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魔物という存在



「まものぉ? なにそれ」



 カラメルの言う、魔物という単語に反応するホーラ。しかしそれは、その単語に心当たりがあるというものではなく、まったく心当たりがないというものだ。


 それを受け、カラメルは少しだけ考えてから……口を開く。



「ボクも、見たことはない。が、王国のとある文献によるとその昔、『魔物』と呼ばれた生き物がいたらしい。普通のモンスターとは違い、その姿は禍々しく、凶暴性を持ったものだと」



 そう話すカラメルの額には、じわりと汗が流れていた。



「けど、だからって、なんか問題あんの? 普通のモンスターより凶暴ってだけでしょ」


「話は最後まで聞け。魔物にはいくつか特徴がある。禍々しい容姿、凶暴性、防御力……だが一番厄介なのは、その執念さだ。まるで何かの呪いにでもかかったように、ただ破壊を尽くす。さらに、魔法を使うらしい。それは、闇属性の魔法だと、記されている」


「闇って、それ単なる噂じゃ……」


「! 来るぞ!」



 目の前の生き物が、モンスターでなく魔物。その確証を深めつつ、二人は猛攻から逃れる。幸いにも、二人のスピードであれば攻撃は当たらない。


 ……周りの被害を気にしなければ、であるが。



「くぅっ、ぉお!」



 振るう脚を、剣で受ける。もう肉も残っていない、骨のみのそれは、しかし受け止めるだけでも至難の重さを持っている。踏ん張るカラメルの足元は、徐々に下がっていく。


 人々の避難は、トシロウやシャロらがやってくれている。しかしそれでも足りないところはあるし、動かせない家など、これ以上被害を広めるわけにもいかない。



「だぁ! ……っそぉ、かったいなぁ! ねぇっ、そのまものってやつ、弱点とかないわけ!?」



 自慢の力が通じず、ホーラは軽く舌を打つ。魔物であるにしろ違うにしろ、この生き物がただのモンスターでないことは明白だ。


 サラマンダーすら沈める自慢の拳が効かない事実は、ホーラに苦々しい思いを味あわせる。



「こいつが魔物なら……どこかに、核となる部分があるはずだ。それを壊せば、あるいは」


「それ、解決策になってないけど」



 魔物には核となる部分があり、それを壊せば倒すことができる。文献にはそう書いてあったが、それは解決策にはならない。


 核を見つけるにしろ、どのみち魔物に通じる攻撃力がなければ話にならないのだから。



「そもそもこいつがまものってのだとして、なんでそんなのがいるさ。聞いたことないよ、まものなんて」


「……どうやら、魔物というのは昔、今のモンスターのようにそこかしこにいたらしい。だが、その時代の『英雄』が魔物を束ねる魔物の王を討ち、魔物は消滅したと」


「なにそのおとぎ話みたいな話……」



 げんなりした様子で話を聞くホーラだが、次の言葉を聞いた瞬間に目の色が変わる。



「その英雄の名前というのは……リーザ・ランストだ」


「りっ……えっ、マジ?」



 先ほどまでカラメルの話をバカにした様子のホーラが、見るからに顔色を変える。その名前が出ただけで、先ほどの話が眉唾から真実へと変わっていくようですらある。


 トシロウとシャロにもその会話は聞こえたが、残念ながらトシロウにはその名前はぴんとこない。シャロの表情を確認すると、彼女の表情は驚愕に溢れている。



「えっと……シャロさん? 今の、リーザなんとかって……」



 恐る恐る聞くと、くわっ、と音がつきそうな勢いでシャロが見てくる。



「えっ……り、リーザ・ランストですよ? し、知らないんです?」



 今、シャロの中でトシロウの評価が著しく低下してしまっている気がする。そこまで、であろうか。


 というか、世間知らずのシャロでも知っている名前なのだ。それはよほど、有名人なのであろう。なにせ『英雄』と言われるくらいだ。



「リーザ・ランスト……彼女が魔物の王を討ち、魔物は消滅したと言われている。故に、彼女は『英雄』と呼ばれる存在となった」



 トシロウの疑問に答えてくれたのか、それとも文献に書いてあったことを確認しただけかはわからないが……カラメルが、『英雄』について言及する。



「うへー……そ、そうなんだ。その人がなんで『英雄』って呼ばれてるのかわからなかったけど、そういうことだったんだ」


「ボク達が育った田舎には、情報は出回ってこないからな。ボクだって、王都に出てきてから知ったことだ」



 どうやら、リーザ・ランストなる人物が魔物の王を討ち倒したという話は、ホーラ達の育った場所にまでは伝わっていなかったらしい。


 それでも、リーザ・ランスト=『英雄』という認識だけはしっかり持っていた。それほどまでに、影響力のあった人物ということだ。



「っと。……つまり、『英雄』が倒したはずの魔物の王がまた出てきたから、魔物が現れたってこと?」


「そういう、ことだな!」



 会話の最中も、目の前の生き物は待ってくれない。脚を、舌を、尻尾を伸ばし、猛攻を仕掛けてくる。それをさばきつつ、なんとか体勢を整えている現状だ。


 目の前の生き物が魔物だとして……魔物の王なる者が現れたとして。それが今後、トシロウ達をとんでもない運命に導いていくのだと、この時誰も想像だにしていなかった。

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