ねえ、従者がいたんだけど
「なにしてんですか、あんた!?」
パン屋の売り子をしていると、見知った声が聞こえてきた。
顔を見なくても、それが誰なのかがわかる。なにせ、50年もの付き合いなのだ。分からない方がおかしい。
「おー、リムルじゃん」
「おー、リムルじゃん、じゃねえですけど!?」
今日も元気で愉快に声を上げながら、彼女は私に近づいてきた。
今は羽を隠しているようだけれど、吸血鬼である彼女から吸血鬼らしさを無くすと、貴族のお嬢様っぽくなるから可愛い。
悪漢に襲われないかと心配になるほどだ。
吸血鬼である彼女を害せる人間はあまりいないから、余計な心配だろうけど。
リムルは私の方へずかずかと歩いてきて、
「あんた、なんでこんなとこにいるんですか!?」
「えー? なんでって、パンの売り子してるからだけど」
「違う、いや、それも気になるけど、私が言いたいのはそうじゃなくて………!」
リムルは肩を震わせていて、今にも魔王だのなんだの言いだしそうな勢いだ。
流石にそれは困る。
「リムル、ストップストップ」
「ぐっ………」
落ち着くように言い含めると、リムルは悔しそうに歯ぎしりして私を睨みつけてくる。流石にこんな場所で正体がバレるのは不味いと分かっているのだろう。
ホントに元従者かと思うような態度だけれど、叱るのもめんどくさくて放置してきた私も悪いか。
「と、とにかく、帰りますよベア様。あんたのせいで、こっちまで迷惑してるんですからね…………!」
「えー? 私なにかした?」
「自覚ねえのかよ…………!」
行き場のない怒りを叩きつけるように、リムルは地団駄を踏む。
石畳の床が割れていないから―――彼女が本気を出したらクレーターができるだろう―――、理性が残っているのは確かだ。
まあ、揺れがこっちまで届いてるから、結構ギリギリだろう。
「落ち着いてよリムル。何をそんなに怒ってるのさ」
「あんたのせいで、私の就活はめちゃくちゃなんですよ…………!」
「え、なんで就活してんの?」
「なんでって、あんたが私をクビにしたからっ……」
「…………?」
リムルが何を言っているのか、さっぱりである。
クビとはどういうことだろう。私、何か言ったっけ。
えーと、確か二か月前に暇をあげるっていって、実家に帰っていいよって言ってー……………あ。
「もしかして、実家に帰ってっていったの、勘違いしてる? 普通に長期休暇あげるよって言ったつもりなんだけど」
「…………は?」
「あー、その反応、そういうことかー。なんかごめんね?」
「え、ちょっ…………」
茫然としているリムルの肩をぽんぽんと叩いて、私は屈託のないスマイルを浮かべる。
50年もの間、従者をしてくれた彼女の新しい門出の邪魔をしたくない。
ここはあとぐされの無いように、明るく接したほうがいいだろう。
今まで雑な扱いをしてきた自覚はあるけれど、これでも感謝をしているのだ。
「まあでも、私はこうして一介のパン屋さんになったから。君は新天地で頑張ってくれたまえよ」
「いや、だから…………」
「これは私からの選別だ。なあに、お代は私のバイト代から引いておくから、遠慮なく食べ給えよ」
私は見本用に持っていた焼き立ての塩パンをリムルに握らせて、再び肩ぽん。
今まで本当にお世話になったものだ。目を瞑ると、今までのことが鮮明に思い出せる。
仕事をさぼってかくれんぼをしたり、ベッドシーツと一緒に干されたり、お風呂と称してリムルの透き通るような体を隅々まで視姦したり。
「……………あの、さぁ?」
本当に、いい思い出だ。
お互いに新しい道を歩むことになるだろうけれど、リムルのことは決して忘れないだろう。
「………………パンとか要らないんで、話をお聞かせやがれ、クソ幼女」
「え、っと……仕事上がってからでいい?」
あの、お口、悪くなってない?
モチベ上がるのでブクマ評価くれると嬉しいです




