ヘルメス商会にて
遅れてすみません
ダーリ男爵邸が炎に包まれた夜。
三つの影が、街の裏通りを駆けていた。
「なぁ、いい加減説明しろよ!」
アーサーが声を荒げる。
「人ん家燃やしておいて、なんでケロッとしてんだ!」
ルミナスは首をかしげて小走りのまま言った。
「だって、あの人悪いことしてたんでしょ?終わらせただけだよ。 」
「いやいや流石にやりすぎだろ!」
アーサーが呆れ顔で怒鳴ると、後ろを歩くルークスが小さく笑った。
「まぁまぁ、ルミナスの“止め方”はいつもああなんですよ。」
「いつも!?」
アーサーが絶叫する中、ルミナスはしれっと言葉を続けた。
「でもね、あれでも昔よりは加減できるようになったの。前は町ごと――」
「それ以上言うな!!!」
アーサーの怒鳴り声が夜空に響く。
やがて三人は、月光に照らされた白い建物――ヘルメス商会本部にたどり着いた。
ルークスが先に門を押し開け、振り返る。
「さあ、入ってください。ここなら騎士団も手出しできません。」
中に入ると、大理石の床と暖かな灯り。
アーサーは緊張した様子で辺りを見回した。
「……で、なんで俺まで連れてきたんだ?」
ルミナスは椅子に腰を下ろし、紅茶を注ぎながら言う。
「え? だってアーサーくん、困ってたでしょ?」
「だからって、知らない奴にいきなり助けられても信用できるかよ。」
「うーん、じゃあ仲良くなるために一緒に紅茶飲もう?」
「話噛み合ってねぇ!!」
ルークスが苦笑する。
「ルミナス様、少し落ち着いて説明を。彼はまだ状況を理解していません。」
「そっか。えーとねアーサーくん、私はルミナス・エテルネル。オリンポス魔法学園の生徒会長なの。
強いって言われてるけど、まだまだ修行中。」
アーサーは眉をひそめる。
「学園の生徒会長? そんな偉そうな奴が、なんで俺なんか助けた?」
ルミナスは少し考え込み、ぽつりと呟く。
「……君、あの時、泣いてたけど…誰も諦めてなかった。
そういう人、放っておけないの。」
アーサーは一瞬言葉を詰まらせるが、すぐに顔をそむける。
「……お人好しめ。」
ルークスが二人を見比べながら、真面目な声を出した。
「アーサー、ルミナス様は君を学園に推薦したいと言っている。君の魔力には未知の可能性がある。」
「推薦!? はぁ? 俺、学校なんてごめんだ!」
アーサーは即座に拒否した。
「俺は強くなんかならなくていい。もう誰にも関わりたくねぇんだよ!」
ルミナスは紅茶を置いて、まっすぐアーサーを見る。
「それでも、君は強くなれるよ。だって、あんな時でも人をかばってた。」
「……っ」
沈黙が落ちる。
やがてルークスが時計を見て低く言った。
「そろそろ行きましょう。騎士団が来る。」
ルミナスは立ち上がり、少し笑ってアーサーに手を差し出した。
「とりあえず、一緒に逃げよ? それから考えよう。」
アーサーは一瞬だけ迷い、ため息をついてその手を取る。
「……めんどくせぇ女だな、お前。」
「え? 褒められた?」
「褒めてねぇ!」
三人は夜の街へと消えていった。
新しい物語の始まりを連れて――。




