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ステータスを引き継いで転生しました  作者: まにまに
序章
9/13

ハーレムです一行です勧誘です

お久しぶりです...

「まさか、もう1人の噂の新人が同じ出身地だとは思わなかったよ・・・。ぜひ、仲間になって、一緒に魔王を倒そう!!」


「・・・は?」


今日もいつも通り、依頼を受ける予定だったはすだ。まさか、同じAランクの勇者が転生者にほんじんでしかも勧誘してくるなんて聞いてないぞ、俺は。


冒険者ギルドのテーブルにてご対面。

あまりの状況にクロノは正面の御一行ゆうしゃたちを一瞬見てから、深々と息を吐いた。


───嗚呼、本当に最悪だ。


黒野くろの 雅弘まさひろ はつい先程・・・そう、ほんの一ヶ月前くらいまではただの平凡な高校生に過ぎなかった。


毎日学校に行き、友達とふざけ合い、家では時に口喧嘩しつつも家族と仲良く過ごし、寝て、そしてまた朝目覚める。その繰り返しだった。


刺激などあるわけがなく、むしろ求めていた彼に、ある日とあるものがプレゼントされた。


───『EWO』、VRMMOパーチャルリアリティゲームだ。


巷では噂になっていたものの、高校生にはかなり高価なもので、ありなかなか手が出せなかったため、手に入れた時は踊り出すほど嬉しかった。

それからは想像通りだ。

やりにやりまくり、僅か二ヶ月でランキングの上位の方にまで上り詰めた。自分でも結構凄いと思う。


全てが素晴らしく、飽きるなんてものはなく、これから更にハマるだろうと思った矢先。


ある日突然、ログアウトが不自然なバグに見舞われた。いや、これがバグなのかもわからない。目覚めた時には既に、とある街の中。そこの裏路地で倒れていた。

EWOと酷似しているが、どこかが明らかに違う。


「・・・なっ!?」


普通の人ならば戸惑うことだろう。───しかし彼は違った。


「異世界転生キタコレ!!」


街の中にも関わらず、大声で叫んでガッツポーズ。

彼は一瞬にして悟ったのだ。ライトノベル、アニメ・・・様々な知識からここが異世界なのだ、と。そして自分は転生したのだ、と。

幸か不幸か、知識があった分、順応性も高かった。


異世界転生そうとわかれば話は早い。なるべきものは冒険者。ランクを上げて強くなりケモ耳ロリを愛でるのだ、そして満遍なくこの世界を楽しむのだ。もちろん、前の世界ちきゅうに未練がないわけではない。両親や友達のことも気がかりである。


しかし!!だがしかし!!

元々、現実に対しての執着が薄かったからか、もう既に、EWOに酷似した世界ここに心踊らされていた。


日々はあっという間に過ぎ去っていく。


転生物というとやはり主人公最強───それは相違なく───気づけばランクAとなり、期待の新人として有名になっていた。───勇者とともに。


そして今日。


(勇者が転生者か・・・まあ予想していたことだけど・・・まさか、絡まれるとは思わなかった。)


目の前にはニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべる勇者1名と、それを取り囲むようにしてハーレム要員───恐らくそれぞれ、半獣人、聖女、魔法使い、剣士だろう───が立っていた。

