ハーレムです一行です勧誘です
お久しぶりです...
「まさか、もう1人の噂の新人が同じ出身地だとは思わなかったよ・・・。ぜひ、仲間になって、一緒に魔王を倒そう!!」
「・・・は?」
今日もいつも通り、依頼を受ける予定だったはすだ。まさか、同じAランクの勇者が転生者でしかも勧誘してくるなんて聞いてないぞ、俺は。
冒険者ギルドのテーブルにてご対面。
あまりの状況にクロノは正面の御一行を一瞬見てから、深々と息を吐いた。
───嗚呼、本当に最悪だ。
黒野 雅弘 はつい先程・・・そう、ほんの一ヶ月前くらいまではただの平凡な高校生に過ぎなかった。
毎日学校に行き、友達とふざけ合い、家では時に口喧嘩しつつも家族と仲良く過ごし、寝て、そしてまた朝目覚める。その繰り返しだった。
刺激などあるわけがなく、むしろ求めていた彼に、ある日とあるものがプレゼントされた。
───『EWO』、VRMMOだ。
巷では噂になっていたものの、高校生にはかなり高価なもので、ありなかなか手が出せなかったため、手に入れた時は踊り出すほど嬉しかった。
それからは想像通りだ。
やりにやりまくり、僅か二ヶ月でランキングの上位の方にまで上り詰めた。自分でも結構凄いと思う。
全てが素晴らしく、飽きるなんてものはなく、これから更にハマるだろうと思った矢先。
ある日突然、ログアウトが不自然なバグに見舞われた。いや、これがバグなのかもわからない。目覚めた時には既に、とある街の中。そこの裏路地で倒れていた。
EWOと酷似しているが、どこかが明らかに違う。
「・・・なっ!?」
普通の人ならば戸惑うことだろう。───しかし彼は違った。
「異世界転生キタコレ!!」
街の中にも関わらず、大声で叫んでガッツポーズ。
彼は一瞬にして悟ったのだ。本、アニメ・・・様々な知識からここが異世界なのだ、と。そして自分は転生したのだ、と。
幸か不幸か、知識があった分、順応性も高かった。
異世界転生わかれば話は早い。なるべきものは冒険者。ランクを上げて強くなりケモ耳ロリを愛でるのだ、そして満遍なくこの世界を楽しむのだ。もちろん、前の世界に未練がないわけではない。両親や友達のことも気がかりである。
しかし!!だがしかし!!
元々、現実に対しての執着が薄かったからか、もう既に、EWOに酷似した世界に心踊らされていた。
日々はあっという間に過ぎ去っていく。
転生物というとやはり主人公最強───それは相違なく───気づけばランクAとなり、期待の新人として有名になっていた。───勇者とともに。
そして今日。
(勇者が転生者か・・・まあ予想していたことだけど・・・まさか、絡まれるとは思わなかった。)
目の前にはニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべる勇者1名と、それを取り囲むようにしてハーレム要員───恐らくそれぞれ、半獣人、聖女、魔法使い、剣士だろう───が立っていた。
周りには噂の新人2人の対面を見守る野次馬たち。そこには、ちらほらとランク上位のチームも見える。
噂の新人───ソロでランクAになった少年、城で召喚されたという強大な力を持った勇者。気になるのも当然だろう。あわよくばチームに入れたいとも考えてもいるはずだ。
ソロ以外でやるなんて、俺はごめんだがな。
改めて目の前の少年に目を向ける。
「えーと、タロウ君だっけ?」
「「「「ユウタ様です!!」」」」
