『描写の解像度』について
同作者執筆の短編小説
「これでようやく、この世界でスローライフができるぞ!」 神「よくやりましたね。勇者よ。それでは約束通りもとの世界に帰しましょう。強制送還ビーム!」 「おおおおい!?」 https://ncode.syosetu.com/n1601fx/
を読んでいるとわかりやすいです
「今日は『解像度芸』について教えてやるぞ!」
机の上にロリ乗れり。
いや、これは僕にとって先輩にあたる生物なのだけれど、どうしてもロリにしか見えないのだった。
僕らは今日も当たり前のように部室で落ち合って小説技法について言葉を交わす。
永遠が約束された日常の中に僕らはいた。
時間の感覚はひどくあいまいで、前回集まったのがいつだったのか、前回『次回はこれをやるぞ!』と言われたテーマがなんだったのか、僕はさっぱり思い出せないでいた。
永遠の夕暮れの中で、髪の長い、背の低い彼女が、実年齢より軽く五歳は若く聞こえるロリボイスで言うのだ。
「ちなみに後輩、『解像度芸』っていうのを聞いたことはあるか?」
「いえ、寡聞にして存じ上げません」
「まあ私オリジナルの概念だからな!」
世間では舐めた口をきくメスガキとそれに絶対負けない大人が一部で趣向として定着の気配を見せ始めているのだという。
先輩もその路線を狙っているのだろうか?
とすると僕はここで先輩のふくらはぎをつかんで机の上から引きずりおろすべきなのだろうか?
僕は自分のとるべき行動を決めかねていた。
「解像度芸について話す前に、『マクロな描写』『ミクロな描写』について教えないとな! 後輩はマクロ、ミクロ、それぞれどういうものだと思う?」
「マクロっていうことは大きな視点、ミクロはその逆ですか?」
「うん! 実例をこちらに用意してあります!」
先輩は異能で宙に文字を浮かび上がらせた。
そんな設定がこの世界にあったのにおどろき、僕は言葉を失う。
『でっかい山だ』
『はげて黄土色の地面が剥き出しになったその山は、向こう側になにがあるか見えないほど高くそびえたっている。
稜線からは茜色の光が差し込み、私はそのまばゆさに思わず目を細め、手でひさしを作った』
「後輩! この二つの文章はどちらも『山』を描写したものだが、どっちが『マクロ』でどっちが『ミクロ』か、わかるか!?」
「そうですね、尺がもったいないので正解を言ってしまいますが、先の文章が『マクロ』で、後の文章が『ミクロ』です」
「そう! 同じ山についての描写でも、これだけ違いを出せる。この二つの描写の違いを短く言うと? それこそが『解像度』なんだ!」
「今急に文学好きの面倒な文章オタクになった僕から言わせてもらうと、先の描写は『描写』とは定義できませんね。あまりにも格調が低い」
「うん! そういう人向けの解説ではないから大丈夫!」
「それで、文章の解像度というのがなんなのかは、ぼんやりとわかった気がしますけど、この文章の解像度とやらが、どのように実際に小説を書く僕らの役に立つんですか?」
「「これでようやく、この世界でスローライフができるぞ!」 神「よくやりましたね。勇者よ。それでは約束通りもとの世界に帰しましょう。強制送還ビーム!」 「おおおおい!?」 https://ncode.syosetu.com/n1601fx/」
「!?」
「という二千文字程度で手軽に読める短編があるんだが、これは、『文章の解像度』を意識して書かれているんだ。前半〜中盤にかけては、解像度を低く。最後のあたりだけ高くしてある」
「なるほど。先輩がバグったかと思いました」
「解像度が低い……『マクロ』と私が名付けている部分では、サクサクと素早く話が進む。描写を減らして、ある程度読者から文章世界へのフォーカスをぼやけさせることで、スピード感を出しているわけだな」
「なるほど」
「このマクロ描写の利点は、今言った『スピード感』。それからキャラクターに共感してなくても読みやすい、というものがある」
「そうなんですか?」
「考えてもみろよ。ぜんぜん知らないキャラクターがいきなり細かいこと言い始めても興味持てないだろ? キャラや境遇に興味を持ってもらって、初めてそのキャラを通した細かい描写を読んでもらえるんだ」
「ああ、たしかに、興味のやつが興味のない情報を語ってても、興味出ないですね」
「うん。この『キャラに興味を持たせる』というのは、前に教えたけど、一行や一語でもできるから、長々尺をとらないといけないわけではないけれど……」
「先輩、この世界線の僕はその指南を受けてません」
「とにかく、マクロな描写は『細かく描いても面白みの薄いところ』『キャラのバックボーン紹介』……総じて『話の冒頭から中盤ぐらいで使いやすい』描写ってことになるな」
※どんな物事にも例外はあります。
「そしてマクロから転じて『ミクロ』な描写……つまり『解像度の高い描写』の効果だけど……」
「……」
「『なんとなくいい感じにしたい時に使える』」
「……あいまい!」
「しょうがないだろ!? 物語によって『いい感じ』がなにを指すかぜんぜん変わってくるんだ! 感動でも、爆笑でも、とにかく、『世界とそれを観測する視点の持ち主にどっぷり浸らせる』ことができるのが、解像度の高い、ミクロな描写なんだよ!」
「ああ、なるほど」
「ただ、知らないやつが知らないことを細々語っててもどうでもいいという問題があるから、この解像度の高い描写は、ある程度読者が物語に乗ってきたタイミングでしか使えない」
※もちろん例外はあります。
「総括するに、『マクロで入ってミクロで締めろ』という感じですね」
「うん。解像度低めの描写で入って、だんだん解像度を上げていくのが基本になると思う。ただ、ミクロ描写はな、タイミングとか難しいぞ。なんせ読者の心に入り込んでぶん殴る技法だからな! 拒絶反応で一気に物語からひかれないように気をつけよう!」
「どうやって気をつければいいんですか?」
「うーん、経験」
「僕は『聞いただけで明日からアニメ化作家!』みたいなものを求めてるんですけど」
「それはアニメ化作家に聞けよ」
ぐうの音も出なかった。
こうして僕らの楽しい部活動の時間は終わりを告げた。
次の開催はもちろん明日なのだけれど、僕らの明日がいつなのか、それは、誰にもわからない……