7. 神の助け手 ( 過去 )
北の王国と他国との戦争が終わってから、長い年月が過ぎていた。王国には、ようやく穏やかで平和な日々が戻っていた。
しかし、人々が完全な安らぎを手に入れることはなかった。
少なくとも、あのプラタナスの木々が姿を消すまでは――。
人々は、それぞれ違う場所に安らぎを求めていた。
商人たちは他国から商品を仕入れて新しい店を開き、家畜を飼っている者たちは肉屋で肉を金にも等しい価値で売っていた。小さな土地を持つ農民たちは自分たちで作物を育て、それで生計を立てることで、ようやく平穏を得ていた。
だが、そんな人々を結びつけていたのは、ただ北の王国に暮らしているということだけではなかった。
プラタナスの城壁が現れて以来、人々は以前にも増して祈りを捧げるようになり、罪を犯すことをより恐れるようになっていた。
戦争が終わると、人々が抱える最大の恐怖の一つは、死んだ後に地獄へ落ちることだった。
全員がそうだったわけではない。それでも、多くの人々がそれを避けるために、できる限りのことをしていた。
しかし、老王はそんな恐怖とは無縁だった。
日が経つにつれ、彼は少しずつ死へ近づいていた。だが、彼の心を悩ませていたのは、死そのものでも、地獄へ落ちることへの恐れでもなかった。
王には、それよりもはるかに大きな恐怖があった。
自分が死んだあと、王国を継ぐ者がいないことだった。
王には二人の息子がいた。しかし、どちらも王位を継ぐにはまだ幼すぎた。
信玄王子は十五歳、雪村王子はまだ六歳だった。
だが、問題はそれだけではなかった。
幼い王子が興味を示していたのは王座ではなく、戦士たちのいる宮殿だったのだ。
彼はほとんどの時間を氷の宮殿で訓練に費やし、自らも隊長になることを目指していた。
戦士や隊長たちについて報告するため、バルデマーは毎週、王の前に出なければならなかった。
その日も報告を終えると、彼はそのまま王宮の広い庭へ向かった。
そこでは、信玄王子が彼を待っていたからだ。
二人の年齢差はそれほど大きくなかったが、王子はいつもバルデマーに敬意を払っていた。
バルデマーは、王子に剣の使い方を教え、戦士になることの楽しさを教えてくれた人物だったからだ。
王子の金属製の剣が、空中で光を放っていた。
どうやら、すでに訓練を始めていたらしい。
「この剣、あなたにとって大切なものみたいですね」
バルデマーが庭へ来るたび、王子はいつも金属製の剣を手にして訓練していた。
一人で稽古をしていることもあれば、王宮の護衛兵の一人と剣の打ち合いをしていることもあった。
「もちろん大切だよ」
王子は剣を下ろし、隊長に挨拶した。
「でも、どうして大切なのかは、誰も知らない」
隊長も皆と同じように、その理由を知りたがっていた。しかし、その好奇心を表すことはせず、ただ視線だけで王子に問いかけた。
王子は何年もの間、この話を誰かに聞かせたいと思っていた。
そして、ついに自分を信じてくれる相手を見つけたのだ。
「戦争が終わった日に、この剣を見つけたんだ」
「なぜ、今までずっと隠していたのですか?」
戦争が終わったのは、ちょうど十年前だった。
当時、王子はまだ幼い子供だった。
しかし、幼い頃から、その並外れた知性と正直さ、そして年齢に似つかわしくないほどの落ち着いた振る舞いによって、他の子供たちとは違っていた。
王子が剣の話を誰にも話さなかった理由も、まさにそこにあった。
誰も信じてくれないだろう。
そうなれば、もう誰もが知っている賢い信玄王子ではいられなくなる。
だが、バルデマーは違った。
彼は王子の隊長であるだけでなく、最も親しい友人でもあった。
たとえ誰も信じてくれなくても、バルデマーなら話を聞いてくれる。
「お祝いの夜だった。他の子供たちと庭で遊んでいたら、王宮の裏で空に光が走ったんだ。まるで星が一つ、地上に落ちてきたみたいだった」
王子は話しながら、隊長がどんな反応をするのか注意深く観察していた。
「子供たちは願い事をした。でも、落ちてきたのは星じゃなかった」
「剣だったんだ」
バルデマーはその話を信じるのに苦労していた。
それでも、その声にも表情にも疑いをにじませることはなかった。
「その夜、僕はこっそり外へ出た。剣は岩に突き刺さっていて、本当に星みたいに輝いていた」
その頃、雪村王子はまたしても王宮から遠く離れた場所にいた。
そこは、プラタナスの城壁へと続く森だった。
ボラと一緒に森を訪れることも、すっかり増えていた。
以前は、授業や訓練から抜け出すために時々ここへ来ていた子供たちも、今ではほとんど毎日のようにやって来ていた。
「今日は来るかな?」
幼い雪村とボラは木の陰に隠れ、プラタナスの木々のほうを見つめていた。
「来るよ」
王子は自信たっぷりに答えた。
「どうして分かるの?」
ボラは木の陰から頭だけを出して、友達を見た。
「ばぁ!」
背後から聞こえた声に、王子とボラは驚いて振り返った。
そして、バランスを崩し、そのまま仰向けに地面へ倒れ込んだ。
「また驚いた!」