「あーはいはい、ユウタサマねユウタサマ。・・・んで、改めて聞くけど俺に何の用?とっととソロで依頼を受けたいんだけど。」
ハーレム達を軽く手で流し、気だるそうに聞く。───『ソロで』という部分を特に強調して。
「ああ、うん!クロノ君、僕のパーティに入って魔王を一緒に倒そうよ!悪者は倒さなきゃ、強い人がみんなを守らないとね!!」
「あー・・・やだ。めんどくさい。」
クロノの思わぬ返事に一拍の間が開く。遅れてユウタの叫び声が響いた。
「え、ええ!?なんでよ!?」
絶対仲間になってくれるだろうと、相当の自信があったのだろう。その叫びには悲痛さが混じっている。
対してクロノは淡白に、
「いいか、普通に考えろ。勇者でも何でもない俺が魔王討伐を手伝って何のメリットがある?それにお前だって使い捨てなんじゃ、」
「わかった!!」
クロノの言葉を遮り、声を張り上げるユウタ。その顔は晴れ晴れとしていて、何かを納得したように頷く。
「ユウタ様・・・?」
心配そうに見つめる聖女。ユウタはそれに答えた。
「こいつは人間の振りをしているけど、正体は魔王の手先だ!!」
「.・・・・・・は?」
クロノはもちろん、人々が皆一様にボカーンとする中、
「さすがはユウタ様ですわ!!瞬時に悪の正体に気づくなんて!!」
「うむ、さすがだな。それでこそ私の剣のパートナーに相応しいというものだ。」
「やっぱ、ユウタは凄いにゃ。惚れ直したにゃん!」
「ユウタすごぉーい!ご褒美にミーナがチューしてあげるぅ!」
ギルド内が静寂に包まれる中、ハーレムメンバーだけが甘い声で口々にユウタを賞賛する。瞳の中にハートマークが見えるほどに惚れると、正常な判断ができなくなるらしい───恋は盲目とはよく言ったものだ。
ギルド内の女性も若干名、顔を赤らめている輩がいるが、他は「何言ってんだこいつ」と怪訝そうに勇者を見つめる。先程までの静寂はなく、ちらほらと小声で囁きあっているのも聞こえてきた。
やはり、勇者ということもあり、もしかしたら真実かもしれないと戸惑っているのだろう。
しかし、本当に戸惑っているのはその言われた本人だった。
(は?俺が魔王の手先だって?冗談にも程があるだろ・・・。つーか、こいつの目節穴じゃねーの?俺は一度も魔王に会ったことねーよ、会ってみたいけど。しかも、こいつのパーティメンバーも大概だろ。何イチャイチャしちゃってんの!?羨ましい・・・じゃなくて、ちゃんと考えろよ・・・。)
クロノが心の中でぶつくさ言っている間にも、ユウタの勘違いは続いてゆく。
「だからさっきの誘いも断ったんだ!!普通の人なら絶対に断らない筈だもんね!・・・よし、悪は片っ端から消滅させなきゃ。」
剣を鞘からぬくユウタに続いて、ハーレムメンバーも各々の武器を構える───クロノに向けて。
「ちょ!?俺の弁解の余地はないのかよ!!しかも、こんなとこでやるつもりか!?」
「悪に有無は言わせない!!大人しく消滅しろ!!」
「あのなあ・・・明らかに俺は普通の人間関係だし、こんな所で戦ったら他の人たちに迷惑・・・って、おい!!話を・・・聞けって!!」
「問答無用!!」
周りの冒険者たちは、徹底して野次馬化とすることにしたらしい。とばっちりを受けまいと、誰も勇者のパーティに手を出さない。
(本当に何なんだよ、この勇者は!!・・・人の話を聞かないわ、すぐに戦おうとするわ、思い込み激しいわ、ほんとに勇者か!?)
