貴方達だけ?」

「二人で思い付いたからやってただけ……。ちょっと怖かったけど裏路地に持っていったら高く買い取ってくれて……」

「味を占めたってやつか。それにしても、大分働いたんじゃない?大金は稼げた?」


そう聞くと彼女達は目を逸らした。


「……なら。尚更、貴方達のランジェリーも売り捌かないとね。下着なんて腐る程あるんだろ?」


凄むエフレシアに彼女達はもうわなわなと怯えるばかりで言い返してこない。


「やられたらやり返すのが常識なんだよ。何の制裁も無く、お叱りだけで逃れられると思った?浅はかだなぁ」

「エレン……」

「確かにお金を稼ぐには手段を選ばない事だってあるよ。でもそれは、究極に追い込まれた時だけだ。貴方達には帰る家もあって学園に通えるだけの権利もあって好きなことだって出来る日々がある。それなのにただの欲だけで犯罪に手を染めたの?そんな勿体ない事しちゃ駄目だ……!貴方達には選べる未来だって掴める幸せだって幾らでもあるのに……!なんで……!軽率な判断がありふれたものを奪うんだよ……。反省したって泣いて謝ったって許して貰えない……。罪を背負う覚悟も無いクセに、開き直ってんじゃないわよ!」


怒りが叫びとなって、それが彼女達にも響いたのだろう。

先程とは違い、今度は顔をぐしゃぐしゃにしながら許しを乞うた。その姿勢に嘘は無い。罪を実感し、恐れている。

けれど、見逃せる程軽い裁きでは誰も納得しない。


「どうするんだ……?」

「その辺の警邏に渡して」

「了解」


暫くしてルヴェルが連れてきた警邏達によって彼女達は連行されて行った。裁くのは国王なのでどう判断が下されるか解らないが、あの国王も優しいだけの人間ではないだろう。相応の処分を与える筈だ。


「さっき、あんなにムキになったのは何で?」


二人は学生寮から校舎に向かっていた。

次は自分のクラスに行くと言うのでルヴェルは少しほっとした。あのまま感情に流されて帰られたら色々と困る。

沢山の人間が行き交う中、エフレシアの姿は人目を惹くのだろう。隣にいるルヴェルも美しいから美男美女として羨望の眼差しを浴びてしまった。


「思いつきだけで馬鹿な犯罪に手を染めるのは覚悟が無い証。その先の未来がどんなものかまるで解ってない。どうせ学生だからそんなに重い罪は科されないだろうみたいな考えが気に入らない。開き直ったのがその証拠よ。犯した罪の重さを知りもしないで手を汚した。折角、こんな立派な学園に通えてるのに、その大切さを知らないでいる」

「……あぁ、アレだ。幸せって気付いた時にはもう失ってるみたいなやつだ」

「そう。自分の置かれた環境がどんなに恵まれていたのか、牢獄の中で思い知ればいい」

「お前は、恵まれてる奴が憎いのか?」

「……思った事もあるよ。でもそんなのはただの無い物ねだりだ。欲しければ自分の手で掴めば良いだけ。失う怖さを知らない人間はその時が来たら、たとえ剣さえ握れないよ。抗う術すら身に着けてこなかった哀れな自分を恨んで生きていけばいい」

「……そんな毒吐いちゃって、そんなにムカついた?」

「そりゃあ、勿論。盛大にイラッとしたわ」


髪を払う仕草にすれ違った男どもが顔を紅く染めていた。


「けど、良かったじゃん。下着ドロボー捕まって」

「被害者達も安堵だね」


呼び込みをしている生徒から是非に、と案内されそうになってもエフレシアは静かな表情で交わしていく。

そうしながらやっと自分のクラスに着いた。離れた所からでもその盛況振りは見て分かった。

何せ、可愛さ満点のヴィトが接客をしているのだから。

アドニスもリーシャもスムーズに接客しているので客からの視線が熱い。その中で何の違和感も無く働いている者が一人。

我ながらあのメイド服が似合っているじゃないかとエフレシアは思った。端から見た自分なんて地味で個性の無い人間だと思っていたが、あれは違った。そんな笑顔も出来たのかと感心してしまう位に客との触れ合いが上手い。あれも魔術の一つか?