二人がそんな姿になっているのを見て、ローン王女は笑いをこらえられなかった。
彼女は両手をお腹に当て、小さな翼を空中でぱたぱたと羽ばたかせながら笑っていた。
「もう、お前にはリンゴなんかあげないからな!」
ボラは怒ったように立ち上がると、手に持っていた袋の口を閉じた。
「リンゴ持ってきたの?」
大好きな果物の名前を聞いた幼い王女は、さっきのいたずらをしたことを後悔した。
ユキとボラは、会うたびに違う果物を持ってきていた。
何度、王女に一番好きな果物は何かと尋ねても、彼女は決して教えてくれなかった。
「自分たちで当ててみて」
そう言って、二人が答えを見つけるのを待っていた。
「ほら」
子供たちを驚かせるのが、王女は楽しくて仕方なかった。
だが、雪村はボラほど気にする性格ではなかった。
笑顔で立ち上がると、手にしていた袋の口を開いた。
赤いリンゴが見えた瞬間、ローンは嬉しさのあまり空中でくるくる回り、小さな翼を何度も羽ばたかせた。
ボラも、王女があまりにも喜んでいるのを見て、意地を張るのをやめ、リンゴの入った袋を開いた。
ついに、王女が一番好きな果物を見つけたのだ。
しかも、中には赤いリンゴだけでなく、青リンゴも入っていた。
ローンは翼をたたむと、二人の目の前へ降り立った。
その顔からは、まだ喜びが消えていなかった。
ローンはどんな果物でも好きだったが、一番好きなのは青リンゴだった。
彼女はボラへ手を伸ばした。
それでも、その瞬間、なぜか気が変わった。
自分でも理由が分からないまま、赤いリンゴへ手を伸ばした。
「私の勝ち」
ローンはリンゴを受け取ると、すぐに食べ始めた。
雪村王子は満面の笑みを浮かべながら、ボラを見た。
ボラは袋の口をもう一度閉じた。
「一つもらってもいい?」
小さな王女は、ボラが落ち込んでいることに気づいた。
まだ手にしたリンゴを食べ終えていなかったが、彼のところへ近づいていった。
ただ友達を元気づけたかったわけではない。
大好きなリンゴを、もう少し食べたかったのだ。
三人は思う存分遊び、楽しい時間を過ごした。
やがてローンは、家に帰らなければならないことを思い出した。
ユキとボラが持ってきたリンゴは、全部食べ終わっていた。
家に持ち帰れるものとして残っていたのは、プレゼントだけだった。
二人の友達は、果物だけでなく、色とりどりの靴も持ってきてくれていた。
人間たちの土地は寒かった。
ローンは向こう側へ戻ると、プラタナスの木々の間に隠しておいた靴の一足と、青いマフラーを身につけた。
小さな王女は靴を木々の間に隠し、白い大地へ入った。
嬉しそうに翼を羽ばたかせながら、王宮へ向かって飛んでいく。
やがて、大きな王宮が目の前に現れた。
その瞬間、頭上に暗い影が落ちた。
ローンはゆっくりと振り返った。
小さな王女の体とは比べものにならないほど大きな翼が、目の前に立つその存在を、実際よりもさらに巨大に見せていた。
翼はあった。
だが、地獄の天使たちのものとは違っていた。
それは、巨大な鳥の翼だった。
羽は真っ黒だったが、不思議なほど光を放っていた。
腰から上は何も身につけておらず、その身体はまるで一本のペンで描かれたかのように完璧だった。
長い黒髪が翼の上へと流れ落ちている。
身につけているズボンは、まるで絹の旗のように風になびいていた。
腰にはベルトの代わりに、重そうな鎖が巻かれている。
黒い線でくっきりと縁取られた目は、緑色の瞳をさらに際立たせるために描かれたかのようだった。
地獄に彼のような美しい存在がいるとすれば、せいぜい七人ほどだろう。
だが、その七人でさえ、この存在の前では霞んでしまうに違いない。
それほど完璧な姿をしていた。
それでも、その姿だけでは、彼から漂う不気味な気配を隠すことはできなかった。
「あなた、天使なの?」
ローンは、おずおずとした好奇心を込めて尋ねた。
「俺の名はアズライール……俺を知らないのか?」
小さな天使は、黙ったまま首を横に振った。
「そのまつげについて聞いていたことは、本当だったんだな」
アズライールは王女の周りをゆっくりと回りながら、彼女を注意深く見つめた。
「そのまま美しく育てよ。大きくなったら、俺が迎えに来る」
「ローン!」
アズライールが言い終えた、その瞬間だった。
突然、目の前に地獄の主が現れた。
「こっちへ来い!」
ヴォルカンの怒鳴り声には、隠しきれない恐怖が混じっていた。
小さな王女はヴォルカンの声を聞くなり、すぐに彼のもとへ飛んでいき、その背後に隠れた。
「お前、ここで何をしている?!」
主は怒気を含んだ声で問い詰めた。
「本当に主になったんだな……おめでとう!」
アズライールは心からの笑みを浮かべて言った。
「祝いが済んだのなら、帰れ」
ヴォルカンの声は冷たかった。
「誰も……いや、誰一人として、神の使いを追い払うことはできない!」
アズライールは大きな翼を羽ばたかせ、ヴォルカンの前に立ちはだかった。
「忘れるな。お前はただ白い大地の主にすぎない。俺は命の主だ!」




