あの、元上司がパンの売り子をしてるんですが(リムル視点)
◆リムル視点
私は人間の国『バルーン王国』へとやってきた。
翼は魔法で隠して、人間に変装している。
ベア様のところで働いていた時は、こうして食材を仕入れていたから、慣れたものだ。
「うまく魔力を隠してるみたいですけど、私にはバレバレですよ」
いくら小さな痕跡でも、魔力の残り香さえあればいくらでも追跡できる。
お城で逃げるベア様を探すこと五十年。いつのまにかこんな特技を身につけていた。
いらない。
とんだ無駄な五十年を過ごしてしまった。
「それにしても、相変わらず人が多い……」
私は道にあふれかえっている人間たちをせっせと躱しながら、ベア様の魔力をたどって歩く。
「やっぱり人間の街はいいなぁ」
私は大通り脇に並んでいる露店を、きょろきょろと見渡した。
そこには古今東西、様々な食材が売られている。王都の交通技術は、ここ50年で大分進歩したものだ。
今や国中はおろか、他国の珍しい食材ですらこの王都で買うことができる。すべては飛行船を用いた魔法空輸の発展が大きいだろう。
それだけ平和ともいうが。
「よってらっしゃいみてらっしゃい! ここに並ぶは王都一の焼き立てパンだよ!」
料理好きの私としては、世界中の食材の集まるこの王都は、宝の山なのだ。
「サンドウィッチや塩パン、あげぱんまであるよー! 冒険前に、焼き立てのパンはいかがかなー!」
すこし、お腹が空いてきた。
ここまでノンストップで飛んできたから、仕方ない。
自分で作って食べるのが私の日課だけれど、今はキッチンを使うこともできないので、どこかで買い食いしたほうがいいだろう。
「お、そこのイケてるお兄さん! 私が焼いたパン、食べてけー?」
幸いにも人間の使う貨幣は『空間収納』にしまってある。
私は空間収納に手を突っ込んで―――――――、
「ちょっとまてっ!?」
ぐるりと首を一回転させて、私はソレを見る。
膝まである紅蓮の髪に、真紅の瞳をもつロリ少女が、パン屋の前で売り子をしていた。
大人になれば、さも妖艶な美女へとなるだろう。
幼女趣味のある男ならば、つい声をかけてしまうかもしれない。
だが、彼女の身長が伸びることも、そのぺったんこな胸が成長することも絶対にない。
なぜなら。
「なにしてんですか、あんた!?」
そのパン屋の売り子は、怠惰の魔王、ベアトリス=ガル=ピグリッドだった。
モチベになるのでブクマ評価暮れると嬉しいです。