「いらっしゃいませー!あ、ルヴェルだぁ」


リーシャに迎えられ、二人は真ん中の席に案内された。

誰もエフレシアだと気付いていない。


「今、マカロンと紅茶をお持ちしますね」


アドニスが声を掛けるも、ただの客だと思われている。


「本当に誰にもバレないね」

「完全に別人だもん。それに、本物がすぐそこにいるし」


提供していた(ただいまエフレシアに姿を変えている)ルフラはエフレシア(本来の姿を取り戻した本人)に気付き、薄ら笑いを向けた。その表情に腹が立つ。もうあいつが何をしてもムカつくな。


「あっちもバレてないんだ?」

「わかるの?」

「言ったじゃん、気配で解るって。あれ、偽物でしょ?」

「そうだよ。あたしに喧嘩売ってるみたいなんだ」

「買うの?」

「勿論。あの化けの皮、剥がしてやるわ」


憤慨しながらエフレシア(現在エレンと名乗っている本物)は紅茶を飲んだ。流石、高いだけの価値はある。心が浄化されるみたいに身体が温まった。


「この後は?」

「劇を観に行く」

「あぁ……。結構人気らしいよ」

「そうなんだ」

「狂乱舞の演舞も凄いよって噂だし?」

「あぁ……」


学祭の準備期間中、何やら揉め事にロキが首を突っ込んだらしいという話は聞いていた。手は出さず、打たれ損だったらしいけれど団長が評価していた。仮にも騎士団の一員として学生に暴力なんてあってはならない。まぁ、その後なんやかんやあって一件落着したみたいだと人伝に耳にした。


「どんなもんか観に行かないとね」

「楽しそうだな」

「うふふ」


二人の様子を(現在、接客当番中のエフレシアの姿をしている)ルフラは静かに見守っていた。

そろそろ交代の時間だ。団長も迎えに来る頃だろう。




体育館に行くと沢山の人でごった返していた。

演目によって席が空いたり埋まったりそれの繰り返し。

昨日は途中でリタイアしてしまったので今日は最後まで見届けなければいけない。たとえ、真実が脚色されていようが構わない。本当の事は本人だけ知っていればいいことだ。

前から3列目の席が空いたのをルヴェルが見つけ、二人はそこで観賞する事にした。舞台には幕が降りており、その裏からガタガタと準備の音が聴こえてくる。後ろを見渡すと結構満席になっており、評判は良いのだろう。

暫くして開幕のブザー音が鳴った。

幕が上がり、舞台上には狂乱舞の部員達が勢揃いしている。

最初の一音から壮観だった。

一糸乱れぬ動きと呼吸、そして、魅せ方。

どう舞えば人目を惹くのかをちゃんと意識している演出だ。

特に、前で舞っている二人の男女はかなりのシンクロ率で艶やかさを放っている。後方で大きな旗を操っている彼らも相当上手い。

これは見る価値があるな、と感心しているエフレシア(今はエレンと名乗っている本物)がふと隣を見るとルヴェルは舟を漕いでいた。こんな立派な演舞を観ないなんて勿体ないなと思いながらも声を掛ける事はせず、狂乱舞の演舞を見守った。

最後まで乱れぬ動きに拍手喝采だ。終盤は疲れも表れるのに誰一人息を乱さず、やり遂げた。これを3日間もやるのは相当しんどいだろう。そんな顔色さえ見せず、彼らは去り際も立派だった。


「この後に劇やるのかぁ……」


そっちもしんどいだろうなぁ、なんて他人事の様に思っていると視界の端に見慣れた人物を見つけた。

団長と話しながら空いた席に腰を下ろした(エフレシアに姿を変え、団長とデート中の)ルフラは、こちらに向けられる視線に気付き、振り向いた。

エフレシア(今はルヴェルと一緒の本人)は目が合ってしまい、更に苛立ちが増した。いつまでその姿でいるのかと殴り込んでしまいそうだ。あっちもニヤッと笑うだけで接触はナシ。劇よりもそっちが気になってしまいそうで気が散る。


「劇、観たかったんだろ?」


落ち着きのない彼女にルヴェルが声を掛けた。


「……そうだけど……」

「だったらちゃんとその目で見ないと。偽物なんか気にしない」

「……うん。そうしよう」


劇が始まる。

昨日と同じ流れだ。生徒達の演技力は本当にレベルが高い。展開が早いだけに魅入ってしまう。

所々、脚色部分は目立つがそういう話なんだろうという納得感がある。けれども、このラストの、最後に一人生き残るという部分は少女だけじゃない。どこの資料を題材にしたんだ全く。