周りには噂の新人2人の対面を見守る野次馬ぼうけんしゃたち。そこには、ちらほらとランク上位のチームも見える。

噂の新人───ソロでランクAになった少年、城で召喚されたという強大な力を持った勇者。気になるのも当然だろう。あわよくばチームに入れたいとも考えてもいるはずだ。


ソロ以外でやるなんて、俺はごめんだがな。


改めて目の前の少年に目を向ける。


「えーと、タロウ君だっけ?」


「「「「ユウタ様です!!」」」」


「あーはいはい、ユウタサマねユウタサマ。・・・んで、改めて聞くけど俺に何の用?とっととソロで依頼を受けたいんだけど。」


ハーレム達を軽く手で流し、気だるそうに聞く。───『ソロで』という部分を特に強調して。


「ああ、うん!クロノ君、僕のパーティに入って魔王を一緒に倒そうよ!悪者は倒さなきゃ、強い人がみんなを守らないとね!!」


「あー・・・やだ。めんどくさい。」


クロノの思わぬ返事に一拍の間が開く。遅れてユウタの叫び声が響いた。


「え、ええ!?なんでよ!?」


絶対仲間になってくれるだろうと、相当の自信があったのだろう。その叫びには悲痛さが混じっている。

対してクロノは淡白に、


「いいか、普通に考えろ。勇者でも何でもない俺が魔王討伐を手伝って何のメリットがある?それにお前だって使い捨てなんじゃ、」


「わかった!!」


クロノの言葉を遮り、声を張り上げるユウタ。その顔は晴れ晴れとしていて、何かを納得したように頷く。


「ユウタ様・・・?」


心配そうに見つめる聖女。ユウタはそれに答えた。


「こいつは人間の振りをしているけど、正体は魔王の手先だ!!」


「.・・・・・・は?」


クロノはもちろん、人々が皆一様にボカーンとする中、


「さすがはユウタ様ですわ!!瞬時に悪の正体に気づくなんて!!」


「うむ、さすがだな。それでこそ私の剣のパートナーに相応しいというものだ。」


「やっぱ、ユウタは凄いにゃ。惚れ直したにゃん!」


「ユウタすごぉーい!ご褒美にミーナがチューしてあげるぅ!」


ギルド内が静寂に包まれる中、ハーレムメンバーだけが甘い声で口々にユウタを賞賛する。瞳の中にハートマークが見えるほどに惚れると、正常な判断ができなくなるらしい───恋は盲目とはよく言ったものだ。


ギルド内の女性も若干名、顔を赤らめている輩がいるが、他は「何言ってんだこいつ」と怪訝そうに勇者ユウタを見つめる。先程までの静寂はなく、ちらほらと小声で囁きあっているのも聞こえてきた。

やはり、勇者ということもあり、もしかしたら真実かもしれないと戸惑っているのだろう。


しかし、本当に戸惑っているのはその言われた本人だった。


(は?俺が魔王の手先だって?冗談にも程があるだろ・・・。つーか、こいつの目節穴じゃねーの?俺は一度も魔王に会ったことねーよ、会ってみたいけど。しかも、こいつのパーティメンバーも大概だろ。何イチャイチャしちゃってんの!?羨ましい・・・じゃなくて、ちゃんと考えろよ・・・。)


クロノが心の中でぶつくさ言っている間にも、ユウタの勘違いは続いてゆく。


「だからさっきの誘いも断ったんだ!!普通・・の人なら絶対に断らない筈だもんね!・・・よし、悪は片っ端から消滅させなきゃ。」


剣を鞘からぬくユウタに続いて、ハーレムメンバーも各々の武器を構える───クロノに向けて。


「ちょ!?俺の弁解の余地はないのかよ!!しかも、こんなとこでやるつもりか!?」


「悪に有無は言わせない!!大人しく消滅しろ!!」


「あのなあ・・・明らかに俺は普通の人間関係だし、こんな所で戦ったら他の人たちに迷惑・・・って、おい!!話を・・・聞けって!!」


「問答無用!!」


周りの冒険者やじうまたちは、徹底して野次馬化とすることにしたらしい。とばっちりを受けまいと、誰も勇者のパーティに手を出さない。


(本当に何なんだよ、この勇者は!!・・・人の話を聞かないわ、すぐに戦おうとするわ、思い込み激しいわ、ほんとに勇者か!?)