「ちっ。」
振り上げられた剣を受け止めようと、仕方なく鞘を取り出す───が、
「はいはーい、そこまでそこまでぇー!」
やけに陽気な声が2人を遮る。
「は?」
「え?」
「ごめんねぇ、ちょっと通してねぇ?」───そう言って人混みをかき分け、相対する勇者たちの前に現れたのは、
「どもどもぉー!おお、噂の新人くん2人、揃っちゃってるじゃないですかぁー!ラッキー!・・・あーはいはい、自己紹介ね自己紹介。えーはじめまして。うちはア・・・じゃなかった、冒険者のマリでーす!よろしくねぇー。」
全てを一息で言い切ったこの美少女。
鮮やかなピンク色をしたボブカットに、黄緑色の瞳をしている。胸当てにホットパンツという軽装で、ぱっと見たところ武器は持っていないが、どうやら冒険者らしい。
「え、え?」
「あーごめんごめん。お楽しみのところ中断させちゃって、うちね君たちのことを探してたのー!」
悪びれもなく、ニコニコと2人を見つめるマリ。その場にいる人々が皆呆然となる中、クロノが口を開く。
「えーと、それで俺達に何の用?」
「うん!仲間に入れて欲しいなぁーって。あ、もちろんランクは同じAだよぉ?」
「ランクA!?それは大歓迎だよ!!もちろん!!」
ランクを聞いて食いついたのはユウタ、身を乗り出し目を輝かせる───背後のハーレムメンバーの刺すような視線にも気づかずに。
マリはその殺気立った視線に視線を絡ませると、不敵な笑みを浮かべた。
「ほんとにぃ?ありがとう、勇者君!・・・で、そっちの君は?」
「俺はソロ専なもんでね、お断りだ。」
一瞬、マリから笑顔が消える。・・・が、次の瞬間には元の笑みが浮かべられていた。
「ええー残念だなぁー・・・じゃあ、握手しよーよ、あーくーしゅ!」
「それなら、まあ」───クロノが出した手に、すぐさまマリが細い指を絡ませた。満面の笑みでお礼を述べると、耳元に口を近づける。
小声で囁いた。
「───本当にありがと、簡単に触れさせてくれて。」
「え?」
クロノが聞き返した時には既に、マリは手を離していた。顔には変わらず笑みを浮かべたままだ。
しかし。
(何だ、さっきのは・・・?しかも、握手した時に)
───何かを呟くように口が動いていた。
先程のマリの囁きは、鮮明に耳に残っている。
目の前の少女に対する違和感。だが、それが何なのかはわからない。
まるで狐につままれたかのよう。当然、警戒も何もなかったがために、さっきの囁きは余計に───異様だった。
「じゃあ勇者君!!君のパーティに入れてもらっていいかなぁ?」
「もちろん!・・・みんなもいいよね?」
振り返ったユウタの問いかけに、「・・・ええまあ」とハーレムメンバーは濁った返答をする。
本音は、ライバルは増えるので当然入れたくないのだろう。しかし、大好きなユウタの決定には、異議を申し立てることはできなかった。
結果、しぶしぶながらも頷くこととなる。
「よかったぁ、よろしくねぇ?」
「マリちゃんだっけ?一緒に悪の根源である魔王を倒そうね!!」
その瞬間、空気がぴしりと音を立てた───ような気がした。ややあって、マリが返答する。
「・・・・・・そうだね。」
さっきと変わらぬ無邪気なマリの笑顔───だが、よく見ると目が笑っていない。むしろ、瞳の奥には何か黒い感情が渦巻いているようにも見える。
巧妙に隠してあるそれには誰も気づかない。
誰にも気づかせない。
「じゃあ、僕パーティの手続きをしてくるね!!」
「うん!よろしくねぇー。」
バイバイと手を振るマリ。もう既に野次馬は散っており、各々の仕事に取り掛かっている。
クロノもこれ幸いと、依頼掲示板へと向かおうと、マリの横をすれ違った時だった。
耳にマリの楽しそうな囁き声が届く。
「お仕事ひとつめ、かんりょーっと!・・・アヴィル様褒めてくださるかなぁ?」
それを聞いてクロノは首を傾げる。
(アヴィル様・・・何処かの貴族だろうか?だったら何のために勇者になんか・・・いや、今はいいか。まずは依頼だ依頼。)
ふと思った疑問をかき消し、依頼掲示板に目を通す。───今はランクを上げることが大切だ。このことは後でも大丈夫だろう。
そう思い、手頃な依頼に手を伸ばした。
───疑問が重要なことだとも知らずに。