「不服そうだね」

「……こんなもんじゃない?どうせ劇だし?作り物だし?」

「苛立ってんなぁ」

「どうにも相容れないものが重なってるんでね」


溜息混じりに呟きながらふと舞台袖を見やる。

クロエが心配そうな表情で演者達を見守っていた。


「こら。そんな前にいたら見えちゃうよ」


カタリナのクラスメイトに声を掛けられ、クロエは一歩下がった。いつの間にかカタリナの練習に付き合っていたら彼女のクラスメイト達にも受け入れられており、舞台袖にいていいと許しが出ていた。


「心配なのは分かるけどね。沢山練習したんだから大丈夫よ」

「そうだぜ、クロエ。あとはラストシーンだけだ」


皆が見守る中、劇は順調に進んでいく。

国が滅ぶシーンは大掛かりな道具の入れ替えで慌ただしくなる。少女が使った能力の表し方も出鱈目で、やっぱり最後まで見届けなくても良かったかも知れないとエフレシア(ルヴェルと観賞中の本人)は落胆した。

ただ演じるだけなら違う作品でも良かった筈だ。なのに敢えてこの作品にしたという事は何か伝えたい意図でもあったのか?

国が滅んだ後、一人生き残った少女は途方もなく彷徨い続け、後悔を吐露して朽ち果てる。

その少女役を演じているのがカタリナだった。巫女の姿で嘆くシーンは見ている者を魅了した。クロエもその姿に魅入ってしまい、思わず拍手してしまいそうになった。他のクラスメイト達も感動しているようで目を潤ませている。


「誰にも届かない慟哭を……私は……」

「届いているよ。この世界にも」


最後の台詞に言葉が返ってきた事にカタリナもクラスメイト達も驚いた。その声は舞台上からではなく、客席から。一人、立ち上がっている者に皆の視線が集まった。


「……エフレシア……?」


急に立ち上がり、言葉を放つ彼女に隣にいた団長も戸惑いを隠せない。エフレシア(を演じているルフラ)は軽い足取りで舞台に飛び乗った。


「生き残ったのはキミだけ?他にも居たんじゃないかな?」

「……えっ……と……」


突然の乱入者にカタリナも戸惑い、言葉が続かない。

見守っている観客達はまだ劇が続いているのだと思っているのか真剣に観賞していた。


「この話はキミが偽った御伽噺だ。国は滅んだけど、キミだけが生き残った訳じゃない。あと一人……いや、二人だったかな。真実を勝手に捻じ曲げちゃいけないなぁ」

「……あの……何を……」

「これは物語でも何でもない。ただの狂言だって言ってるんだよ」

「狂言……?」

「《ラスティマーレの祝祭》は、こんなもんじゃない」


パシッ、と訳も分からぬままカタリナは頬を叩かれ呆然とした。見兼ねたクロエがカタリナに駆け寄る。


「何してんだ、エフレシア!」

「真実を脚色した罰だよ。何も知りもしないで平然とこんなくだらない話をダラダラと……。吐き気がする」

「エフレシア」


すかさず団長も止めに入る。けれど、予期せぬ事態にどう対応していいのか躊躇いが見えた。


「謝れ!こんな演劇デタラメを晒した恥を知れ!」

「……エフレシア!」


パンっ、と今度は団長が彼女の頬を叩いた。


「……あんたも、これが真実だって思ってるの?」

「いや。これはただの劇だ。真実なんて関係ない。学生達が成果を発揮する為の大舞台で、殴り込みは駄目だよ」


団長は優しい声色で諭す。


「本当の惨劇なんて想像も成し得ないだろう!こんな出鱈目を世に知らしめて何になる!虚実うそに埋もれて真に失われた命の名前を誰が葬れる!ただの創り物にされたあの出来事をあんたは受け入れられるのか?」

「……何を怖がっているんだ?さっきから、一人で駄々を捏ねているようにしか見えない。キミは、誰だ?」


様子を見ていたエフレシア(本物)は襤褸ぼろが出た偽物に溜息をつく。何をやっているんだ。姿を真似たのなら最後まで突き通して欲しいものだ。


「……やっぱり、こんなまどろっこしいやり方なんてするんじゃなかった」


呟いた矢先、エフレシアの姿から一瞬にしてルフラの姿に変わった。その美しい姿に魅入られる。この場にいる全員がルフラに目を奪われていた。

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