「ちっ。」


振り上げられた剣を受け止めようと、仕方なく鞘を取り出す───が、


「はいはーい、そこまでそこまでぇー!」


やけに陽気な声が2人を遮る。


「は?」


「え?」


「ごめんねぇ、ちょっと通してねぇ?」───そう言って人混みをかき分け、相対する勇者たちの前に現れたのは、


「どもどもぉー!おお、噂の新人ルーキーくん2人、揃っちゃってるじゃないですかぁー!ラッキー!・・・あーはいはい、自己紹介ね自己紹介。えーはじめまして。うちはア・・・じゃなかった、冒険者のマリでーす!よろしくねぇー。」


全てを一息で言い切ったこの美少女。

鮮やかなピンク色をしたボブカットに、黄緑色の瞳をしている。胸当てにホットパンツという軽装で、ぱっと見たところ武器は持っていないが、どうやら冒険者らしい。


「え、え?」


「あーごめんごめん。お楽しみのところ中断させちゃって、うちね君たちのことを探してたのー!」


悪びれもなく、ニコニコと2人を見つめるマリ。その場にいる人々が皆呆然となる中、クロノが口を開く。


「えーと、それで俺達に何の用?」


「うん!仲間に入れて欲しいなぁーって。あ、もちろんランクは同じAだよぉ?」


「ランクA!?それは大歓迎だよ!!もちろん!!」


ランクを聞いて食いついたのはユウタ、身を乗り出し目を輝かせる───背後のハーレムメンバーの刺すような視線にも気づかずに。

マリはその殺気立った視線に視線を絡ませると、不敵な笑みを浮かべた。


「ほんとにぃ?ありがとう、勇者君!・・・で、そっちの君は?」


「俺はソロ専なもんでね、お断りだ。」


一瞬、マリから笑顔が消える。・・・が、次の瞬間には元の笑みが浮かべられていた。


「ええー残念だなぁー・・・じゃあ、握手しよーよ、あーくーしゅ!」


「それなら、まあ」───クロノが出した手に、すぐさまマリが細い指を絡ませた。満面の笑みでお礼を述べると、耳元に口を近づける。

小声で囁いた。


「───本当にありがと、簡単に触れさせてくれて。」


「え?」


クロノが聞き返した時には既に、マリは手を離していた。顔には変わらず笑みを浮かべたままだ。


しかし。


(何だ、さっきのは・・・?しかも、握手した時に)


───何かを呟くように口が動いていた。


先程のマリの囁きは、鮮明に耳に残っている。

目の前の少女に対する違和感。だが、それが何なのかはわからない。

まるで狐につままれたかのよう。当然、警戒も何もなかったがために、さっきの囁きは余計に───異様だった。


「じゃあ勇者君!!君のパーティに入れてもらっていいかなぁ?」


「もちろん!・・・みんなもいいよね?」


振り返ったユウタの問いかけに、「・・・ええまあ」とハーレムメンバーは濁った返答をする。


本音は、ライバルは増えるので当然入れたくないのだろう。しかし、大好きなユウタの決定には、異議を申し立てることはできなかった。

結果、しぶしぶながらも頷くこととなる。


「よかったぁ、よろしくねぇ?」


「マリちゃんだっけ?一緒に悪の根源である魔王を倒そうね!!」


その瞬間、空気がぴしりと音を立てた───ような気がした。ややあって、マリが返答する。


「・・・・・・そうだね。」


さっきと変わらぬ無邪気なマリの笑顔───だが、よく見ると目が笑っていない。むしろ、瞳の奥には何か黒い感情が渦巻いているようにも見える。


巧妙に隠してあるそれには誰も気づかない。


誰にも気づかせない。


「じゃあ、僕パーティの手続きをしてくるね!!」


「うん!よろしくねぇー。」


バイバイと手を振るマリ。もう既に野次馬は散っており、各々の仕事に取り掛かっている。

クロノもこれ幸いと、依頼掲示板へと向かおうと、マリの横をすれ違った時だった。


耳にマリの楽しそうな囁き声が届く。


「お仕事ひとつめ、かんりょーっと!・・・アヴィル様褒めてくださるかなぁ?」


それを聞いてクロノは首を傾げる。


(アヴィル様・・・何処かの貴族だろうか?だったら何のために勇者になんか・・・いや、今はいいか。まずは依頼だ依頼。)


ふと思った疑問をかき消し、依頼掲示板に目を通す。───今はランクを上げることが大切だ。このことは後でも大丈夫だろう。

そう思い、手頃な依頼に手を伸ばした。




───疑問それが重要なことだとも知らずに。






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